act4 単独捜査
翌日。「あ!ちょっと、待って下さいよ乃木坂さん。どうしてくれるんスか!!」
一時間目の授業が終わり教官室へ戻ろうかという時、後方から追いかけてきた木ノ下に呼び止められ、乃木坂は露骨に眉をひそめた。
「あぁ〜?どうしてくれるって、何がだよ」
「鉄男ですよ、鉄男!昨日の審査のせいで、あいつすっかり俺と顔を合わせてくれなくなっちまったんですよ」
木ノ下も眉をつり上げて、不機嫌に言い返す。
どうやら昨日のテストが元で、木ノ下と鉄男の信頼関係にヒビが生じたらしい。
だが、そんなのは乃木坂の知ったことではない。
ぶっきらぼうに「知るかよ」と言い返し、さっさと踵を返す乃木坂を木ノ下が執拗に追いかける。
「知るかよって、ありゃ〜全部乃木坂さんのせいじゃないッスか!変なテストを俺達にやらせるから」
「変なテストォ?どのみち必要な事だろーが、あの唐変木にゃ」
相変わらず無愛想に突き放すと乃木坂は立ち止まり、後輩を振り返った。
「で?辻は、どんなふうにフテくされているってんだ」
「あ、それが……」と少し言葉につまり、木ノ下がゴニョゴニョ答える。
「起きた瞬間から、顔も見ないでさっさと出ていっちまうんですよ」
もちろん会話もなし、話しかけても梨の礫だ。完全無視されている。
「ふん。恥ずかしがっているだけだろ」
乃木坂は鼻で一笑し、木ノ下を睨みつける。
「だがな、恥ずかしがり屋は、このスクールに必要ねぇ。辻はもっと他人と積極的に触れあうべきだ、そう思わないか?」
「そ、それは……でも……」と先ほどまでの威勢は何処へやら、木ノ下の勢いは急激に衰え、もう一度、ふんと鼻を鳴らし、乃木坂は多少語感を和らげて言い直した。
「今の辻のままじゃ、遅かれ早かれ候補生との演習に支障が出るぞ。あんな極度のシャイ野郎が、女の子に手ほどきできると思うか?思わないだろ。こっちは人員に余裕がないんだ、お前だっていつまでも足手まといのお守りをしてる場合じゃない。それは判るな?」
「は、はぁ」
頼りない返事の木ノ下を見つめ、乃木坂は一つ提案する。
「……しょうがねぇなぁ。じゃ、ここは最年長の俺に任せておけよ」
「何するんスか?」
「辻の機嫌を直すついでに、俺の仕事を手伝わせる。日曜日、あいつを借りていくぞ」
乃木坂は陽気に言い放つと、まだ何か聞きたげな木ノ下を廊下に残し、さっさと立ち去った。
――そして、当日。
休みの朝っぱらから呼び出された鉄男は、仏頂面で乃木坂の部屋の扉をノックする。
何をさせる気かと訝しむ鉄男に、乃木坂はいいから部屋に来いの一点張りで、何をするのか教えてくれなかったのだ。
二、三度叩いたところで、ようやく本人が顔を出す。
「よしよし、遅れずにきたな?良い心がけだ。まぁ、入れよ」
言われては断るに断れず、仕方なく鉄男は先輩の部屋にお邪魔する。
ベッドが一つの一人部屋にも関わらず、鉄男の部屋と間取りは大差ない。
違うのは本棚の充実加減と、壁に貼られた水着の女性のポスター。それから机の上にぶちまけられた文具ぐらいか。
本棚に並んでいるのは、殆どが雑誌だ。ちらほら専門誌も見えるが、大半はグラビア雑誌である。
研究者と聞いていたから、もっとお堅い専門書ばかり並んでいるかと思っていた鉄男は内心幻滅する。
乃木坂は、やはり見た目通りのナンパ野郎のようだ。
じろじろ眺め回す鉄男を乃木坂は興味深げに眺めていたが、やがて用件を切り出してきた。
「今日は、俺の手伝いをしてもらおうと思ってな」
「手伝い……ですか?」
警戒する鉄男へ頷くと、乃木坂は指を一本立てて話す。
「あぁ。表向きは男二人でナンパ!」
「お断りします」
即座に返事をしてくる後輩へ苦笑し、「そうじゃねぇよ」と乃木坂は付け足した。
「表向きは、といったろ?外出許可を取るには、それなりの理由が必要なんでね」
「ナンパがですか」
仏頂面にも萎えることなく「そうだよ」と頷くと、乃木坂は先を続ける。
「ま、本来の用件は違うんだけどさ。今日は軍施設の近辺を調査する」
「それは必要な事なのですか?」と、鉄男。
「必要っちゃ必要かな、俺にとっちゃ」と含みを持たせる答えを返し、乃木坂は一旦言葉を切る。
軍用施設までは行くが、真の目的は軍の見学じゃない。
探すのはシャンメイと名乗る空からの来訪者だ。
奴とは軍施設へ行く途中の駅で遭遇した。
何故あの場所で出会ったのか?
もし街の中に潜んでいるとしたら?
いずれにせよ、調べておく必要はあった。
新型機が完成するまでには時間がかかる。
実戦で戦える候補生は、まだ三人しかいない。
情報が必要だ。何でもいい、空からの来訪者に対抗できる情報なら何でも。
「まずは中央街へ行ってみようぜ、それから軍の敷地に入る」
「中央街に何があるんですか?」
首を傾げる鉄男に乃木坂は「行ってみれば判る」とだけ告げ、さっさと部屋を出ていくものだから、鉄男も急ぎ後を追いかけ、ラストワンを飛び出した。
ベイクトピアの主流交通手段は、広大な土地に張り巡らされた列車――すなわち、鉄道である。
鉄男のいるヘルベイト地域から中央街へ向かうには、まず列車に乗って終点まで行かねばならない。
さらに、そこから出ている別の路線へ乗りかえる必要があった。
一般に中央街と呼ばれている地域の正式名称は、ベイクル。
ベイクトピアの中心部にあたる地域だ。
ラストワンの教官が自由行動を許されている範囲も、ベイクルまで。
それ以上、遠方への外出は禁じられている。
休みの日は候補生を誘って近場で交流を深めるよう言われている。
だが、教官同士で出かけてはいけないという決まりもない。
――そうしたわけで、乃木坂は鉄男を誘って中央街までやってきた。
鉄男にとって中央街は初めての街だ。
ニケアからベイクトピアへ渡った時も街の広さに驚いたものだが、中央街は辺境の街を遙かに凌駕していた。
道の両脇に店が建ち並び、きらびやかな看板が建物の上部を飾っている。
どこからか絶えず音楽が流れていて、人の話し声と混ざり合い、街の中は騒然としていた。
街を行き交う人々の格好もオシャレで、田舎者の自分など、ここにいるのが場違いにも思えてきて気後れしてしまう。
ラストワン配布の教官用ジャンパーで着たのが悔やまれる。
乃木坂は私服だ。自分も着替えてくればよかったと思った鉄男だが、すぐに思い直す。
私服に着替えたところで、どっこいどっこいだ。
浮かない乃木坂と違って、田舎者の自分は浮きまくるに決まっている。
「おい、キョロキョロしてんじゃねーぞ?田舎者だと思われたくなかったらな」
からかうように乃木坂に言われた鉄男は、慌てて背筋をしゃんと伸ばす。
田舎者だとからかわれるのには慣れていたが、乃木坂にからかわれるのだけは勘弁ならない。
ただでさえ初対面の印象が悪いというのに、先日の怪しい審査のせいで、鉄男の中での乃木坂評価は地に堕ちていた。
食べ物を売る店の前を通りかかると、良い匂いが鼻孔をついてくる。
同時に鉄男の腹の虫がグゥと鳴った。
「なんだ、お前。朝食食べてこなかったのかよ」と乃木坂にはからかわれ、頬を真っ赤に染めた鉄男が反論する。
「あ、朝早くに呼びつけたのは乃木坂さんではありませんか」
「飯を食べてからでもいいって言ったはずだぞ?」と一応は言い返してから、乃木坂は焼き肉屋の前で立ち止まる。
「どら、仕方ねぇ。ちと早いけど飯にすっか」
「飯……」
ちらりと焼き肉屋の看板を一瞥し、鉄男は懐に手をやった。
すぐに察したのか乃木坂が笑い、手をひらひらと振ってみせる。
「勘定はオゴリだ。どうせお前、列車賃ピッタリしか持ち合わせてねぇんだろ?」
「そ、そんなことありませんッ」と鉄男もすかさず否定したのだが、相手は全然聞いておらず。
「おやじー、二名だ」
さっさと焼き肉屋に入って席を取る彼を追い、仏頂面をますます濃くしながら鉄男も店に入った。
焼き肉が運ばれてくるなり、肉を焼き始めた乃木坂が対面から話しかけてくる。
「どうだ、大きな街だろ?ここは」
嫌いな相手が一緒では食も進まず、もそもそと付け合わせの野菜を食べながら鉄男は頷いた。
「そうですね……」
どうせ来るなら、木ノ下と一緒がよかった――そう思いかけて昨日のテスト内容までもが脳裏に浮かび、げほげほと勢いよく咽せる鉄男を乃木坂は呆れた目で眺めていたが、すぐに話題を切り替える。
「これだけ大きけりゃよ、情報も見つかりそうなもんじゃねーか」
「じょ、情報ですか?一体何の」
鉄板を挟んで、乃木坂が小声になる。
「決まってんだろ?空からの来訪者だ」
途端に鉄男の顔にも緊張が走り、真面目な顔で乃木坂が囁く。
「奴らが二度もラストワンに襲撃をかけてきたのが偶然とは、到底思えねぇ。奴らなりにウチの情報を掴んでいる、そう俺は睨んでいるんだがな」
しかし、何故――軍ではなくパイロット養成学校を狙う理由は?
目で尋ねる鉄男へ頷くと、乃木坂は更に声のトーンを落として続けた。
「何故奴らが俺達を狙うのか?それも疑問だが、俺にはもっと疑問がある。……実は、な。二回目の襲撃の前に、俺は奴らの一人と出会っていたんだ」
「えっ!?」と驚愕する鉄男をシーと指で制し、乃木坂は結論を出した。
「それも、中央街へ向かう駅の向かい側でな。やつは中央街方面からラストワンへ向かう途中だった……これが何を意味するか、判るか?辻。奴らが中央街へ根を張っている可能性があるってことだよ」
「それで情報を……中央街にいるかどうかを調べるのですか?」
つられ小声で尋ねる鉄男に、乃木坂は自信満々頷いた。
「そうだ。見つけ出せなくてもいい、ここ数ヶ月で変わったことがなかったかを調べるだけでも。新しい居住者、変わった旅行客……なんでもいいんだ。普段と違う光景を見た奴を探そう」
つーわけで、と乃木坂は話を締めくくり、焼けた肉を口いっぱい頬張る。
「まずは腹ごしらえだ!そんで、食べ終わったら二手に分かれて情報収集開始といくぞ」
仰天したのは、鉄男だ。
てっきり二人一緒に行動すると思っていたのに、二手に分かれるなどと言われては。
「ま、待って下さい!俺は、ここへ来たのは初めてで……」
だが鉄男の不安など乃木坂は何処吹く風、肉をくっちゃくっちゃ噛みながら脳天気に返してきた。
「ん?なんだ、迷子になるってか?大丈夫大丈夫、迷った時は電光板を見りゃ一発だし、いざって時は人に頼れ」
知らない他人を頼るなど、迷子になるより恐ろしい。
いくら嫌いな相手といえど、それでも乃木坂は、この街では唯一の見知った顔である。
すがりついてでも同行を頼み込みたい一心であったが、食べ終わるや否や頼みの綱は席を立ち、「一時間後には、またここで集合だ」と言い残し、さっさと歩き去っていってしまった。
焼き肉屋の前で憮然と佇みながら、鉄男は思案する。
他人と口を訊くのは至難の業だ。
知りあいと話すのだって大変なのに、探偵の真似事など出来るわけがない。
一時間、ここでたちんぼして時間を潰そうか。
そんなことを考えていると、横合いから声をかけられた。
「あの……もしかして、ラストワンのかた?」
まさか誰かに声をかけられるとは予想していなかった鉄男は、ぎょっとして振り返る。
相手は、鉄男の全く知らない女性だった。二、三歳ほど年下だろうか。
無言の鉄男へ、もう一度女性が話しかけてくる。
「え、えぇと。ごめんなさい、突然声をかけて。私、スパークランで教鞭を執っているミソノ=ラフラスです」
名刺を差し出されたが、スパークランにも名前にも聞き覚えがなく、ますます鉄男は警戒心を高める。
強ばる相手に「あ、あの……」とミソノも困惑していたが、不意に鉄男の手を取り、名刺を無理矢理握らせた。
仕方なく鉄男も名刺へ目を落とす。
『パイロット養成教育機関 スパークラン ミソノ=ラフラス』
つまりスパークランとはラストワン同様、パイロット候補生を育成する学校か。
それなら、そうと始めから名乗ってくれれば警戒せずに済んだものを。
自分のコミュ障を棚に上げて、鉄男は、ほんの少し警戒心を緩める。
眉間の皺が多少減ったのにミソノも気づいたか、彼女は顔を綻ばせた。
「そう、スパークランもラストワンと同じく、未来のパイロットを養成する学校です。つまり私達はライバルにして同業になりますね」
「ライバル?」と首を傾げる鉄男へ、ミソノも頷く。
「もうすぐ第29回養成グランプリが始まりますもの。今年は、そちらも参加なさいますか?」
「養成……グランプリ?」
同業者なら共に打倒来訪者を誓う仲間であってライバルではない。
それに、グランプリが開催されているなど初耳だ。
「ラストワンには、すごい機体があるって評判ですよ。同業者の間では。私も是非その機体を拝見したいです」
「……どうして、それを?」
どういうことだ。
ゼネトロイガーは全世界に情報公開されているのか?
そんなわけがない。
どこそこのスクールが、どんな機体を所持しているのか、そんな噂は一度も鉄男の耳に入ってきたことがない。
他スクールの情報が入ってこないのなら、他スクールへラストワンの情報が流れることもあるまい。
なのに目の前の女は、当たり前のようにゼネトロイガーの話を振ってきた。
訝しがる鉄男に、ミソノは苦笑して答えた。
「こういう噂はね、どんなに本人達が隠そうとしていても伝え聞こえてしまうんですよ。特に、あなた方は来訪者と実戦を行ったそうじゃないですか。そうすると必ず、こういうのが一枚や二枚」
見せられた写真を一瞥し、鉄男は息をのむ。
写真には来訪者と向かい合うゼネトロイガーが写っていた。
戦闘時、一般民は全員避難させたはずだ。なのに何故、誰がこの写真を――?
「命がけでスクープを狙う報道屋なんて、今どき珍しくもないでしょう?」
あっさりとミソノは流し、写真をバッグに仕舞いこむ。
「この写真も、あるルートを通して複製してもらったんです。あぁ、でも上から圧力がかかったらしいですよ?ですので、公には記事になっていません。ご安心を」
ベイクトピアでは、よくあることですよとミソノには笑われたが、鉄男は素直に笑えない。
彼女の言葉を信じるなら、彼女が所属するスパークラン以外のスクールにもゼネトロイガーの噂は伝わっている。
これだけ情報が拡散していたのでは、来訪者がラストワンの情報を掴むなど容易かろう。
軍より強力な機体があるといった情報を聞けば、奴らが興味を持つのも当然だ。
そして情報を得るには、人間の側にいるのが一番だ。
乃木坂の予想通り、やつらは人間の側に潜んでいる。恐らくは、この街の何処かに。
「で、どうなんです?出場するんですか、今期の大会に」
話を戻され、鉄男は狼狽えた。そんな話、自分にされても困る。
学長は何も言っていなかったから、多分出場する予定はないのだろう。
「いや……何も聞いていないが」
彼女の顔を真っ向から見ることも出来ず、鉄男は地面を見つめてボソボソと低い声で答える。
「そうですか、残念です」
意外やあっさりミソノは切り上げ、肩をすくめた。
「今期こそは見られるんじゃないかって皆、期待していたんですけどね。出ないんじゃ仕方ありません」
そのまま立ち去ろうとして、ふとミソノが鉄男に笑いかける。
「……また、どこかでお会いできるといいですね。それじゃ」
完全に彼女の背中が見えなくなるまで見送ってから、どっと一気に疲労が鉄男を襲う。
知らない人と話すのは苦手だ。
ましてや、それが女性とあっては。どうしても、極度に緊張してしまう。
腕時計を見た。待ち合わせの時間まで、あと三十分はゆうにある。
あと三十分、別の人を捕まえて話を聞くのは億劫だ。
そう考えた鉄男は焼き肉屋の近くに座り込み、じっと乃木坂の帰りを待つことにしたのだが……
約束の時間になっても、乃木坂の戻る気配がない。
よもや、自分との約束を忘れてナンパに走ってしまったのでは?
不安がよぎる鉄男の胸元で、携帯電話が電子音を鳴らす。
確認すると、木ノ下の名前が画面に踊っていた。
……木ノ下か。
彼とは昨日の夜から一度も話をしていない。
正確には、例のテストが終わって以降ずっとだ。
恥ずかしくて木ノ下の顔を見られない。
顔を見るたび、彼にされた行為が脳裏に蘇ってしまうせいだ。
取らずにいようと思ったのだが電子音は一向に鳴りやまず、仕方なく鉄男は電話に出た。
「俺だ」
『お前、どこにいるんだ!?』
木ノ下が放ったのは、やたら切迫した一声で。
「乃木坂さんと一緒に中央街へ」と答える側から、彼の声がおっ被さってきた。
『やっぱり!今すぐ、そこから離れるんだ!学長が言っていたんだ、軍の情報で!中央街がやられる、来訪者の空襲だ!!』
相当泡を食っていて、木ノ下の言うことは支離滅裂だ。
要は軍の通信を傍受した学長が中央街への奇襲を知り、鉄男に連絡を取るよう木ノ下を促したのだろう。
それにしても、空襲とは。今朝のニュースでは何も言っていなかった。
今だって街の中央にある巨大モニターは、アイドルの宣伝を映している。
緊急ニュースを流す余裕もないほど、切羽詰まっているのか。
『軍は出撃したってさ、お前はすぐに戻ってくるんだ、いいな!?』
「しかし、乃木坂さんがまだ」
『乃木坂さん?乃木坂さんが、どうしたんだ!』
鉄男は道の前後を素早く見やるが、どちらにも此処へ向かって歩いてくる乃木坂の姿はない。
一体何に引っかかっているんだ。苛つく頭の隅で、彼の言葉が繰り返される。
乃木坂は来訪者の手がかりを探すと言っていた。
口下手な自分と違って、彼は情報の手がかりを掴んだのかもしれない。
更に情報を追求しようとして、何かが起きた。待ち合わせの場所に遅れる理由としては充分だ。
「乃木坂さんを探してくる」
『バカ、乃木坂さんを探してる暇なんてないぞ!?』
怒鳴る木ノ下へ、鉄男も苛々と言い返す。
「乃木坂さんを見捨てて逃げろというのか?」
木ノ下の声が大きくなった。
『あの人なら大丈夫だよ!いざとなったらシェルターがあるんだしッ』
「シェルター?シェルターなら、どの街にもあるだろう」
『そうじゃないっ。中央街のシェルターは住民登録が必要なんだよ!乃木坂さんなら入れるけど、お前は』
さらに何か言い返そうとした鉄男は、突如響いてきた轟音に空を見上げて、ポカンとなった。
空を覆い尽くさんばかりの巨大な物体が、頭上を飛んでいる。
あれは見覚えがある。そうだ、前にラストワンを襲ってきたやつじゃないか。
そいつが鉄男の頭上を飛んでいた。
来訪者の奇襲は、鉄男や木ノ下が考えていたよりも早く始まるようであった。