合体戦隊ゼネトロイガー


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act5 放課後はマンツーマン

担当候補生が宿舎に帰った後も授業は続く。
養成グランプリで実技に参加する候補生とのマンツーマン授業だ。
昴ら最上級生は全員乃木坂に懐いているから、彼の元で特訓している。
しかし飛鳥と相模原の二人はツユに反抗的である為、急遽鉄男と木ノ下にお鉢が回ってきた。
そして一人残ったミィオもまた、ツユに対して特別な想いを馳せていた――

六日のうちに愛する、と言ったって無理なのは自分でも判っている。
それでも自分に好意的な、この少女を納得させるには、そうするしかない。
ツユとミィオの二人は今、教室を離れて保健室へ移動していた。
正しくは保健室に置かれているベッドの上だ。
この部屋を管理している女医には、席を外してもらった。
「ツユお姉様。私達が愛し合うのに必要なのは何だとお考えですか?」
首を傾げる教官へ、ミィオは悠然と微笑む。
「お判りになりませんか?とても簡単ですわよ。義務教育でも習います」
愛を知らないツユとは違い、ミィオは回答を知っているようでもある。
すっかり立場が逆転してしまった。
「ぶーっ、時間切れです。正解は、お互いをもっとよく知ること、ですわ」
「あぁ……つまり数値の上だけではなく、性格や好みも把握しろ、と」
ツユの答えを聞いて、ミィオは嬉しそうに微笑んだ。
「その通りです。私、お姉様のご師事を受けて三年目になりますけれど、まだまだ、お姉様について知らないことが、い〜〜っぱいございます。それを教えていただきたいのですわ。もちろん、私について判らないことがおありでしたら、なんでも聞いて下さいませ」
「そうだねぇ……」
腕を組んで考える素振りを見せていたが、すぐにツユが質問を発する。
「あんたの何が一番判らないっていやぁ、あたしをお姉様と呼んでくる点だよ。あたしは男、男なんだ。裸だって見ただろ?シミュレーションで」
知り合って三年も経ってから聞くのも、おかしな話だが、今まで聞こうともしなかった自分にツユは密かに驚いていた。
ありのままに漠然と受け止めてしまっていたのか。ミィオがお姉様と呼んでくる件を。
「お姉様は人類が最終理想とする、ふたなりなのだと私は解釈いたしました」
キラキラした瞳で返され、ツユは頭を抱える。
ミィオは素直で可愛い子なのだが、時々わけの判らない妄想に入ってしまうのが欠点だ。
「いやいや、勝手に変な解釈しないでよ。そもそも、ふたなりって何なのさ?」
悩むツユとは対照的に、ミィオは、あっさりしている。
自分の中で『これはこうだ』と決まっている固定概念は、そう簡単に崩れないらしい。
「男性のたくましさと女性の美しさ両方を兼ね備えた理想の人物ですわ、お姉様。お姉様には双方が備わっていると感じます。ですので、お姉様とお呼びしているのですよ」
「それだったら、お兄様でもいいじゃないか。あんたも男が嫌いなの?飛鳥みたいに」
飛鳥が男性を嫌っているのではないか、という懸念は最初からあった。
後藤は勿論、自分や剛助と接する時にも距離を感じるし、他の候補生には概ね人気な乃木坂や学長ですら、敬遠しているように伺える。
唯一の例外は木ノ下だが、あれは異性を感じさせない安全パイというやつだろう。
飛鳥はラストワンを女子校と勘違いして入ってきたのではないか。そして、ミィオも?
「嫌い、というのは少々ニュアンスが異なりますわね」
ぽつりと呟き、ミィオは目を閉じる。
「私は殿方が嫌いなのではありません。殿方よりも、御婦人が好きなだけですわ」
女性が好き。だからこそ、女っぽいツユも『お姉様』と呼びたいのか。
「んじゃあ男とヤるのは好きなの、それとも嫌いなの?」とツユが眉根を寄せて尋ねれば、「人にもよります」とミィオは瞼を開き、ツユを真っ向から見据えた。
「お姉様のことは、初めて出会った頃からお慕い申し上げておりますわ。ですから、お姉様と出来るのであれば本望でございます」
ツユの問いに答えているようで、答えになっていないようでもある。
ひとまず異性をどう思っているのかといった疑問を打ち切り、ツユは話を戻した。
「あんたのこと、判ったような判らないような……まぁいいや。それより、あたしに聞きたいことがあるって言ったね。どんなことを聞きたいんだ?」
「はい、まずは、お姉様の見た目です」
「見た目?」と首を傾げるツユに、ミィオの質問が飛んでくる。
「お姉様は以前、石倉教官に女々しいと言われて怒っておられたようですが……女々しいと言われて怒るのに、どうして男らしい外見になろうとなさらなかったのですか?」
剛助との喧嘩を見られていたようだ。
ツユは目撃されたのを恥じると同時に、自分を男だと認識しているミィオにも驚く。
剛助との喧嘩は些細な理由だ。
貴金属を床へ落としっぱなしにしてしまい、それを踏んづけた剛助が痛い思いをした。
これの持ち主は誰だ?と大騒ぎになり、こんなものを職場につけてくるなど女々しい奴め、と剛助に怒鳴られて、ツユもカッとなって反論した。
彼とはラストワンへ来る前からのつきあいだが、ここへ来る前も仲は悪かった。
何かとこちらを『オカマっぽい』と見下してくるので、頭にくる。
女性らしい容姿で生まれたのはツユのせいではないし、女性らしいからと言って、それが何だと言うのか。
女っぽかろうと、ツユは男だ。貴金属だって、男がつけちゃ駄目というルールはない。
血気盛んな者同士、衝突する場面が多かった。
それでも間に比較的穏和な乃木坂がいたから、なんとかやってこられたのだ。
全く、乃木坂には何度感謝してもしたりない。
「あたしがあいつに怒っていたのは、女っぽいと言われたからじゃないんだ。あたしを女っぽいというだけで侮蔑しようとしてきたから、怒ったんだ」
あたしはね、と胸に手をあててツユは独白を続けた。
「自分の容姿が嫌だと思った事は、一度もないんだ。どんな容姿であれ、あたしは、あたしだからね。貴金属をつけるのだって、キラキラしていて美しいから好きなんだ。それを『女々しい』の一言で片付けられたら、誰だって頭にくるだろ?」
言ってしまえば、主観の違いだ。
剛助とツユのソリがあわないのは、端で見ているミィオにも、よく判る。
いかにも男らしい行動や物が好きな剛助と異なり、ツユは全般的に女性的だ。
いや、女性的というのは正しくない。
昔ながらの固定概念に囚われない、自由な考えの持ち主なのであろう。
ツユは女性的でありながら、何故女性には優しくないのか。
ミィオは、そこがずっと疑問だった。
しかしツユが女性に憧れているのではなく、自分の意志で生きているというのなら納得がいく。
ツユは恐らく異性を気にしていない。
異性が自分を見てどう思うのか、どう思ってほしいといった事を考えていないのではあるまいか。
だから他者から見て、辛辣とも見える態度を取る。
どうでもいいのだ。女性が自分をどう捉えるかなんてことは。
ただ、自分の思うように自由に振る舞う。それこそが、ツユにとって一番重要なのであろう。
そう、分析した。
「お姉様は、もっと他人の目を気になさったほうが宜しいですわ」
年下からの説教にツユは面食らう。
「他人の目を?そりゃ、どういう意味で」
「他人の目が気になれば、相手が自分をどう思うかも気になりましてよ。相手を大事にしたいと思えば、気配りも生まれますわね。お姉様が女性に優しくできないのは、女性に関心がないから。……違いますか?」
違わない。
素直に頷くツユを見て、ミィオは判ったような顔で何度も頷く。
「まずは、私に関心を向けて下さいませ」
あと六日で?
いや、それを乗り越えなければグランプリでの優勝も難しくなると言うのであれば、やるしかない。
「判ったよ。じゃあ、まずは、あんたがされて嬉しい事と、嬉しい言葉を教えてもらおうじゃない」
ツユも判ったようなふりをして、話を促したのであった。


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