合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 決められない

放課後の授業が終わって寮へ戻る途中、鉄男はデュランに捕まった。
なし崩しに夕飯をご一緒しながら、彼の質問攻めにあう。
「驚いたよ。君たちの教本には、陸動機の操縦について一切書かれていないんだね!どのページを見ても、性教育のことばかりだ」
「や、それは性教育の教科書だからですよ。操縦についての教科書は別途あります」
すかさず突っ込みの手を入れたのは木ノ下だ。
鉄男は黙々と箸を進めている。
食事中に性教育の話題を振られるとは予想しておらず、視線は、やや俯きがちだ。
「そうかい?ざっと全部の教本を読んだが、一般的な陸動機に関する記述が一つもないじゃないか」
「あぁ、それは――」と木ノ下が答えるよりも先に、別の声が割り込んでくる。
「教える必要がないから、教えないんですよ」
答えたのはツユだ。
手には、野菜サラダ定食の乗った盆を持っている。
さりげにデュランの隣へ腰を下ろして、話を続けた。
「そちらがエリート特級生の卒業試験免除で入隊できるように、うちにも特別ルールがベイクトピア軍との契約であるんです」
初耳だ。
驚いて鉄男が顔を上げると、木ノ下と目が合い、彼にも頷かれた。
「そうなんだよ、鉄男。お前も変だな〜とは思っていただろうけど……」
「軍に導入するゼネトロイガーかね?あれを扱う専門パイロットになる予定か」
察しの良いデュランへ頷き、ツユは言う。
「うちのとは多少構造が異なり、一人でも動かせるようにしてあります。でも、操縦方法は同じですから」
「では、性教育は何のために?」
首を傾げる元英雄をチラリと見、ツユはサラダにドレッシングを振りかけた。
「……一人でも動かせますが、二人で乗れば威力が倍増します。ご存じですよね?ゼネトロイガーの武器と発射に関する発動条件は」
つまり軍に投与する予定のゼネトロイガーにも、ボーンは装備されているということか。
さすがに合体はなかろうが、馬力の上下はパイロットの感情に左右される。
ゆえに、一人でも動かせるが二人のほうが本領発揮できる機体だと、ツユは説明したのだ。
「正規パイロットになったらなったで、他の男とタッグを組めと。なるほど、それならば学内にいるうちに慣らしておいたほうが親切というものじゃないか。なぁ、鉄男くん?」
「何がですか?」
困惑の面持ちで鉄男が見つめると、デュランは意気揚々と持論を展開する。
「いや、なに。卒業までに様々な男性の手管を知っておいたほうが、実戦でよりスピーディーに発動できるんじゃないかと思ってね!」
「快楽に慣れすぎてしまうと」と、デュランの妄想に歯止めをかけたのもツユだ。
「逆に発動が遅くなるのだと学長は言ってました」
「ふぅむ、難しいね」
デュランは顎に手をやり、ちらっと鉄男を見やる。
「教本で知識を与えるだけ与えておいて、本番は卒業まで引き延ばすのか。けど、諸君らは何度か実戦を行っているね。中には慣れてしまった子もいるんじゃないのか?」
ツユはサラダを食べながら、淡々と答えた。
「まだ慣れると呼べるほどの回数は、こなしていません」
本来は、と厳しい目をデュランへ向けて問い詰める。
「挿入は卒業試験で行う予定でした。何故あの状況で敢行したのか、お教え願えますか?」
口調はあくまでも丁寧だが、はっきりした怒りをツユから感じる。
物事が予定通りにいかなかったのを怒る気持ちは、鉄男にもよく判る。
合体という形をとらずとも、カチュアの暴走を止める手段はあったのではないか。
無駄に奥の手を見せてしまったばかりか、一候補生の順序まで狂ってしまった。
だがツユの怒りなどデュランは全く気にもせず、あっけらかんと答えた。
「だって、あの子が望んでいたからね」
「あの子って、赤城まどかがですか?」
半信半疑なツユに頷き、当時の状況を語りだす。
「うん。彼女と俺との相性は最初から抜群でね。あぁ、相性というのはもちろん、体の相性だが」と断られ、鉄男の頬が朱に染まる。
大っぴらに性の話をされると、恥ずかしくなるのは何故だろう。
ラストワンでは当たり前の授業だというのに、何度教えても鉄男は全然慣れない。
子孫繁栄に過ぎないと割り切ろうとしても、どうしても恥ずかしい感情が表に出てしまう。
裸を恥ずかしいと受け止めているせいなのか。
鉄男はデュランを、ちらりと盗み見る。
彼からは気恥ずかしさが微塵も伺えない。
スパークランでは性教育の授業など、ないはずなのに。
鉄男の視線に気づいたか、デュランが微笑んできた。
「体の相性がいいと、本能はより直接的な快楽を求めたがる。挿入で合体するのは知っていたが、赤城さんに求められたら教官として応えないわけにはいかないじゃないか。なぁ、鉄男くん?」
「ど、どうして俺にふるんですか」
まともに動揺する鉄男と比べると、ツユはだいぶ冷静であった。
まだ怒ってはいたが、クールに受けとめる。
「なるほどね。教官としての義務でやってしまったと、そういうわけですか」
「そういうわけだ。鉄男くんも教え子に求められたら、ちゃんと受け止めないと駄目だぞ?」
それに対して鉄男が何か答えるより前に、ツユの制止が入る。
「生徒の期待に応えるのも結構だけど、社会人として考えるんだったら守らなきゃいけない約束を第一に守らなきゃ駄目だよ。それじゃ、失礼します」
さっさと盆を持って歩き去っていく先輩の背中を黙礼で見送り、鉄男はデュランへ答えた。
「俺は、まだ、そこまで辿り着いていません……ですが、常識の範囲内で要求には応えたいと思っています」
「常識の範囲内か。今回のカチュアさん暴走の件について、担当教官の意見を聞いてもいいかい」
ずばっと確信をついた質問に、鉄男の体がびくりと震える。
「デュランさん、あの件での鉄男は被害者だったんですよ!?」と怒鳴る木ノ下を「判っているよ。鉄男くんを責める気はない。ただ、教官としての意見を聞いているだけだ」と制し、改めてデュランも鉄男と向かい合う。
「鉄男くんは自分の教え子を、どの程度認識しているのかな。具体的に言えというのであれば、そうだな、自分に対する好意を、どれだけ理解しているんだ」
はっきり好きだと告白してきたのは、マリアとカチュアだ。
事故で唇を奪ってしまったというのに、亜由美も好意的な反応だった。
自分が受け持ち生徒全員に好かれているのは間違いない。
だが、それを何故デュランに言わねばならないのか。
横目で木ノ下を伺うと、木ノ下も真面目な顔で鉄男の答えを待っているように見えたので、鉄男は渋々吐き出した。
「全員、俺に好意的だと捉えています」
「なるほど。俺の見解と大体同じだな。では次、今回カチュアさんは君を救うために不特定多数の命を天秤にかけてきた。それは何故だと推理する?」
言われた意味が判らず首をひねる相手に、デュランは聞き直す。
「質問が些か漠然としていたか、すまない。カチュアさんが君を好きであるならば、君の困る真似をしないのが本来あるべき恋愛の姿じゃなかろうか。なのに彼女は人類を人質にシンクロイスへ交換条件を持ち掛けた。それは何を動機としたんだろうね」
鉄男は少し考え、予想を出してみる。
「……器工場の存在を知っていたからでは?」
シンクロイスには人類を滅ぼす気がない。
地上を爆撃していたのは間引きだと、奴らの一人が言っていた。
生き残った人々は優秀だと判断され、次の器を作るための素材として扱われている。
人類が絶滅するのは、シンクロイスにも都合が悪いとカチュアは踏んだのではないか。
だからこそ、生き残った人々の命を天秤にかけて鉄男を引き渡せと要求したのだ。
たかが十二の子供が考える発想ではないが、彼女がどういう考えの持ち主なのか、鉄男は、はっきり理解しているわけではない。
あの子供は普段、何を考えているのか皆目見当がつかない。
告白は唐突だと感じたし、そもそも鉄男が着任した初日に尋ねたパイロットになりたい理由だって、まともに答えなかったじゃないか。
全人類にはラストワンの友人だって含まれよう。
にも拘わらず滅亡させようとしていたと考えると、他人の命を軽視しているとも取れる。
パイロット志願者には、あらざる考え方だ。
或いはパイロットなんて、最初から目指していなかったのかもしれない。
母親に虐待されて家出して、ラストワンには居場所を求めてやってきた。
それだけだ。鉄男の知るカチュアの情報は。
「そうだな。彼女としてはシンクロイスの向う脛を狙ったつもりだったんだろう。まぁ、本気で人類を滅亡させる気はなかったんじゃないかと俺は想定しているがね」とデュランは断り、前髪をかきあげる。
「しかしロボットに乗っての大音量宣言だったからなァ。鵜呑みにして震えあがった人も多かったようだ。来週、御剣学長とうちの学長、それからベイクトピア軍のお偉いさんも含めて合同記者会見を開くそうだ。ベイクトピア軍のバックアップがあれば廃校は免れるだろうが、世間の風当たりは当分強いぞ。君は、君たちに迷惑をかけたカチュアさんを許してあげられるかい?」
「それは……」
少し悩んで、鉄男は答えを見つけ出す。
「許す、許さないの問題ではないと思います」
「ほぅ?どうして、そう思うのかな」
「彼女は、まだ子供です。判断を誤ることもあるでしょう。その時、周りの大人がカバーしてやらないと、カチュアは間違っていたかどうかも自己判断できなくなります。だから……許す許さないではなく、カチュアを世間から守ってやりたい。そう考えます」
「その通りだ、鉄男!」と相槌を打ったのは木ノ下で、鉄男の両手をぎゅっと握りしめる。
「うん、鉄男くんは既に俺が教えずとも教官の心得が身についているようだね」
デュランも微笑み、鉄男の肩を軽く叩いて励ました。
「風当たりがきついと感じたら、いつでも俺に相談してくれ。多少なりとも援護しよう」
元英雄の説得があれば、軍が説明するよりも信用されそうではある。
しかし、あまりデュランに借りを作るのも気が引ける。
誤解は起こした本人が解くべきだ。
全人類を脅かしたカチュアは、全人類を安心させる存在に育てねば世間も納得すまい。
まずは、道徳とパイロットの心構えを教えるべきか。
黙々と考える鉄男の耳に、本来ここにはいないはずの声が聞こえてきた。
「仕事の問題は解決できそうかい?それなら良かった。憂いを残したままだと、僕との行為にも支障が出そうだしね」
食堂に入ってきた人物を一目見た瞬間、ガタガタッと勢いよく木ノ下、そしてデュランも席を立ち上がる。
「カッ、カルフ!?えっ、なんで勝手に出歩いているんだ!」
「二重施錠した程度じゃ障害にもならないか。見張りも倒して出てきたのかな」
「見張り?」と肩をすくめ、カルフがデュランを見やる。
「見張りなら、ぐっすり寝ているよ。僕の作った香水でね」
カルフを放り込んだ部屋には軍特製の頑丈な鍵が二重に渡ってかけられていたはずだが、相手は材料から組み立てまで即興で作り出す生き物だ。
鍵を壊して見張りを眠らせる程度、造作もなかったのであろう。
「安心しろよ。ここにいる間は誰も殺さない。鉄男が嫌がる真似をしたくないんだ。それが愛ってもんなんだろ?お前たちの種族では」
「じゃ、じゃあ部屋を抜け出してもくるなよ!鉄男、お前だって嫌だよな?カルフがホイホイ自由に歩き回るのは」
木ノ下に相槌を求められ、しかし鉄男は頷くのを躊躇う。
出歩かれた場合に困るのは、仲間に加えられる暴力を危惧した場合の話だ。
だが、カルフは人間に危害を加えないと言う。
ここへ来てから一度も暴れていない。
部屋に閉じ込められても大人しくしていたはずなのに、何故鍵を破って外に出てきたのか。
デュランが問うと、カルフは肩をすくめて鉄男へ流し目をよこしてきた。
「部屋に閉じ込められっぱなしじゃ、鉄男と愛し合えないじゃないか。僕が何のために、ここへ来たのか、もう忘れちまったのか?」
「あ、愛し合わねーよ!鉄男は、お前と!!」
口の端に泡をためて怒鳴る木ノ下の横に立ち、鉄男もカルフへ質問を投げかける。
シンクロイスのアジトから脱出して以降、ずっと考えていた疑問でもあった。
「お前はシンクロイスの器を作りたいが為に、俺と性行為をするつもりでいる。しかし俺とお前との間に生まれる子供は、一体どちらとして認識される生き物になるんだ?それとも、どちらであろうと器として使うのか」
鉄男の放った素朴な疑問は、その場にいた全員に衝撃を与える。
「い、言われてみれば!?どっちの血も混ざった新しい種族になんのか?」
うろたえる木ノ下にデュランが「そもそも、俺たちと彼らの間で子供は生まれるんだろうか」と冷静に突っ込む横では、カルフも腕を組んで難しい表情になった。
「母体の僕はシンクロイスだ。だから当然、生まれるのもシンクロイスしかあり得ない……はずなんだが」
これまで、子孫を増やすにはシンクロイス同士で性交をしていた。
他種族との性交など、母星にいた頃は考えもしなかった。
そんな真似をしなくても、100%確実に子供は生み落とせていたのだから。
だが、この星の知的生命体に乗り移った後での性交では生物を産めない事態が発生した。
カルフは現地の知的生命体と性交すれば、子供が産み落とせると想定した。
しかし、どちらの血を引く生物になるのかまでは考えていなかった。
優秀な器を作る――それだけに気を取られていたせいだ。
「僕は」
ぽつりとカルフが呟く。
「シンクロイスの子孫繁栄は考えていなかった。今いるシンクロイス、僕やベベジェ達が永遠に生きられる方法を探していたんだ」
だからこその器工場であり、優秀な器作りだったのだ。
カルフの言う優秀とは、長寿であり頑丈な器だ。
全ての器が長寿で頑丈ならば、滅多なことでは死ななくなる。
「もし、僕と鉄男との間で生まれた子供が人間と呼ばれる種族になったら、いずれ僕らシンクロイスという種は人間に吸収されてしまう――のか?」
「或いは同化だね」とは、デュランの弁。
「混ざりあい、一つになる。種族の違いで争わなくて済むし、君たちの子供は他種族へ乗り移りをしなくても済むようになる。人間も乗り移られる恐怖に怯える心配がなくなる。合理的じゃないか」
「その代わり、種族としての自己同一性を捨てることになりそうだね。永遠に生きられなくもなる。……デメリットのほうが多いじゃないか」
不満を漏らし、カルフが鉄男を見やる。
「鉄男は、生まれる子供がシンクロイスだったら可愛がってくれないのかい」
産む前提で話しているのは気になるが、ひとまず鉄男も答えておいた。
「そうは言っていない。ただ、血が混ざりあった場合、乗り移り能力がどうなるのかには興味がある」
乗り移った同士で子供を産めなくなる呪いがかかるとすれば、現地人の自分と性交しても子は成せないのではと鉄男は考える。
「フツーに考えたら、混ざりあう分、お互いの血が薄まりそうだよな」
木ノ下も腕を組んで予想に加わった。
「俺たちだって他種族との子孫作りは例がないんだ。これまで他種族、動物や植物とヤろうなんて考える酔狂な奴もいなかったんだし。違う血と混ざり合ったら何が生まれるのか。うーん、確かに気になるな!ただし、鉄男が実験体になるのは却下だけど」
きっちり否定の意をかます木ノ下に眉を吊り上げ、カルフもやり返す。
「だったら、お前が実験体になったらどうだ?相手はシークエンスで」
「じょ、冗談じゃねぇ」
慌てて後ずさりする木ノ下なんぞ見もせず、カルフの視線は一直線に鉄男へ向かう。
「なにが生まれるのか気になるんだったら、僕との性交に応じてくれ。でも、無理強いはしない。君がその気になるまで、僕はいつまでも待つからな」
「君だったら、部屋の鍵を壊して夜這いの一つや二つ、できるのでは?」
デュランによる無粋な突っ込みに、思わず木ノ下も「ちょっとデュランさん、けしかけ禁止令ィィィ!」と声を裏返えさせる。
カルフは肩をすくめて、さも退屈そうに言い返しただけだった。
「何度言えば判るんだ?僕は鉄男の嫌がる真似をしない。夜這いってのは、無理強いと同意語だろ?無理強いは僕らのルールでも禁忌とされる。自由奔放且つ無軌道なお前と違って僕らには倫理観があるんだ。それなりにね」
デュランも「こりゃ失敬」と素直に謝る。
だが、その後の発言が良くなかった。
「君は、本気で鉄男くんが好きなんだね。だが、俺や木ノ下くんだって負けちゃいないぞ!彼の受け持ち候補生も全員虜だというし、こうなったら誰が鉄男くんのハートを射止めるか勝負だ!」
とんでもない発言に泡を食ったのは、名指しの木ノ下のみならず、鉄男本人もだ。
「お、俺が鉄男に向けてんのは、そーゆー感情じゃないッスから!友情、ですから!!」
大量に唾を飛ばして弁解する木ノ下の横で、眉間に縦皺を寄せた鉄男も心底迷惑そうに繰り出した。
「どうして、そういう結論に持ち込むのですか。俺は誰かを好きになる、そんな感情を持てる余裕がありません」
これには木ノ下も「え?」となり、まじまじと顔を見つめられ、どんどん鉄男の内での恥じらいが急上昇してくる。
今のは本音だ。ついうっかり、吐き出してしまった。
ラストワンにてマリアやカチュア、相模原などの少女から立て続けに告白されて、人生初のモテ期が鉄男を襲っても、どうも本人にはピンとこなかった。
自分が誰かに注目される。それ自体が実感を伴わずにいた。
二ケアを出てベイクトピアへ渡ったのは、これまでの人生を振り返り、やり直したいと考えたからに他ならない。
けして、女の子だらけのハーレム生活に入り浸りたかったわけではない。
ましてや、地上外生命体にまで性行為を求められる羽目になるとは、過去の自分には想像もつくまい。
どれだけ好きだキスして性交しようと言われても、どれにも素直に頷けない自分がいた。
マリアやカチュアたちに好意を持たれているのは判る。
自分が彼女らに寄せる感情も好意ではあるのだが、恋や愛ではない。
それに、だ。
もし誰か一人を選んだら、他の者は、どうなってしまうのか。
赤の他人なら気にする必要はない。
だが、告白してきたうちの二人は受け持ち生徒なのだ。
きっと気まずくなる。その後の授業にも支障が出よう。
告白を断るにしても、どう言えば穏便に済ませられるのかが判らず、鉄男は苦悩した。
そっとデュランをチラ見する。
この男はアニスやルミネといった軍人から、果ては未成年で初対面のまどかにも手を出す見境のない性の持ち主だ。
求められたら応じるのが教官だと抜かしていたが、アニスやルミネに対しても、そういう感情で接したのだろうか。
いや、アニスはどう見ても無理やりだったと鉄男は思い出し、額を押さえる。
自由奔放で無軌道だとカルフは彼を評した。
カルフがいつデュランの無法を知ったのかは定かではないが、全くもって的確な表現だ。
もしかしたら先ほどの発言だけで判断されたのかもしれない。
シンクロイスにも一応倫理観はあるらしい。そこからも外れる男なのか、デュランは。
デュランに自身の悩みを相談したところで、ろくな回答は得られまい。
鉄男は結論を出し、木ノ下の袖をチョイチョイ引っ張る。
「なんだ?鉄男」と振り返った彼の耳元で、こそっと囁いた。
「……相談がある。ここでは出来ない話だ。あとで、俺の部屋に来てほしい」


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