合体戦隊ゼネトロイガー


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act1 引き金

カチュアの宣戦布告は瞬く間に報道にも拾われ、お茶の間を独占する大ニュースとなった。
箝口令を出す暇なくTVで流されたのは軍部にとっての痛手だが、ゼネトロイガーに搭乗した状態でやられたのはラストワンにとって何よりも痛手だ。
好き勝手にラストワンの誹謗中傷をまき散らすコメンテーターをTVで見ながら、「今度こそ廃校……ですかね」と青い顔で呟く木ノ下に、乃木坂の叱咤が飛ぶ。
「今からでもカチュアを取っ捕まえて謝罪会見すりゃあ何とかなるはずだ!」
謝罪会見はさておき、カチュアを捕まえる件に関しては軍部も全面同意だ。
一個人の発想で全人類を死滅させられては、たまったものではない。
ゼネトロイガーに、その戦力があるか否かと問われたら、あるのではないかと本郷は睨んでいる。
あの機体は、軍のロボットでも互角とは言い難いシンクロイスを一機で撃破できるのだ。
ともあれ、辻鉄男奪回に加えてゼネトロイガーの停止も同時並行しなくては。
「出撃するのは構わん。だが、パイロットは揃っているのかね?」
本郷に尋ねられ、御劔は候補生を一瞥してから名をあげた。
「候補は考えてあります。二号機はパイロットがヴェネッサ=モンドロイ、補佐は乃木坂勇一。三号機はパイロットがミィオ=シルキーナで、補佐は水島ツユ。四号機はパイロットが朝日川昴、補佐は石倉剛助。五号機は――」
目があい、木ノ下は大きく唾を飲み込む。
まさか学長は自分を補佐に指名しようとしている?
無理だ。ロボットに乗り込む勇気が、今の自分には備わっていない。
エンジン及び攻撃を四期生の誰かがやるにしても、うまく補佐できる自信が全くない。
緊張する木ノ下を見かねたのか、横手からは質問があがる。
「失礼。補佐は、そちらの教官にしか出来ないのですか?それとも、外部の人間にも出来るのでしょうか」
質問した相手を横目で捉え、御劔は頷いた。
「えぇ。しかし、これは企業秘密ですのでね。部外者の協力は、ご遠慮願いたい」
そこへ、さらなる突っ込みを飛ばす者がいる。
「今は地上全体の危機だぞ!戦闘慣れしていない素人よりも、軍人や経験者を起用するべきではないのかね」
激怒するスパイルと無言で固まる木ノ下を何度か見比べた後、御劔は最初の質問主、デュランに視線を戻した。
「あなたが手伝ってくれるというのですか?ラフラス氏」
「その通りだ」と本人は頷き、ラストワンの候補生へも流し目をくれる。
たちまち少女たちはポーッと頬を赤く染め、元英雄のカリスマ性を目の当たりにしながら、スパイルの主張には一理あると木ノ下も内心胸をなでおろす。
相手がカチュアとはいえ、ぶっつけ本番の実戦だ。
もし捕獲に失敗しようもんなら、ラストワンの信頼低下は免れない。
「……木ノ下くんも緊張で体が動きそうにありませんし、仕方ありません」
渋々許可を出した御劔を横目に、デュランが少女たちへ声をかけた。
「では、パイロットをやってみたい人ー!」
「え?いや、パイロットは私が選出を」と遮る学長を全く無視して、少女たちはこぞって「ハイハイハイハーイ!」と手をあげる。
その熱狂っぷりったるや、デュランの周りをぐるりと囲んでの賑わいだ。
木ノ下が補佐だったら、こうも大騒ぎには、ならなかったのではなかろうか。
否、木ノ下を補佐につける場合はパイロットをメイラにするつもりだった。
そのメイラも、興奮に頬を赤らめハイハイと勢いよく手をあげている。
普段は乃木坂一筋な彼女でも、元英雄のカリスマには抗えないのか。
ポカンとする関係者群をそっちのけにデュランは候補生をぐるりと眺め、そのうちの一人を指名する。
「よし、じゃあ、そこの青い髪が綺麗な子、お名前は?」
「は、はいっ。赤城まどかと申します」
まどかは後藤組の候補生だ。
教官の春喜が滅多に学校へ顔を出さないせいで、授業は機体を動かす範囲まで到達していなかったはずだが、しっかり手を挙げていたらしい。
「え〜、ずるい。私のほうが進んでいるのにー」
頬を膨らましてのメイラの抗議を、デュランは、あっさり笑顔で受け流す。
「元気の良さは、やる気の表れだからね。一番元気よく手をあげていた彼女を選んだんだ」
誰の目にも全員元気よく手をあげていたように見えたが、そこはあえて突っ込むまい。
今は一刻も早く出撃して、カチュアを捕まえなければいけないのだから。
「待ちたまえ、君がゼネトロイガーに乗ってしまったら、誰がライジングサンを動かすんだ?」
ハミルトン学長の問いには、目線で約一名を示しながらデュランが力強く答えた。
「我が校きってのナンバーワンエリートがいるではありませんか。そうだろう?正治」
元英雄直々の指名には緊張で顔を強張らせたものの、エリートの面目か、それとも全校生徒の前だからなのか、正治は指名を受け止めた。
「全力でサポートします。教官も、どうか無理はなさらずに」
「なぁに、俺は補佐役だからね。戦う相手もシンクロイスではない。まずは話し合いに持ち込んでみよう」
考えようによっては、シンクロイスよりも手強そうだ。
なにしろ鉄男一人の為だけにロボットを動かし、全人類を絶滅させると宣言してしまう思い込みの激しい少女なのだ、カチュアは。
ボーンは原則、エンジンとなる候補生が煩悩を最大まで高めないと発動しない。
しかしカチュアはモアロード人だ。機械に強いとされる人種である。
補佐など不要でぶっ放せる可能性も、頭に入れておく必要があろう。
ともあれ学長のゴーサインを受けて、慌ただしくコントロール室へ駆け込んできたスタッフ数名が全機の電源を入れる。
候補生も物陰に隠れてパイロットスーツに着替えると、次々機体へと乗り込んだ。
「これまでとは勝手が違うけどイケるよね?ミィオ」
ツユに確認を取られて、ミィオは即座に頷き返す。
「大丈夫ですわ、ツユお姉様。実戦は三回目ですもの……お任せください」
「頼もしいねぇ。じゃ、いこうか」
台に寝転ぶのを手伝って、ミィオを優しく横たわらせる。
あれから多少は女性の扱いに気を遣えるようになってきたと、ツユは自負している。
全ては、人類の勝利の為に。


「ベベジェ!どうするんだ、あれを倒すのか!?」
駆け込んできたカルフをじろりと睨み、「お前が帰るのを待っていた」とベベジェが低く答える。
目の前の巨大モニターには、カチュアの駆るゼネトロイガー一号機が映されている。
部屋にいるのはベベジェとロゼの他に細面で美麗な青年と、髪の毛を二つに分けてお団子にまとめた少女、金髪で童顔の少女がいる。
ベベジェとロゼ以外は初めて見る顔ばかりだが、カルフが動揺していないところを見るに全員知人、つまりはシンクロイスなのだろう。
手を引かれた状態で共に入ってきた鉄男を見、細面の青年が、からかってくる。
「一緒に連れてきちまったのか?こいつなんだろ、引き渡せって言われてんのは」
「そうなんだけどね」と答え、カルフは渋い表情でモニターを見上げる。
「本人の見解を聞きたいわね。あんたは自分の命と引き換えに、本当に全人類が全滅させられると思う?」
意地悪な質問をしてきたのは、お団子頭の少女だ。
鉄男は少し考え、すぐに答えを導き出した。
「……いや。そうなる前に、他の誰かが止めるだろう」
「そうだな。私も貴様と同意見だ」と頷いたのは髪の長い女で、軽蔑の眼差しをモニターに向ける。
「あれは完全単独行動だろう。この星の下等生物が、そこまで思いきった真似をするとは考えられん」
「だが、奴は本気だ」と繋げたのはベベジェで、鋭い眼光を鉄男に放つ。
「貴様になら、あれを止められるのではないか?人類を滅ぼされるのは、我らにとっても不都合が生じる」
「……貴様らの都合など知った事ではないが」と、鉄男も低く呟き返し、モニターを見た。
一号機は微動だにしない。
その後方、走り寄ってくる巨大な影が複数見えて、あっと鉄男が叫ぶ前にカメラがズームアップする。
「早いね、もう来たのか」
口の端を緩めるカルフへ、細面の青年――ミノッタも軽口をたたく。
「ロゼの言うとおりだぜ。さっそく制止力が働いたな」
近づいてきたのもゼネトロイガーだ。全部で五体もいる。
鉄男と春喜が不在にも関わらず全機出したとなると、木ノ下も補佐に駆り出されたのか。
さらに後方には黄色い機体、電撃ロボの姿もあって、御劔は全力でカチュアを取り押さえる方針に出たようだ。
「総勢で抑え込むのか。できるのか?」
ひゅぅっと口笛を吹いて顔に似合わぬ挑発を吐いたのは、金髪の少女だった。
「ロボットを六機も出してきたんだ。できなきゃ困る」
髪の長い女ことロゼが答え、鉄男にも問いかける。
「ここで我らが出ていくのは愚策だな。奴らの捕物帳を邪魔してしまう。さりとてゼネトロイガー同士で戦えば、損傷は免れまい。貴様の学校の長は、何を考えているのだろうな?」
損傷を抑えて捕縛する方法なら、一つだけ考えられる。
合体だ。
六機すべてが合体してしまえば、カチュアの乗る一号機も合体に収められるだろう。
だが、実際どのような形で合体するのかまでは、鉄男も教えてもらっていない。
そもそも、現時点で合体できるのかどうか判らないし、方法も不明だ。
黙り込んだ鉄男の腕を、そっと触ってくる者がいる。
目をやると、金髪少女と視線がかち合った。
「あぁ、その、なんだ?仲間同士が戦ってんのを見るのは、つらいよな」
またしても敵からの気遣いで鉄男の眉間には皺が寄り、無言で睨みつけてくる彼へ少女が軽く肩をすくめる。
「そんな険悪な顔で睨むなって。カルフから聞かされなかったか?俺達は地上の生物と敵対したいんじゃない。共存したいだけなんだって」
「ならば、何故地上を攻撃した」
仏頂面での質問に答えたのは、お団子頭のシャンメイだ。
「カルフに聞かされていないの?知能の劣る器は不要と見なして排除したまでよ」
「乗り移るのであれば、知能の善し悪しは関係ないだろう」
むっつり不機嫌に聞き返す鉄男をなだめるように、カルフが優しく微笑んだ。
「それが関係あるんだよ。知能と器の出来は比例しているんだ」
「なら、俺は器としては不出来だ。なにしろ頭が悪いからな」と切り返した鉄男と、真っ向から向かい合う。
「そんなことはない。きみは、僕らと対等に会話が成り立っているじゃないか。他のバカな連中は、怯えるか泣くか騒ぐかゴマをするかで醜い行動しかしなかったというのに」
「そうだ、それはずっと気になっていた」と同意したのは、意外にもロゼで。
「貴様は我々に怯えを見せた事が一度もないな。何故だ?シークエンスが前知識を与えたおかげか」
何故と聞かれても、困ってしまう。
鉄男は改めて考える。
自分は何故シンクロイスを怖いと思わないのだろう?
シークエンスが自分の脳内にいると知った時は驚いたが、その後の経過で彼女がシンクロイスだと判明しても、鉄男の中に怯えはなかった。
アベンエニュラに吸い込まれた時も、カルフに誘拐された今だって、迷惑だと思う程度で怖い感情は沸いてこない。
鉄男が怖いと感じるのは、知らない場所へ行くのと、幼い頃の暴力ぐらいだ。
もしかしたら、父親の暴力が"怖い"という感情を殺してしまったのかもしれなかった。
過去散々怖い目に遭ったから、多少の出来事では動じなくなった?
常人から見れば、シンクロイスに拉致されるのは多少の出来事では、ないかもしれないが。
「棒立ちで囲んでいるだけじゃない。取り押さえる気があるのかしら」
ぽつりとシャンメイが呟いて、鉄男もハッと我に返る。
モニターの向こうでは、一号機を全機でぐるりと包囲しただけで動きがない。
取り押さえるにしろ何にしろ、無言で囲むのは意味がない。
それとも、通信でやりあっているのだろうか。
何もできない歯がゆさに、鉄男は苛々しながらモニターを睨みつけた。


ゼネトロイガー全機は、全機とも一号機との回線を繋いでいなかった。
では、中で何をやっていたのかというと。
「ん、ぅうん」と小さく喘いでヴェネッサが寝返りを打つ。
「どうした?気がノッてこないのか」
乃木坂の問いに頷き、ヴェネッサは困惑の視線を教官へ向けた。
「おかしいです。いつもなら、すぐ感じてくるのに全然気持ちいいと思えなくて……」
「そいつは変だな。お前、普段ならココが一番イイんだろ」
乃木坂の指がヴェネッサの乳首をクリクリと摘まんでくる。
普段の訓練なら、それだけで性欲が高まってくるのだが、今はうんともすんともだ。
「緊張してんのか?頭を空っぽにして受け止めてみろ」とも言われたが、なんか気持ちよくない、というぼんやりした感情ばかりが浮かんでいて、ちっとも愛撫に集中できない。
「駄目なんです……感覚がおかしくなってしまったみたいで」
起き上がろうとするのは手で制し、乃木坂も考え込む。
ヴェネッサは三人の中で一番安定しており、どのシチュエーション訓練でも性欲は乳首責めから始まり、股間への集中攻撃でゲージ突破する。
それが今回に限って高まりすらしないとは、どうしたわけか。
「よし、相手がカチュアだってのを一旦忘れよう。気持ちよくなる練習だと思って、俺の愛撫を受けてみないか?」
「ハイ……」
素直に頷いたものの、ヴェネッサの心配は晴れたわけではない。
目を閉じ、乃木坂の動きだけに集中しようとする。
だが、やはり駄目だ。
ちっとも感じない。
不感症ではないのだから、指の動きは感じている。
なのに気持ちよくなれないのは、自分でも判らない。
こんな土壇場で駄目な自分に嫌気が差してきて、知らず、じわっと涙ぐむ彼女の両肩に手を置いて、乃木坂は懸命に慰めた。
「あぁ、泣くな泣くな、調子の悪い時は誰にだってある。うん、無理にやろうとするから余計上手くいかなくなるのかもな。よし、それじゃ一旦休憩タイムだ」
「え……しかし、早くカチュアを止めないと」と呟く彼女へウィンクを飛ばし、乃木坂がガサゴソと操縦席の下を漁って取り出したのは、カードゲームであった。
「焦ったって、出来ないもんは出来ないんだ。それよか、まずはリラックスしねぇとな。ほら、ヴェネッサ。まずは気分転換しようじゃないか」
こんな緊急事態でカードゲームをやろうったって、愛撫以上に気乗りしない。
しかし、焦っても結果が出ないというのも一理ある。
ヴェネッサは台を降りると、乃木坂の対面に座り込み、差し出されるカードから一枚引き抜いた。

二号機以外のゼネトロイガーも、ゲージの上昇は芳しくない。
急造コンビの上、戦う相手がシンクロイスではなく仲間のカチュアという点も、彼女達の気を削ぐ要因となっているのだろう。
だが急造も急造、今日初めて機体に乗り込んだ赤城まどかだけは、他の皆とは違う高揚に包まれていた。
「さて、勢いで乗り込んでしまったけど、補佐というのは何をやればいいのかな?」とデュランに尋ねられ、嬉々として答える。
「愛撫です、愛撫をしてくだされば私のやる気があがって、エンジンがかかります」
ついでとばかりにしなだれかかり、ふぅっと耳元に息を吹きかけてやったら、デュランには喜ばれた。
「なるほど、愛撫か。それで企業秘密だったんだね。いや、面白い。世の中には色々なロボットがあるもんだ!」
息を吹きかけたからというよりは、純粋にゼネトロイガーの構造を面白がっているようだ。
ともあれ台に横たわってすぐ、デュランが圧し掛かってくる。
「大丈夫、初めてでも優しくするよ。なんたって、俺も初心者だからね。だが安心したまえ、引き受けたからには、きっちり補佐を務めるとも!」
極至近距離で、さわやかに微笑まれ、まどかの胸は否応なしに高鳴ってくる。
――そうしたわけで。
デュランの手が、指が、唇が体に触れるたびに、まどかの体は予想以上の快感に悶え、ここまで全力疾走してきた次第だ。
「あぁ、もう、駄目。こんな、触られた程度で私が、ここまで感じちゃうなんて」
息も絶え絶えに汗だくで呟く彼女のおでこに、デュランは軽くキスをする。
「まだまだ、これからだよ。愛撫でゲージが上がるのは判ったが、このゲージをマックスまで上げると、どうなるのかな?」
「え、えぇと、確か必殺武器が解除されるんだったかと……」
なるほどと何度も頷いて、デュランはまどかの上に跨ったまま、前方の窓へ視線を移す。
一号機は身動きせず、包囲網に収まっている。
通信を繋いで話してみたいのだが、学長の許可は下りず、代わりに一気にボーンで畳み込めとの命令を受けた。
ボーンというのが、然るに対シンクロイス用の必殺武器であろう。
そんなもんを一号機に放って大丈夫なのか?
下手したら大破して中の子も死んでしまうのではとデュランは危ぶんだが、ゼネトロイガーの構造を知る男が命じてきたのだ。
ここは素直に応じておこう。
まどかは首筋を舐められるのと腰回りを触られるのと、それから尻穴を指でかき回されるのに興奮するようだ。
ここまで来るのに二、三回は絶頂を迎えそうになったので、寸止めで回避した。
絶頂したら、エンジンが止まってしまうのではと予想したのだ。
ゲージは現在、赤いバーが半分まで埋まっている。
バーが全部埋まって黄色くなればマックスだと、まどかには教えられた。
他の機体へも素早く視線を動かす。
どの機体も棒立ちで仕掛ける気配がないのは、こちら同様、エネルギーを高めるので必死なのだろう。
シンクロイスが乱入してくる可能性も高い。
あの強気な連中が、名指しで呼び出されているのだ。楽観視は出来ない。
捕縛は速やかにやらねばなるまい。
急いでゲージを上げるには、どうすればいいか?
ちらりとまどかの様子にも目をやった後の、デュランの決断は早かった。
「よし、やろう」
「え?」と聞き返す暇もあらば、むちゅっと唇を奪われて、まどかは目が点になる。
なんのムードもへったくれもなく、あっさりキスされるとは思わなかった。
しかも、ファーストキスだ。人生初のキスが、こんなあっさりしていていいんだろうか。
――いや、いいに決まっている。
相手は元英雄、現教官でセレブもセレブ、実家は貴族のデュラン=ラフラス様ではないか。
そこらの馬の骨な男子とするぐらいだったら、こっちのほうが絶対いい。
「んんぅ」
驚いていたのも、ほんの数秒で。
決断は早く、まどかはキスしたまま唇をほんのり開いて、デュランの舌を招き入れる。
手が、優しく髪をなで、首筋まで降りてくる。
胸を揉まれる感触に身を委ね、唇が離れるや否や、まどかは、はぁっと熱い吐息を漏らし、潤んだ瞳でおねだりした。
「……お願い。最後までやっちゃって」
「いいんだね」と念を押されて、素直に頷く。
最早ゲージやカチュアの問題は、彼女の脳裏からは消え去っていた。
まどかの気持ちは、ただ一つ。
英雄デュランと一つになりたい――それだけで、いっぱいだった。


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