合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 帰還

ゼネトロイガーの合体は、全ての関係者が見守っていた。
「なんなんですか、あいつぁ!どうして勝手な真似を!!」と口から泡を飛ばして大激怒なスタッフに壁際まで詰め寄られ、「英雄殿に関して我々に責任を求められるのは、お門違いですぞ!」と軍の代表スパイル中尉も、怒鳴り返す。
このタイミングで合体されるなど、誰にも予想できなかった。
御劔や本郷でさえも口を挟む暇がなく、全員呆気に取られて見守ってしまった。
ようやく我に返った本郷が、ぽつりと御劔に尋ねる。
「あれは……どうやって分離するのかね?」
「あぁ、それは合体キーとなった動力が鎮まれば」と学長が説明する傍からゼネトロイガーの中央胴体部分は光り輝き、モニターを眺める全員の目を眩ませる。
「何っ?まぶしっ!」
全員が目をつぶって、もう一度開ける頃にはゼネトロイガーも六体に戻り、横一列に並んでいた。
「……赤城まどかの精神値が正常に戻ったようですね」
それにしても合体方法を事前説明しておいたにも関わらず、易々合体させてしまったデュランには溜息しか出てこない。
たとえ、まどかに唆されたにしても、理性ある大人ならば冷静に退けて欲しかった。
だが、待て。あれは本当に理性のある大人だっただろうか。
木ノ下の報告では守秘義務ゼロだという話だし、助っ人をデュランに頼んだのが、そもそもの間違いだと言えなくもない。
御劔は、そっと溜息をつき、思考を切り替える。
この合体は、シンクロイスにも当然見られたと推測できる。
何らかの対策を立てられるか、或いはこちらの人員を狙いうちされるかもしれない。
その前に連中の本拠地を発見するしかない。
カチュアのおかげで、全員の尻に火がついたようなものだ。
どこかやる気の見られなかったベイクトピア軍にも、やる気の炎が灯ったのは喜ばしい。
捕獲されて以降のカチュアは大人しく、しかし大勢の前で責めたてるのを御劔もヨシとせず、個別に寮の一部屋へ呼び出して、しっかり説教しておいた。
「まず、辻くんを力づくで奪取するのは感心しない。大勢の犠牲の上で助かったとして、彼が君に感謝するわけもないからね」
椅子に座って向かい合うかたちで、御劔はカチュアを真っ向から見据える。
見据えられたほうは肩をすくめて縮こまり、学長の話に耳を傾けた。
「それに、もし被害者が出ていたら、遺族は辻くんのせいで殺されたと考えるだろう。多くの人は元凶ではなく、直接の加害者を恨む。元凶が手の届かない強さであった場合、手を出しやすい相手に矛先が向かうものだ。君は辻くんを助けたかったのだろう?ならば、彼を窮地に追い込んではいけない」
項垂れて相槌一つ打たない相手に、ふっと表情を緩めて、御劔は締めに入る。
「辻くんを連れ戻す方法を皆と考えよう。独りで突っ走っても、大抵ろくな結果にならないのを君は今回学習した。次は結果を出そう、皆と協力して」
「は……い……」
蚊の鳴くような返事を耳にして、御劔は満足げに微笑んだ。
出撃メンバーが戻ってくるまでには次の方針が大体決まっており、手数全てを使っての大規模な地下街探索が展開される。
もちろん、スパークランに残る面々も手数の内に入る。
ただし子供が単独で捜査するのは危険ゆえ、スタッフか教官と一緒の行動だ。
地下街は地上全域と比べたら、さほど広くもない。
軒並み洗い出せば、必ず怪しい箇所の一つや二つは出てくるはずだ。


スパークランビル内で御劔が決意を固めている頃、シンクロイスの隠れ家ではカルフとベベジェが揉めに揉めまくっていた。
「だから離断か遮断しちまえよ、シークエンスを!そうすりゃ鉄男を仲間に引き入れてもいいって言ってるじゃないか、ベベジェだって」
呆れて横やりを入れてくるミノッタを睨みつけ、カルフが言うには。
「何度言えば判るんだ?シークエンスを追い出すのは、鉄男が嫌がっているんだよ。僕は彼の嫌がることをしたくない」
「有無を言わせず誘拐しておいて、どのくちが言うのかしらね」といったシャンメイの毒発言を聞き流し、ベベジェをも睨みつける。
「鉄男と交尾するには、鉄男のテンションを下げちゃ駄目なんだ。あいつ、ちょっとやそっとの愛撫じゃ全然起たないみたいだしね。気持ちよくしてやるには、感情そのものをテンションアップしなきゃ」
ベベジェも、じろりとカルフを睨み返して、ぼそっと吐き捨てた。
「貴様の言うことも聞けん奴を仲間に入れるのは危険だ。おまけに、奴の中にはシークエンスがいる。あれを離断あるいは遮断しておけば、奴は無力な下等生物になる……カルフ、貴様の要望は我々にとって無茶難題だと知れ」
何を揉めているのかといえば、鉄男を仲間に引き入れるか否かで揉めているのであった。
カルフの目的は、鉄男との交尾だ。
鉄男の子種を宿すことで、さらに優秀な器が作れると考えた。
ただし、それを試すには彼と共存するシークエンスを、どうするかが問題だ。
今のところミノッタとベベジェが離断派でシャンメイは遮断派なのだが、肝心のカルフはどちらも駄目だと突っぱねて、それで大揉めな喧嘩となってしまったのだった。
ロゼは、どちらでもいいと思っている。
或いはカルフの言うとおり、残したままでも問題なかろう。
シークエンスが脅威とされるのは、彼女が表に出てきた時だけだ。
ならば、鉄男を気絶させなければよい。
歯向かってくるようなら、うまく宥めて落ち着かせればいいのではないか。
これまでに何度も起きた、牧場での揉め事と一緒だとロゼには感じられたのだ。
散々反抗して歯向かってきた数々の雄も、最終的には若い好みの雌をあてがうことで大人しくなったじゃないか。
黙って生殖行為に励むか、それとも惨めったらしくゴミのように処理されるか。
死を持ち出せば、大抵の下等生物は大人しくなる。鉄男だって例外ではあるまい。
当の鉄男は、ここにいない。
別部屋にて、ゾルズが相手をしてやっている。
ゾルズは、ついこの間まで奴らのお膝元、ベイクトピア軍に所属していたらしい。
なんでそうなっていたのかについても、彼は教えてくれた。
なりゆきで寄生した器が軍に見つかり、なりゆきで軍人にスカウトされてしまったのだと。
昔から流されやすい奴だとは思っていたが、敵に回るほど流されやすいとは知らなかった。
だが彼が軍部に入り込んでいたおかげで、奴らの手の内も見えてきた。
連中は、どうやらこちらの隠れ家を探しているらしい。
だとしたら地の利で、ここが見つかるのも時間の問題だろう。
ロボットの合体はモニター越しに拝見させてもらった。
あんな巨大なものを、どうやって地下街に潜む此方にぶつけてくる気なのかは判らないが、巨大なものには巨大なもので対抗すればいい。
死にぞこないのアベンエニュラが、最初の最後で役に立つであろう。

「名指しで生贄交換された次は、カルフとヤらなきゃ帰れませんときたもんだ」
小さく呟き、ゾルズは微動だにせず仏頂面で黙して座り込む鉄男に話しかける。
「俺だったら、外にいる軍人と繋ぎが取れるかもしれんぜ?内線は、まだ生きているんだ。外に隠してあるんだが。ベベジェと会う前に隠しておいて良かったぜ」
「……だが」と、やっと鉄男が口を開いたので、内心ホッとしながらゾルズも促す。
「だが?」
「貴様は、どうなる。裏切り者として処刑されるのではないか」
「あぁ、いや、気にすんな。いや、気にするなといっても無理か。そうだな、俺の身は無事だ。器の魂を完全遮断したんで、ひとまずはベベジェの信頼も戻っている」
何がどう無事に繋がるのか判らず黙して首を傾げる鉄男に、金髪女性は、こうも続けた。
「ベベジェの性格を知らない奴には判らんか。あいつは短気なれど仲間を信用しやすいタチで、そういう意味ではシャンメイやロゼのほうが厄介かもな。逃げ出す理由も俺を殴り倒したってんじゃ嘘臭いから、無理矢理犯されて孕まされたってことにしとくか。お前の子供を身ごもったとなりゃあ、俺も殺されない。名案だろ?」
「冗談は、やめろ」と仏頂面で返し、鉄男は真意を問い質す。
「貴様はシンクロイスだろう。仲間を裏切ることに良心の呵責はないのか?」
「そうだな……まぁ、お前を逃がして、ここの位置を知らせるのは確かに裏切りだ」
頭をガリガリと掻いて、ゾルズは視線を逸らす。
この辻鉄男という男は他の原住民と比べて、格段にやりづらい相手だ。
自分の命が危ういというのに、敵の立場を慮ってしまうとは優しいにも程があろう。
鉄男がカルフと交尾するにしても、終わってしまえば命の保証はない。
カルフ不在の内に、シャンメイやロゼが手にかけてしまう可能性も高いのだ。
特にシャンメイ、あいつは明確にシークエンスへ敵意を抱いている。
鉄男を生かしておいたって何のメリットもないのだ、彼女にしてみれば。
いうなればゾルズ自身も鉄男が生きようが死のうが関係ないっちゃ関係ないのだが、ルミネは、この任務を成功させたいと願っていた。
嗚呼、ルミネ。
ゾルズなんかとうっかり出会ってしまったが為に、自分の人生を狂わせてしまった。
挙句、魂を引き裂かれて、粉々になって消滅した哀れな女。
ゾルズは彼女の弔いをしてやりたいと、強く思った。
あの日、あの時、自分を生き延びさせてくれた、せめてものお礼だ。
ルミネの弔いをするのであれば、同士討ちよりも作戦成功を優先したほうがいい。
鉄男を逃がして、この場所をベイクトピア軍に発見させるのだ。
だが――
再度、鉄男を説得しようと「なぁ」とゾルズが声をかけるのと同時に扉が勢いよくバターン!と開かれて、何事かと考える暇もなくカルフが飛び込んできたかと思うと、鉄男の腕をぐいっと引っ張り抱き寄せる。
「鉄男、いくぞ!これ以上、判らず屋の父親気取りにつきあっていられるもんかっ。僕とお前だけで永遠の理想郷を作るんだ!」
「お、おいおいおい、何言っちゃってんだ、カルフ?ベベジェとなんかあったのか」と慌てるゾルズを置いてけぼりに、ぐいぐい鉄男を引っ張っていく。
しかし鉄男も然る者、大人しく引っ張っていかれるようなタマではなく、戸口付近で両足を踏ん張って立ち止まると、カルフに聞き返した。
「……貴様は俺の気持ちが知りたいと寄り添うふりをしたかと思えば、強引に隠れ家へ連れてきて今度は出ていくと言う。少しは状況を説明したら、どうなんだ?」
怒鳴り返すかと思いきや、意外や冷静な対応の鉄男にゾルズは驚いたが、もっと驚いたのはカルフの返事の内容だ。
「僕とお前が真性シンクロイスの原始になるんだ。ベベジェなんて旧タイプのシンクロイスとは金輪際、縁を切ってやる!仲間同士で仲良くしろと抜かすなら、器がうまく育たない現実とも真剣に向き合わなきゃいけないってのに……鉄男。お前の中にいるシークエンスの為にも、そして、お前自身の為にも必要なものが判明した。それは何だと思う?」
と、いきなり聞かれたって、鉄男にも答えようがない。
大体、質問していたのは、こちらだ。
大雑把にまとめると、鉄男の扱いに関してベベジェと喧嘩して決裂したから性行為する場所を変えようという話なのか?
鉄男にしてみりゃカルフとベベジェの仲間割れなど知った事ではないし、カルフと性行為する気もない。
鉄男が、じっと黙っているのに焦れたのか、カルフは速攻で正解をバラしてきた。
「なんだ、判らないのか。簡単だろ。キノシタだ、キノシタだよ。あいつのいる場所こそが、お前ら二人の居場所だってんなら、僕もそいつに従おう。いくぞ鉄男、ラストワンの残党がいる……うん、それは何処だ?」
何処にいるかも判らないのに、勢いで出ていこうとしていたらしい。
よっぽど腹に据えかねる暴言でも食らったのか、ベベジェに。
呆れると同時に、以前とは異なる仲間の変化にゾルズは興味を示す。
以前は、こんな奴じゃなかった。
もっと冷静で残忍な一面も持っていたはずだ。
今のカルフは熱血に逸る猪突猛進なミノッタに、ちょっとだけ似ている。
――なんて言おうもんなら、カルフ本人からはフルボッコまったなしの怒りを買うだけなので、表に出して言いはしないが。
「おいおい、待てよカルフ、お前らしくもない。合流場所が判らないのにベベジェと敵対しようってのか?」
「うるさいな、ならゾルズ、お前は知っているとでもいうのか」と質問に質問で返されて、今こそゾルズは胸を張る。
「俺が今まで何処にいたと思っているんだ?お前の望む場所、俺が案内してやるよ」
ついでに、ちらっと鉄男のほうも見て、片目をつぶって言い足した。
「……どうだい、これなら俺の身も疑われない正当な理由になるじゃないか。さ、一緒に抜け出そうじゃないの、鉄男クン」
「鉄男で結構だ」と鉄男は小さく断り、さっさと歩きだしたカルフの背中を追いかける。
奴が自ら出ていくというのであれば、こちらも脱出の為に利用させてもらおう。
ただ、カルフを受け入れる度胸がスパークランやラストワンにあるかまでは、鉄男にも想像つかなかったのであるが……


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