合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 ファーストセッション

新しい環境に浮足立っていたのは、ラストワン側だけではない。
スパークラン側も、大いに浮足立っていた。
「ねーっ、ラストワンの学長、見た!?すっごいイケメンなんだけど!」
けたたましく廊下で騒いでいるのはスパークランの在校生、女子学級の子だ。
「見てねぇ!そんなことより、お前らのクラスに入るんだろ?ラストワンの人達。うはー、チラ見したけど一人すっげー美人いたじゃん、お近づきになりたいっ」
同じぐらいのけたたましさで返しているのも同校在学生の、こちらは男子。
ラストワンは最後に出来た新設校。
傭兵学校を選ぶ時には、選択肢になかった生徒も多い。
今まで毛ほども興味なかった学校が、突如急接近してきたら興味を持たざるを得ない。
これまでもラストワンは、一部の真面目な生徒に注目されていた。
しかし全校生徒が興味を持ったのは、合同教育の話が今日の朝礼で出て以降だ。
朝礼では、校長による口頭説明しか受けていない。
生徒同士の顔合わせは、この後始まる授業がお初となる。
だもんだから寮や校庭でラストワンの生徒を遠目に見かけて、男子のテンションは急上昇。
誰もが彼女達と早く話してみたいと、心を浮つかせている。
ラストワンと比べるとスパークランの学力は雲の上、しかも出会ったのが正治だけではマリアが優等生しかいないと勘違いしてしまうのも無理はない。
だが実際のところスパークランにも落ちこぼれや不良は存在し、学校という括りで見れば生徒のノリは他校と大して変わらなかった。
「はー、ここにいるのは一時的ってハナシだけど、ずっといてくれないかなぁ……うちの学長になってほしい……」
遠目に見た御劔のインパクトは如何ほどだったのか、夢見心地で呟く女子をほったらかしに、男子も男子で己の妄想に突入する。
「あー、一時的でもクラブに入ったりすんのかなぁ。ずっといてほしい……お姉様……」
なんでも校舎を建て直すまでの契約らしいのだが、何故ラストワンの校舎が地上に建っていたのか、それを深く追求する生徒はスパークランには一人もいなかった。

合同教育は女子学級とだけなのか。
朝礼で校長の説明を聞いた時、二階堂正治は密かに落胆した。
向こうの授業と、こちらの授業の違いを照らし合わせてみたかったのに。
今日の授業が一通り終わったら、女子学級の子に聞いてみよう。
気を取り直して廊下を歩いていくと、後ろから呼び止められる。
「よぉ二階堂、どうした?肩が落ちてるぞ」
振り返れば、同級生のクルーズ=インナーがニヤニヤしながら立っていた。
「いや、ちょっとね。合同教育の件で」
「あーラストワンの奴らと一緒に授業できなかったから、落ち込んでんのか」
ニヤニヤ笑いを消さぬまま、クルーズは正治の横に並んで一緒に歩く。
「二階堂は前にも会ったことあるんだろ?いいなぁ」
「少し、話をしただけだ。向こうについては、何もわからないと言っても過言じゃない」
「いやいや。可愛い子に囲まれてランチしたんだろ?それがいいなって話だよ」
軽薄な反応だと思われたのか片眉をあげる相手に、クルーズはニヤついて話題を繋ぐ。
「普通とは違う授業内容だって噂だけど。この合同で見られるかな?」
「それを期待しているんだけどね。女子学級に放り込まれたんじゃ、うちの授業を見られるだけで終わりそうだ」
正治の答えに、あれ?知らないの?と言わんばかりにクルーズが怪訝な表情を浮かべた。
「女子学級に入るこた入るけど、授業は別途向こうの担当がやるって話だぜ?」
「その話、どこから?」と、さっそく食いついてきた正治に、彼が言うには。
「ミソノ教官とアイオニス教官が立ち話してたんだよ。女子の教室を借りて自分らの授業をやるんだと。すっげー気になるよな。授業フケて見に行っちまおうかなぁ」
合同と言いつつ、同じ時間帯では授業しないのか。
しかしハルミトン学長は、授業で本校生徒との顔合わせをするような言い方をしていた。
どういうことだと混乱する正治に、クルーズが耳打ちする。
「まず、うちの授業を受けてから放課後に自分達の授業を展開するってんだったら、俺達にも見る機会があるよな。あとで見にいかね?」
思わず本能で頷いてから、ハッとなって「いや、それはまずいだろ」と正治は打ち消したのだが、クルーズは「そろそろチャイムだぜ、急ごう」とマイペースに話を締めて、さっさと廊下を歩き去っていってしまった。

初めて在校生がいる状態でのスパークラン校舎に入ったユナの第一印象は。
「やっばーい、もぉ、すっごーい!どっち見ても男子ばっかりだよぉ、しかもイケメン多いし!」という、些か見当違いな発言であった。
昴も廊下を見渡して、クールに返す。
「そうかな?顔の水準は一般の男子校と変わらないよ」
彼女とて同じ年頃の男子を見るのは久しぶりだろうに、バッサリな評価だ。
テンションの低い返事にめげることなく、ユナは勢いよく頷いた。
「そう、男子校!男子校って感じだよね。ドコ見ても男子ばっかりだし」
「女子が一割って、ホントだったんですね……」
杏が委縮気味なのは他校ということもあろうが、男子九割環境が一番の原因であろう。
「セイジンと一緒の学級が良かったケド、女子学級も悪くないカナ☆」
「セイジンって誰?」と聞き返すまどかへ、レティが笑顔で答える。
「二階堂正治さん。最上級生エリートで、眼鏡の似合うイケメンなの……キュンッ!」
たった一回会っただけの他校先輩を勝手に変なアダナで呼んでいたとは、驚きだ。
まどかと一緒に目を丸くしながら、亜由美は目で彼を探したが、何処にもいない。
最上級生だしエリートでもあるから、今頃はとっくに自分の教室へ向かった後か。
「男子なんか、どうでもいいわよ。それより、ここの女子と仲良くやっていけるか心配なんだけど」
見た目にそぐわぬ心配をしているのは、相模原だ。
「共学の女子って、男子より陰湿だったりするじゃない?」
「あー、それはナイナイ。むしろ男子のほうがコワイって」
即座に飛鳥が打ち消し、なんでよ?と相模原には聞き返されて、肩をすくめた。
「だって一割なんだよ?女子だけで固まって仲良くするに決まってるじゃん。男子は見た目にうるさいから、こっちの外見にあれこれケチをつけてくるだろうし……特に蓉子、あんたは狙われやすいし、授業が終わったら駆け足ダッシュで寮に戻りなよ?」
「駆け足は無理よ」と即座に切り返してから、相模原は神妙に頷く。
「……そうね、大会のトラウマもあるし。男子の悪口って嫌よね」
「悪口は男子でも女子でも嫌だと思うけど。ま、会う前からゴチャゴチャ心配してても意味ないっすよ、先輩!」
バンと力強く背中を叩かれ拳美にも励まされ、ラストワンの候補生一行は女子学級の扉をくぐった。
途端に待ち構えていた教官による紹介が始まって、スパークランの生徒達が羨望の眼差しを向けてくる。
「はーい、皆さん注目!って、もう注目していたわね、ごめんなさい。こちらが今日から、しばらく私達の授業を一緒に受けるラストワンの生徒さん方です。全員まとまって後ろのほうに着席してもらいましょうか。彼女達は放課後も授業がありますが、そちらは覗き見厳禁。興味本位の男子が寄ってくるかもしれませんので、皆で守ってあげてね!」
女性教員の呼びかけに、全生徒がオー!と手を挙げる。
なかなかノリのいい学級だ。
言われた通り後ろの席へ順番に着席するラストワンの候補生達へ、さっそく前列に座った女子がくるりと後ろを向いて話しかけてくる。
「ハジメマシテ!私、ミコっていうの。あなたは?その眼鏡、可愛いね」
「え、え?えぇと、遠埜メイラです、はじめまして……」
「ラストワンって最後に出来た学校でしょ。どうして入ろうって思ったの?新設校のほうが良かったの?」
「あ、えと、パイロットに興味を持った時に知ったのが、ちょうどラストワンだったので」
「へ〜そうなんだ。けどスパークランだって有名だよね。やっぱ、うちは女子学級少ないから敬遠されちゃったかー」
「え、えぇと、その、そうじゃなく、スパークランは学力が」
「けど、うちに来たからには、うちの良さ、とくと堪能させてあげるから!放課後の授業終わったら、クラブ案内してあげる。いいよね、それくらいの時間あるよね?」
モトミに負けず劣らずなマシンガントークに気後れするメイラを救ったのは、教壇に立つ女性教員だった。
「は〜い、おしゃべりストップ!今から授業を始めますので、ラストワンの皆様方への個別質問は休み時間にしてあげてください」
教官にペコッと小さく頭を下げて、前列の子にも頭を下げると、メイラは前方スクリーンに注目する。
スクリーンにはロボットの操縦席らしき図が映し出されている。
いきなりの他校授業は、ついていけるかどうかよりも、どんな内容なのかが気になる。
一言も聞き漏らすまいと、ラストワンの候補生達は全員真面目に授業を受けた。


スパークランの授業は昼休みを挟んだ四時間形式。
クラブ活動は放課後から夜まで続くとデュランに説明されて、鉄男は眉間に皺を寄せる。
「夜までとは、いい加減な時間制限ですね。明日の授業にも差し支えるのでは?」
「うーん、ケイと全く同じ反応をするんだね、鉄男くん。でも大丈夫だよ、我が校は生徒に全面信頼を置いているからね。生徒も、それに応えてくれるのかハメを外した子は二十年間誰もいないそうだ」
夜までオーケーになっていても、実際には夜になる前に終わるクラブが殆どだ。
生徒も、そこまでクラブ活動には熱心ではないらしい。
「教員にも教員用のクラブがある。どうだい鉄男くん、入ってみるというのは?」
「余裕がありません」
ばっさりデュランの勧誘を蹴り、鉄男は項垂れる。
なんで自分は、朝からこの暑苦しい他校先輩教官に掴まっているのか。
スパークランの教官は、デュランだけではない。
しかし四十人近くいる教官の誰でもなく、鉄男を朝一番に呼び止めたのは、この男だった。
只今の時間、生徒は全員授業中だ。
放課後のみ授業を担当する鉄男が廊下で手持ちぶたさなのはさておき、ここの教官たるデュランまで一緒に居るのは何故か。
聞けば、彼だけ担当教室を持っていないのだという。
あぶれているのではなく、どの教室で緊急事態が発生しても即座に対応できるよう、そういう配置に学長が設定したのだと本人が解説した。
それはいいのだが、朝食で木ノ下と出会えず、早々デュランに掴まってしまって、鉄男の今日のテンションは下降気味だ。
どう話題を振られても、相手がデュランでは心も弾まない。
彼のことは嫌いではないが好きでもなく、鉄男が安心できる相手は木ノ下だけだ。
そんな心情が肌越しに伝わったか、デュランは苦笑して鉄男に囁いた。
「……鉄男くん。せっかくの出張授業だ。身内以外の教官各位とも話をしてみるといい。視野が開けるかもしれないぞ」
「話と言われても、何を」
「色々あるじゃないか。授業方針や生徒の扱い、教官としての心構えなど。あぁもちろん俺からもアドバイスはできるが、クラブに入って親密に話し合ったほうが、よりいいと断言するよ」
クラブ、クラブというが教官用のクラブとは一体何をする場所か。
「生徒用クラブは一般学校とさして変わらない。教官用クラブは大人の付き合い要素が強いかな。許可を取らずとも外に出て飲むのだって可能だしね。ただ、鉄男くんは、そういうのって苦手だろう?だからクラブ活動はスポーツを強くオススメするとも」
ちなみに、と鉄男が別に知りたくもなかった情報をデュランが強引に教えてくる。
「俺は水泳クラブに所属している。鉄男くんも水泳に興味があると嬉しいな!」
直球で誘われても、鉄男は素直に頷けない。
先ほども言ったがクラブに入る心の余裕なんて全然ないし、ましてやデュランと一緒など。
昨夜は木ノ下が心配するような事態にはならなかったが、始終抱き着いてくる相手とでは心が休まる暇もない。
木ノ下ぐらいの距離感が、ちょうどいいのだ。鉄男にとって。
彼はクラブ活動をやるのだろうか。
もし入るとしたら、学生時代にやっていたというテニスが妥当な線か?
スポーツは学生時代、何一つ経験したことのない鉄男である。
こんな状況でなく移住先もスパークランでなかったら、是非とも挑戦したかったのだが……
先回りしてか「生徒のクラブに顧問はないんだ」と断ってくるデュランへ目を向けて、鉄男はボソッと呟いた。
「余裕が出来たら、考えます」
「そうか。なに、大丈夫だ、鉄男くんなら。きみが教官になりたてってのも学長経由で教官各位に伝わっているからね、皆も優しくしてくれるよ。もちろん俺だって協力は惜しまないとも!寮生活に不都合はないかい?困ったことがあったら、いつでも相談してくれ」
親切で言っているのだというのは判るのだが、少々押しつけがましい圧迫感を覚えてしまうのがデュランの短所だ。
そこも木ノ下とは違う。
言っている内容は同じはずなのに、木ノ下だと素直に受け止められるのは何故なんだ。
きっとデュランが親父の知人だというのが未だに自分の中で、しこりを残しているのだ。
鉄男は、そんなことを考えながら、デュランの言葉へ曖昧に頷いた。


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