合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 危険なデート

カルフがベベジェの行方を捜したいと考えるように、ベベジェのほうでもカルフの行方を捜していた。
ただし意見の相違について謝るつもりなど、さらさらなく、リーダーとしての責務で連れ戻そうという考えだ。
ベベジェがリーダーになったのは最近ではないが、カルフの生きた年代からすると歴史は浅く、彼がリーダーに収まったのは母星の滅亡が判り、クローズノイスが時空移動で生物の住む星を探しに旅立った後だ。
それまでは、ずっとクローズノイスが皆のリーダーを務めていた。
血気盛んな種族が争うことなく穏便に生活出来ていたのも、ひとえに彼のおかげだろう。
クローズノイスは天才というだけでなく、指導者としても偉大であった。
それだけに、娘のシークエンスにも期待は高まったのだが――

カルフの行方は依然として知れず、軍は気配を完全に隠す装置を複数個所設置していると思われた。
辻鉄男の気配が、ラストワン宿舎壊滅後に消えたのと同様の理由だ。
以前は、こちらも利用させてもらったが、探す側に回ると、なんと面倒な事か。
「いるとしたら傭兵学校ってのが怪しいぜ。辻鉄男も、そこに所属しているんだろ?」と言い出したのはミノッタで、それはベベジェも考慮してはいたのだが、実際に乗り込むとなると器の損傷が絶大な数になる。
牧場を作ったとはいえ、地下に残った優秀な種を潰すのは得策ではない。
できることなら下等生物とは争わず、カルフのみを奪還できないものか。
クローズノイスならば、こういう時にパパッと便利道具を作りだす知能があったのだろうが、ベベジェは、そこまで利口じゃない。
否、あれと比べられたら、生き残りのシンクロイスは全員雑魚だ。
クローズノイスは周りと比べて異常なほど秀でていた。
誰にも彼の真似はできない。たとえ直系の血を引いたシークエンスといえども。
「全く……重ね重ね、余計な真似をしてくれたわね、アベンエニュラ!おかげで手間が二倍に増えたじゃない」
シャンメイがキリキリと爪を噛むのを見ながら、結果論だとロゼは思った。
ラストワンを長らく放置していた理由だが、一つは都心部から離れた僻地にあったのと、もう一つはゼネトロイガーの問題があったからだ。
突然だった。
突然、強い同族の気配を、あの学校から感じた。
レッセを偵察に行かせて判ったのは、ゼネトロイガーと名付けられた巨大ロボットがクローズノイスの気配を発している件であった。
カルフはクローズノイスの発想だと推測し、ベベジェは大したことがないと高を括る。
クローズノイスのブルットブルブックとは、どういった構造なのか。
簡単に言うと、物量を解体する道具だ。
本来ならポケットサイズの大きさで、波動をあてた対象を粒子単位まで解体する。
ここの原住民が何故、巨大化させたのかは判らない。
レッセが最後に送ってきたメッセージは、華々しく爆発する、己の道具の内部映像だ。
破壊力はビビットボドイに近いが、オリジナルとは程遠い。
オリジナルのビビットボドイであれば接触した瞬間、原始に還され完全消滅に至る。
それこそ、レッセがメッセージを送る暇もなく。
"ボーン"と名づけた辺りからも、連中が攻撃力を求めたというのは予想できる範囲だ。
この星の道具――主に武器の類は、どれも砲撃能力を備えており、よほど生身で戦いたくないと見える。
試しに生身でちょっかいをかけてやったら、暗殺部隊なるものを突っ込ませてきたが、その時も連中は手に飛び道具を抱えていた。
この星の知的生命体は弱くて脆い。それでも反抗心だけは一人前だ。
生態も、おかしな現象ばかりが起きる。
その中でも一番の想定外は、乗り移り後に生殖で失敗する件だ。
せっかく器を量産しても、乗り移れる後続が生み出せない。
どんな道具で対処すればいいのか誰にも思いつかず、全員が途方に暮れた。
クローズノイスが一緒であれば何とかできたかもしれないが、いなくなってしまったものを頼っても仕方がない。
カルフは原住民と生殖行為してみる実験に出た。
その途中経過でベベジェと口論になり、原住民をつれて家出してしまった。
ベベジェも馬鹿だとロゼは呆れ、溜息をもらす。
やらせてやればよかったんだ。あいつが誰を好きになろうと、関係ないじゃないか。
うっかりカルフを野に逃したせいで、面倒事が二倍に増えた。
シャンメイの言う通りだ。
「なんとかして、おびき出せないもんかね」とミノッタが呟く。
彼としても、乗り込んで原住民を大量虐殺する気はないのだろう。
虐殺してしまっては、選別した意味もなくなる。
そして原住民の気性の粗さを考えると、突入後の戦闘は免れない。
「あいつら、ずっと、どこかに隠れ住んで暮らすつもりなのかしら。けど街は気配遮断されていないんだから、絶対買い出しだなんだで出てくるはずよね?」
シャンメイの予想に、ベベジェが陰気に答える。
「もし食料を確保した上での籠城だとすれば……面倒だ」
「でしょ、あんたでも面倒だって思うでしょ。どうするの?傭兵学校を軒並み潰して回る?これだって手間だけど、街を襲うよりは効率的――」
彼女のおしゃべりを途切れさせたのは、他でもない。
その街方面にて、同族の気配を感じ取ったからだ。

シンクロイス残党は、ロゼ考案の気配遮断装置で身を隠して住んでいた。
ベイクトピア軍が、どれだけ探しても見つからないはずである。
現れた同族の気配、恐らくはカルフで間違いないと思う気配を追って残党が辿り着いたのは、やけに見覚えのある場所だった。
「ベルトツリーだと……?辻鉄男は、ここが好きなのか」
展望台を見上げて、ロゼがポツリと呟く。
本日は休日。この間よりも多くの観光客で賑わっている。
騒動が起きて年月が経っていないというのに怖くないのか、それとも、もう忘れたのか。
暗殺部隊は出動していない。
こちらの気配を完全にフィルタリングする、気配遮断装置のおかげだ。
「カルフが選んだのかもだぜ。鉄男を拉致った思い出の場所だってんでな」とはミノッタの軽口で、カルフが一人で出歩くとは誰一人思っちゃいない。
カルフは必ず、あの原住民、辻鉄男と一緒にいるはずだ。
でなきゃベベジェと喧嘩別れした意味がない。
「それじゃあ、カルフを連れ戻しにいきましょ。ただし、運悪く例の部隊と鉢合わせたら即退散!ってことで」
暗殺部隊は恐れるに足らずだが、どさくさに紛れてカルフに逃げられると厄介だ。
今回、瞬間移動はご法度だ。
ベベジェ一行は真面目にグループ団体様を装って受付に並んだ。


日曜日、鉄男がカルフと出かけた先は例の展望台、ベルトツリーであった。
ここが一番目立つし被害も最小限で済むから便利だとのカルフの言い分に一旦は異議を申し立てた鉄男だが、街中で騒ぎを起こされたいのか?と問答した挙句、結局はベルトツリーに行先が落ち着いた。
休日、外へ出るのに許可は必要ない。木ノ下や学長にも言わずに出た。
言えば彼らは心配しようし、カルフも同行するとあっては外出自体を止められてしまう。
ただし、一人だけ外出を告げた相手がいた。
デュランだ。
軍とつながりのある彼なら、鉄男たちの外出の意味を必ず理解してくれるはずだ。
そうしたわけで、二人の外出を知るのはデュランただ一人、のはずであったのだが……
「鉄男ってば、あたし達の誘いはキックしたくせにカルフとはデートしちゃうなんて、あたし達のこと、バカにしてるんじゃないの!?」
ムキーと憤るマリアを、横に並んだ亜由美が慰める。
「マリアちゃん、落ち着いて。辻教官には、きっと何か思惑があるんじゃないかな……少し様子を見てみよう」
なんと二人の後を、ちょこちょこついてきた人影が幾つかあった。
「でもマリアちゃんだって、前に抜け駆けデートしたんでしょう?なら、おあいこじゃないの」と突っ込むまどかの傍らでは、メイラが、さも残念そうに「どうして相手は木ノ下教官じゃないのかしら……」と、ふてくされる。
鉄男の受け持ち生徒ばかりではない。
鉄男とカルフに興味を持つ、野次馬が揃っての団体尾行だ。
巷じゃカップル御用達だと思われているベルトツリーだが、ベイクトピア首都の地下街を見渡せる観光スポットだけに家族や子供連れ、団体客も珍しくない。
どれだけワイワイしていても、女の子の集団に気を留める者もいまい。
数人前を並ぶ鉄男は始終カルフにべったりと腕を取られてくっつかれており、迷惑そうな、はたまた困惑の横顔が見てとれる。
これまで散々男として接触してきた相手だけに、まだ外見女性に慣れないのだろう。
慣れなくていい。永遠に。
カルフを睨みつけるカチュアの両目は憎悪に彩られ、しかし、それに気づいたのは皆の後ろに並ぶエリスぐらいなもので、他はキャッキャと他愛ない雑談に花を咲かせていた。
「ここ来るのも久しぶりだよー。考えてみれば、最近は全然出歩いてなかったもんね」と飛鳥に話題を振られ、これまでずっと仏頂面だった相模原にも笑顔が浮かぶ。
「そうね。ここんとこ、ずっとゴタゴタしてたもんねぇ」
盛り上がる女の子軍団を、先頭に立つ男が振り返って見渡した。
「そろそろ受付だ。鉄男くんは先に昇っていってしまったが、大丈夫。最上階は一つしかないからね」
少女軍団を率先するのは帽子を目深にかぶり、コートの襟を立てた怪しげな格好の男だが、なんということはない。
男の正体はデュランだ。
人一倍目立つ風貌を胡散臭いファッションに押し込めて、民衆の中に上手く溶け込んだ。
さらに、その後方、最後尾についたのがベベジェ率いる一行だ。
「うぇー、何人来てんだよ、ココ。今日中に入れるのかぁ?」とミノッタが早くも絶望に瀕し、着飾って出てきたシャンメイは、素知らぬフリで彼の背中を押して並ばせる。
「なら、外で待つ?一日経過する覚悟で」
「なんだよ、上で景色見て戻ってくるだけだろ?一日ずっと眺めているってこたぁ」
やかましい反論を「これ、パンフレット。見てみなさいよ」と紙切れ一枚で封じ、シャンメイは、じろりとミノッタを睨みつける。
「展望台のくせして宿泊所もあるのよ、ここ。どこまで恋人に親切なんだか!」
彼女が不機嫌なのは、カルフが鉄男と宿泊すると推測したからだ。
まぁ、彼女でなくても、そう推測するのは難しくない。
それにしても――前に来た時は、泊れる場所があったなんて知らなかった。
凍ってシャクシャクした食べ物を売る店なら、ロゼの視界に入ったのだけれど。
かき氷と言うんだったか、あれは良い。
口の中でシュワッと溶けて、スカッと鼻に抜ける爽快さが気に入った。
ふわっとかき氷の食感を思い出してロゼが微笑みを浮かべたのも一瞬で、すぐに前方でキャッキャ大騒ぎの女子軍団を見つけて、表情を険しくする。
あいつらは、そうだ、ラストワンの奴らだ。
休日で気が緩んで遊びに出かけたとしても、カルフや鉄男と一緒に来ればいいものを、何故一緒ではない?
連中がカルフとの同行を嫌がったにしろ、行先は同じだ。
最上階では嫌でも合流する。
団体様になってくると、カルフだけを連れ戻すのは困難を極める。
最悪、戦闘も免れまい。どうしたものか。
無言で押し黙るロゼに、ベベジェが囁く。
「どうした?」
「ラストワンの連中がいる。鉄男を追いかけてきたのかもね」
「え、ラストワンズまでいるの?けど、二人が宿泊するなら関係ないわよね」
「宿泊するんだったらな」とミノッタが余計な茶々を入れ、シャンメイに噛みつかれる。
「カルフなら、絶対鉄男と宿泊するに決まっているわ!だって何度もヤらなきゃ受胎しないのは、あんただって知ってるでしょ!?」
大声で、しかも往来でするには適さない発言に、前後に並んだカップルたちが非難の目をシャンメイとミノッタへ向けてくる。
ロゼは、しらっと他人のフリをしながら、順番を気長に待ち続けた。
カルフと原住民が最上階に昇っていったのは、だいぶ前だが、問題ない。
シャンメイの読みは必ず当たるだろう。
カルフも鉄男との受胎を試す為ならば、手段を選ぶまい。


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