合体戦隊ゼネトロイガー


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act4 顧みるのは己と環境

鉄男とカルフ、ついでにゾルズも出て行った後、隠れ家では残りのシンクロイスが口論を交わしていた。
「なんでカルフを易々出ていかせちゃったの!だから、さっさとシークエンスを遮断しておけば良かったのよ」
ブチキレているのはシャンメイだ。
彼女は母星にいる頃からシークエンスに敵意を持ち、カルフには好意を寄せていた。
だから、彼女が猛烈にキレる理由はベベジェやミノッタにも理解できる。
だが、それならそれで自分が止めに入ればいいものを、カルフが易々出ていけたのは彼を止めなかったシャンメイにも非はあるのではないか。
体を張って止めた上でカルフに殴り倒されたミノッタには、自分たちを罵倒してくるシャンメイに納得がいかない。
ベベジェはキレ散らかすシャンメイを疎まし気に睨みつけ、吐き捨てた。
「あれは家出と同じだ。深刻に考える必要はない。冷静になれば戻ってくる」
「戻ってきそうにないから怒ってんじゃない!どうすんのよ、あいつが私達の敵に回ったりしたら!」
ありえない杞憂に、ミノッタも口を挟む。
「いやぁ、そりゃないだろ?カルフが好きなのは、鉄男っつー一個体の器だけだし」
「その器には、向こうに寝返ったシークエンスも入ってんのよ!?」
ギリィッと歯ぎしりするシャンメイに、ミノッタも、だんだん心配になってきた。
まさかと思うが本気でカルフが寝返ると考えているのか、こいつは。
恋にトチ狂っていたとしても、あのカルフが同族を見捨てるとは到底思えない。
ベベジェとの喧嘩も、本をただせば自分たちの未来を考えての経過で起きたんじゃないか。
ベベジェは現状の器で満足している。
カルフは、より良い器の量産を考えていた。
乗り移りに失敗する可能性が高いとあっては、長寿で頑丈な器をと考えるのは当然だ。
ミノッタだってカルフと同じ考えに行き着く。
ただ、他種族との交配までには考えが行き着かなかった。
他種族相手じゃ性欲がわかない。中身が同族だからこそ、やる気が出るというものだ。
だが乗り移ったシンクロイス同士では子孫が生み出せないとあっては、他の方法を考えざるを得ない。
器の性能を良くすれば、今の世代は長生きできる。
しかし今の世代が事故や病気などで全滅してしまったら?
シンクロイスという種族も、そこで滅んでしまうのか。
やはり番は必要だ。同族を生み出す番が、何組かは。
カルフはシャンメイが番になりたがっているが、器が雌同士だ。
どちらか雄に乗り移りなおす必要があろう。
ロゼは今のところ誰にも興味なさそうだが、いざとなったらベベジェが何とかするだろう。
シークエンスは、俺が貰おう。器に懸想していようが関係ない。
無理やりにでも、こちらに興味を持たせればいいのだ。
問題は、どうやって産み落とした肉の塊にシンクロイスの精神を宿らせるか、だが――
ミノッタが脳内であれこれ勝手なカップル誕生を妄想している間にも、ベベジェとシャンメイの口論は激しくなってゆく。
「もう、コソコソ隠れている場合じゃないんじゃないの?カルフが敵に回ってから焦っても遅いのよ!?あいつの手にかかれば器工場もグッチャグチャにされかねないわ!いっそこっちから乗り込んで、カルフを連れ戻すついでにロボットも壊しておかなきゃ」
「シャンメイ、貴様は一体何を恐れている?下等生物のロボットなど、放っておいて問題ない。巨大になるだけで何の脅威もないのではな。カルフが敵に回る心配も無用だ。今は感情で振り回されていようと、必ず冷静になる機会は訪れる。そもそも恋狂い対象である下等生物がカルフを嫌悪している限り、カルフの裏切りは、ありえない」
「じゃあ、何よ!鉄男がカルフを好きになっちゃったら、寝返りもあるってことじゃない!!それに、カルフが鉄男に言いくるめられる可能性は考えないの?」
シャンメイの言い分を聞きながら、そんなタマだったか?とベベジェは内心首を傾げる。
カルフは、知り合ったばかりの相手の主張を鵜呑みにするような間抜けではない。
大体そんな従順な奴ならば、現在こんな状況に陥っていない。
あいつは長年リーダーたる自分の説教や反論にも、素直には頷かない頑固者だ。
シークエンスの気まぐれな我儘とは少々違う。我が強い、とでも言うべきか。
プライドが高く、確固たる信念を持ち、ちょっとやそっとじゃ他人に賛成しない。
シークエンスは口論しても途中で逃げてしまう分、カルフのほうが厄介な相手ではある。
だが二人を比較して、どちらがいいかと言われたら、ベベジェは断然カルフを取る。
カルフはシークエンスと違って、責任感のある奴だ。
だから絶対、途中で器の量産を投げ出したりしない。
カッとなった勢いで罵倒してしまったが、ベベジェはカルフを信頼していた。
シャンメイが荒れ狂っているのは、カルフの懸想する下等生物にシークエンスなる邪魔者が付属しているのも原因の一つではなかろうか。
奴さえ絡んでいなければ、ここまで焦ることもなかろう。
シークエンスとカルフが番になる。満更ありえない話でもない。
少なくとも、下等生物と番になるよりは現実的だ。
シャンメイを落ち着かせる為にも、そして万が一の杞憂を考慮しても、シークエンスにだけは対策を講じる必要があるかもしれない。
カルフたちの足取りは、ある区域を最後に途切れている。
しかしベイクトピア軍の本拠地から、そう遠くない場所に連行されたのは間違いない。
向こうにしても、異種族の扱いには手を焼いているはずだ。
必ず、見張りをつけた場所にカルフやシークエンスを監禁していよう。
気配を手繰れない以上、道具では追跡できない。自分が動くことも、ベベジェは考えた。


夕飯を終えた鉄男は、木ノ下を自室に招き入れる。
しっかりドアに鍵をかけた後、開口一番、切り出した。
「木ノ下は……複数の相手から告白された場合、どうやって断りを入れる?」
「え、あ、そうだなぁ」
戸惑ったのも一瞬で、すぐに木ノ下は回答を出す。
「やっぱり素直に自分の気持ちを伝えるかな」
「もし、その中の誰も好きではなかった場合は……?全員、断るのか」
真顔の追加質問にも、真面目に返した。
「うん。そうだな、今は恋愛に興味を持てないって正直に話すよ」
鉄男は、ますます表情を硬くして質問を続ける。
「全員に断りを入れて……人間関係が気まずくなったとしたら、どうするんだ」
「そりゃあ、仕方ないさ。どう断っても、しばらくはギクシャクするだろうぜ。けど、いつかは時が解決してくれる。向こうが納得するのを待つしかないな」
物知り顔に語るのを聞きながら、鉄男がボソリと次の質問を放つ。
「木ノ下は過去に誰かの告白を断ったことが、あるのか?」
プライバシー直撃な質問に「え」と固まったのも数秒で、すぐに木ノ下は頷いた。
「んー……学生時代と、あとシークエンスの告白とで二回ほど」
そういえば、そうだった。
木ノ下がシークエンスを、ばっさりふったのは鉄男の記憶にも残っている。
あれからバタバタと騒動が起こりすぎて、すっかり遠い昔の出来事のようだ。
その時、木ノ下は女性に興味がないとも言っていた。
彼は以前、鉄男を硬派と呼んだが、鉄男から見れば木ノ下のほうが、よっぽど硬派だ。
シークエンスの前にも一人いたとは俄然興味が沸いてきた鉄男だが、これ以上の踏み込みはプライバシーの侵害に当たると直前で気づき、無言になる。
押し黙る鉄男へ逆に気を遣ってか、木ノ下は内訳を話してくれた。
「ゴートと同棲していた頃、例のスイーツくれた子がさ、好きだって告白してきて。でも当時、俺にはつきあっている奴がいたから、その旨を伝えたんだ。ふった直後は泣かれちゃったけど、しばらくして、その子とは友達になったんだ。いい子だったよ、優しくて」
遠い目で語っている処を悪いのだが、今、さらりと爆弾発言がなかったか。
「恋人が、いたのか!?」
目を見開いての驚愕っぷりには、木ノ下も驚いて言い返す。
「あ、あぁ。いたよ。もう別れちまったけど。いや、まぁ、意見の食い違いで。けど、あいつとは今でも友達だから、寂しくなんかないぞ」
先回りで破局の理由も付け足して、木ノ下は質問の真理を問いただす。
「俺にアレコレ尋ねるってことは、恋愛に全然興味がないってわけでもないんだな?」
鉄男は素直に頷き、下向き加減に視線を落とす。
「……あぁ。だが、どういう態度をとればいいのか全くわからない。だから、困っている」
「ん〜」と腕組みして天井を睨んだ後、今度は木ノ下から質問が飛んでくる。
「ひとまず早急に告白への返事を求めているのは、誰なんだ?」
頬に朱が差し、それでも鉄男はポツリと答える。
「マリアだ」
大体予想通りの名前が返ってきて、これならアドバイスもしやすいと木ノ下は考えた。
「やっぱな。マリアは恋愛に一番興味津々だもんな。亜由美も興味はあるっぽいけど、あいつは他人に気を遣うタイプだから、返事は後回しでいいって感じだろ?」
乃木坂といい、この学校の先輩は皆、生徒をよく観察している。
マリアが恋愛に興味あるか否かなんて実際に告白されるまで鉄男には分かりえなかったし、告白してきた事自体が意外だった。
驚きが表に出ていたのか、木ノ下には顔を覗き込まれ、間近でにっこり微笑まれた。
「鉄男、思春期の女子ってのは大抵異性に興味を持っているもんだ。特に、このガッコの生徒は授業で性欲やら煩悩やらを教えられていることもあって、一般学校の子よりも興味旺盛じゃないかなァ。一応マリアやカチュアも、お前が来る前の教官に触りの部分を教えられていたから、ラストワンの教育方針ぐらいは知っている。そこへ前の教官よりイケメンイケボの教官が来たとなりゃあ、より興味が増すってもんよ」
調子に乗ってしゃべりまくる木ノ下へマッタをかけて、鉄男は眉を顰める。
「待て、着任時の俺は、あいつらに恐れられていたはずだ」
「んー?少なくとも亜由美は、初日から好意的だったように俺には見えたぞ」
「気のせいだ。三人とも俺とは距離があった。俺の……態度が悪かったせいで」
頑なに断言する鉄男を、それ以上は木ノ下も否定せず、やんわりと話を進めた。
「まぁ、それはあったかもな。マリアなんかは露骨に反発していたし。けど、お前は反省して態度を改めた。そこから好感度がグーンとアップしたんだろうぜ、三人とも」
それで、と木ノ下がベッドに腰を下ろす。
「本題に入るとするか。自分に好意を寄せてくる女子への対応が難しいってのは、よ〜く判るぜ。けど鉄男、難しく考える必要は全然ないんだ」
鉄男が何か反論するより先にビシッと鼻先に指を突きつけ、言い切った。
「お前には、まだ早い!ってのは悪手だから、絶対に言っちゃ駄目だぞ。恋愛に早いも遅いもないんだからな。それよりも、相手に寄り添う形を取れ。マリアの場合は単純明快だ。あいつは親からの受け売り100%で、実態が伴っていない。恋愛に憧れているだけなんだ」
「と、いうと……?」
よく判っていない鉄男に、こうも言う。
「具体的には判っていないんだけど、とても素晴らしいものだと母親から聞かされている。要は恋愛初心者ってことだ。お前と一緒だな。まずは外出を重ねて、お互いを理解していくといい。そうすりゃ、お前にもマリアの長所が判って一石二鳥だろ?三人の性格や思考を把握した後でいいんだよ、告白を断るかどうかなんてのは」
生徒を理解するのは教官の務めでもある。
頭ごなしに断って関係を悪くするよりは、ずっとマシな判断だ。
ふと、別の好奇心が沸いてきて、鉄男は口に出してみる。
「木ノ下は受け持ち生徒に告白されたりは、していないのか?」
すると木ノ下は肩をすくめて、うんざりした表情を浮かべる。
「あ〜、モトミやレティは年中好き好き言ってくるな。冗談だか本気だかも判んねぇし、毎回ハイハイって受け流してっけど。レティは人前でもキスをねだってくるから、そん時ぁ逆にヤダー恥ずかしいーっつってギャグで落としているけど、お前んとこの生徒とはノリが違いすぎて参考にならないと思うぞ」
人前でキスなど催促されたら鉄男だったら硬直するか、その場を逃げ出してしまいそうだ。
軽くギャグで流せる木ノ下は、やはり優秀な教官だ。
カルフに目をつけられなくて幸いだった。
シークエンスには目をつけられたが、ばっさりふってやったことだし安泰だ。
なんて考えていたら、脳内でキーンと奴の声が響き渡る。
――うるさいわね!あんたは、あたしのことより自分の恋愛を考えなさいよ!
声はそれっきり、鉄男が何を呼びかけようと聞こえなくなり、再び眠りについたようだ。
「ん、どうした?シークエンスが何か言ってきたのか」と木ノ下に気遣われ、鉄男は改めて礼を述べる。
「大したことじゃない。それよりも、お前に相談してよかった。一人で悩んでいたら、どんどん悪い方向に思考が転がり込んでいただろう。俺は告白してきた全員の性格を、まるで把握していない。カルフにしても、そうだ。シンクロイスというだけで拒絶していた」
「え、カルフもカウントするのか?」
驚く木ノ下を真顔で見つめ、鉄男は深々と頷く。
「そうだ。あいつらは侵略が目的ではないと言っていた。本来は共存が目的だったのだと。俺達は、シンクロイスへの認識も改めないといけない。戦わずして和解できる方法を考えないと、俺達は生き残れない。乗り移りを繰り返されるだけでも、人類は死に追いやられる」
和解の鍵はカルフが握っているのではあるまいか。
だとしたらカルフを説得するのも、自分にしか出来ないと鉄男は決意を固める。
出来ないからと諦めたり逃げるのは、もう終わりにしたい。自分自身を変える為にも。
「あ、鉄男、待てよ!もう夜も遅いんだし、何かするにしても明日にしろよ、なっ?」
勢いで部屋を出ていきかけた鉄男は木ノ下に止められて、その夜は大人しく従った。


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