合体戦隊ゼネトロイガー


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act1 嘘と真実は紙一重

「ユナ!あんた、男の子だってホントなのぉ?」
ずばっと拳美の剛速球が投げ放たれ、当のユナは、きょとんとした表情を見せる。
「え?何なの、いきなり。ボクが男の子って全然笑えないよ」
堂々の開き直りにニカラは眉間に険しい皺を寄せ、ユナを指さし喚きたてる。
「ごまかしたって無駄だよ!だってさっき、カルフが断言したじゃないッ。あんたは男だから一人称が僕なんだって!シンクロイスってのは乗り移りの能力があるんでしょ、だから男女の区別だって簡単に見分けられるんでしょ!?」
「待ってくれ。一人称僕は男だけの特権ではないよ」と混ぜっ返したのは昴だ。
「女の子でも僕を使う者はいる。僕みたいにね」
ささっと昴の隣に走り寄り、ユナは小首を傾げて可愛く見える角度を保ってくる。
「そうそう。だからユナもボクって使っているの。なんか文句ある?」
きょうび一人称が僕の女の子も珍しくない。
ボクと言っているだけで男認定するのは、根拠として弱かろう。
「それより、いつの間にカルフと噂話ができるほど親密になったのかナ?ニカラは。昼休みも彼と二人っきりで会ってたんだぁ〜」
逆に突っ込まれ、「あ、アタシが呼び出したんじゃないよ!アンタが、あいつを呼んだんじゃないか」とユナを指さして泡食うも、当人には笑顔で流される。
「え〜?どうしてボクがカルフを呼び出さなきゃなんないの。カルフを呼び出すぐらいなら辻キョーカンを呼んで、おしゃべりするほうが、ずっと楽しいよぉ」
ユナの言い分は尤もで、これじゃニカラが難癖をつけているだけに見える。
すっかり自分が嘘つきの立場に追い込まれている。
場の空気が白けているのを感じ取り、ニカラの額を汗が伝う。
このタイミングで言ったのは、失敗だった。
もっと決定的な状況、逃げられない環境で言うべきだったか。
たとえば、シンクロイスが同伴している状態の時に。
焦るニカラの心中を知ってか知らずか、フォローにも取れる発言をかました者がいた。
モトミだ。
「どっちがホンマかウソかウチらには全然判らんし、いっそ物証ではっきりさせたらエェんとちゃう?」
「物証って?」と首を傾げる皆には、揚々と答えた。
「簡単やろ。女子についてないもんが下にあったら、ユナは男っちゅうこっちゃ」
「え〜!それってパンツを脱がしちゃうってことォ!?ここで!?」
きゃぴきゃぴ騒ぎ出したマリアの横で、レティも両手を頬にあてる。
「やだぁ、モトミちゃんったらダ・イ・タ・ン☆もし、ホントにユナちゃんにオチンチンが生えていたらぁ、パシャッと記念に写真撮影しちゃうつもりなのね♪」
「せーへんわ!」
間髪入れずに突っ込んでから、モトミは全員の顔を見渡した。
「せやけど、それが一番手っ取り早いと思わん?ウチは確かめもせんで、ニカラを一方的に嘘つき扱いしとうないんや」
予想外の正義漢発言に、ニカラは目頭が熱くなる。
ずっと、けたたましいだけのバカだとばかり思っていてゴメンネ。
モトミを五百倍は見直した。
さすがに教官は「待て待て、間違っていたら、どうするんだ!ユナに恥をかかせるのは感心しないぞ」と止めに入り、マリアやモトミには食ってかかられる。
「じゃあ、勇一はニカラが嘘つきだって決めつける気?教官のくせに依怙贔屓すんの!?」
「ニカラの誤解を解くためにも、確認は必要や!」
剣幕の激しさに乃木坂はタジタジとなり、代わりにツユが割って入った。
「どうしてもってんならさ、全員の前じゃなくて疑っている人だけでやったら?はい、じゃあアンケ取るよ。ユナが男の子だと疑っている子〜」
さっと挙がった手は、数人にくだらない。
なんと、ユナ以外の候補生全員が手を挙げているではないか。
ニカラとは現在喧嘩中だと目下の噂な、まどかまでもが挙手している。
この結果にはツユも「あらら」と呆れかえり、他の教官を振り返った。
「どうしよっか。あたしたちだけ席を外す?」
「そうもいかんだろう。誰かが嘘をつかないとも限らんし、見守るしかない」とは剛助の弁で、「え〜酷い。教官もユナを疑っているの?」と、うるうる潤んだ瞳でユナに見つめられた際には、仏頂面で首を真横に振る。
「そうではない。見たものが嘘をつく可能性だ」
今度は「え〜!私たちを疑うんですか!!」と他の候補生から非難囂々な中、ツユがパンパンと手を叩いて鎮めに回る。
「ハイハイ、いいから。授業時間がもったいない。さっさと済ませて終わらせるよ」
次は誰がユナのパンツを引き下ろすかで揉めるかと思いきや、「よーし、じゃあユナ、ちょっとごめんね」と拳美が腕まくりで近づいていく。
たかがパンツを降ろす程度で、何を腕まくりする必要があろうか。
余計な気合の入れようである。
されるがままに、ユナが下全部脱がされるのを全員で見守った。
ズボンに隠されていたスベスベで細い足に見とれていると、パンツの下には何も生えていないツルツルの丘が出現する。
「あ……やだ、辻教官。そんなに見つめられたら、ボク……濡れちゃう」
さしてジロジロ見ていたわけでもないのに、瞳を潤ませたユナに名指しで咎められて、鉄男の頬はカァッと赤らんだ。
おかげでマリアにも「ちょっと〜鉄男、何見とれてんの?エッチー」とジト目で怒られるわ、亜由美には恥じらいに頬を染められた上で視線を逸らされるわで、なんだって自分までもが辱めを受けなければいけないのかと憤る鉄男の耳に、ツユの号令が響いてくる。
「ほら、これでハッキリしたでしょ?ユナは女の子、女子百パーセントだって。つまんない冗談は置いといて、授業を再開するよ」
「ツユお姉さまも、この際ですからズボンを脱いで証明してみては?」
調子に乗って便乗したミィオは当のお姉さまことツユに、おでこをピンと指で弾かれた。
「証明は卒業試験の時に、たっぷりしてやるから慌てるんじゃないの」
仲良さげな二人を眺めて、相模原も、こそっと飛鳥に耳打ちする。
「証明されなくたって男百パーセントよねぇ、水島教官は……」
「そうだね。ま、もし疑ったとしても、皆の前で公開処刑にする気はないけど」
ちらっと横目で飛鳥がニカラを伺ったのに気づき、相模原も彼女を見やる。
悔しそうに項垂れて、体を震わせている……
よほどユナの男説に確信があったようだが、ソース元はシンクロイスだ。
カルフに騙された、或いは、からかわれたと考えるのが妥当だ。
ユナに男性のシンボルがなかった以上。
それにしても、あのニカラがねぇ。
彼女は日頃、人の話を疑ってかかる用心深い面があるように相模原には思えたのだが、シンクロイスの戯言なんぞを信じてしまうピュアな一面もあったのか。
相模原は意外なものを見る目でニカラを眺めてしまい、飛鳥に小声で咎められる。
「あの子も反省しているだろうから、あんま責めちゃ駄目だよ」
「うん、判ってる。ただ、意外だなって思っただけ」
ひそひそと話しながら候補生と教官は区切られたパーテーション内に消えていき、ニカラはポツンと一人、残される。
「あー……気まずいけど、勘違いは誰にでもある。うん、クヨクヨするんじゃないぞ?それじゃ、放課後の授業も真面目に受けるようにな」
最後、さも同情たっぷりに木ノ下が声をかけてきて、彼も担当生徒が待つパーテーション内へ入っていった。

チクショウ。
なんなんだ。
アタシはカルフに騙されたの?
勘違いっていうけど、カルフのやつが自信たっぷりに言い切ったせいだ。
あいつのせいで、アタシが、こんな大恥を……
や、でも、待って。
ユナも慌てていたじゃないか。
男じゃないのに、なんで顔色なくすほど慌てたの?あいつ。
ワケが判んない。
とりあえず一つだけ判るのは、シンクロイスでも男は全然信用できないってコト!

悔しさにギリリと歯ぎしりしながら後藤組改めデュラン組のパーテーション内に足を踏み入れたニカラを迎え入れたのは、まどかの嫌味な一言であった。
「あなた、ユナに何か恨みがあったの?うちの学校は女の子しかいないって、だいぶ前から判っているじゃない」
だがニカラが何か反論する前に、まどかは自己解釈で終わらせにかかる。
「ま、あなたはユナよりも自分の色気のなさを改善したほうがいいかもね。ねぇデュラン様、教官だって色気皆無の自称女じゃ性欲が沸きませんよねェ?」
露骨な誘い受けにはデュランも苦笑しており、教官も大変だな、とニカラは同情した。
まどかの嫌味は屁でもない。
過去、もっと酷い言葉を実の親にかけられたこともあるのだ。
デュランは笑顔を崩さず、ちらりとニカラを見やり、一応フォローを繰り出してきた。
「ニカラさんに色気がないとは思わないよ。それに色気云々でテンションが上下するとも限らない。俺の場合は相手が求めてくれれば、それに応えるといった具合かな」
学長ですら予期せぬ合体は、まどかが求めた結果だった。
求められたら応えたい気持ちはニカラにも判らなくはないのだが、時と場合を考えるのも必要ではなかろうか。
フリーダムすぎる教官に、下半身ビッチと化した同級生。
思いっきり赤っ恥をかいた後だけに、余計イライラしてくる環境だ。
そういや、性教育の時間だけボイコットできるようデュランに申告するといった話は、どこへ立ち消えたのだ。
スパークランの女性教官は、いつになったら、まどかを痛い目に遭わせてくれるのか。
約束してから、既に一週間が経とうとしている。
が、マッチョダンサーズとやらがスパークランを訪れる気配もない。
ニカラは鬱憤で思考をいっぱいにしながら、放課後の授業を聞き流して過ごした。


放課後の授業を終えた鉄男は、その足でカルフの部屋へ向かう。
明日の休日は、二人でじっくり話し合うつもりでいた。
だが鉄男を迎え入れたカルフは、思わぬ提案を持ちかけてくる。
「部屋でおしゃべりなんてのは、僕のガラじゃないんだよなぁ。鉄男、どうせなら二人で出かけるってのは、どうだい?」
外へ出る許可が与えられているのかと驚く鉄男に、カルフは「許可をもらわずとも、僕は自由に出入りしているよ」と答え、悪戯っぽく微笑んでくる。
「お前と二人で外デートするのは、他にも理由がある。聞けば、ベイクトピア軍はベベジェやミノッタの探索が難航しているというじゃないか。そこで僕が一口買ってやる」
ベベジェ達が隠れている場所は知らずとも、探そうと思えばカルフになら探せる。
正確には、探すのではない。カルフ自身が囮となって、誘きよせるのだ。
シークエンスも一緒なら効果は二倍、必ずシンクロイスの誰かが嗅ぎつける。
「ミノッタはさ、シークエンスに気があったんだ。覚えているかい?ミノッタを」
鉄男が直接知っているシンクロイスはベベジェとロゼ、それからカルフの他はゾルズぐらいだが、隠れ家にいたロゼではない女がシャンメイで、残り一人がミノッタであろう。
見た目は軽薄な雰囲気の優男だったが、あれでシークエンスの心を惹くのは難しい。
「シークエンスも表に出てきたとなりゃあ、あいつはすっ飛んでくるぜ」
「ミノッタは……出る直前に、お前を引き留めにきた奴だろう?」
ぼそりと尋ね、鉄男はチラとカルフの顔色を伺う。
「お前のことは好きではないのか」
カルフは眉毛一つ動かさずに断言する。
「ミノッタが僕をどう思っていたかって言われたら、友人ぐらいには気安く思われていただろうね。ただし性的欲求で見たら、圧倒的にシークエンスの勝ちだけど」
「やつはシークエンスの、どこが好きだったんだ……?」
「そこまでは本人に聞かないと」と、カルフは肩をすくめる真似をした。
「僕も同感だよ。あれのどこに好きになる要素があるんだ、ってね」
思ってもいない下げ発言に驚く暇もなく、鉄男の脳裏を甲高い怒りが駆け抜ける。
――うっさいわね!性格が悪くて、悪うございました!ったく、あたしが皆に嫌われているっての、なんべん言わせるつもりなの!?
――けどミノッタが、あたしを?悪いけどタイプじゃないわ、全然ね。
続けて小さく付け足したのを最後にシークエンスの癇癪も収まり、脳内には静寂が訪れた。
「なんだ、またやつが反応したのか?」とカルフに尋ねられ、鉄男は素直にコクリと頷く。
「ミノッタはタイプではないそうだ」
「そりゃ残念。ミノッタが好きってんなら両想いを祝って魂魄離断してやったのにな」
カルフも軽口を叩き、かと思えば真面目に戻って明日の予定を促してくる。
「それより明日の外デート、了解してくれるのかい?お前がついてこなくても、僕は一人で出かけるつもりだけどね」
カルフを独り歩きさせてシンクロイス残党と合流されるのは、都合が悪い。
こちらの情報が筒抜けになるばかりか、シンクロイス残党の活動を活性化させかねない。
それに、決めたのだ。カルフとは、よく話し合った上で理解を深めたい。
「デートではない、が……判った。明日は一緒に出掛けよう」
どことなく歯切れの悪い鉄男に片眉を上げて、「なんだよ、僕とのデートが、そんなに不満か?」とカルフもぼやいたものの。
すぐに「ま、いいや。仲良くなれば、そのうちデートと呼んでも差し支えなくなるよな」と小声で独り言ち、にっこりと微笑んだ。


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