合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 まじりあう、いれかわる

表に飛び出した二人が見たのは、街中に溢れかえった黒い生き物軍団であった。
正確には生き物ではない。シンクロイスの作り出した"道具"だ。
今もギーギー鳴きながら、シェルターへ逃げる人々を追うでもなく、ただ、あちこちの建物を破壊して回っている。
「しょうこりもなく、これを使うたぁ、ベベジェもヤキがまわったか?だが、いい。上手く利用させてもらうぜ」
小さく呟いたかと思うと、ゾルズがデュランへ向き直る。
「今からルミネと交代する。俺の気配を、こいつらに覚えさせるために協力してもらう」
「判った。何をすればいい?」
打てば響く返事のデュランに口元を寄せて囁いた。
「ルミネを発情させろ。あんたがやりゃあ、あんたを好きなルミネは簡単に愛液を流す」
「え?」と聞き返す暇もあらば、ゾルズは引っ込み、ルミネが表に現れる。
ひとまずデュランは疑問を彼女にぶつけてみた。
「ルミネさん、ゾルズ氏は何を言いたかったのかな?俺の解釈だと、君とここでイチャイチャしろと言われたように聞こえたんだが」
ルミネは、さっと頬を紅潮させつつも大きく頷いた。
「その通りです!えっと、私に遠慮は無用です。っていうか、やってくれたら幸せで死にそうです!」
「いや、死んじゃ駄目だろ」
「あ、ハイ。その通りです……」
ルミネは、ちらっと黒軍団を横目に眺めて、こちらが全く注目されていないのを確認すると、ひそひそとデュランの耳元で囁いた。
「ゾルズさんの言う気配ってのは、恐らくフェロモンを指しているんだと推測できます。あの道具はフェロモンで生き物を識別しているのかもしれません。そ、それで、私のフェロモンにはゾルズさんのフェロモンも混ざっているはずですから、ここでイチャイチャしろと指示を飛ばしてきたのではないかと!」
「なるほど……」
思案顔で考え込んでいたデュランは、ぽつりと結論を出す。
「つまり自分でやるのは嫌だから君と交代したんだね、ゾルズ氏は」
そう言ってしまうと、身も蓋もない。
「俺は別に相手がゾルズ氏のままでも良かったんだがなぁ」
なおも呟くデュランの腕を、ルミネが引っ張ってくる。
「は、早くやりましょう。道具は命令で動いていますから、街を破壊しつくしたら戻ってしまうかもしれません」
「破壊しつくされるのは御免だが……そうだな、命令が終わったら帰ってしまうかもしれない。じゃ、やろうか」
ぐいっと抱き寄せられたルミネが硬直するのもお構いなしに、デュランの右手が彼女のズボンの中へと侵入する。
「ふぁッ!?い、いきなりそんなとこ弄るとか反則じゃないですかー!」
腕の中でジタバタもがくルミネを片手で抱きしめ、右手の指は動きを休めず下着の中を這いまわった。
「うーん、だって手っ取り早くフェロモンを出すには、ここを弄るのが一番だろ?」
モジモジ太腿を摺り寄せデュランの右手を挟み込みながら、ルミネも言い返す。
「えーん、だって見ましたよぉ?アニス少尉の時は最初にキスしてたのにィ」
「あれを誰か記録していたのか。少尉も災難だね」
「災難だねって何を他人事みたいに!やったの、デュラン様じゃないですか〜!」
言い争っている間にも、ぐちゅぐちゅ指でかき回され、下着ばかりかズボンの前までぐっしょりと濡れてくる。
「あぁん、もぉ、キスしてくれたっていいじゃないですかァ!私、今回の任務でデュラン様に会えるって聞かされて、それでやる気になってたんですよォ!!」
「それはそれは。うん、しかしね、キスするなら好きな人とじゃないと」
胸を揉んでくる彼の左手を己の両手でしっかり握りしめ、ルミネは熱い想いを吐き出した。
「私、大好きですよデュラン様のこと!夢で何度もシちゃうぐらいには!!」
「いや、うん。君はそうかもしれんが、俺は君を、まだよく知らないからね……」
「じゃあ、アニス少尉のことは、よく知ってるんですか!?」
「キスしたのは、あれで二回目だよ」
とても知っているとは言い難い返事をしながら、デュランは黒軍団の様子を伺う。
破壊音が全くしなくなったと思ったら、全員がこちらを注視しているではないか。
ゾルズはルミネの愛液を垂れ流せと言っていたが、いつまでやればいいのだろう。
認識させるだけでいいのなら、もう存分に認識されているはずだ。
「やぁん、デュラン様、手が、手が止まっていますゥ!もっと激しく、私がイクまでグチュグチュしてくださぁい」
恥じらいという言葉を知らないのか、ルミネは往来で行為を促してくる。
一般市民がシェルターへ逃げ込んだ後とはいえ、まだ黒軍団が残っているというのに。
「いやぁ、いつまでやればいいのかなと思ってね」
「ある程度記憶したら、帰還プログラムが働くってゾルズさんが言ってます。だから、もうしばらく続けないと駄目ってことです!」
不意にデュランの脳裏を鉄男の仏頂面がよぎる。
彼も寄生したシンクロイスと脳内で会話が出来ていた。
然るに、混ざり合うものは思考も混ざり合っているのだ。
日常生活に、よく支障が出ないものだとデュランは妙な処で感心する。
今はシンクロイスに誘拐されてしまった鉄男に想いを馳せ、指の動きを速める。
そうだ、こんなところで立ち止まっていられない。早く彼を助けてあげなくては。
「あ、ハァン!いいっ、そこイイ!トントンするの、イイー!できればデュラン様のオチンチンでトントンしてェ!!」
濡れに濡れた奥へ入り込み、指で軽く突いた途端、ルミネは髪を振り乱しての狂乱だ。
今日初めて会ったばかりだというのに感度が良すぎるのは、毎日元英雄とのエロ妄想で盛っていると自ら告白するだけはある。
最早任務だと忘れているのではと心配になる反応で、デュランも思わず苦笑する。
「いやぁ、さすがにズボンを往来で降ろすのは勘弁だよ」
周囲に民間人は一人もいない。
黒軍団は残っているが、あれはシンクロイス曰く感情の伴わない道具、機械だ。
「今なら見てませんよ、誰も!」
「黒軍団が見ている。それにね、あまり激しくすると任務の続きに支障が出るんじゃないか?気配を記憶させたら帰還する彼らを追跡して、場所を割り出した後は潜入するんだろ」
それぐらいの作戦なら、説明されずともデュランには予想できる。
伊達に元軍属ではない。
「あぁぁ、無駄な気遣い、でも私達を心配して下さるデュラン様優しいぃ〜〜」
お尻を擦りつけてくるルミネを抱き寄せ、首筋に口づける。
なんとなくデュランには予感があった。
ここで彼女の希望に全部答えて満足させてしまうと、後の作戦に大きな支障が出るのではないかという危惧が。
人はご褒美があるから、頑張れる。
パイロット時代の自分は、皆の喜ぶ顔が見たくて頑張っていた。
先も言ったが、混ざり合うものは意識も混ざり合っている。
彼女のテンション低下は、ゾルズのやる気にも影響を及ぼす可能性がある。
自分とのイチャイチャラブセックスがお望みだというのであれば、任務完了後のご褒美にくれてやろう。
「君が任務から無事に戻ってきたら、続きをしよう。俺の家で、たっぷりとね」
「デュッ、デュラン様のおうちで!?はい!やります!やりましょう!!」
張りきるルミネの目前で、黒いやつらの一匹が唐突に「ビーッ!」と大声をあげるもんだから、ビクッとなった彼女と一緒にデュランも見やると、黒軍団は一斉に踵を返して、どこかへ立ち去ろうとしていた。
「破壊活動は、もう終わりか。そういや発信器をつける暇もなかったが、どうやって追跡するんだい?」
「はぅん、物足りないですぅ……」
「ルミネさん?」
項垂れてブツブツ文句を呟く彼女を軽く揺さぶってやると、ハッと我に返ったルミネは、すぐにゾルズの言葉をデュランに伝えた。
「ハ、ハイ、あの、気配を付着したからゾルズさんには追跡できるみたいです。今すぐ変われって怒られちゃいましたから、デュラン様、またあとで!」
忙しなくルミネは精神の深層へ引っ込み、ゾルズの肉体と精神が表に出てくる。
じっと己の下半身、主にズボンのまたぐらを眺めてゾルズは愚痴たれた。
「あーあ、こりゃ酷ェ。グッチョグチョで気持ち悪ィな。誰がここまでやれっつったよ……どこかで着替えてきたいとこだが、そうもいかねぇか」
「君達の入れ替わりは、服までは入れ替わらないんだね」
苦笑しつつ、そんなツッコミを入れてくるデュランへゾルズも軽口で答える。
「肉体が入れ替わるってだけで、服まで構築してるわけじゃねぇからな」
「うむ、よく判らん」と笑顔で頷く元英雄を呆れ目で一瞥し、踵を返す。
「それじゃ任務開始だ。定期連絡は入れてやるから、あとはスパイルに教えてもらえ」
「あぁ、気をつけて」
手をふるデュランに見送られながら、ゾルズは黒軍団の後を追いかけた。


教官が拉致された事件に加え、外で破壊行為まで起きたのでは、傭兵学校の候補生は全員シェルターに逃げ込んで騒ぎが収まるのを待つしかない。
「最近は爆撃されなくなってホッとしていたのに、なんなんだよ……この騒ぎ」
ぼそぼそ囁くスパークラン生徒の目が、それとなく原因と思わしき人物に集中する。
言うまでもない。合同教育という名目で迎え入れたラストワンの生徒だ。
彼女達も、不安げな面持ちで一ヶ所に寄り固まっている。
不安な気持ちはスパークランの生徒よりも上だろう。
何しろ、さらわれたのはラストワンの教官だ。
「辻……鉄男だっけ?誘拐された教官。聞いたことない名前だよな、新人か?」
ひそひそ囁かれて、隣に座っていた男子が反応する。
「その場にいたんで適当に誘拐されたんじゃないかな。殺されなかっただけマシなのかも」
「待てよ、殺されていないとは限らないじゃないか。もう生きてない可能性だって」
声の高くなる噂話を「シッ!」と制したのも、スパークランの男子だ。
ちらっとラストワンの生徒を横目で盗み見ると、最上級生らしく説教をかます。
「人の生死を憶測で語るのは、やめておけ」
スミマセンだのハイだのと小さく答え、二人とも静かになる。
重苦しい沈黙が漂う中、再び雑談を始めたのはスパークランの生徒ではなく。
「ね、マリアちゃんは辻教官が誘拐された時、現場にいたんだよネ。どんなシンクロイスだったの?」
ユナに小声で尋ねられ、マリアは小さくかぶりを振った。
「見てない。あたしは追い出されたの、鉄男に。非常階段を降りて逃げろって……戻ろうとしたけど、鍵がかかって開かなくて。鉄男がかけたんだと思う。あいつ、あたしを助ける為に、あんなこと」
声は震え、マリアの頬を涙がつたう。
何度もしゃくりあげながら、当時の状況を語り続けた。
「みんな、放送聞いても大混乱してて。鉄男だけだった、状況判断できていたの。あたしも、あたしだってパイロット候補生なんだから、何かできたはずなのに、みんなと同じぐらい判ってなくて、ただオタオタしているだけで」
「マリアちゃん、しょうがないよ」
優しく肩を抱いて、亜由美が慰める。
「緊急時に動くのって難しいっていうし……大丈夫、乃木坂教官が誘拐された時だって死ななかったでしょ?辻教官だって死なないで助け出せるはずだよ」
「そんなの、わかんないじゃない!」
突然の大きな声で、シェルターにいる全員の注目がマリアに集まる。
「マ、マリアちゃん落ち着いて」と最上級生のメイラが慌てて止めても落ち着くわけがなく、激情したマリアには怒鳴られた。
「勇一は助かったからって、それが何なの?全然状況が違うのに!それに、勇一の時は軍も速攻で助けに行ってくれたから助かったようなもんじゃないッ。鉄男は、鉄男の救出に軍はちゃんと動いているの!?他の教官だってシェルターにいないし、みんな何やってんの!」
「教官は全員、軍人と手を組んで動いている」
マリアの疑問に答えたのはスパークランの生徒、クルーズ=インナー。
紫髪のツーブロックに、落ち着き払ったクールな目元。
すらりと細身な体格も相まって、パッと見の印象が涼やかな青年だ。
すっくと立ちあがり、彼は全体を見渡した。
「各教官のツテや軍のコネも総動員して、誘拐された教官の行方を全力で探している。我々に出来るのは、彼らの成功と誘拐された教官の無事を祈る事だけだ」
しんと静まり返った中で、恐れ知らずにも反論があがる。
「……だけ、とは限らないんじゃないかなぁ?」
「ユ、ユナさん!?」
学友の驚愕も何のその、ユナは持論を展開した。
「あのね、校長には口止めされているんだけど、ユナ達は乃木坂教官の他にも教官が誘拐されたコトがあって、まぁそれは結局ユナ達の勘違いだったんだけど、でもケッコーいいとこまで追跡できたんだ」
「どういうこと?何があったの」「詳しく聞かせて!」
さっそくスパークランの一部の生徒が食いついてきたのをいいことに、ユナは得意になって門外不出の情報をしゃべりまくる。
辻教官と木ノ下教官が行方不明になった時のあらましを、余すところなく全部話した。
彼らがデュランと共に消息を絶った処から、エリスの能力で追跡し、カチュアの能力でエレベーターの道を突破した処まで。
無事に二人を連れて戻ってきたと話を締めた後も、ざわめきは収まらず、スパークランの生徒は誰もが半信半疑に顔を見合わせた。
「そんな大事件だったのに、報道は扱わなかったのか……?」
「学長が箝口令を敷いたとしても、どっかかしら漏れるよな」
「けど、ラストワンって確か、二、三回は襲われているよね。今回だって宿舎が潰れたから、うちに来たんでしょ」
「大体なんだよ、モアロード人の能力って。機械に強いとは、そりゃよく聞くけどさぁ」
「国境沿いに、そんな研究所あったっけ?聞いたことないんだけど」
「そもそも混ざり合うものって何?初めて聞いたよ、そんなの」
およそ一般人がとる当然の反応を示している。
マリアやモトミだって、自分が部外者なら到底信じられないだろう。
だが実際に見てしまった以上は、納得するしかない。
あれは本当に起きた出来事だったのだ。
全てを聞き終えて、しばらくしてからクルーズが聞き返す。
「それで――きみは奇々怪々な体験談を我々に聞かせた上で、なんと結論つけるつもりかな?状況が異なると、先ほどの彼女は叫んでいただろう。なら、これまでの救出劇が上手くいったとしても、たまたまの偶然に過ぎないんじゃないのか」
じっと年上の男子に睨みつけられても、ユナは全く動じずマイペースに天井を見上げる。
「ん〜。まぁ、実際に見てない出来事を信じらんないのは判るケド。ひとまず、そこは置いといて。とりあえず、実戦経験のないユナ達でも、ここまで動くことが出来たんだよ。だから今回だって、シェルターで震えて祈りを捧げる以外に出来ることがあるんじゃないの?」
クルーズはスパークランで一目置かれるエリート最上級生だ。
その彼が相手でも全く退かないチビッコに、ますます周囲のざわめきは激しくなる。
「なるほど」と小さく呟き、また一人立ち上がった者がいた。
「ラフラス教官も関わっていたとなると、本人への確認が必要だな。だが、それは後でいいとして、まずは辻教官の救出作戦を立てようじゃないか」
「正治!正気か!?」とクルーズが非難めいた声をあげる横で、両手をがっちり組んだレティがキラキラした視線を正治へ向ける。
「キャピィ☆セイジンはレティたちの冒険を信じてくれるのネ☆セイジンなら、きっと信じてくれるってレティ信じてた!セイジンのイケメンパワーなら、シンクロイスを軒並みノックダウンさせちゃう作戦でもイケるイケる、ファイト、ねっ!」
「え?あぁ、いや、そうではなく」
横手からの思わぬヘンテコあだ名連呼には調子が狂ったのか、生返事でレティへ手を振った後、二階堂正治はクルーズと向かい合う。
「これだけの人数がいるんだ。ラストワンとスパークラン、両校の生徒を併せて。いくら軍が協力しているといっても、全員をまわせるわけじゃない。俺達も協力するべきだ、パイロット候補生である以上」
正義感漲る正治に、クルーズも負けじと言い返す。
「追跡して、それで本命にぶち当たった時どうする気なんだ?俺達は所詮学生でしかない。生身では戦えないぞ」
「俺達が直接戦う必要はない。追跡だけでも充分だが、先ほどの話に出てきただろう。機械を操れる人材が。彼女の能力でなら、街を破壊しない程度の機械で空からの来訪者を燻りだすのだって可能なはずだ」
ぐすぐす泣いていたマリアが急に走り出し、シェルターの扉に掴みかかる。
「ま、待って、マリアちゃん!外に出たら危ないよ!!」
すぐさま友人に取り押さえられながらも、泣き叫んだ。
「鉄男を助けなきゃ!今助けなかったら、あたしずっと後悔するッ」
「……俺達が口論している間にも、彼女は飛び出していきかねない。クルーズ、責任は全て俺が取る。彼女達に協力してやろう」
「正気か?」
もう一度尋ね、正治が撤回しないと判るや否や、クルーズは持論を百八十度反転する。
「いいだろう。だが危険だと判明したら、即撤退を促すからな。それまでは全員協力体制で作戦開始だ!」
彼の叫びを号令と取り、シェルター内には全生徒のあげた鬨の声が響き渡った。


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