合体戦隊ゼネトロイガー


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act4 絆とは

放課後、直球な質問をレティに向かって繰り出したのは杏であった。
「魔女っ子の魅力って何なの?」
それに対するレティの返事も、これまた直球で。
「ずばり、カリスマよ☆」
「カリスマ?」
ミィオと二人揃って首を傾げれば、レティは自信満々に付け足した。
「そぅ!魔法の力のみならず、個人としても周りの皆を虜にしちゃうカリスマなの。魔女っ子に選ばれる子は、みぃんな、そのカリスマを身につけていくのよ!」
魔法に憧れているのから魔女っ子にハマっているのかと思いきや、そうではなかった。
まさか魔女っ子に選ばれし勇者のカリスマオーラに憧れていたとは。意外だ。
「身につけて、いくのですか?最初から持っているわけではなく?」と、ミィオ。
レティは力強く頷き、微笑んだ。
「そっ!最初は皆フツーの女の子なんだけど、魔女っ子として成長するに従って、人としても成長していくの。それが魔女っ子最大の魅力よ☆」
要は成長物語か。
しかし、それならそれで魔法という要素は必要ないようにも思える。
杏は、さらに突っ込んだ質問をしてみた。
「じゃあ、レティさんが毎週変身シーンの真似をしているのは何で?」
「それはモチロン、魔法使いにも憧れているから☆キャインッ♪」
あぁ、やはり。
まとめると、カリスマと魔法が魔女っ子の魅力というわけだ。
「蓉子お姉様に魔女っ子は絆が大切だと、おっしゃっておりましたが……絆というのは、魔法を使う上で生じるものなんですの?」
「うーん、というよりは揉め事を解決するうえで、カナ?」
人差し指を口元に当てて考え込んでいたかと思うと、可愛らしく小首を傾げる。
動作の一つ一つを取っても、些か芝居がかっているのがレティの特徴だ。
これも、魔女っ子にハマっている影響なのであろうか。
今までは、ただの親切なサブカルニッチ趣味の女の子という漠然とした印象でしか接していなかった。
改めて至近距離で彼女を観察してみると、細かい部分まで、きっちり役者であると気づく。
何をするにも他愛のない話をする時でさえも、全て他者の目を意識した動作ばかりだ。
他者を気にしていないのであれば、語尾の端々にキャインだのキャピィだのとつける必要はないのである。
魔女っ子の真似をしていない素のレティは、どんな人柄なのだろう?
杏は、こっそり考えた。
「ではチーム名、レティお姉様なら、どうつけますか?」
「そぉねぇ……やぁっぱ絆を取り入れたいカナ!」
机の上へ広げた紙にKIZUNAと書き込み、二人に向かってニッコリ笑う。
「絆、絆……しかし、魔女っ子要素も入れてみたい……」
レティに気を遣って、そんな呟きを杏が漏らしてみれば、レティの反応は絶大で。
「いいかも!杏ちゃんも魔女っ子の魅力に目覚めてきちゃった!?」
さらさらっと紙に書きこまれたのは、マジカル天使☆アンミオレティという文字だった。
「え、ちょ何これ」と慌てる杏、「絆がございませんわよ?」と驚くミィオを横目に、レティが得意げに語りだす。
「ウフフッ。絆なら、もうあるじゃない☆友情という名の絆が、ネ!そう、レティとミィオちゃんと杏ちゃんは、マジカル天使の生まれ変わりなの♪だからマジカル天使、イコール絆で結ばれた三人組なのよ☆★☆★」
ごめん、さすがに何を言っているのか判らない。
唖然と佇む二人を放置して、レティは自分の考えに満足する。
「ネ、今後は杏ちゃんのこと、アンちゃんって呼んでいい!?」
鼻息荒く申し込まれて、混乱する頭のまま、杏は曖昧に頷いた。
「え、い、いいけど」
誰かにアダナをつけられるなんて、人生初の出来事だ。
だが、この喜びが杏自身にも浸透するには、まだしばらくの時間が必要であろう。
「さぁ〜、さっそく新生マジカル天使をモノにすべく振り付けを考えないと☆ミィオちゃん、アンちゃん、オリジナル魔女っ子めざして、エイエイ・オー♪」
一人張り切るレティの勢いに押し負けるようにして、杏とミィオもエイエイオーと手を挙げたのであった……


魔女っ子に一番最初にハマったのは、一体いつ頃だったか。
そして一貫して飽きていない。永遠の趣味といってもいい。
相模原やミィオに語ったように、魔女っ子のキモは絆だとレティは本気で思っている。
絆で結ばれた友情や愛に憧れていた。
愛や友情は、努力だけでは掴めない。お互いの相性を必要とする。
そこに強く憧れる。
本当の自分は凡人だと、レティは自覚している。
他人と異なる際立った魅力なんてなければ、特に顔も可愛いわけじゃなく、スタイルだって人並みだ。
凡人が雑多なコミュニティーで生き残るには、個性を身につけるしかなかった。
フィクションの作品における登場人物は、どれもリアルとは異なる。いってしまえば芝居的だ。
話し方がわざとらしいと批評する者もいたが、それは違うとレティは思う。
あれは個性だ。
登場人物に個性を持たせようと考えた結果が、あの話し方なのだ。
他人と違う要素を何か一つでも持っていれば、凡人を抜け出せる。
そして、いつの間にか魔女っ子の口真似を身につけていた。
いかに凡庸な自分を可愛らしく見せるか、何気ない仕草の一つ一つにも気を配った。
可愛く見せるのは、異性の目を気にしていたのが原点だ。
だが絆で結ばれた愛情をゲットせんが為のカワイイは、いつしか自己探究へと切り替わる。
自身が納得できないカワイサなんて、個性ではない。そう考えるようになっていった。
ポリシーと置き換えてもいいだろう。
可愛いを極めることが、魔女っ子を極める第一歩である。
やがて、極めた先には絆に結ばれた友情や愛情が待ち構えているはずだ。
否、もう友情はゲットしているも同然だ。
ミィオと杏。
この二人は、レティがどんな窮地に陥っても見捨てない気がする。
なんせ天性の運動音痴と判っていながら、レティをダンスチームに入れてくれたのだ。
どれだけ感謝しても、したりない。
杏は自分に魅力がないと嘆くけど、優しさは彼女が持つ最大の魅力だ。
ミィオにしたって、そうだ。二人とも感性が繊細で、且つ他者に優しい。
二人が持ちうる個性だ。誰にも真似の出来ない。
愛情の絆もアタリを一つ、つけてある。
木ノ下教官だ。
現時点ではフラグも何も立っていないが、嫌われてはいないように感じる。
もっと言えば、可愛がられている。そのように感じた。
駄目な子ほど可愛いなんて言葉があるが、木ノ下教官のレティに対する反応は、それに近い。
物覚えが悪くて勘も鈍い奴なんて、自分だったら、とうの昔に見捨てている。
木ノ下教官も優しさで溢れている。
モトミみたいな常時やっかましいマシンガントークでさえも、彼の前では借りてきた猫同然。
ばっさり無駄口を遮られた後は、すっかり大人しくなって授業を聞いている有様だ。
レティは木ノ下教官が好きだ、大好きだ。
将来のダーリン候補として、目をつけている相手と言っても過言ではない。
いわゆる見た目はイケメンではないのだが、人間は顔で価値が決まるものじゃない。
大体、乃木坂教官の薄っぺらさや御劔学長が持つ壁の高さと比べたら、木ノ下教官のほうが、ずっとずっと現実的な相手ではないか。
彼には浮いた噂がない。
少なくとも乃木坂教官のように手あたり次第、女子に声をかけていないだけ誠実に見えた。
それに乃木坂教官は、話しかける相手を選んでいる。
まどかやヴェネッサは対象だけど、相模原や香護芽は対象外。
要するに、外見が可愛い女の子だけを選んでいる。最悪な男だ。
何故かレティにも時々話しかけてくるが、大抵は適当に流してやっている。
自分の容姿を客観的に見た場合、可愛いとは思えない。よくて、普通だろう。
可愛いを極めるのであれば、容姿ではなく性格だ。
何故ならば、可愛い性格は同性にもウケがいいからだ。
すなわち全人類にモテモテなカリスマオーラの正体こそは、性格の可愛さと断言する!
本当は魔法が使えたらいいのだが、残念ながら、現実世界に魔法なんて便利なものは存在しない。
それに魔法で振り向かせても、それは本当の愛ではない。
愛とは絆、つまりは信頼度だ。魔法なんてオマケです。
いや、だからといって魔法を軽視するつもりもない。魔法は魔法、個性は個性。
バラエティ要素とリアル要素は切り分けないと、現実とフィクションの見極めが出来ていないと煽られる。
そのへん、レティは、きっちり分けているつもりだ。
たとえ実の母親からの理解が得られなかったとしても……


ラストワンの宿舎には一応、TVを備えつけた部屋が幾つか存在する。
普段は配線が遮断されているので、利用する時には事前申請が必要だ。
鉄男と木ノ下の部屋にも、TVはあった。
しかし、まったく見た記憶がない。
木ノ下がTVを見ている姿を見たこともない。
緊急ニュース速報でさえ、いつも学長室か食堂で見るのが普通になっていた。
だから授業を終えて部屋に戻った時、TVが明々とついており、さらにマジカルテーマが流れてきたとなれば、何が起きたと驚愕の眼差しで鉄男がルームメイトを凝視してしまうのも致し方なかろう。
「ん、あぁ、いや、魔女っ子って奥が深いなーって。ただの子供番組だと侮っていたら、驚かされるぜ?一種の哲学にも匹敵するぞ」
鉄男の視線に気づいたのか、木ノ下が、そんなことを言う。
「魔法だなんだってのは単なる外枠にしか過ぎないんだよ。本当に大切なのは友情、努力、そして協力プレイによる勝利だ!」
ぐっと握りこぶしを作って熱血に言い放ったかと思えば、くるりと鉄男のほうへ振り向いた。
「いや〜〜、ダンスのテーマを魔女っ子にして、つくづく正解だったな!ホントは、ただの思いつきだったんだけど」
「思いつきだったのか?」と驚く鉄男に、再度木ノ下が頷く。
「おぅ。お前がレティにも友達を〜っていうから今のハヤリと掛け合わせてみたらどうだろ?ってな単純な思いつきだったんだけど、魔女っ子のメインテーマが絆だってんなら、まさにグループダンスのテーマでもあるよな」
「グループダンスのテーマとは?」と、またまたオウム返しな鉄男の質問に木ノ下は微笑み、「そうだ。お前も学校で学ばなかったか?」と返してきた。
「俺の通っていた高校じゃ、体育祭で必ず創作ダンスってのをやらされたんだが、それのテーマが団結力だったんだ。クラス全員で息を併せるっていう。そりゃそうだよな、皆が動きを揃えないとダンスも成り立たないんだから」
言われて鉄男は、己の青春時代を振り返ってみる。
駄目だ、体育祭で何をやったかなど全然覚えていない。
そもそも体育祭に出席していたのかどうかも記憶が定かではない。
覚えているのは父親との険悪な日々と、つまらない授業。くだらない雑談で盛り上がる群衆だ。
無言になる鉄男に気づいたか、木ノ下が話題を変えてきた。
「えっと、もしかして鉄男の学校じゃダンスを取り入れてなかったのか?なら今度、一緒に踊り場へ行ってみよう。二人で踊る振り付けもあるからさ」
思ってもみなかったお誘いに、鉄男は慌てて顔をあげる。
満面の笑みを携える木ノ下と目が合った瞬間、わけもなく恥ずかしくなった。
「お、踊るのには慣れていない……」
ぼそぼそお断りを入れてみたが、木ノ下は笑みを崩さず、鉄男の手を握ってくる。
「そうやって尻込みするのは、お前の良くない処だぞ、鉄男。教官としてステップアップしたいなら、何にでも挑戦するのが一番だ!」
自分の為に言ってくれている。
それは、判っている。
しかし踊り場なる場所で恥をかく自分を想像しただけで、目の前が暗くなる。
人には得手不得手があり、どうしても出来ないものがあるのだと木ノ下には判ってほしい。
そんな鉄男の内面の不安は、木ノ下が放ってきた魔の言葉の前に四散した。
「実はさ、もう予約入れてあるんだよ。中央地下街にあるスタジオなんだけど。授業でダンスを取り入れるっていうから、何かの参考になるかと思ってさ。まぁ、お前がどうしても嫌だってんなら、他の友達誘っていくけど」

他の ともだち……?

ピクリと神経質に、鉄男の片眉が跳ね上がる。
他の奴を誘われるぐらいなら、自分が行ったほうがマシだろう。
鉄男が駄目なら他の奴と行こう、と木ノ下に思われるのが嫌だ。
先輩諸氏や候補生ではなく、他の友達というのが引っかかる。
別に、木ノ下に鉄男以外の友達がいること自体が嫌なのではない。
彼みたいに明るく社交的な人間なら、外部に友達がいるのも当然であろう。
だが、だが、しかし。
自分の知らない奴が自分の知らない場所で、木ノ下と仲良くするのは気に入らない。
木ノ下にとって一番の友人、すなわち親友になりたい鉄男的には。
迷わず、鉄男は前言撤回した。
「ならば、一緒に行こう。人数制限は、あるのか?」
突然心変わりした鉄男には、木ノ下も驚いた。
「え?あ、一応十五人までなら大丈夫かな、定員は」
ちらっとケータイでスケジュール確認すると、ついでとばかりに付け足した。
「そうだな、どうせなら大勢で行ってみるか。鉄男も友達、あ、いや、呼びたい知り合いとかいたら連れてきていいから」
候補生の名前を出さなかったのは、秘密にしておきたいのか。
鉄男は勝手に合点し、脳裏に知っている顔を何人か思い浮かべる。
べつだん親しくないにしろ、一人二人なら知り合いに心当たりがあったのだ。


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