合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 合体準備

辻鉄男がシンクロイスに拉致された件は、マリア経由でラストワンとスパークラン双方にかかわる全員に伝わった。
最初に連絡を受けたのはデュランで、真っ先に飛び出していったものの救助には間に合わず、マリアと共に戻ってきた今は、教官と派遣されてきた軍人による緊急会議が開かれた。
「奴らは地下街に潜んで、ずっと機会を狙っていたんですよ!」
いきり立つ乃木坂には、ベイクトピア軍所属の軍人たちが根拠を促す。
これまでの経緯を話すと、軍人はウゥムと腕を組んで考え込む。
「奴らが地下街に巣くっていると断言したのですか。では、本格的な家探しが必要ですな」
「ですが、見つけて我々に勝ち目はありますか?」
水を差したのも軍人で、軍人同士で額を寄せあい激しい討論を始める前に、本郷が横入りしてくる。
「勝算はある、一応な。だが、勝つには連中を一度地上へ引きずり出さねばなるまいよ」
「どういう意味ですか?」と尋ねてきた軍人へ重々しく頷くと、御劔を見やった。
「ゼネトロイガーだ。あれはシンクロイスの構想を基盤に作られている。奴らに対抗できる唯一の手段だ。だが、あれを使うには地下街は狭すぎる」
「それに」とツユが口を挟み、全員の顔を見渡す。
「救出を優先するにしても、具体的な策が必要でしょう。無鉄砲に飛び込んだら、辻が殺されてしまいます」
「無鉄砲に飛び込む気は、我々にもありません!」
憤慨する部下を手で制し、上官たる軍人、スパイルと名乗っていた中尉がツユへ聞き返す。
「では、諸君らの知る人型情報を教えて貰えますか?」
具体的なコミュニティーの場所は判っていない。
だが、個体名なら判明している。
ベイクトピア軍にも、この情報は提供済みであり、彼らの大まかな相関図も把握している。
機械を瞬時に作り出し、こちらの体内へ埋め込む能力も報告済みだ。
これ以上、何の情報を提供しろというのか。
首を傾げるラストワンの面々へ、スパイル中尉が言い直す。
「辻鉄男氏の中に含まれるシンクロイスの立ち位置は、どうなっていますか。彼女だけは、報告されたシンクロイスの相関図にも含まれていない……連中の目的が彼女であったとは考えられませんか?」
シークエンスは、自分の情報だけは頑なに話そうとしなかった。
大したポストではなかったのだと解釈したが、そうではなかったとしたら?
「それと今いる連中、シークエンスも含めてですが、彼らとクローズノイスの関係も不明です。五十年前の人物だという話ですが、五十年も前に袂を分かった相手を覚えているとなると、彼らとクローズノイスは、かなり近しい間柄ではないかと推測できます」
「待ってください」とマッタをかけてきたのは、研究者の伊能四郎だ。
「クローズノイスは時間移動が出来るのでしょう?だとしたら、シークエンス達とクローズノイスは同じ時代のシンクロイスという可能性もあるんじゃないですか」
シークエンスはクローズノイスについても、あまり詳しく教えてくれなかった。
突っ込んで聞き出そうとしなかった、こちらの落ち度でもある。
カルフは、ゼネトロイガーの基礎がクローズノイスの考案だと断言していた。
クローズノイスは、シンクロイスの中でも特に秀でた存在であったようだ。
その天才の考案を元にした武器だ、ゼネトロイガーは。合体できれば、より強力と化す。
合体するにしても、鉄男の救出は最優先だ。
鉄男の居場所は、気配の判るものが割り出してくれよう。
だが突入後は、どうやって鉄男を救い出し、シンクロイスを穴倉から誘いだすのか。
スパイルが言い放った案は、およそ人道からは、かけ離れた内容であった。
「混ざり合うものを囮に使います」
「囮っ!?」とラストワンの面々が驚く横で、デュランも問う。
「協力者を確保したのですか?」
「本人の承諾は得ています」と答え、スパイルが部下に命じて連れてこさせたのは、一人の少女であった。
年の頃は十代前半、十から十五の間だろうか。
金髪を腰ほどまで長く伸ばしている。
清潔感漂う白いシャツと若草色のショーツを身にまとい、背筋を伸ばして立つ。
「こんな小さな子を囮に……?」
良心の呵責を覚えるのは、ラストワンの教官ばかりではない。
スパークラン教官も然りだ。
「なりは小さくても彼女は軍属、軍人です」
少女は胸を張り、はきはきと自己紹介を始めた。
「ルミネ=ブロークと申します。ベイクトピア軍にスカウトされて、先日入隊したばかりの新兵です。宜しくお願いします」
「なんて名前なんだ?君の中にいるシンクロイスは」と尋ねる御劔へは、軽く微笑む。
「ゾルズと名乗っております。気難しい人で、中尉も何度か尋問したのですが全然情報を引き出せなくて……今日も呼び出してみますか?」
「その前に」と剛助が遮り、スパイルを強く睨みつける。
「協力者で新兵なのは構いませんが、少女を囮に使うのは賛成できません」
「少女ではありません」と反論したのは、中尉ではなく本人だ。
「私は成人しています。童顔なので、皆、最初は未成年だと間違ってしまうようですが……」
ぷぅと頬を膨らませ、上目遣いに睨んでくるところなど、マリアやモトミと大差ない。
童顔だからというだけではなく、仕草や雰囲気までもが幼く感じる。
全く信じていない周りの雰囲気に「年齢詐称じゃないですよ?なんなら履歴書も見せましょうか!?」と怒る彼女はデュランが制し、先を促した。
「ゾルズ氏と話をしてみたい。交替してもらえるかい」
途端にぱぁぁっと顔を輝かせ、「あ、ハイ、英雄様の頼みとあらば!」と元気よく返事をすると、ルミネは、すぅぅ……っと大きく息を吸い込んだ。
直後、膨らんでいた胸が平らに引っ込み、幼かった顔には頬骨が出っ張ってきて、輪郭線も異なる人物へと変化してゆく。
ルミネだったものは、痩せぎすの中年男性へ姿を変えると、皆を見渡した。
「……あぁ。俺がゾルズだ。さて、何を聞きたいんだ、地上の英雄デュランさん」
低い声でぼそぼそ囁くシンクロイスへ、デュランが尋ねる。
「俺を知っているとは光栄だな。さて、君はシンクロイスだそうだが、仲間の弱点までは存じ上げないだろうね」
「あぁ……いや、そうだな」
宙を見つめて、しばし考え込んだ後。
おもむろにゾルズは向き直り、つらつらと語り出す。
「各々の欠点と長所なら、あげられる。カルフは機転が回る反面、融通が利かない。ベベジェは慎重な短気だ。ロゼは親切な一面もあるが、飽きっぽい。ミノッタは純粋で単純だ。シャンメイは冷静な癇癪持ち。そして、シークエンスは」
「シークエンスも知っているのか?」
驚く乃木坂へ頷くと、「あぁ。シークエンスは我らの姫君だ」と言って話を締める。
「ひめ」「ぎみ?」
すぐには浸透しなかったのか困惑の面々へ頷くと、ゾルズは肩をすくめる。
「そうだ。いてもいなくても同じで役に立たないような奴だったが、正真正銘我々をまとめる王族の娘だったのだ。だが、奴は最初からリーダーの座を放棄しており、実質上はベベジェが我々をまとめていた」
ベベジェがシンクロイスのリーダーというのは、揺るぎない事実のようだ。
それにしても、シークエンスが王族だったとは驚きだ。
逃げ出しても支障なかったのは、ベベジェが皆を取りまとめていたおかげか。
「シークエンスの立ち位置は判ったとして、君は何故仲間の元を離れたんだ?」
真っ向から見つめてくるデュランに、ゾルズもニヤリと口元を歪に曲げて見つめ返す。
「シークエンスと一緒さ、始終喧嘩ばかりの仲間に嫌気が差して抜け出した。ただ、俺が抜けだしたタイミングは、この星に来てからだ。ベベジェの野郎が頭ごなしに偵察を命じてきたんでレッセと二人で、適当な場所を襲った」
「レッセだと……待て、どこかで聞いた覚えが」
ブツブツ呟く剛助に、ゾルズが意味ありげな視線を向ける。
「レッセに会ったのか?だとしたら、あんたらはラストワンって学校の関係者か。あぁそうだ、レッセはラストワンを襲い、俺はプラント研究所って場所を襲った。だが警備のロボットに負けちまってね。死にぞこないで這いずっている処をルミネに救われたのさ」
「プラント研究所だって!」と声を上げたのは、桐本だ。
普段はシンクロイス研究施設の所長を勤める彼も、緊急要請で呼び出された。
「どういう研究所なんです?」
横道にそれた乃木坂の質問へ「人工知能の研究を行っています」と答えた後、じっとゾルズに視線を注いでいたが、やがて「……では、報告にあった大型の奇襲とは彼だったのか」と呟いた。
「ルミネさんに救われた、とは寄生するきっかけを彼女が作ってくれたのか?」
デュランの問いに、ゾルズが頷く。
「水を飲めと差し出されたから、起き上がって飲めないと言って口越しに移住した」
「命の恩人になるかもしれない相手を騙したのか!?」と非難めいた目を向けてくる軍人達には「騙していない、起き上がれなかったのは事実だからな」と不機嫌に返すと、ゾルズは窓の外へ視線を逃がす。
「だが、乗っ取りには失敗しちまった。こうして共存できてんのは、消滅する直前でルミネが俺の声を聞き取ってくれたおかげだ。彼女が俺の声に応えたおかげで、俺は消滅を免れ、肉体の交替も出来るようになった」
「その姿だけど」と次なる質問を飛ばしたのは、ツユだ。
「その姿は乗り移る前の姿なの?」
「あぁ、これか。いや違う、俺がなりたいと念じた姿だ」と、ゾルズ。
皆が一斉に困惑するのを見て、言い直した。
「念じるってのが判らんか?そうか、なら、こう言えば判るか。俺が、こういう格好になりたいと想像した姿だ」
「え、じゃあシークエンスのあの格好も、あいつが望んで想像した姿なのか!?」
驚く乃木坂に、ゾルズが尋ね返す。
「あの格好って、奴は今どんな格好なんだ?」
「あぁ、女の子だよ。出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ、ショートボブで釣り目の可愛い子」
「へぇ……」とゾルズが感心しているのを見るに、昔は全然違う風貌だったのだろうか。
さらに横道にそれまくった質問をツユが重ねてくる。
「昔は、どんな姿だったの?」
「あぁ、それなら」とゾルズが手ごろな紙に描いたのは、奇妙な生き物であった。
ずんぶりむっくりの三角形な胴体に、横一文字の線が入っている。
胴体の上からは触覚のような目が二本生えていた。
「フーリゲンに住んでいた頃に最適な寄生木を選んだのが、この生物だった。実際、頑丈だったぜ?この星に辿り着くまでには形を保っていたんだから。ここへきて、いろんな器を試したけど、どれも駄目だな。今の体だって、あんま頑丈じゃねぇ。だが抜け出して探すにしても、こいつより良い器があるとも思えない」
「……それで彼を囮にとおっしゃっていましたが、具体的には何をさせるので?」
御劔が話を戻して、スパイルも本題に入る。
「彼は脱走者です。脱走したのであれば、戻ることも可能でしょう」
「そうだ。連中はレッセと共に俺が死んだと思っている。あいつと同じ時期に出かけて帰ってこなかったんだからな。戻ってきたとなりゃあ数少ない仲間だ、喜んでくれるだろうぜ」
シークエンスに対するカルフらの反応を思い出し、ラストワンの面々は首を傾げる。
彼女も脱走者だが、再会できてカルフが喜んでいるようには見えなかった。
それを問うと、ゾルズは皮肉に彩られた瞳で御劔を見やる。
「奴は責任を放棄した駄目リーダーだ。そんな役立たずが戻ってきて、嬉しいと思うか?」
「けど、あいつらはシークエンスを誘拐していったわ」
ツユの疑問にも「シークエンスを、とは限らねぇだろ。寄生木が目的かもしれん」とゾルズは混ぜっ返す。
「寄生木、つまり辻氏を……?」
小さく呟き、四郎が御劔に確認を取った。
「御劔、辻氏はシンクロイスに狙われるような要素を持っているのかい?」
御劔は黙していたが、やがて意を決したのか、その場にいた全員へ向けて告白する。
「実は、狙われているのです。彼はシンクロイスの一人に――」


鉄男がカルフに告白されている間、ベイクル地下街のとある建物では、シャンメイが苛々した調子でミノッタに当たり散らしていた。
「もう、なんだってカルフは下等生物なんか好きになっちゃったのよ!」
「俺に聞くなよ。シークエンスが入っているからじゃないのか?」
ミノッタには適当全開な答えを返されて、ますますシャンメイの怒りはヒートアップ。
バン!と勢いよく机を叩いて表面を思いっきりへこませながら、気ぜわしく足踏みする。
「あんな役立たずに、今更何の未練があるの!?」
「シークエンスはクローズノイスの血縁だ……奴らからブルットブルブックを奪い返す鍵にもなる」と答えたのはミノッタではない。
壁際でじっと佇んでいたベベジェであった。
「奴らのロボット、あれは厄介だ。我々を滅ぼしかねないエネルギーを集められる」
「あぁ、レッセを倒したビビットボドイみたいなやつ?けど、あんなので倒されるほど、あんたは弱っちくないでしょ」
鼻息の荒いシャンメイをじっと見据え、ベベジェが小さくかぶりを振る。
「違う。あれは二段階に変形する」
「マジで!?」と叫ぶミノッタをも視界に収め、ベベジェは断言した。
「ブルットブルブックを複数に分けるとなれば結論は一つしかない。二段階変形させるギミックが仕込まれている」
「え、複数に分けたの?巨大化させたと思ったら統合できないって、技術があるんだかないんだか、よく判らない奴らね……」
ミノッタがベベジェに尋ねる。
「ところで、ロゼは?」
ベベジェは「アベンエニュラの様子を見に行った」と答え、小声で付け足した。
「……奴も、そろそろ寿命かもしれん」
「あーそうね、虫の息だったもんねぇ、カルフに爆弾突っ込まれた時の、あいつの顔ったら無様で笑えたわ!」
これ見よがしにシャンメイがはしゃぎだし、ミノッタは肩をすくめる。
出来損ないのポンコツが本来の目的を無視して、勝手に予定になかった場所を爆撃した。
自分勝手な行動に何よりも激怒したのは、カルフだった。
ベベジェは全くの無関心。
ロゼの『地ならし用の道具を新たに作り出すのは面倒臭い』といったお情けで即死だけは免れたものの、腹一杯に爆弾を詰め込まれ、アベンエニュラは体中穴ぼこだらけの瀕死状態になり、今は山のてっぺんに転がされている。
ロゼは言っていた。
次に下等生物を駆逐する際には、アベンエニュラを連中のロボットに突っ込ませて盛大に爆発させてやるのだと。
面白いとミノッタも思う。
あれが完全なブルットブルブックだったら、突っ込ませるのは無意味だ。
アベンエニュラが消滅させられて終わるだけだろう。
だが、所詮は下等生物が真似して作った劣化物である。
役立たずの無駄飯ぐらいと一緒に、盛大な爆発を起こすのを脳裏に描いて興奮した。
早く見てみたい。
何度も出してきているあたり、あのロボットなる物体が奴らの最終兵器なのだ。
戦力を失って絶望に暮れる下等生物どもを想像するだけで、口の端が歪に歪んでしまう。
地下街は、割合早くに見つかった。
この星に降り立って、二、三週間もしなかったと記憶している。
生物の逃げる流れを見ているうちに、カルフが気づいたのだ。
カルフは聡明な奴だ。ベベジェと対等に張り合えるだけの知能と機転が、奴にはある。
それだけに、器なんぞに現を抜かす今の彼にはミノッタも違和感を覚える。
今も彼は留守で、何処へ行ったのかといえば、捕獲した下等生物――辻鉄男を連れて廃棄場へ向かった。
そんな場所で何をするのかと聞けば、秘密だと暈された。
カルフはあの下等生物と初めて接触してからというもの、器の入れ替えが激しくなった。
さして傷ついてもいないうちに何度も替えまくる様子には、いつか乗っ取りに失敗して消滅してしまうのではとシャンメイをハラハラさせた。
今の寄生木に決めたのは、つい最近だ。
これまでずっと頑丈さを重視して雄ばかり選んでいたのに突然の雌選択をミノッタがからかうと、カルフは思案顔で『試したいことが出来たんだ』と言った。
辻鉄男を捕獲すると決めた当初は魂魄離断を試すつもりだったのだが、シャンメイの猛反対に遭い、渋々予定を変更しての廃棄場行きだ。
シークエンスを離断しないのであれば、後は何を試すのだろう?
シークエンスの姿を脳裏に浮かべ、ミノッタは溜息をつく。
彼女は寄生木を女にしたような姿になっていた。
フーリゲンの元王族ともあろう者が、よりによって下等生物に恋をしてしまったのだ。
あの姿は、彼女が想いを寄せる器候補の好みに合わせたのであろう。
シークエンスが戻ってくる気であれば、ミノッタは迎え入れる気でいた。
だが、あれは二度と戻ってこまい。
元々気まぐれな奴で、何かを作らせれば父親譲りの才能を発揮するのだが、やる気になるまで時間を要し、途中で投げ出してしまう事も多い。
王族生まれでありながら、リーダーにも全く向いていなかった。
戻ってこないといえば、レッセとゾルズも行方不明になって久しい。
この星の偵察に出ていって、それっきりだ。
ロゼもベベジェも、あいつらは死んだと思っているようだが……
もしかしたら、二人とも何処かで生きているのではないかとミノッタは密かに期待する。
そうとも、これまで一緒に宇宙を旅してきた仲間じゃないか。
今は袂を分かっているシークエンスだって、いつかは自分の元へ戻ってくる。
いや、当の寄生木は確保しているのだから、魂魄離断すればいいだけだ。
ちらりとシャンメイを盗み見て、ミノッタは心の中で舌打ちする。
この女、何故か昔からシークエンスを敵視していた、勘違いバカ女。
こいつさえ何とか出来れば、シークエンスを手元に戻せるものを。
例え気まぐれの自由奔放な役立たずでも、ミノッタはシークエンスが気に入っていた。
同じ役立たずのアベンエニュラや、癇癪持ちのシャンメイよりは。


会議を終えて、ラストワンの教官は格納庫に集まる。
ベイクトピア軍も一緒だが、本郷と桐本の姿はない。
彼らは一旦、本部の意見を仰ぎに戻っていった。
ルミネも残っている。
今はゾルズが表に出ており、物珍し気にゼネトロイガーを見上げていた。
「へぇ……これが最終兵器か。なんか懐かしい気配を感じると思ったら、クローズノイスのブルットブルブックと同じ構造じゃないか」
「外装を見ただけで判るの?」
視線はゼネトロイガーに釘付けなまま、訝しがるツユへゾルズが応える。
「見た目は関係ねぇ。気配だ。奴の、クローズノイスの作る道具は特別製でな……動力の感情を全体に貼りつける。と言っても、あんたらにゃあ理解できないか……」
ツユをチラリと見、きょとんとしているのを確認したゾルズは落胆の溜息をこぼした後、気を取り直して続けた。
「ま、あいつの道具は個性的ってこった。俺達にゃあ真似できないってのに、よくもまぁ、ここまで似せられたもんだな。感心するよ」
「それで……」と剛助が切り出す。
「大見得を切りましたが、合体の目算はあるんですか?」
辻鉄男はシンクロイスに狙われている。
その件を打ち明けた際、御劔はゼネトロイガーが隠し玉を持っていることも話した。
隠し玉とは、すなわち合体。
コアとなるパイロットのペアが、コクピット操縦台の上で挿入する。
文字通りの合体で煩悩パワーを最大限まで高めて、そのエネルギーで六体を融合させる。
――といった説明を受けた瞬間、さっと女性士官の頬には赤みが差し、中尉も視線を外して激しく咳払いし、下級兵士の、どの顔にも動揺が走ったのには、彼ら同様初めて合体の方法を知った乃木坂も苦笑せざるをえなかった。
この機体が、どういった動力なのかは散々説明されているはずだ。
それでも、純情丸出しな反応をしてしまうとは。
こちとら散々、訓練でも実戦でも性行為を繰り返してきた身だ。
今更セックスしろと言われても、何の驚きもない。
ただし一つ問題があるとすれば、これは本来卒業試験として用意されていた行為だ。
候補生達には、まだその覚悟がない。
合体するにしても、学長は一体誰を生贄に差し出すつもりなのか……
御劔は「もちろんだ」と剛助に答え、乃木坂へ命じた。
「乃木坂くん、きみにコアの補助を任命する。辻くん救出劇で戦うパイロットは、きみが決めてくれ。きみが見て、一番成長していると思える候補生を」
その続きは、最後まで言わせてもらえなかった。
ビル全体が大きく揺れたかと思うと、スパイル中尉の胸元で呼び出し音が鳴り響き、間髪入れずに外では悲鳴が聞こえてきたからだ。
「な、なんだ?またシンクロイスの襲撃か!?」
慌てふためく軍人を一瞥し、比較的落ち着いているように見えたデュランの腕を引っつかんで、ゾルズが走り出す。
「な、なにが来たんだ!?」と狼狽える下級士官には「心配いらねぇ、ただの道具だ!俺とこいつで撃退するッ」と叫び返して。


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