合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 最上級生達の画策

乃木坂勇一が消息を絶った。
それも恐らくは拉致、相手は空からの来訪者。
情報が少なすぎる、と昴は考える。
彼を救い出すには、学校の外で情報を集める必要があろう。
一人では無理だ。
しかし手数に出来そうなのは同じクラスの、ヴェネッサとメイラだけだ。
下級生を巻き込むわけにはいかないし、教官に行動を悟られてもならない。
学長を締め上げる手も一度は考えたが、奴は絶対に情報を吐くまい。
これまでずっと、生徒に真実を隠してきた奴なのだから。
ラストワンの生徒が外に出られるのは休日のみ。
外出するにあたり、教官の同行は必須ではない。
許可さえ貰えれば、候補生だけでの外出も可能である。
何日かかるか判らない。それでも探さなければならない。
乃木坂教官は受け持ち担任というだけではなく、昴にとっても大切な存在だ。
初めて、そう、生まれて初めて昴を一個人の存在として、認めてくれた相手なのだから……

授業が終わった後、昴とヴェネッサはメイラの部屋に集まる。
メイラが招集をかけたのだ。
緊急集会では顔色を失って気絶した彼女も、放課後までには話せるだけの元気を取り戻していた。
「こないだの外出の時にね、変なものを見たのよ」
極秘情報なんだけど、と断った上で眉根を寄せたメイラが言うには、外出先の遊園地で亡霊のような黒いモヤと戦ったというのである。
実際に戦ったのはメイラではない。辻教官だ。
辻教官が、しゃべるモヤを蹴り飛ばして撃退した。
何故遊園地に行ったのかも、メイラは話した。
ただし、その理由は昴とヴェネッサを大いなる混乱に陥れたのだが。
「ヒーローショーのお手伝い?どういう流れで、そういう結果に落ち着いたんだい」
「遊園地のオジサンにスカウトされたのよ、辻教官が。それでね、私と木ノ下教官も手伝って。楽しかったぁ〜。あのね聞いて?辻教官ってね、いつもは仏頂面だけど」
夢見る表情で嬉々として話すメイラへ、ヴェネッサが待ったをかける。
「まぁ、その話は後で聞くとして……そもそも何故、遊園地なの?一番最初に遊園地へ行くきっかけは、何だったの。おじさんにスカウトされる前の理由は」
ところがメイラと来たら、あっけらかんとしたもので。
「そんなの知らないわ。だって私は木ノ下教官と辻教官のデートを尾行していただけだもの」
あっさりとヴェネッサの質問を受け流し、逆に昴へ話を持ちかけてきた。
「それでね、モヤが言ったのよ。『シークエンス、見つけたぞ』って。これって、どういうことかしら?」
「どういうことって?」と聞き返してから、昴は、あっと小さく叫ぶ。
シークエンスだって?
また出てきた、謎の単語だ。
最初に言い出したのは、エリスだったか。辻教官を指した言葉らしい。
「黒いモヤも、辻教官に向けて言ったのかい?見つけたぞ、シークエンスって」
「たぶん、そうよ。あれは辻教官に向けて言ったんだと思うわ」
だって私も木ノ下教官も、そこにいた他の人達全員がシークエンスじゃないもの、と言ってメイラは話を締めくくる。
「シークエンス……何なのかしらね、本当に」
ポツリとヴェネッサは呟き、メイラと昴の顔を見渡した。
「エリスは知っているのよね?シークエンスの正体を。だったら、彼女に聞いてみるのが一番じゃないかしら」
「僕も今、それを考えていたんだ」と、昴。
何人か既に彼女に聞いた者はいるようだが、何が何だか判らない答えで全員が煙に巻かれたらしい。
エリスは普段から、ぼ〜っとしていて、どこを見ているのか、何を考えているのかも判らない子だ。
あまり会話をかわした覚えもない。
共通の趣味があるのかどうかさえ、判らない子だったから。
しかし今は四の五の選り好みをしている場合ではない。乃木坂の命がかかっている。
「エリスには僕が当たってみよう。ヴェネッサくんとメイラくんは今週の日曜日から聞き込み調査を始めてくれ」
「でも、聞き込み調査ったって、何を聞けばいいのかしら?」
困惑のメイラへは、ヴェネッサが答える。
「簡単でしょう?乃木坂教官の顔写真を見せて、この人物に見覚えはありませんかってやるのよ」
「ここ数ヶ月間で変わったことがなかったかも聞いといてくれ」と昴も付け足した。
「もしかしたら、乃木坂教官と辻教官も、中央街で何かを探していたのかもしれない。例えば……空からの来訪者に関する情報とか、ね」
それ以外で行方不明になる理由が思いつかない。
何か相手側にとってマズイ情報を掴んでしまい、それで拉致されたとしか。
「辻教官を締め上げてみるってのは、どうかしら」と、メイラ。
「ヴェネッサがオイロケでグイグイ攻めていけば、きっと簡単にくちを割るんじゃない?」
「どうして私がそんな破廉恥な真似をしなければならないのよ、しかも辻教官なんかに」
思いっきり気分を害したヴェネッサに怒られ「いい案だと思うんだけどな〜……」とメイラはポソッと呟くと、それでも一応「ごめんなさい」と素直に謝っておいた。
「ところで、なんで辻教官の名前が出てくるの?」
今更なメイラの質問には、昴もあっさり答え返す。
「乃木坂教官が消息を絶った時、辻教官は直前まで同行していたらしいんだ」
目撃したのは飛鳥だ。
だが飛鳥に聞き込みをしても無駄であろう。彼女は、これ以上何も知るまい。
「おかしな組み合わせね」
昴が感じたことをヴェネッサも呟き、傍らではメイラが大きく頷く。
「駄目よ、辻教官は木ノ下教官とお出かけしてくれなきゃ!私が萌えないわ」
「メイラくんの萌えは、どうでもいいとして……」
昴は脳を素早く回転させた。
僕らに出来る、今後の行動はエリスへの質問と街での聞き込みだけか?
いや最後の目撃者、辻教官を締め上げる作業が残っている。
ヴェネッサのお色気作戦も悪くはないが、本人が嫌がっているし、彼女の内申書に傷がついても申し訳ないので却下だ。
自分にはお色気作戦なんて逆立ちしたって無理だし、相手は、あの強情な辻教官だ。
メイラの天然攻撃でも厳しいものがある。
だとすれば巻き込んでも大丈夫な手数を一人、調達してくるしかない。
下級生で如何なる作戦にも乗ってくれそうで、且つ普段の素行にも問題があって、辻教官へ敵意を持っていない女子。
口が堅ければ、尚更完璧だ。そういう対象に、一人思い当たる子がいる。
「もう一人、協力者を頼もう。大丈夫、教官達に秘密をバラしそうにない子に心当たりがあるんだ」
「そう?なら、その子との交渉は、あなたに任せるわ」
昴へ頷いたヴェネッサは、妄想の彼方に飛び去ったメイラの肩を掴んで現実へと引き戻す。
「私達は来るべき聞き込み調査へ向けて、聞き込み内容を堅実に固めておきましょうか」
「え?あぁ、はいはい、判ったわ。でも私、そういうのは苦手だから、あなたに全部任せていい?」
メイラの頼りない返事を聞きながら、ヴェネッサは優雅に微笑んだ。
「いいわ、あなたは私の後についてくるだけで。たまに足りない情報を補ってくれれば、それで充分よ」

翌日。さっそく昴は行動を開始した。
「赤城くん。赤城くんは、いるかい?」
三時間目の休み時間に後藤組の教室を覗いてみると、あぁ、いたいた。
朝には見かけなかった赤城まどかが、ちゃんと自分の席に座っている。
後藤組は、いつも教官の後藤が授業をサボる為、候補生の集まりも悪い。
エリスは毎日来ているようだが、ニカラとまどかの両名は日によって出席率がまちまちである。
出席していない日は何をしているのか、昴には判らない。
探しようにも、こちらも授業がある。ふらふら宿舎へ戻るわけにもいかない。
「あら、珍しい。最上級生サマが、あたしに何の用?」
茶化してくるまどかへ近づくと、昴は小声で話しかける。
「ねぇ、君に頼みがあるんだ。夕飯が終わったら、僕の部屋に来て欲しい」
「あら、ここじゃ言えないような内容なの?」と、まどかが髪をかき上げて笑う。
「まぁね」と頷き、昴は周囲を素早く伺った。
ニカラは不在だ。三時間目になっても来ないのでは、今日は休みか。
エリスは、というと自分の席に腰掛けて本を読んでいる。こちらの様子を気にしてもいない。
「みんなには内緒だよ」
そっと念を押すと、まどかも神妙な顔で頷く。
昴の様子に、茶化している場合ではないと気づいたのだろう。
「えぇ、判った。それじゃ夕飯の後、そっちへ行くわ」
これで、彼女との約束を取り付ける用事は済んだ。次はエリスだ。
教室へ入り、昴はエリスへ近づくが。不意に、エリスがガタンと席を立つ。
「あぁ、エリスくん。君にも用事が」
話を切り出す先輩になど目もくれず、エリスは、すたすた歩き出す。ドアの方向へ。
「えっ、ちょっと待ってくれ。エリスくん、話があると」
呼び止める昴の声も届いていないのか、エリスは教室の外へ出て行ってしまった。
まるっきりの無視には、昴も唖然となる。
なんなんだ。話しかけづらい子だとは前々から思っていたけど、あそこまで人の話を聞かないとは。
「彼女の事は、気にしなくていいわよ」
落ち込んでいると思われたのか、まどかが気遣ってくる。
「いつも、ああなんだから。あたし達との会話なんて、どうでもいいんでしょうね」
本人がどうでもよくても、こちらは困る。
シークエンスの話を聞かなければならないというのに。
「エリスくんが、どこへ行ったか判るかい?」
駄目元で昴は尋ねたが「さぁ?」と、まどかは素っ気ない。
「いつも休み時間はフラフラ出ていって、授業のチャイムまでには戻ってくるのよ。おトイレにしたって毎時間って事もないでしょうし、どこか別の場所で休んでいるのかもね」
「君とニカラくんは、仲がよいのかい?」
「え?えぇ、まぁ。休み時間には、よく話すわね。大抵がガマガエルの悪口だけど」
なるほど。騒がしい教室では、エリスも休む気にはなるまい。
まぁ、エリスとはいつでも会える。
まどかとの交渉が終わった後、彼女の部屋に行けば済む話だ。

「それで?わざわざ名指しで、あたしを呼びつけるぐらいだから当然面白いお話なのよね」
夜。
夕飯を終えた後で約束通り、まどかが昴の部屋へやってくる。
後藤組に分けられた彼女と昴は普段、あまり会話をしない。
積極的には話さないが、話を振られれば答えるし、間に誰かが入れば会話が弾むこともある。そういう間柄だ。
まどかは騒がしい子の多い下級生の中では、比較的落ち着いた存在である。
もっと言うなれば、肝が据わっている。
ガマガエルこと後藤が顔面を近づけてきても逃げないのは、彼女と香護芽ぐらいなものだ。
先輩や教官が相手でも全く臆しない度胸。機転もまわる。勘が良い。
頑固な鉄男対策に、これほどうってつけな人物もいないであろう。
「面白いといえば、まぁ……面白い、かな?」
奥歯に物が挟まったような昴の物言いに、まどかが片眉をあげる。
「どっちなの?言っとくけど、面白くないんだったら帰らせてもらうからね」
「そうだな、面白さは君自身が決めてくれ」
乃木坂教官の消息を独自で探りたい。
その為には、最後の目撃者である辻教官から情報を引き出す必要がある。
君に、その役目を頼みたい。
そういった事を簡潔に述べると、まどかの瞳がキラリと輝いた。
「口を割らせる手段は何でも構わないの?だったら引き受けてあげてもいいわ」
一体何をやらかすつもりやら、楽しそうな彼女には昴のほうがドン引きだ。
「あまり手荒な真似は、しないでおくれよ?」
「大丈夫。暴力をふるうんじゃないから」と言って、まどかがクスリと微笑む。
「あぁ、それと」
なにやら言いかける昴を遮って、彼女は頷いた。
「判ってる。皆には内緒、学長にも悟られないよう行動するんでしょ」
頭の回転が早くて助かる。マリアやモトミでは、こうはいかないだろう。
「大丈夫よ、任せて。誰かの目を盗む行動は得意なの」
そう言って出て行きかけるまどかへ、昴がポンと何かを放り投げる。
受け取ってみれば、小さなレコーダー。
「これで録音するの?」
昴は頷き「聡明な君の事だから聞き漏らしはないと思うけど、一応ね」と付け足した。
聞き漏らし対策だけじゃない。いざという時の証拠にもなる。
まぁ、こんなことは、まどかに説明するまでもない。
昴の予想した通り、彼女は聞き返すかわりに、別の確認を取ってきた。
「あなたは乃木坂教官が誰かに誘拐された。そう、思っているのね。だから最後の目撃者を締め上げて、それで乃木坂教官の足取りを追うつもりなんでしょう?」
「その通りだ」
隠す必要がないので、昴も素直に頷く。
「判るわ」
まどかは真っ向から昴を見つめる。
「あたしが、あなただったら、必ずそうするもの。いいわ、手伝ってあげる。最後まで、ね」
「最後まで?」
聞き返す昴へ「最後まで、よ。辻教官への尋問だけではなく、乃木坂教官が見つかるまで」と答え、レコーダーをポケットにしまいながら、まどかは出ていった。


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