HAND x HAND GLORY's


act15 世界を覆う、黒い影

「まずは、ご苦労じゃった。皆、よく頑張ってくれた」
賢者にねぎらいの言葉をかけられた一行は、ひとまず彼の庵に集合する。
「メイツラグは、だいぶ治安が混乱しているみたいですね」と、スージ。
「当分近づけないよな。ま、行く必要もない場所だけど」
ジロも頷き、ちらっと斬を見た。
「結局ケイナプスの情報って、なんだったんスかね?フカシ?」
それは判らぬ、と首を振り、斬は思案する。
火のない所に煙は立たない。
あの男は、メイツラグの何処かでケイナプスの噂を聞いたのかもしれない。
それが何を意味するのかも、判らないが――
警備隊の乱れといい、レイザース海軍の出向といい、こちらが暢気にモンスターを追いかけている間に世界情勢は変わりつつある。
「斬、お主達の苦労を無駄にはせん。ガーナジークもアッシャヴァインスも謹慎を命じておいた。儂が見張らずとも、仲間達が見張ってくれるだろうよ」
はたして仲間とやらに任せっぱなしで良いものだろうか、スージやエルニーなんかは大いに疑問であったが、賢者に意見するわけにもいかず黙っておいた。
「まずは一息いれヨゥ?」
皆でアルの持ってきたお茶を飲んで寛いでいると、賢者が不意に話題を変えた。
険しい表情になり、斬を見る。
「ときに、お主らが亜人を救出しに行っている間に首都で事件が起きた。その事件は、この島と全く無関係でもない」
真っ先に反応したのはジロで、さも嫌そうに眉をひそめる。
「え、また誰か脱走したんスか?もう勘弁ッスよ」
あまりにも無礼な態度をソウマが叱る傍らで、賢者の話は続く。
「反逆者がソルバットを連れ出した。奴めを手引きした者がいたようじゃ。反逆者はソルバットに首都を襲わせた……死者が多数、出たそうじゃ」
「反逆者!?」
ルリエル以外の全員が声を揃えて驚いた後。
「って、誰だっけ?」
「ばか、黒騎士ジェスターだろ?」
スージとジロのお約束な会話を背に、斬が賢者へ尋ね返す。
「して結末は、どうなりました。賢者殿が動いておらぬという事は、無事に片付いたのですか?」
「うむ。騎士団総勢で撃退したそうじゃ」
「えぇと、その前にソルバットってなんですの?」
エルニーの質問へ答えたのは斬だ。
「亜人同様、この島に住んでいる巨大獣だ」
全長四、五メートルの巨大な怪獣だ。ただし、性格は温厚。
亜人との仲は良好で、普段は島の奥に住んでいる。
「きょ、巨大獣?そんなのがレイザースに向かったんスか」
「でも、騎士団がやっつけたんだね。騎士団すっごーい!」
驚くジロと無邪気に喜ぶスージを、ソウマはジト目で眺めている。
心の内は、悔しさでいっぱいだった。
亜人を助けている間に、首都に反逆者が現れていたなんて。
一度戦ってみたい相手だ、ジェスター=ホーク=ジェイトは。
「ジェスターは、その後どこへ向かったんですか?」
賢者はかぶりをふり、視線を落とす。
「どさくさに逃亡されて、それっきりだそうじゃ」
「とにかく首都へ行ってみましょう、マスター」と、切り出してきたのはエルニーだ。
「何があったか詳しいことは、首都へ行けば判りますわ」
彼女にしては頭の回転が早い。ただの野次馬根性かもしれないが。
「斬よ。反逆者といい、レイザース海軍の動きといい、今、この世界で何かが起ころうとしておる。……くれぐれも、気をつけて動くんじゃ。もし何か困り事が発生したら、儂を頼れ。よいな?」
心強い賢者の励ましに、斬は黙って頷いた。
何が起きているのかは判らない。
だが、立ち止まっている場合でもない。
真相を確かめるべく、斬率いるギルドの一行は首都へ向かう。

ゆっくりと、だが確実に闇の足音がワールドプリズに迫っている。
動き出した世界の中で。
斬が再び亜人の島を訪れるのは、そう遠くない未来の話であった。


End.
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