合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 ゼネトロイガー特訓

学長の手前では機体を動かすぐらいなら簡単だと豪語したものの、乃木坂組の三人と比べるとツユの受け持つ三人は大きく遅れを取っていた。
ミィオがシンクロイスに勝てたのは奇跡に近い。
あの時上手くいったのは、ぶっつけ本番の命がけが良い方向へ働いたのだとツユは判断した。
普段の授業でのミィオのエネルギー上昇には、むらがある。
集中力が圧倒的に足らないのだ。性欲ばかりが無駄に空回りしている。
だがミィオはまだ、ツユに好意的なだけマシといえた。
他の二人、飛鳥と相模原は、現時点では戦力外と言っていい。
飛鳥は何年経ってもツユに触れられるのを嫌がっているようだし、相模原に至ってはサイズオーバーだ。
コクピットの台座に、乗り切らないのである。横幅が広すぎて。
とにかく全員出すと大見得を切ってしまった以上、三人には急速な猛特訓が必要だ。
頭の中で、ざっと今後の方針を固めると、ツユは教員室を後にした。

授業前、ツユがグランプリ参加の旨を伝えると、教室は一気に騒がしくなった。
「養成グランプリ!?なんですか、それ!」
大声で聞き返してくる飛鳥には「パイロット候補生同士で競い合う大会だよ」と答え、「大会は毎年TVで中継しているから、一度は見といたほうがいいよ」と締めた。
「え〜、でも、今年は参加側なんですよね?」と、相模原。
「TV見てる暇なんてないんじゃあ……」
「誰も今期の分を見ろとは言ってないでしょ」と、ツユもやり返す。
「今までの録画は、レンタル屋にも出回っている。そいつを見ろって言ってんのサ」
「はぁ〜い」とやる気ない返事をかます相模原の隣では、飛鳥が忙しなく椅子をガタンゴトンさせる。
「ロボット候補生同士の戦いかぁ〜。なんか面白そう!」
早くも乗り気になっている。悪くない傾向だ。
隣に座るミィオが手を挙げる。
「私達は全員参加でしょうか、お姉様」
ツユは頷き、三人の顔を見渡した。
「えぇ、乃木坂組とうちとで実技、他の組で座学を担当って事に決まったわ」
それと、と付け足す。
「大会では攻撃を行なわない。動かすだけだから、飛鳥も蓉子も安心してね」
「あ、はい」「でも……」
相模原と飛鳥の声が重なる。
「でも、何?」とツユが飛鳥を促してやると、飛鳥は眉根を寄せて続けた。
「動かすのも、ちょっと自信ないかな、なんて。あっ!もちろん、参加するからには優勝を狙いますけど」
ツユは苦笑し、彼女を見つめ返す。
「心意気だけは万全じゃないの。もちろん判っているよ、あんた達が実力不足だなんてのは。大会当日まで、みっちり特訓してやるから、そこも安心しなさい」

大会当日までの期日は、一週間しかない。
「ベタベタ触られなくて済むのは有り難いけど、動かすだけってのも、いまいちピンとこないわね」と、相模原は首を傾げる。
「ピンとこないって、何が?」
飛鳥の問いには「歩くだけでいいのか、それとも物を持ち上げたりするのかってコト」と、答える。
「判らない場合は実際に見てみるのが宜しいですわ、蓉子お姉様」
したり顔でミィオが頷く。
しかしレンタル屋で借りてこいと言われても、候補生が外を出歩けるのは休日のみだ。
「石倉教官あたりが持っていそうじゃない?大会の録画テープ」
飛鳥の提案で三人娘は昼休みに、剛助の席を尋ねてみた。
剛助は何やら書類と睨めっこしていたが、三人のお伺いには快く答え、録画テープも貸してくれた。
教室の再生デッキに差し込んでみると、レポーターのドアップが映し出される。
『今期も始まりました!第28回パイロット養成グランプリッ』
「28回?そんなにやってるんだぁ」
にしてはツユや学長のクチから、とんと聞いた覚えがない。
きっと、知る人ぞ知る大会だったのだろう。
ラストワンは参加していないから、スルーされたのだ。
「うちが出るのって初めてよね」と、相模原が言うので飛鳥も頷いた。
「うん。なんで今期は出ることにしたんだろ」
シッとミィオに制されて、意識を再び録画へ戻す。
『今回は、どんな優秀な候補生が飛び出すのか!?さぁ〜、まずは選手の入場です』
にぎやかな吹奏楽をバックに、次々と選手が行進してくる。
ざっと見て、どの学校も出場しているのは歳の頃、十五歳から十九歳前後の男子ばかりだ。
たまに女子も混ざっているが、数える程度である。
「うちみたいに女子ばっかりってのは、やっぱ珍しいんだねぇ」
「そりゃそうでしょうよ。だって十五歳男子が一番パイロットに適応してるってのが定説で」
ポツリと呟く飛鳥に何やら語り始めた相模原を再び「シッ」と制し、ミィオは画面を食い入るように眺めた。
「……やっぱり」
「ん、何がやっぱり?」
飛鳥が尋ねると、ミィオは選手達の遥か後方を指さして言い切る。
「このロボット、電撃ロボですわ!」
「う、ウソォ!電撃ロボって、あの電撃ロボ!?」
つられて飛鳥も思わず叫んでしまったが、なるほど遠方にちんまり映っている黄色い機体は電撃ロボで間違いない。
ベイクトピア軍が、かつて所持していた人型有人機である。
かのエースパイロット、今は引退して久しいが、デュラン=ラフラスが愛機としていたロボットだ。
蘊蓄を遮られて、少々気分を害した相模原が聞き返す。
「なんで電撃ロボが、ここにあんのよ。大会用オブジェなの?」
「まさか」と首を振り、飛鳥は肩をすくめた。
「ここにあるってことは、この出場校のどれかの所有ロボットでしょ」
見れば他にもロボットが、ずらりと整列している。
その数、全部で九体。
出場校も九つだから、飛鳥の予想はアタリだろう。
「一校につき一体なのかな」と、飛鳥。
数を見る限りでは、そうだろう。となると、ゼネトロイガーも一機で出場か。
『全選手が揃いました。今期も圧巻です!』
選手の数は、どこも十名だ。
二人一組で乗り込むラストワンは、選手数をオーバーしてしまうのでは?
といった飛鳥の疑問を余所に、映像は続いていく。
広い会場にビシッと整列した選手達の前を横切って、台座に登った男が一人。
見た目、五、六十ぐらいだろうか。
初老の男性はごほんと咳払いし、会場を見渡した。
『今期も素晴らしい選手が集まったのを、心から歓迎したい。諸君らの顔を見ていれば判る』
「あ、これ面倒な長話だ。飛ばそ」と、リモコンに手を伸ばしてきたのは相模原だ。
「え〜?せっかく借りてきたんだし、全部見ようよぉ」
文句を言う飛鳥をチラっとジト目で睨み、「どうせ私達が出場した時も似たような長話が入るのよ」と相模原は、にべもない。
さっさと早送りで飛ばしてしまい、次に画面がストップしたのは選手が全員退場した後だ。
すっきりした会場が映し出される。
ざっと見て、会場は陸上のグラウンドに似ていた。
地上には何本か線が引かれており、傍らには道具の入った小箱が数個置かれている。
ここでロボット実技が執り行われるとして、座学は、どこでやるのか。
それもレポーターの実況で、すぐに判明した。
『この後は第一会場で実技、第二会場でクイズ大会が行なわれます。第二会場の内村さん〜?』
パッと画面が切り替わり、今度は体育館のような場所が映し出される。
ここが第二会場か。
中央に細長い机と椅子が並べられ、少し離れた場所に高い台座が置かれている。
台座の背後の壁にはロボットクイズ選手権と書かれた横断幕がぶら下がっていた。
それらをぐるり一周、観客席が取り囲んでいる。
「う〜ん、ここで答えを間違ったら、そうとう恥ずかしいよねぇ……」
呟く飛鳥に、ミィオも頷く。
「えぇ、それは実技でも言えますわよ、飛鳥お姉様」
『午前の部はクイズ、そして午後の部は、お待ちかねの実技競争だ〜!』
元気よくレポーターが叫んだところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
チェッと舌打ちし、飛鳥が素直にテープを止める。
「この続きは放課後、部屋で見よっか」
「では飛鳥お姉様のお部屋に集合、ということで」

午後の授業が始まったが、どの候補生も先ほど見たビデオのせいで落ち着かない。
ツユも授業をいったん止めて、全員の顔を見渡した。
「さっそく大会の録画を見たんだね」
「はい!本格的な大会ですよね、わくわくしてきちゃいました」
真っ先に飛鳥が頷き、続けてミィオも感想を述べる。
「選手の皆様……ほとんどが男性ですのね」
「そうだね」とツユも同意し、「うちが珍しいんだ」と付け足した。
「一般には、男子のほうが運転に向いているとされている。女子は気が散りやすいからね。でも、訓練次第じゃ性別なんて関係なくなる。そいつを、あんた達が証明してくるんだ」
「そういや」と飛鳥が疑問をくちにした。
「うちの機体って、男女一組で動かすタイプですよね。選手の数、足りないんじゃありませんか?」
「あぁ、それなら大丈夫」と、ツユ。
「補佐スタッフは選手にカウントされないからね。教官をスタッフで登録する手はずだよ」
それよりも、とツユの視線が相模原の前で止まる。
「機体に乗れないなんて出場以前の問題だからね。どっかのデブは減量するように」
どっかのデブと言われたって、この教室で太っているのは相模原しかいない。
飛鳥とミィオが引きつった笑顔を浮かべる中、当の本人はというと。
「え〜、デブって私のことですかぁ〜?」
媚びっ媚びの上目遣いで聞き返してくるのには、ツユもジト目で応戦する。
「他に誰がいるのさ。一週間で40キロ……は無理だから、55キロまで落とすんだよ、判った?」
55キロにしたって、現在の相模原の体重は80キロを軽くオーバーしているのだから大変だ。
というより、無理だ。たった一週間で30キロ以上を落とすのは。
「え〜、全体重量は関係ないと思いますぅ〜」
本人にも、それが判っているのか、媚び媚びな姿勢を崩さぬまま反論した。
「へぇ、自覚あるんだ。自分の体が横に長いこと」と、ツユも遠慮が全くない。
「じゃあ、横幅をダウンさせなよ。台座は80センチだからね」
相模原のウェストサイズは110を軽くオーバー。
もはや、何をどうやっても一週間での減量は無茶無謀なのではないか。
ミィオと飛鳥は、そう思ったのだが、続く相模原の提案には驚いて目を点にした。
「何も無理に台座へ寝ころぶ必要ないと思うんですよねぇ。教官、最初に言ったじゃないですかァ〜。戦う必要はないんだって」
「えぇ、言ったけど、それが?」
「だったら台座に横たわらなくてもいいんじゃないですか?私は跨って動かします」
ゼネトロイガーのコクピットは、一般のロボットとは多少異なった構造だ。
中央の操縦桿の前にあるのは座席ではない。台座だ。
縦に細長い台座があって、パイロットが寝ころべるようになっている。
前面は窓で、ここと確認モニターで周辺の様子を確認できる。
補佐である教官は寝転がったパイロットにおっかぶさるようにして、操縦桿を掴む。
同時にモニター及び窓で周辺を確認し、敵を補足する。
競技が動かすだけで済むのだったら、補佐なんぞいらないはずだ。
相模原は、暗にそう指摘しているのである。
相模原の提案にツユが怒り出すのではないかと飛鳥もミィオも心配したのだが、意外や彼は、うぅむと腕組みをして考え込み、ややあってから答えを出した。
「……そうだね、動かすだけなら、案外補佐なしでもイケるかもしれない。よし、残り一週間は操縦桿の使い方を教えるよ!」
「ほ、本気ですかぁ?」と声をあげたのは、ミィオ。
いつものおっとりした彼女らしからぬ大声だ。
「念じるだけでも大変だってのに、その上操縦まで……?は、ハードな特訓になりそうだなぁ」
飛鳥も冷や汗タラリで呟くのへ、ツユが応えた。
「あぁ、あんた達は、いつもの操縦でいくから。操縦桿の使い方を覚えるのは蓉子、あんた一人だよ」


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