合体戦隊ゼネトロイガー


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act5 目的は同じ

TV中継が終わっても教室や食堂、至る所で話し声が聞こえる。
皆、朝の報道が忘れられずにいた。
候補生やスタッフの動揺もさることながら、同僚の衝撃も凄まじい。
そればかりではない。
ラストワンに子供を預けた保護者も、同様の衝撃を受けたのであろう。
瞬く間に、事務室の電話は苦情コールで鳴りっぱなしになる。
これでは仕事にならないと、スタッフの悲鳴を受けて今日一日、ラストワンは休校になった。
教官は緊急会議を開く。
無論、議題は『乃木坂救出作戦』である。
「今、学長が軍部とかけあっている。だが我々の要求は十中八九、退けられると予測される」
剛助の言葉に「じゃあ、やはり強行作戦になるんですか?」と尋ねたのは木ノ下だ。
「恐らく、な」と、剛助。
ツユも「軍部に任せていたら、勇一が見殺しになるのなんて目に見えているわ」と吐き捨てる。
「あたし達の手で勇一を救出するのよ」
「こちらとのタイマン勝負……空からの来訪者は、乗ってきますかね?」
不安な面持ちの木ノ下へ力強く頷くと、剛助は己の推理を明かした。
「度重なる我が校への襲撃は、けして偶然ではないと思うのだ。敵は初めから我々に興味を示している。ならば、こちらから餌をまけば必ず飛びついてくるはずだ」
「そうですかねぇ……」と木ノ下はまだ納得できかねる様子であったが、続けて問う。
「それで、タイマン勝負には誰が出るんですか?」
「最年長組でいきたいところだが、肝心の乃木坂が不在ではな。学長の判断は、まだ聞いていないが、水島組が妥当だろう」
剛助に一瞥されて、ツユも頷き返す。
「是非にも、よ。勇一救出へ繋がる戦いは、あたし達にやらせてもらうわ」
「で、その勝負の裏で乃木坂さんを探す手はずって感じ?」と会話に混ざってきたのは新参のクリー。
当然のように、緊急会議でも後藤の姿はない。
ここにいるのはツユと剛助、木ノ下、鉄男、そしてクルウェルの五人だけだ。
「朝の報道で判ったでしょ。勇一がいるのは、あの巨大戦艦の中に違いないわ。タイマン勝負で皆の目を引きつけている間に、なんとしてでも潜り込んで探す別部隊が必要ね」
「ですが」と異を唱えたのは鉄男で「巨大な船は常に上空にいます。どうやって、あそこまで?」と尋ねる。
ツユは鼻息荒く答えた。
「そんなの、決まってるでしょ。こっちも飛行船を使うのよ」
飛行船なんて高価なものが一介の養成学校にあるはずもなく、報道陣か軍部の力を借りなければ無理だ。
スクープをちらつかせれば、報道は協力してくれるかもしれない。
「救出に向かう組は、誰と誰で?」
木ノ下の問いには少し考え、剛助が答える。
「向こうでは何が起きるか判らん。己の身を己で守れる者、となれば俺か辻が適任であろう」
「じゃあ学長が戻ってき次第、報道へコンタクトを取る。それでいいわね?」
ツユが皆へ確認を取るのと会議室の扉がガチャッと開いたのは、ほぼ同時で。
「皆、軍の許可が下りたぞ」
意外な結果に、木ノ下は思わず学長に聞き返していた。
「へっ!?マジで俺達のタイマン勝負がOK出たんですか?」
「あぁ」と頷き御劔が言うには、ゼネトロイガーvs空からの来訪者の一騎討ちは、報道を呼んで大々的に行なうとのこと。
その裏では誘拐された民衆を救出する別機動隊を組み、速やかに飛行船で巨大戦艦に近づいて潜入する。
ついでに戦艦へ爆薬を仕掛け、救出と同時に破壊を試みる。
先ほどツユや剛助が考えた作戦と同じものを、軍も考えていたようだ。
「その機動隊に、あたし達も同行できないでしょうか?」とツユが尋ねるのへ、御劔学長は難しい顔で答えた。
「どうだろうな。民間人は邪魔になると却下されそうだが……一応、尋ねてみよう」
あぁ、それと、とツユを振り返り指示を出す。
「一騎討ちには水島くん、君と君の処の候補生……ミィオとのコンビで出撃してもらおう」
「判りました!ではミィオに、その旨を伝えてきます」
すぐさま返事をし、ツユが会議室を飛び出していく。
学長が再び軍部と連絡を取る間、何もすることのない鉄男と木ノ下は剛助につれられて格納庫へ向かう。
クルウェルは、ついてこなかった。
部屋を出る直前までに見た彼の様子は、学長の通話をちらちらと伺っていた。
「……もし、別機動隊への同行が許されるのであれば……」
移動中ぽつりと鉄男が呟いたので、剛助も木ノ下も耳を傾ける。
「……俺は、同行したい。俺の手で、必ず乃木坂さんを救い出したい」
「判るぜ、その気持ち」
即座に頷く木ノ下。剛助も振り向かずに同意する。
「乃木坂を救いたいという、お前の気持ちは軍にも必ず伝わるはずだ。学長の返事に期待しよう」
「それで……石倉先輩。俺達は、どうして格納庫に?」
格納庫に到着してから、剛助は木ノ下の質問に答えた。
「この間の戦闘結果を見ても、ミィオと水島のコンビでいくのが正解だろう。だが、この間の戦闘で欠点も見えている。ゲージの上がり具合だ。戦いの局面において、速すぎる。あれでは肝心な場面で必殺技が発動できず、オーバーヒートする可能性も高い。そこで急場しのぎではあるが、ゲージの上がり具合が順風にいくよう細工を施しておこうと思う」
唐突の機械技師な発言には、木ノ下も鉄男も驚いた。
いや、驚くのは失礼か。
たとえ体育会系に見えたとしても、石倉剛助は一応ロボットの研究者なのだから。
「できるんですか、そんなこと。カバーを外して中身を弄らなくても?」
首を傾げる木ノ下へ「できるさ」と自信満々に答えると、剛助は解説を始めたのだが……
「必殺技ゲージはポンプでエネルギーを押し上げている。押し上げる速さを調整するには、弁に重しをつけて勢いを殺してやればいい。弁は外側に穴を開けて手動でも調整できるようにしてあるから、いちいちカバーを外す必要もない」
機械には元より詳しくなければ興味もない二人のこと。何を言われているのか全くチンプンカンプンだ。
「はぅ……えぇと、つまり、石倉さん一人でも調整可能って事ッスかね?」
「そういうことだ。では、俺の言うとおりに道具を持ってきてくれ」
鉄男と木ノ下を同行させたのは、パシリに使う予定だったようだ。
命じられるままに倉庫と格納庫を何度も往復して、さしもの鉄男でも肩で息をする頃に、ようやく調整は完了した。
それを待っていたかのように、クルウェルが格納庫へ顔を出す。
「学長が呼んでる。三人とも会議室に戻ってくれる?」
「了解だ」と剛助が答え、床でへたばってハヒハヒ言っている木ノ下と、汗をぬぐう鉄男を見下ろした。
「軍との話し合いに決着がついたのだろう。さぁ、戻るぞ二人とも」
「ふ……ふぁあぁ〜い」
よろよろとよろける木ノ下には鉄男が肩を貸し、四人は会議室へ戻る。
部屋には既にツユが戻ってきており、先ほどはいなかったはずの後藤や副学長の姿もあった。
四人が部屋に入るなり、学長が話し始める。
「日時が決まった。一騎討ちは明日、ベイクトドームで行なう。軍がコンタクトを取ってくれた。来訪者から快い返事をもらったそうだ」
「あっ、明日!?」
随分と急速な日程だ。これでは特訓する暇もない。
鉄男達の反応は予想範囲内なのか、学長は顔色も変えずに淡々と続ける。
「人命救助を一刻も早くという話だ。誘拐された中に、国の要人も混ざっていたらしい」
上にせっつかれての強行作戦か。
ぶっつけ本番の救出劇、しかも初めて入る場所とあっては機動隊も気の毒だが、人命救助を突きつけられては従う他あるまい。
「民間人の同行は拒否された。だが私は機動隊の隊長と、ちょっとした縁があってね……」
ちょいちょいと手招きされたので、鉄男は学長に近づく。
「辻くん。君だけを内密に混ぜてもらう約束を取り付けておいた。必ず乃木坂くんを探し出してやってくれ」
耳元で囁かれて鉄男はヒャッとなりかけるもツユや後藤の手前、なんとか耐えきった。
それにしても学長に、そんなツテがあったとは。
元は国の研究チームだったそうだし、その頃の人脈が、まだ生きているのかもしれない。
「他の人達は格納庫で待機。相沢くんは私と共にオペレーターを務めよう」
「候補生達は、如何なさいます?」と相沢に尋ね返され御劔は少々思案した後、「寮で待機させておこう」と答えた。

ゼネトロイガー出撃の件はミィオ経由で瞬く間に全候補生の知るところとなる。
「寮で待機なんて、できるわけないじゃない!」
憤慨して騒ぎ出したのは、やはりというか当然というか最上級生のメイラであった。
愛しの乃木坂救出大作戦とあっては、機動隊に同行したい気持ちは鉄男以上に強かろう。
だが、危険な行為を学長が許すわけもない。
ただでさえ午前中は保護者からのクレーム電話の対応で、スタッフがてんてこ舞いだったのだ。
「あたしの親も電話したんじゃないかなぁ」と、心配げに呟いたのはマリアだ。
「うちのパパ、超過保護な親馬鹿だからさぁ。辞めさせる〜!なんて、怒ってないといいんだけど」
この学校は寮制だけど、帰ろうと思えば、いつでも許可は取れる。
しかし帰郷許可を取る候補生は意外や少なく、そういや自分も長いこと帰郷していないと亜由美も気がついた。
「定期的に手紙出してるから、うちの親は電話してへんと思うで」とはモトミの弁。
「えー、でも」と反論してきたのは、レティ。
「自分の娘預けてるトコの先生が悪の手下としてTVに出たんだよ?さすがに、無反応ってのはないんじゃない」
すかさず「悪の手下って何よぅ!」とメイラには怒られ、「キャ〜☆ごめんなさぁい」と些かわざとらしく謝ったレティは、皆の顔を見渡した。
「出撃するのってミィオちゃんだけなのよね?私達は待機。でも乃木坂教官のピンチに何も出来ないなんて、生徒魂として、いけないと思うの」
「生徒魂って何よ」とマリアが突っ込む横で、まどかも尋ねる。
「それじゃレティには、どんな名案があるのかしら?」
「も・ち・ろ・ん☆別々機動隊としてぇ〜、ゼネトロイガーをもう一機発進させてぇ〜奇襲をしかけるのっ♪きゃぴぃっ☆」
明後日の方向にポーズを決めて、ふるふる首をふる彼女に誰もが失望した。
もう一機出撃させるには学長の許可が必要だし、却下されるに決まっている。
無断で動かすにしろ、スタッフの協力が必要だ。
そしてスタッフを動かせるほどレティが偉い権限を持つわけでもなく、こんなの誰が聞いても夢物語である。
そう突っ込もうとした昴の袖を、誰かがチョイチョイと引っ張ってくる。
振り返ってみると、引っ張っていたのはメイラだった。
今にも泣きそうな表情で、こちらを見上げている。
「ゼネトロイガー発進は無理としても……何もしないでいるなんて、私にも無理だわ」
「そうは言うけどね」
言い含めようとするところへ、ヴェネッサも混ざってきた。
「一騎討ちの間、報道陣の飛行船は空中で待機しているのよね。空に浮かぶ前だったら、潜り込めない事もないのではなくて?」
とんでもないことを言う。常識派なヴェネッサの発言とも思えない。
「報道を誑し込むの?だったら、あたしに任せて!」
なんとしたことか、まどかが彼女の発言に食いついてきて、昴が止める暇もあらば一気に候補生の間で盛り上がる。
「いいね、それ。軍が動くのは誰にでも予想つくけど、報道の飛行船まで動くとは誰も思わないだろうし」
「飛行船のスタッフを、まどかちゃんが説得するの?だったら、あたしは救出組に入りたい!」
「なら、飛行船へ近づくまでに学長にも見つからないルートを考えておきましょう」
「学長側にも、目くらましの役は必要だと思わない?」
「教官達の動きも見張ってなきゃ!」
皆好き放題に騒ぎ始めて、収拾がつかない。
それでいて話はまとまってきたのか、皆の顔を見渡して、テキパキとヴェネッサが指示を飛ばす。
「それじゃ、誘惑担当は赤城さんとレティさんにお願いね。スタッフを、上手く丸め込んでちょうだい。煽動役をマリアちゃんとモトミさんにお願いできるかしら。二人とも野次馬に紛れて、騒ぎを大きくするのよ。教官を見張る役目はエリスさん、あなたが適任でしょう」
「ちょ、ヴェネッサくん、待ちたまえ」
慌てる昴を、まるっきり無視し、名前を呼ばれたエリスがヴェネッサに聞き返す。
「わたしが?どうして」
「あなたの不思議感は、教官の目を引きつけるのに、もってこいだからよ。適当にシークエンスがどうのと呟いておけば、辻教官や木ノ下教官が興味を持つでしょうしね」
「不思議感……よく判らないけれど、足止めをすればいいの?」
不思議そうに小首を傾げるエリスを遠目に、何人かは深く納得した様子で頷いている。
「そうよ。よく判っているじゃない」
ヴェネッサも満足げに頷くと、こう続けた。
「あなたの知る情報を全て話すのよ。そうすれば学長も、あなたを放っておけなくなるでしょう」
何やら意味深な発言に「お?なんや、なんや?ヴェネッサは何か知っとるんか」とモトミが食いついてくるも、最上級生は「さぁ?気になるなら、エリスに聞いてちょうだい」と軽く受け流し、最後にメイラと昴を見た。
「昴クン。あなたは乃木坂教官の命運を、軍と水島教官だけに任せるつもりなの?私には出来ない。メイラと同じ気持ちよ。それに、この一大事で傍観者になってしまっては、何のためにパイロットを目指しているのかも判らなくなるわ」
彼女の目を見た瞬間、昴は全てを悟った。
止めても無駄だ。覚悟を感じる。命をかけた、強い信念を。
ヴェネッサは突入組に混ざり、必ずや乃木坂教官を見つけ出すであろう。
ならば、同級生である自分の道も決まっている。
彼女と共に敵地へ乗り込み、乃木坂教官を捜すのだ。
「……判ったよ、ヴェネッサくん。メイラくんも。だが君達二人だけ死地へ晒すのは、僕の理念に反するからね。僕も同行しよう。そして必ず、乃木坂教官を見つけ出して共に脱出するんだ」
三人の最上級生は、互いにコクリと頷き合った。


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