合体戦隊ゼネトロイガー


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act6 どうにかなるなら、どうとでもなる

会議がお開きとなり、戻る途中でルミネはデュランに無理矢理、教官寮まで引っ張り込まれてベッドに押し倒された。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいデュラン様!?」
慌ててルミネは起き上がろうとするも、相手はニッコニコの笑顔で「何を待つんだい?約束したじゃないか。俺の家ではなくて悪いんだけど」と言い切り、圧し掛かってくる。
「や、約束って何ですぅ!?」
「何って、君待望のラブラブセックスだよ。まずはキスから始めようか」
ぐいっと顔を近づけられて、精一杯両手で押しのけた。
「ぎゃー!駄目ですデュラン様、まずは私の話を聞いてくださいっ」
「いいとも。じゃあ、君からルミネさんの気配がしない理由を教えてくれるかい」
ルミネの横に寝そべりながら、デュランが先を促してくる。
尋問する気だったんなら最初から真面目に徹してやって欲しいと内心ぶぅたれながら、ルミネだった者は身を起こした。
「あぁ、そうだ。あんたやアニス少尉がお気づきの通り、今の俺はゾルズだ。ルミネは、もういない。魂魄遮断されちまったからな」
「魂魄遮断?」と首を傾げる英雄には、重ねて答える。
「魂を遮断する。判りやすく言えば、消滅だ。運悪く寄生になっちまった場合の救済で作ったらしいぜ。俺は離断でいいと言ったんだが……あぁ離断ってのは、二つを完全に切り離す」
「つまり、死んだと考えていいんだね?ルミネさんは」
その通りだと頷き、ゾルズはベッドの上で胡坐をかく。
だが体勢を立て直した側からデュランには腕を引っ張られ、抱き寄せられて泡を食った。
「ちょぉっ、やめろ!言ったばかりだろ、俺はルミネじゃなくてゾルズだと!」
「うん、それは判ったが、判らない事も一つあってね」
「なんだよ!?ルミネ消滅の他にも聞きたいことがあんのか」
慌てるゾルズの耳元で、ボソッと囁く。
「君が、ここへ戻ってきた理由を知りたい。カルフの監視役かな?それとも二人で協力して、ベイクトピア軍ないしゼネトロイガーを潰す作戦かい」
話している間にもデュランの手がゾルズの胸を揉んできて、居心地が悪いったらない。
ルミネだったら狂喜乱舞しただろうが、ゾルズは元英雄に何の思い入れもないのだ。
「ち、違う!俺はルミネが軍人になった時、同族だった奴らとは袂を分かつと決めたんだ。だからもう、ベベジェは仲間じゃない!」
「けど、ルミネさんは消滅したんだろ?君を縛る寄生の括りも消滅したはずだ」
「――それはっ」
言葉に詰まった瞬間、股間をついっと指でなぞられて、ゾルズは目一杯背筋を反り返す。
馬鹿な、何の感情も持っていない相手なのに体が勝手に反応してしまう。
ルミネの魂があった頃の名残だろうか?
「や、やめろっての、今は真面目な話をしているトコだろ!」
「うーん、俺を好きだった人の体だからね、ついサービスしたくなってしまうんだよ」
「あんたを好きだった魂は、とっくに消滅したって何度言わせるつもりだ!?」
額に青筋を立てて本気で嫌がっているというのに、デュランは意に介していないのか、指の動きを休めずに囁く。
「それならそれで難民シェルターにでも避難すればいいのに、とっくに消滅した魂に義理立てして軍のいる場所へ戻ってくるなんて、可愛くて放っておけないよ」
「かっ、かわいいって誰が!?」
「君が」とデュランに微笑まれ、おまけにチュッと頬にキスまでされて、ゾルズは己の心臓を片手で抑え込む。
さっきからバクバクうるさい心臓が、ますます激しく脈打って、心拍を聞いているだけで、頭がどうにかなってしまいそうだ。
ゾルズにしてみればデュランなんて全然好みじゃない、むしろ苦手な相手なのに、ルミネの想いは、これほどまでに肉体へも影響を与えていたのか。
いや、違う。影響を受けているのは自分だ。
自分の魂が、ルミネの影響を受けたせいでデュランの仕草に反応している?
自分で出した結論に、ゾルズは自ら、ぎょっとする。
今だって、やめろと言ったのにデュランの指は割れ目の奥に侵入して、ルミネが弱いとしてきた部分をトントン突いてきていて、そのたびに体をぞくぞくと快感が駆け抜ける。
「や、やめっ、ばかっ」
「やめろと言いつつ、乳首がコリコリじゃないか。体と一緒に心も正直になりたまえ」
正直になれと言うんだったら、最初から正直に嫌がっている。
涙目で睨みつけてくるゾルズに、デュランは余裕の表情で見つめ返す。
「そういやシークエンスを見た時にも不思議に思ったんだが、器の性別と魂の性別が異なる場合、同族同士の結婚はどんな塩梅になるんだい?」
「どんな塩梅、って?」
「あぁ、うん、だからね。君は今、魂が男だけど体は女だろ。その状態で同族と結婚する場合、器の性別を選ぶのか魂の性別を選ぶのかってことさ」
「同族同士での番は」
デュランの指を股間から引っこ抜いて、ゾルズが答える。
「生殖しやすい性別を選ぶ。今の俺なら、相手は男の器だ」
「じゃあ、同族以外での結婚は?」と問われると、悩んでしまう。
同族以外と番になる――それ自体が、これまでのシンクロイスには、なかったのだから。
これまではシンクロイス同士で繁殖できていた。
だから他種族と交配するなど、考えもしなかった。
カルフの話を聞いた時には、ゾルズだって驚いた。
だが、奴は思いつきで無茶な発想を唱えるタイプではない。
恐らくは、乗り移った後の生殖活動で予想外の問題が起きたに違いない。
「……それでも、きっと器の性別に準ずると思う」
デュランの指が再び奥へ入ってきてグチュグチュと掻きまわしてくる。
指が肉の内側へ触れるたびに、ぞくぞくと快感がゾルズの体を走り抜け、必死で身をよじって腕の中を抜け出そうと無駄なあがきを続けた。
「ば、ばか、やめろ、このっ」
「器に準じるんだったら、俺が相手でもいいってわけだ。違うかい?」
耳元で囁かれ、ゾルズは力いっぱい拒絶した。
「そりゃあ、性別はあっているが、俺が嫌だ!」
「なんで?」
「こんな、無理矢理犯されて、誰が好きになるってんだ!!」
「ルミネさんは喜んでいたよ」
「ルミネは、あんたに好意を持っていただろうが!俺は、違うっ」
そうだ、違うはずだ。
なのに彼女が敏感だと考えていた箇所をツンツンされると、自分まで気持ちいいと思ってしまうのは何故なんだ。
「俺が嫌いな割には、お尻を擦りつけてきたりして好意的じゃないか」
「か、体が勝手に反応しちまうんだよ!俺の意志じゃないッ」
「そうかなぁ。ここに鏡がないのは残念だよ。今の君ときたら、可愛く涎を垂らして、もっと奥を突いてほしそうな顔をしているぞ」
自分では自分の顔が見えないし、心は完全拒絶の意志を示している。
だというのに体は勝手にデュランを求めており、ゾルズは訳が分からなくなってきた。
カルフやシークエンスと同様、自分も器を好きになってしまうのか。
自我を守るにあたり、この星の原住民は乗り移ってはいけない種族だった?
しかし再び宇宙を放浪するにしても、知的生命体のいる星が他に見つかるだろうか。
諦めて、この星の原住民と同調して繁殖していくしかないのかもしれない。
肉体の疼きは最高峰まで達しており、トントンされている箇所を指より太いもので突きあげられたくてたまらない。
あぁ、くそ。器が男だったなら、こんな感覚に振り回されず済んだのに。
シーツにしがみついていた手を離し、ゾルズはデュランと向き合った。
「……体が、限界だ。あんたを欲しがっている」
「うぅん、ゾルズ。君は、なかなかのツンデレだね。ここまできても自我を失わず、且つ可愛いおねだりをしてくるだなんて。こちらも特別サービスで答えよう」
「はっ!?」
訳の分からない反応で驚くゾルズの唇に、デュランの唇が重なる。
舌の動きに翻弄されながら、ゾルズは両手をデュランの首に巻きつけた。


宿舎の生徒用食堂は逃亡者カルフと、戻ってきた鉄男の話題で盛り上がっていた。
「一緒に居た人って、軍の人だったんでしょ?ちゃんと救出に動いてくれていたんだぁ」
「けどシンクロイスも一緒だよ?これから、どうなっちゃうのかなぁ……」
カルフは鉄男が抜けだす際に協力してくれた――とは同行していた軍属らしき人の話だ。
カルフの名前は、候補生も聞いた覚えがある。
杏に謎の機械を埋め込んだ張本人だ。
仲間になった今なら例の機械を外してもらえるんじゃ?と相模原に問われ、杏は曖昧な笑顔を浮かべて流した。
協力者だとは説明されたが、仲間になったとは聞かされていない。
今後、裏切って出ていく展開だってありえる。
否、そちらの可能性のほうが、ずっと高い。
何故脱出へ協力する気になったのかも気にかかる。
辻教官に、べったりくっついていたのが、その理由か?
「てか、鉄男も鉄男よね。行方不明になったり誘拐されたりってのが多すぎない?」
マリアの不満に、すかさず亜由美がフォローを入れる。
「でも、それは辻教官のせいじゃないし……」
そうだ。彼は悪くない。全てにおいて被害者なのだから。
とはいえ、彼にまつわる事件の多さには杏も首を傾げてしまう。
一種のトラブルメーカーなのだろうか。
木ノ下組で散々トラブルの元になっていた自分が言うのも何だけど。
或いは、シンクロイスに好かれやすいフェロモンを放っているのかもしれない。
それなら、カルフが辻教官の脱出に協力的だったのも納得だ。
「敵だった人が味方につくのって、ある意味好機じゃない?」と言い出したのは飛鳥だ。
「あー、他のシンクロイスを説得してくれるんじゃないかって?それは、どうかなぁ……無理だと思うけど」
難色を示したのはユナで、飛鳥に促されて言うことにゃ。
「だって一人で抜け出してきたんでしょ。なら、仲間とは交渉決裂したと考えるのが妥当じゃない?そんな人が和解を持ち掛けたとして、向こうも頷くかなぁってコト」
普段何も考えていなさそうな彼女にしては、色々と小難しく考えたようだ。
ユナの懸念にも一理ある。
それに心配事は、もう一つあった。追っ手の存在だ。
向こう側にも、エリスのように気配を探れる者がいないとは限らない。
カルフに聞けば全てが解決するのだろうが、彼は今、ここにいない。
別室に見張り付きで監禁されているとの噂だ。
情報元はラストワンのスタッフだから、信用して良かろう。
監禁するからには、やはり味方ではないのだ。
たまたま辻教官の脱出に一役買ったというだけで。
しかし、だとしたら一緒についてきたのは何故だろう?
ここの場所を突き止める為?それにも疑問が生ずる。
たった一人で来るより、もう一人二人連れてきたほうが安全ではないか。
それとも一人で壊滅させられるほど、力の差は歴然なのか。
シンクロイスは成長しないから、いずれは追い抜かされるとシークエンスは言っていた。
今どうにもできないなら意味がないとメイラが反論していたが、その通りだと杏も思う。
今のスパークランは爆弾を一つ抱え込んだ状態だ。
学長や軍人は何を考えて、カルフを宿舎内へ隔離したのか。
武力では追い出せないから、隔離するしかなかった――?
悶々考えこんでいた杏は、ぽんと肩を叩かれて、ビクッと体を震わせる。
「あ、ゴメン。アンちゃん、具合悪そうだったから大丈夫カナ?と思って」
レティだ。考えに没頭して、食の進まない様子を心配してくれたらしい。
「あ、うん……大丈夫。ちょっと考え事していただけだから」
安心させようと無理に微笑んだ時、館内放送が二人の会話を遮った。

『ラストワンの候補生に、お知らせです。明日以降の放課後特別授業にて、後藤組はデュラン=ラフラス教官が代理で受け持つと決まりました。後藤組の候補生は、教科書とノートを忘れず用意するようにとのことです。繰り返します――』

何度か繰り返される放送に、十八人全員が「え〜〜!?」と大合唱したのであった。


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