合体戦隊ゼネトロイガー


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act6 マッチョダンサーズ

シンクロイス同士の喧嘩に巻き込まれて気を失った鉄男は、スパークランへ帰宅後、御劔学長経由で事の顛末を知る。
シークエンスの提案により、ゼネトロイガー六体vsシンクロイスの巨大道具の団体戦で決着をつけるという。
一方的に大量殺戮されたにもかかわらず共存方向でいくのは地上の民として納得いきかねる部分もあったが、これが一番平和な解決方法だと軍を納得させるに至ったらしい。
地上の民が勝てば、シンクロイスは今後一切道具作成の能力を封じられる。
向こうが勝てば、道具作成能力健在のまま彼らを受け入れることになる。
どちらが勝つにせよ、爆撃と拉致誘拐は終わりにさせられる。
シンクロイスはベベジェ、ロゼ、ミノッタ、シャンメイ、ゾルズ、カルフ、そしてシークエンスの七名だ。
内三名は、こちらに所属している。
数が合わないのでは?と首を捻る鉄男に、御劔はハンデとして、こちらが六体使うことをベベジェが許可したと伝えた。
計十体の巨大武器がドンパチできるスペースについても、四国会談で話し合われる。
使用ロボットはゼネトロイガーが選ばれた。
というよりも、ゼネトロイガー以外では戦いにならないと判断された。
合体やボーンの使用も、シンクロイス側は制限なしと言い渡してきた。
既に対策は整えられているとみていい。
しかし逆に考えれば、これはチャンスだと御劔は言う。
まともに戦っても倒せそうにない相手が、わざわざハンデをくれたのだ。
万が一の奇跡で倒せるかもしれない。
勝っても負けても共存だとは言ったが、うっかり勢いで爆死させてしまっても勝ちは勝ちですよね、などと乃木坂の口からも不謹慎なジョークが飛び出し、ラストワン関係者のみでの教官会議から解放された鉄男は宿舎に戻っていった。

いくらハンデつきとはいえ、こちらのパイロットは乃木坂組とツユ組の六人しかいない。
ロボットは六体だから六人いれば充分?
いやいや、ゼネトロイガーで戦うにはパイロット一人につき一人ずつの補佐が必要なのだ。
パイロットにも補佐にも不安があると鉄男は考えた。
ラストワンは、あくまでも学校だ。軍隊ではない。
死への覚悟は、まだ誰も身につけていない。
かといって現役パイロットを回してもらうにしても、機体に慣れるまでの時間が足りない。
対戦は今すぐ行われるわけではないが、カチュアが卒業するまでの期間があるわけでもなく、どこでやるのか、誰が出るのか、開催日といった具体的な内容が決まってしまえば、こちらの都合などお構いなしに始まってしまう。
学長は恐らく、教官全員を戦場へ出す気だ。
カチュアが暴走した際は、仕方なくデュランの手を借りて失敗した。
だが後藤が欠けて一人足りない分は、どうするのだろう。
やはり嫌でもデュランの手は必要なのではないか。
彼には元後藤組のまどかが大変懐いていると人づてに聞いた。
赤城まどか――彼女には鉄男も以前、色仕掛けされて酷い恥をかかされた覚えがある。
こんな子も、この学校にいたのかと驚かされた。
パイロットを目指すのは、正義感に満ち溢れた真面目少年少女だとばかり思っていたのに。
自分の受け持ち担当にも不真面目な子はいたのだったと、今なら冷静に思い返せる。
あの時は、冷静になるどころではなかった。
己の黒歴史に思いを馳せていた鉄男は、考えを切り換える。
まどかの淫乱行為に愚痴っている場合ではない。
ロボットを操縦するのであれば、気の合う同士が一番だという話だ。
自分も駆り出されると想定した場合、誰がパイロットに選ばれるだろうか?
一番信頼できるのは亜由美だが、ゼネトロイガーとの相性が一番いいのはカチュアだ。
これまでに二回も単独で動かしている。
一人で動かすのは暴走でしかないが、鉄男が一緒なら精神的にも安定するはずだ。
いずれくる出撃に備えて、カチュア個人と対話しておこう。


放課後の授業が終わり、まどかはスパークラン校舎の裏庭へやってきた。
連れ出されたのだ。同クラスのニカラに。
ここのところ仲違いしていた相手だが、向こうから申し出があったのだ。
仲直りしよう――と。
ゴメンネと、しおらしく頭を下げる彼女に気をよくして、まどかも許してやった。
もっとも、許すも許さないもなく、喧嘩の原因は単なる一方的な嫉妬であった。
デュランとイチャイチャするまどかに、ニカラが腹を立てただけだ。
改めて、まどかはニカラに雑談を振る。
できるだけ彼女が変な嫉妬をしないよう、デュランの話は回避する方向で。
「今年だけで、一気にシンクロイスとの戦いが終わりそうよね」
「これで勝ったらアタシ達、学校を追い出されちゃうのカナ?」と小首を傾げるニカラには、「空からの脅威だけがパイロットの相手じゃないでしょ」と意味ありげに笑い、まどかは空を見上げた。
「きっと、シンクロイスは各国で取り合いになるでしょうね。道具を作成できなくても、進んだ技術を持っているんだもの。そうしたら、今度は国同士でシンクロイスを取り合っての戦争が始まるかもしれないわ」
「えー!そんなのヤダよぉ。自由に旅行できなくなっちゃうじゃん!」
まどかの予想を感情論で切って捨てて、それよりとニカラは話題を切り替える。
「それよかアタシ達の代でシンクロイスとの戦いが終わるって、これって英雄になれるチャンスじゃん?」
「なれるチャンスっていうか、なるわよね」
まどかも頷き、期待に輝く目を格納庫方面へ向けた。
「今からサインの練習でもしとく?まぁ、誰がパイロットに選ばれるかは判らないけど」
「順当に考えたら、乃木坂組とツユ組だよね……あぁ、けど問題は補佐かァ」
ニカラは腕を組み、真剣に考えてみる。
教官は現在、後藤春喜が欠けたので五人しかいない。
六体全部を戦場に出すにはデュランに代理を頼むしかなさそうだが、彼に頼んで想定外の結果になったのは皆の記憶にも新しい。
学長は二度と彼に助っ人を頼むまい。
となったら、あとは動かせるのは学長本人ぐらいしかいないのでは?
相手がデュランでさえなければパイロットに立候補したいとニカラは考え、ワクワクする。
アタシが英雄。薄汚い溝鼠と称された貧乏生活からの脱出。
ぐっと力強く拳を握り、まどかを振り返る。
「練習、申請しとこ!誰がパイロットに選ばれても大丈夫なように」
「練習ってゼネトロイガーの動かし方?パイロットになる気なんてなかったんじゃなかったの、あなた」と、まどかに茶化されたので、お返ししてやる。
「そういう、まどかだってココに来たばかりの前はパイロットを目指してなかったデショ。でも今は、やる気満々だよね。違う?」
「違わないわ」
髪をかき上げ、真っ向からニカラを見つめて、まどかが微笑む。
「私たち、今日から級友にしてライバルね。やっと、それっぽくなってきたじゃない」
「そうだね」
お互いパイロットを目指していなかったはずなのに、すっかりやる気になっている。
地上の民の命運をかけた団体戦など、昔の自分なら、とっととトンズラこいていたはずだ。
まどかにしたって、命をかけるほどの勇気はなかっただろう。
恋人や名声が手に届くと判った途端、ここまで受け止め方が変わってくるだなんて。
「あ、ところで、さっき空からの脅威だけがパイロットの相手じゃないって言ってたけど」
ニカラが話を戻す前に、大勢の足音がザッザッザと近づいてくる。
何かと思って振り向いてみれば、屈強な大男の団体が二列横隊で行進してきた。
「え?何、あんなのスパークランの教官にいたっけ」
ニカラは首を捻ったが、これまでに一度も見かけたことのない軍団だ。
同じ格好の男が十二人も揃っていれば、受け持ちでなくても記憶に残るだろう。
まどかも眉をひそめ、「教官なの?にしては奇妙なファッションね」と呟いた。
上半身は裸。
サスペンダーで吊った長ズボンは、ツヤツヤと黒光りしている。
全員が黒い帽子をかぶっていた。帽子の表面には"筋"の一文字。
足元は、ヒョウ柄のブーツが見え隠れしている。
どこをどう見ても、養成学校の教官ではない。
だが部外者が易々入れるセキュリティーだったろうか、この学校は。
あからさまに訝しむ二人の前で、男の一人が高らかに告げる。
「そちら、赤城まどかさんでございましょうか?デュラン=ラフラス様により、ラフラス家へご招待せよとの命令を受けて、お迎えにあがりました」
「えっ!?」
思いがけない名前を出されて、二人揃って顔を見合わせる。
デュランの用事なら本人が直接言えばいいのに、何故このように怪しげな軍団を差し向ける必要があるのか。
直立不動、後ろ手に腕を組み、男が名乗りを上げた。
「我らマッチョダンサーズ、ラフラス家に仕える下男でございます!どうか、我々の後について、お車にお乗りくださいませ」
「あ、あの」と、まどかが声をかける。
「デュラン教官は、どちらに?実家へ行くのでしたら、ご本人が一緒じゃないと」
「デュラン様は、お仕事が残っております故、後ほどお戻りになられるかと。まどか様は、お先にお送りいたすようにとの命令です」
マッチョダンサーズ。
思い出すのに少々時間を要したが、ニカラの脳裏をよぎったのはツインテールが最高に似合わない中年女の顔であった。
このタイミングで仕掛けてくるとは、偶然なのか、わざとなのか。
いずれにせよ、まどかが痛い目に遭わされるのであれば是非とも見物したい。
先ほど、頭をさげて謝った。仲直りした。
だが、それは心からの謝罪ではない。
ニカラの前ではデュランとのノロケ話をしない――そういう約束を取りつけたかった。
ノロケ話さえされなければ、毒にも害にもならない相手なのだから。
とは言え、陰口を言われた件を謝ってもらっていないのには腹が立つ。
この女ときたら、全面的にお前が悪いと言いたげな態度で許してあげるわと来たもんだ。
やはり、一度は痛い目に遭っといたほうがよかろう。
マッチョダンサーズが、どのようなお仕置きをするのかは判らないが。
予想より酷くなりそうだったら、庇ってやってもいい。
ここで貸しを作っておくのも悪くない。
「そちらのお友達は、如何なさいますか?」
マッチョの一人に尋ねられ、ニカラは確認を取る。
「一緒に行ってもいいんですか?招待されたのって、まどかだけじゃ……」
ちらっとまどかを盗み見ると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
如何にもニカラには来てほしくなさそうだ。
ならば、なおのこと同行させてほしい。
といったニカラの心情が通じたのかは判らないが、マッチョは力強く頷いた。
「ご希望でしたら、ご一緒にどうぞ。ラフラス家は全てのお客様を歓迎いたします!」
「やった〜」と大袈裟に喜び、口をへの字に折り曲げた級友には、わざと無邪気なフリをして「ラフラス家って、どんなだろ?豪邸カナ〜」と話題を振ってやる。
むすっとしていた口元を無理に歪ませ「当然よ。だって英雄様の実家ですもの」と嗤う彼女と共に、真っ赤な高級車に乗り込んだ。

車は、するすると走り出し、やがて到着したのは大きな建物の前だった。
既に日が落ちて、辺りは真っ暗で何も見えない。
豪邸にしては門扉の灯りもついていないとは、おかしいではないか。
不審に思いながらも開け放たれた戸口を一歩入った途端、二人は強く背中を押されて勢いよく床に転がった。
「いたっ!」
「きゃあ!」
同時にバタンと扉が激しい音を立てて閉まり、前も後ろも判らぬ中、ニカラは大声で叫ぶ。
「ちょっと、ここドコ!?何が始まるの!」
ドワァァァン!と、耳に痛いほどの大音量で銅鑼の音が鳴り響く。
蝋燭に照らされて、先ほどの奇妙な男たちの顔が浮かび上がった。
「ここより先はテリオット様の命令により、赤城まどかを制裁いたす!!」
「制裁!?」と叫び返したのは、まどかだけで、暗闇でニカラはニヤリと唇を歪ませる。
実は薄々判っていた。
今からここで、マッチョダンサーズによる制裁が始まるのであろう事が。
ラフラス家は餌に過ぎない。
デュランへ好意を寄せる、まどかを警戒させないための。
「制裁って何!?どうして私たちがデュラン様に制裁されなきゃ、きゃぁっ!」
まどかの文句は途中で悲鳴に変わる。
布が力任せにビリッと破ける音が聞こえ、続けて床に複数名が倒れこむ。
「いや、やめて、やめなさいよ!」
叫んでいるのは、まどかだけで、男たちは一言も発さない。
それでいて手の動きは盛んなのか、始終彼女の悲鳴ばかりが聞こえてくる。
真っ暗で何も見えないのは残念だ。
これじゃ制裁見物しようと、ついてきた意味がない。
そろそろ帰ろうかな、と思ってニカラが一歩そろりと動いた時だった。
どこからか伸びてきた手が彼女の口元を覆い、ぐいっと後ろへ引き倒したのは。
「ぐぅっ!」と、くぐもった悲鳴を上げて、ニカラは誰かの腕に抱きしめられる。
まさか。
まさか、とは思うが――
口元を覆う手とは違う角度から別の手が伸びてきて、ニカラの胸を無遠慮に掴む。
さらに三本目、つぅっと太腿をなぞられて、カッと頭に血が上ったニカラは口元を覆う手に勢いよく噛みついた。
「アウチ!」
わざとらしい悲鳴をあげる相手に怒鳴りつける。
「アタシは違うだろ!制裁すんのは、まどかだけってハナシだろうが!!」
あいつにバレたっていい。
一緒に制裁されるよりはマシだ。
暗闇からは「どういうこと!?」と、まどかの疑問が飛んできたが、すぐに質問は悲鳴にとって代わられる。
「やぁッ!駄目、そこを触っていいのはデュラン様だけなんだからァ!」
どこを触られているんだか、怒鳴るというよりは半泣きに近い。
が、こちらも、それどころではない。
やめろと言っているのに下着の中にも指が潜り込み、ぐちゅぐちゅとかき回されて全身の力が抜けそうになる。
「大人しく言ってるうちにやめとけよ、クソがぁ……ッ!」
暗闇の中で誰とも判らぬ複数の相手に胸を揉まれて乳首を弄られ、尻の穴を穿られるのは、快感でも何でもなく不快でしかない。
だが、どれだけもがいても六本の腕にしっかりと押さえつけられており、振り切れない。
クックと忍び笑いが聞こえ、ニカラの耳元で低い声が囁いた。
「レイティーン様にはニカラ、貴様も制裁しろと言われておる。エリス=ブリジッド以外は危険児と見なされた。普段の授業態度も真面目にしておけばよかったなァ?」
普段の授業態度を、いつ、あいつらが見ていたというのか。
女子クラスには監視カメラなんてなかったはずだ。
ましてやデュランが他の教官に、ニカラたちの授業態度を話すとも思えない。
そうか。
最初から、そのつもりだったんだ。
まどかを制裁しようと考えたついでに、あいつらはニカラも処す気になったのだ。
「あ、あっ、やだっ、ダメ!そこはデュラン様にしか許してないんだからぁ!」
どれだけ泣かれても叫ばれても、この男たちが止めるはずもない。
テリオット三姉妹の依頼により制裁を引き受けた以上は、最後までやるつもりだろう。
「あ、あぅッ」
ぐいっと指を尻の穴の奥まで捻じ込まれ、苦痛の悲鳴がニカラの口を出る。
まさかエリート学校の教官が、こんなえげつない真似をしてくるとは。
野次馬根性で、ついていくんじゃなかった。
首筋を這う悪寒、胸元を蠢く不快な動き、全てが吐き気を迫り上げる。
チクショウ、チクショウ。
パイロットになってやろうかと思った矢先に、こんな目に遭わされるなんて。
「い、やぁ、あぁ、あーッ!」
まどかの悲鳴が部屋内に尾を引き、やがては啜り泣きへと変わってゆく。
自らが同じ声を出すのを、どこか遠くで聞きながら、ニカラの意識は遠のいていった――


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