合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 それぞれの想い

「それにしても、だよ」と、食堂へつくなり話を切り出したのは昴だ。
先ほど見た謎のテスト。
乃木坂教官の提案による教官能力審査だが、実際にどういう内容だったかというと――
「何故乃木坂教官は"シークエンス"に、こだわっているんだろう」
「そりゃあモチロン、辻教官が"受け"だからよ!木ノ下教官は"攻め"ね」
即座に答えたメイラを軽く睨み、昴はヴェネッサへ矛先を向けた。
「ヴェネッサ君は、どう思う?本当に辻教官にはシークエンスの資質があると思うかい」
「私には何とも言えないわね」
緩くかぶりを振って否定すると、でも、とヴェネッサは付け加えた。
「あのテストでは資質があってもなくても無理だと思うわ」
「それは、確かに」と昴も頷いて、一人納得のいかないメイラが頬を膨らませる。
「どうして?辻教官が一番仲良しなのって木ノ下教官よ。もし、辻教官に女の資質があるんだったら一番好きな人には心を許してしまうものじゃないの?」
ウケだのセメだのと言っていた割には、ちゃんと人の話を理解していたようでもある。
だが、彼女の解釈には一番肝心な部分が抜け落ちている。
「もし、仮に二人が仲良しで、辻教官に資質があったとしてもね」
またしても痛んできた頭を押さえながら、昴が答える。
「辻教官に"誰かを愛する心"が芽生えていなかったら、テストしても意味がないんだよ」
「愛する心?あるんじゃないの、それぐらい」
メイラは首を傾げている。
ハァッと揃って溜息をつくと、昴とヴェネッサは顔を見合わせた。
「ここにも愛を判っていない人がいたみたいだね」
「そのようね……困ったものだわ、最上級生だというのに」
何も判っていないメイラの声が、食堂にこだました。
「ねぇ、どうしたの?どうして二人して私を哀れみの視線で見つめているのよ〜!?」


最上級生ともなれば、授業も一、二期生とは違ったものになる。
彼女達がマスターしなければいけないのは、主としてゼネトロイガーの操縦制御だ。
ゼネトロイガーだけマスターしたところで世に出た時、正規パイロットになれるのか?
といった質問は、当然出てくるだろう。だが、問題はない。
多少特殊な操作を必要としているだけで、ゼネトロイガーの基本操縦は他陸動機と大差ない。
つまり機体を動かすだけなら、あのような真似をせずとも充分動くのだ。
それに――いずれはゼネトロイガーを軍部に売り込もうという話が持ち上がっているらしい。
ゼネトロイガーの攻撃力は、現在正規軍が使っている陸動機を遙かに上回る。
操縦さえ完璧にマスターしていれば、一機でも対等に戦えるはずだ。空からの来訪者と。
昼休みが終わった後、最上級生はパイロットスーツへ着替えてシミュレータールームに集まった。
先に待っていた乃木坂が、皆の顔を見渡す。
「よーし、今日からは最終試験へ向けた授業を始めるぞ。といっても、難しく考える必要はない。今までの延長みたいなもんだからな」
これまでに昴、メイラ、ヴェネッサの三人には基本の操縦方法、それから攻撃エネルギー充填の方法を教えてきた。
従って三人とも、何をどうやれば効率よくゼネトロイガーを動かせるかは習知している。
その上で、最終試験へ向けた授業をやるという。まだ何か、教わる事項があるというのか?
「はい、はーい!」と勢いよくメイラが手をあげたので、乃木坂は指名する。
「何だ?メイちゃん」
「はい。今までずっと最終試験があるって言われてきましたけど……試験って具体的には何をするんですか?」
試験の内容は三人とも知らない。
こいつは教官だけが知らされている情報だ。
「そうだな……」と一応は考える素振りを見せてから、乃木坂が答えた。
「そろそろ教えちゃってもいいだろ。うん、最終試験ってのは、要するにアレだ、セックスだ」
たちまちメイラの口からはキャーと黄色い歓声が飛び出し、そのやかましさに眉をひそめながら、昴が追いかけ質問する。
「えっと……つまり、それは試験で処女を捨てろってことですか?」
「あぁ」
あっさり頷くと、乃木坂は付け足した。
「一応、候補生の希望も、ある程度までなら受け付けるけどな」
「希望、とは?」と、今度はヴェネッサが首を傾げる。
「あぁ、だからな、相手が俺じゃ嫌だってんなら他の教官とバトンタッチする場合もあるってことさ」
どうあっても最終試験での初体験は、免れないようである。乃木坂の話を聞く限りでは。
「で、でも、その最終試験では、カチュアやマリアが大変なことになりませんか……?」
咄嗟に昴の脳裏に浮かんだのは、幼い二人のヴィジョンだ。
あの二人は自分と違って、かなり幼い。
おまけに担当は朴念仁の辻教官だ。彼に、そんな行為が出来るのか?
ところが乃木坂の返事は「どうして?」と軽快で。
「カチュア達が卒業するまでには、あと三年もかかるんだぜ。三年も同じ顔をつきあわせてりゃ〜大抵の行為には慣れちまう、お前らみたいにな」
そうだろうか。
あの人見知りで臆病なカチュアが、たった三年で応用が利くようになるとは到底昴には思えなかったのだが、物思いに沈みかけていた彼女はヴェネッサの凛とした声で現実へ引き戻された。
「試験でやる内容に不満はありません。ですが、一つお聞かせ下さい」
「なんだ?」と、乃木坂。
硬い表情と口調を崩さず、ヴェネッサが尋ねた。
「何故、最終試験がセックス……挿入なのですか?愛撫だけでもボーンは発射できるはずです」
そうだ、そのとおりだ。
実際、これまでに奇襲してきた来訪者は、全て愛撫止まりで撃退できているではないか。
「ん〜……こいつは最後まで秘密にしておけって言われているんだが、まぁ、お前らならいいか」
さして秘密を厳守するでもなく、乃木坂がペラペラしゃべった処によると――
なんと、ゼネトロイガーにはボーン以上の必殺武器が搭載されているというのだ!
「ただし、そいつは本当に最終秘密兵器ってやつでな」と、声を潜めて乃木坂は囁く。
「エクスタシーを極限まで引き上げないと発動しない」
「それが、つまり……膣への挿入、ですか」
ダイレクトな名称を口に出すのは、さすがに恥ずかしいのか、ヴェネッサの頬が赤く染まる。
乃木坂は大真面目に頷いた。
「その通りだ。あ、もちろん拒否の権利だってあるかんな?最終試験を受けたくない場合も、事前に俺達の誰かに知らせてくれ」
「えっ、でも」とメイラが眉をひそめる。
「最終試験を受けなかったら、パイロットの資格も取れないんじゃあ……?」
「あぁ」
乃木坂は頷き、三人の顔を見渡した。
「最終試験、イコール、パイロットの資格取得なのは一番最初に伝えたよな?試験を拒否るってのは、パイロットを諦めるってこった」
もちろん、と付け加えるのも彼は忘れなかった。
パイロットになるのを諦めた場合、学長に頼めば企業への推薦状を書いてくれるという。
しかし元より、三人とも諦めるつもりはない。
最後の最後で諦めたんじゃ、何の為に四年も頑張ってきたのか判らなくなる。
それに……と、メイラはチラリ上目遣いで乃木坂を見た。
乃木坂教官は、ちょっと軽い面もあるけど、今まで出会った男性の中では一番格好いい。
少なくとも、これまで通ってきた学校には、彼ほどのイケメンは存在しなかった。
乃木坂の長所は顔だけじゃない。軽そうに見えて、意外と思いやりがある。
彼と出会って、いろんな処に連れて行ってもらって、前の学校にいた時よりも自分が明るくなったとメイラは思う。
ラストワンへ来る前までのメイラは、虐められっ子であった。
オタク女、キモイ、暗いと陰口を叩かれたせいで、自分に自信がなくなっていた。
それが初めて、乃木坂のおかげで解放されたのだ。
彼はメイラにとって救世主であり、初恋の人でもあった。
愛を判っていないと昴やヴェネッサには馬鹿にされたけれど、本人は充分判っているつもりだ。
判っていなかったとしたら、乃木坂を見つめるたびに早まる胸の鼓動、これは何なのか逆に説明して欲しい。
――だから、だからこそ。初めての相手は、彼がいい。
ちらっと他の二人も見やると、昴もヴェネッサも真摯な瞳で乃木坂教官を見つめている。
何を考えているのかは判らないが、二人が最終試験を諦める気がないのだけはメイラにも伝わった。
「まぁ、最終試験までは日にちがある。今すぐじゃなくても」
言いかける乃木坂を遮って、三人が口々に宣言する。
「いいえ、私は受けますわ。最終試験を」
「僕も諦めるつもりは、ありません」
「はいはーい、私も、私も!」
もう一度三人の顔を見渡して、乃木坂はニッコリ微笑んだ。
「良い返事だ、三人とも。よし、それじゃ今日はシミュレーターを使って気分昂揚の練習をするぞ」
昴が判った顔で「気分昂揚……妄想シミュレートですか」と頷いてシミュレーターに腰掛けると、他の二人も同じように空いた機械へ腰掛けて、教官の言葉を待った。
「今日は、いつもの仮想に加えてマスターベーションもやっていけ」
シミュレーターの電源を入れると、まず最初に表示されるのは自分のパーソナルデータだ。
次に教官を選択したら、難易度を選ぶ。
乃木坂のパーソナルデータを呼び出すと右側に全身裸像、左側には教官の細かいデータが表示された。
最上級生の三人にとっては、すっかりお馴染みの画面だ。
最初の頃は裸画像を見るたびにキャーキャー喜んでいたメイラも、今じゃすっかり大人しい。
「設定はハードですか?」と尋ねるヴェネッサを手で制すると、乃木坂は三人に指示を出す。
「いや、今から俺が言うように操作してくれ。コントロールキーを押しながら、エクストラと入力」
言われたとおりにキーボードで打ち込むと、画面が切り替わった。
教官のデータは消え、エクストラモードの文字が点滅している。
「何ですか、これ?」
初めて見る画面に目を輝かせながら、興味津々メイラが尋ねる。
「見ての通り、エクストラモードへの入り口だよ。まぁ、言ってみれば隠しステージってやつだな」
乃木坂は画面を突き、付け加えた。
「文字をクリックしたら、映像がスタートする。準備が出来たら、順次開始してくれ」
ゴーグルとメットを装着した三人が、こくりと頷く。
もう何度も繰り返し行ってきた訓練だ。
ゴーグルとメットを通して映像が脳へ伝えられる。
脳の受けた感覚が肉体へも影響を及ぼし、まるで実際に触られたかのような疑似作用を引き起こす。
モニターに浮かんだ乃木坂が、それぞれの脳に語りかけてきた。
『今日も性感帯の特訓といこうか。皆、恥ずかしがらずに声をだしていけよ?声をだしたほうが、より気持ちよくなるってもんだからな。じゃあ、まずは――』
候補生達が身をよじり、吐息を漏らし、或いは小刻みにブルブル震えるのを横目に眺めながら、その間することのない乃木坂は、余った機体に腰かけ、教官データを呼び出した。
自分のではない。鉄男のだ。
「10/21生まれ、ニケア出身……両親没後ベイクトピアに移住、か。ふん、一応、必要過程は卒業してんだな」
それにしちゃあ、人慣れしすぎていないにも程がある。
学校へ通っていたのに、あの性格じゃ友達の一人も出来なかったに違いない。
乃木坂は心の中で毒づきながら、鉄男の身体能力データを開く。
運動能力は悪くない。いや、背筋力と走力は乃木坂を軽く上回っている。
そういえば彼は武術をやっているのではないか、と剛助が言っていた。
「武術ねぇ、武術で足まで鍛えられるもんかね?」
もう一度、前のページに戻って鉄男の裸像をマジマジと眺め、「おぇっ」と吐く真似をして、乃木坂は電源を落とした。
野郎の裸なんて、見て面白いもんじゃない。
「やっぱ辻がシークエンスだなんて、何かの間違いだろ。エリスの勘違いってやつかな」
やれやれと肩をすくめて、乃木坂は時計を見た。
あと四十五分。シミュレート中の三人は荒い息をついて、体をひくひく痙攣させている。
どんな映像を見ているのか、こちらから見ることはできないが、大体は予想がつく。
「卒業試験か……辞退はナシだぜ?三人とも」
映像より実物のほうが、断然いいに決まっている。
この三人の体が、もうすぐ俺のモノになる――
三人の裸体を脳裏に浮かべ、乃木坂はニヤリと口元を歪めた。さながら、悪人の如く。


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