合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 機械じゃない

さっそく翌日からは相模原だけ操縦訓練が始まり、飛鳥とミィオは動作の復習を行なった。
復習だから新しい発見は何もない。これまでに培ってきた知識のおさらいだ。
相模原はツユとマンツーマンでの特訓だから、ツユを慕うミィオが彼女に嫉妬するのも当然だった。
「蓉子お姉様ばかり、ずるいですわぁ。私もツユお姉様にマンツーマンで教えていただきたいです」
ぷぅっと頬をふくらませて文句を言う同級生に、相模原も、むっつりやり返す。
「替わってもらえるなら替わってほしいわよ。マンツーマンなんて、こっちは全然望んでないのに!」
「えっ、でも、操縦だよ?マンツーマンで教えてもらえるのは有り難いんじゃない」と、混ぜっ返してきたのは飛鳥だ。
「正規パイロットを目指すならさ、やっぱ自分で操縦できないとヤバイんじゃないかなぁ」
正規パイロットを募集しているのは、今のところ軍隊のみだ。
その軍隊のロボットは一人で動かすタイプだから、将来的には操縦をみっちり教えてもらわないと困る。
「教えてもらえるの自体には文句言ってないわよ!」と、相模原も憤慨して机を叩く。
弾みでミシリと嫌な音が鳴ったが、それには構わず続けた。
「あーあ、どうせマンツーマンで教えてもらえるなら、御劔学長か乃木坂教官がよかったのに」
ラストワンのクラス分けは、その年に入学した生徒同士で振り分けられる。
乃木坂のクラスは既に定員三名で埋まっていたから、自動的に三人はツユの組へ振り分けられた。
当時は生徒が全部で六人しかおらず、教官も四人しかいなかったから不満はなかった。
それに入学当初は、ここの練習用ロボットが、ああした操作方法だということも知らなかったのだし……
「そうだねぇ」と物憂げに飛鳥も相づちをうち、相模原へ尋ねた。
「ねぇ蓉子、乃木坂教官以外だったら、どの教官とのマンツーマン授業を受けてみたい?」
「そういう、あんたは?」と逆に切り替えされ、う〜んと考えるふりをしながらも飛鳥は即答する。
「あたしはねぇ、木ノ下教官がいいな」
「木ノ下教官!?」
「飛鳥お姉様は、ああいう殿方が、お好みでいらしたのですか?」
二人揃って驚かれ、うんと素直に頷いた飛鳥は、にっこり笑う。
「なんとなくだけど、木ノ下教官なら授業中にイヤミを飛ばしたりしないんじゃないかな?あと、どんな内容でも優しく教えてくれそうな気がする。モトミ達を見ているとね、そう思うんだ」
ツユの嫌味は飛鳥を狙ったものではないが、だからといって毎回嫌味を聞かされるのも、いい気分ではない。
デブデブと連呼されて嫌な気分になるのは、なにもデブな本人だけではないのだ。
「あー……メンヘラに口八丁に電波だもんねぇ。木ノ下教官だけ、なんか詛われているんじゃないかってぐらい生徒に恵まれていないよね」
ツユに負けず劣らずな毒舌が相模原のくちから飛び出したが、飛鳥は寛大にもスルーしてあげた。
ツユの下で何年も嫌味を聞かされ続けていれば、相模原の性格が歪んだとしても仕方ないだろう。
入学したばかりの頃は、相模原だって明るく素直な女の子だったのだ。
多少他の子よりは横幅も体重も多かったが、彼女にそれを気にしている様子は見られなかった。
授業でロボットに乗り込むようになってからだ。相模原の性格に影が差したのは。
それもこれも、全てはツユの嫌味のせいではないかと飛鳥は考えた。
水島教官は、けして無能ではないと思う。
しかし、余計な一言が多い。
女性を思いやる気持ちが全くないのは、なんとかならないものか。
そう思い続けて、もう三年が過ぎてしまった。
「この学校って、クラス替えがないのが欠点よねぇ」と、相模原がぼやく。
同じ教官の元で継続的に学ぶことにより体と心を慣すのだとは、学長の弁である。
そうは言うが、こちらとて人間だから当然好き嫌いがある。
性格の不一致だって発生する。
気のあわない教官と四年間一緒にやって、果たして最終試験までこぎ着けられるのか。
相模原や飛鳥の不安は、そこにあった。
「でも、そういう学校を選んだのは他ならぬ私達ではありませんこと?」
ミィオに言われ、飛鳥も相模原も肩をすくめる。
ミィオには不満がなさそうに見えた。
幸いにも、ツユは彼女にとって気のあう教官だったから。
「ねぇ、ミィオちゃん。一度あなたに聞いてみたかったんだけど」
「なんでしょう?蓉子お姉様」
「ミィオちゃんって水島教官のどこが好きなの?」
ずばり直球、剛速球な質問に、ミィオは微笑んで答える。
「はい、まずは見た目のお麗しいところですわ」
「はっ!?」
相模原が目を丸くする中、ミィオの水島教官長所論は続く。
「そして思ったことを何でも包み隠さずお話になられるところ。さっぱりした気性や、好き嫌いをはっきり言うところも素敵ですわね」
「そ、そうなんだ……ははっ……」
飛鳥も、ひきつり笑顔でドン引きだ。
前から変わっている子だと思っていたが、ここまでとは。
飛鳥達に引かれようと、笑みを絶やさずミィオは言う。
「勿論、蓉子お姉様や飛鳥お姉様も、私は大好きでしてよ。蓉子お姉様の絶対に挫けない根性や、飛鳥お姉様の思いやり深い点は私も見習いたいと常々思っております」
「逆に嫌いな人っているの?」と相模原。
「ちょ、突っ込みすぎだよ!プライバシー、プライバシーッ」と飛鳥が止める横で、ミィオが答えた。
「お聞きにならずとも、お判りになるかと思っておりましたが……えぇ、後藤教官をお好きになる候補生がいると思いまして?蓉子お姉様」
後藤教官を出すのは反則だ。
あれを好きな人など、同じ教官や女性スタッフにもいるとは思えない。
「あー、うん。そっか、ガマガエルと比べたら、水島教官は何倍もマシだわね」
何度もウンウンと頷いて相模原が納得したところで、飛鳥は改めて尋ねた。
「で、蓉子お気に入りの教官は乃木坂教官以外じゃいるの?いないの?」
「いないわねぇ」
即答だ。
「辻教官は?あんたの好きそうなイケメンだけど」と飛鳥が尋ねると、相模原は腕を組んで仏頂面になる。
「マリアの様子を見てみなさいよ、とても授業が楽しそうには思えないわ」
これもまた、納得のいく答えがきた。
マリアは食堂で授業内容を愚痴っている事が多い。
真面目な授業は、お好みではないのであろう。
彼女こそ、木ノ下教官のクラスになるべきだった。
モトミも授業について食堂で雑談している日が多いのだが、とても楽しそうに話している。
飛鳥も授業に混ざってみたいと何度思ったか判らない。
水島教官の授業も、どちらかといえば真面目だ。
真面目の上に、嫌味まで飛んでくる。
これでは、いくらマンツーマン且つ重要な訓練といえど、相模原が不満を漏らすのも判らないではない。
「養成グランプリ、教官達だって優勝したいはずだよねぇ……」
ポツリと呟いた飛鳥を怪訝な表情で眺め、相模原が問う。
「何かいいアイディアでも浮かんだの?このつまんない特訓を楽しくできるアイディアが」
「や、つまんないかどうかはさておき、あんたのやる気が出ない特訓ってのはマズイよね?」
「そうよ。マンツーマン特訓のせいで私のやる気は最悪まで下がっちゃったわ!」
自力で操縦すると言い出したのは相模原本人だったようにも思うが、そこは突っ込むまい。
元々飽きっぽい性分でもあるのだ、彼女は。
ミィオは根性があると褒めていたが、ありゃあ単に屁理屈の過ぎる部分が、そう見えるだけだろう。
「替われるものでしたら、本当に替わりたいですわぁ……」
羨ましそうな視線で相模原を眺めるミィオを横目に、飛鳥は自分の考えを披露した。
「そう、だからさ、テンションをあげるためにも提案してみるんだ。養成グランプリまでの期間、好きな教官とマンツーマンで特訓させて下さいって。あたし達は機械じゃない、人間なんだ。気のあう人とやったほうが成果もあがる。って力説すれば、教官や学長だって判ってくれると思うんだ。どう?物は試しで言ってみない?」
「……あんたって、超ポジティブゥ」
相模原がぽつりと呟き返し、ミィオは、というと。
「私は現状で満足しておりますから、飛鳥お姉様と蓉子お姉様だけで、どうぞ」と素っ気ない。
それもそうだろう。ミィオは、今の教官が一番ベストなのだから。
だが、ここで飛鳥と相模原の二人が抜ければ、ツユとは待望のマンツーマンだ。
そう飛鳥が付け足すと、途端にミィオは乗り気になった。
「判りましたわ、他ならぬ飛鳥お姉様のお願いですもの。私も一緒にお願いしに行きましょう」
現金な彼女に飛鳥は内心呆れつつも、三人揃って教官室へ向かった。

勇んで教官室で頭を下げたものの。乃木坂教官の反応は、些か鈍いものであった。
「あ〜……悪いな、俺んとこは教えることが多すぎてイッパイイッパイなんだ」
教えることも多かろうが、最上級生の面目もある。
乃木坂教官に断られるんじゃないかという懸念は、飛鳥にもあった。
「つぅか、水島教官じゃダメなのか?なんで嫌なんだ、相模原は。お前イケメン大好きっつってたじゃないか。イケメンだろ?あいつ」
相模原のイケメン好きは学内じゃ知れ渡っており、乃木坂も当然の質問を寄こしてくる。
「え〜、どこがですかぁ?」
ぷぅっと頬を膨らませ口をとがらせ、これでもかってぐらい自分を可愛く見せながら相模原が答える。
残念ながら、その努力は全くといっていいほど実っていなかったが。
「水島教官はイケメンじゃなくて中性的な女性顔っていうんですぅ〜。私の好きなイケメンは、男らしくて優しくなくっちゃ駄目なんですぅぅ〜」
「ん、まぁ、男らしくはないかもしれないが、優しくなくもない、だろ?」
「えー、全然優しくないですよぉ?私のこと、すぐデブデブ言うしぃ」
相模原は嘘を言っていない、今のところ。
このまま乃木坂劣勢で押し切れば、或いは望みがかなうかもしれない。
二人の口論を邪魔しちゃ悪い、とばかりに飛鳥とミィオは黙って見守る。
「あー、あと男らしさで言うなら、俺もあんま男らしくないかもしれないし……」
目線を逸らしてボソボソ言う乃木坂教官の手を両手で包み込み、相模原は熱く語りかけた。
「そんなことないですぅ〜。乃木坂教官は、とっても!男らしいですぅ〜」
その手を軽く振り払い、乃木坂も負けずに熱弁をふるう。
「いや〜、俺と比べたら石倉教官のほうが、ずっと男らしいだろ!ほんとイケメンじゃないのが残念なぐらい!!」
それにしても、必死だ。
乃木坂の態度からは、絶対に相模原を受け持ちたくないという確固たる意志を感じる。
受け持ち三人で手一杯なのは判るが、教えを請われているのに断固拒否というのも教官としてどうなのか。
「そんなことありませんっ!乃木坂教官は、ご自身を判っていなさすぎます」
「いやー、客観的に見たって俺は」
「なら比較的暇な木ノ下教官と辻教官に任せてみるってのは、どう?」
熱き口論へ混ざってきたのは飛鳥でもミィオでもなく、缶ジュース片手に入ってきたツユであった。
「水島教官!いいんですか?」
飛鳥の問いに「いいわよ」と、あっさり首を縦に振り、ツユは、こうも続けた。
「人の授業を嫌がる奴になんて、こっちだって教える気がなくなるわ」
ずばっと三人目がけて剛速球を投げつけられ、ミィオが慌てて弁解する。
「わ、私は嫌がっておりませんわ、ツユお姉様!私は飛鳥お姉様と蓉子お姉様の為に、同行しただけです」
その頭をポンポンと軽く撫で、ツユが軽く言い返す。
「あぁ、判っているよ、ミィオ。あんたは授業を楽しんでくれているものね。あたしが言ってんのは蓉子、あんただよ」
じろりと睨みつけられて、たじろぐ相模原に更なる毒を吐く。
「あんた、集中力がなくなってきているもんね。あたしとの授業、つまんないんだろ?なら他の教官と特訓したいっていう、あんたの意見を尊重してやってもいい。ただし勇一は忙しいから、木ノ下教官か辻教官のどっちかを選びな」
「あ、間を取って男らしい石倉教官を選ぶってのは……?」
ぼそっと飛鳥が突っ込むも、相模原の返答は早かった。
「だったら辻教官!辻教官で、お願いしますっ!!」
「えっ?辻教官でいいんだ?」
驚く飛鳥には「だって木ノ下教官は飛鳥が狙ってんでしょ?」と口の端に泡を貯めて、言い返す。
「ね、狙ってるって、そんな」と慌てる飛鳥をも睨み、ツユはフンとそっぽを向いた。
「何よ、あんたもだったの?飛鳥。まぁいいわ、たまには気分転換させてやっても。さ、いくよミィオ。グランプリまで日にちがないんだ、マンツーマンで教えてやるからね」
言うが早いかスタスタ教室へ歩いていくツユの後を追いかけざま、一度だけクルリと振り向いて、ミィオは無言で二人に手を振ると教官室を出て行った。
「……はは〜ん、お前ら案外クラスメイト想いだな?」
「え?」と振り返る二人の顔を眺め、さも判ってしまったようなドヤ顔で乃木坂が言う。
「ミィオと水島教官をマンツーマンにさせる為に、わざと言い出したんだろ?こんなことを。よっしゃ、お前らの友情に応えるため、俺も協力してやるぜ!」
「え、じゃあ……!」
期待に満ちてキラキラ見つめる相模原の肩に、乃木坂がポンと手を置く。
「あぁ、任せておけ。辻に、お前のことを宜しく頼むと言ってきてやる」
彼は自信たっぷり言いはなったのだった。


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