合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 COP

ついに待望のCOP大会が学内で開催されると知って、候補生は喜んだ。
ただしテーマが魔女っ子限定と知った時には、多くの者に動揺が走ったのであるが……

翌日、体育の時間にて。
「なして魔女ッコ限定なん?レティか?レティの差し金なんか!?」
手っ取り早く担当教官に掴みかかったモトミは、木ノ下の口から真相を聞かされる。
「いや、提案したのは俺だ。どうせ大会をやるなら、一つにテーマを絞ったほうが面白そうだと思ってさ。どんなテーマにすっかな〜って考えた時、毎週テレビの前で踊っているレティが脳裏に浮かんだんだ」
実際の真相は多少異なる。
事の起こりは鉄男の発言で、魔女っ子を学内で流行らせる――
一人寂しくマイナーな趣味を抱えるレティを不憫に思っての相談であった。
それにダンスをミックスさせたのが、木ノ下の案だ。
「魔女っ子……なるほど、変身の舞をダンスに昇華しろと」
モトミの隣に座った杏はブツブツ呟いている。
早くも振り付け案が脳裏に浮かび始めたのかもしれない。
一人居心地悪そうにしているのは、意外やレティ本人であった。
「よく考えたらぁ〜、いきなり大会なんてドキドキマックスだよね?ごめんね?大事にしちゃったみたいで……」
「や、大会やるんは別に問題やない」
あっさりモトミには覆されて、きょとんとするレティの鼻先に指をつきつけ、同級生は宣戦布告を放ってきた。
「得意テーマやからって油断すんやないで!優勝するんはウチらカチドキMIXやぞ」
「なんだ?カチドキミックスって」と割り込んできた教官へは、誇らしげに答えた。
「ウチらのチーム名や!ウチ、マリア、ユナの三人が舞う、魔女っ子っぷりに惚れたらアカンでぇ」
「惚れちゃ駄目なの?」と間髪入れずレティが突っ込む。
「それなら、私とミィオちゃんと杏ちゃんで木ノ下教官のハートをゲットですぅ☆」
モトミも即座に「惚れるなちゅうんは、惚れろっちゅー意味や!」と突っ込み返しをお見舞いする。
木ノ下組の、恒例お馴染みコント会話である。
木ノ下は木ノ下で、「そっか、なるほど。チーム名を決めるってのは、悪くないな」と明後日の方向に感心している。
「なんや、チーム名決めるんは基本やろ」とモトミは呆れ、レティと杏は目配せしあう。
二人ともチーム名なんて考えてもいなかった。
大会に出る以前の実力だったせいもある。
だが、出るからには勝ちたいと思うのが人のサガだ。
チーム名を決めたら、さっそく新しい振り付けを考えよう。

休み時間、さぁチーム名を決めようと張り切るレティの元に人だかりができる。
どれも他のクラスの候補生ばかりだ。
「ねぇ、魔女っ子って簡単に言うと、どんなものなの?」
初歩的な質問を飛ばしてきたのは、まどかだ。
十七歳にしては大人びて見え、サブカルチャーには全く興味がなさそうな子だ。
「えっとぉ〜、人々に夢と希望を与える絶対的な存在よ☆キャピィ♪」
答えた側から「動物に例えると、何?」と答えに困る質問を繰り出してきたのは飛鳥だ。
派手なカラーに髪の毛を染めており、こちらも子供番組とは無縁そうな子である。
「そうねぇ……ウサギさんか、ハムスターちゃんかナ☆」
「ハイハイー!次、次の質問っ。魔女っ子の強さは、どんぐらい?」とは拳美の脳筋な問いに、「とびっきり!」と笑顔で答えるレティも只者ではない。
よくもまぁ、まったく悩まず答えられるものだと杏は妙な処で感心してしまった。
皆と違ってサブカルニッチ方面に少々詳しい杏は、魔女っ子についても多少は知っている。
一見普通の女の子が、呪文を唱えると万能魔女に変身する。
変身して何をするのかといえば、魔法とされる超異能力を使っての人助けだ。
魔女っ子に憧れるレティの気持ちも判らなくはない。
あんなふうにホイホイ人助けして皆に感謝されたら、さぞ気持ちがいいだろう。
目の前では、まだ質問大会が続いている。
チーム名を考えるどころではない。
「えぇとぉ、魔女っこって一人?それともグループでやるもの?」
今の質問は相模原のだ。
極限まで太りに太りきった子で、ダンスなんて出来るのかと自分棚上げで心配してしまう。
「そうね、マジカル天使はデュオだけどぉ〜、五人編成の魔女っ子もいるわ。昔は一人で戦っていたの。でも、今は仲間が多いのが主流ね。やっぱり絆は大事だから」
とくとくと魔女っ子を語るレティに、周りからは「おぉー」という歓声が上がる。
「ふむふむ、グループokで強くて、外見はハムスターないしウサギさんでファンシーで可愛くてキュートってイメージ……カナ」
なんと熱心にメモを取る子まで。
ニカラだ。
パンチパーマと個性的な話し方が特徴的な子で、趣味は、えぇと、なんだっけ……?
考えてみれば、学校にいる全ての候補生を把握していなかった自分に杏は自分で驚く。
なのに、よく、ここには自分の居場所がない等と言い切れたもんだ。
比較的仲が良いレティとミィオにしたって、そうだ。
二人の趣味を朧気にしか知らない。
レティは魔女っ子夢属性。
ミィオは古典文学と、古典音楽。他にも細かい趣味を持つが、詳しく聞いた記憶はない。
「あっ、そういえば皆はもう、チーム名とか決めた?」
レティの逆質問へ真っ先に答えたのは、ヴェネッサだ。彼女もいたのか。
「えぇ、勿論よ。チーム・パトラクリオン」
おぉーと再び歓声が上がり、杏は声こそ出さなかったが納得する。
パトラクリオンとはベイクトピア古代史に存在した、伝説の白馬の名だ。
絶世の秀麗とされる馬の名をチーム名に使うとは、普段から美意識の高い彼女ならではだ。
不意に誰とチームを組んでいるのか気になったが、聞く前に本人が語りだす。
「私とエリス、そしてカチュアが織りなす幻想的な魔女っ子を御覧にいれて差し上げるわ」
エリスに、カチュアですと?
てっきり乃木坂組三人で組んだとばかり予想していた杏の目は、点になる。
ラストワンで格段に付き合いづらいあの二人を、どうやって、この最上級生は仲間に引き入れたのか。
それ以前にエリスがダンスに興味を持つとは意外中の意外。
興味ないわ……とか呟いて一人ソッポを向きそうな相手だけに、杏は開いた口が塞がらない。
「わぁー。チャレンジャーねぇ、あなたって」
どこか呆れ調子でまどかが声をあげ、その横では拳美が何度も頷く。
「秀麗繋がりで集めてきたかー。けど、ダンスの道は一日にしてならず。って、石倉教官も言っていた!大会で泣きを見ないよう、しっかりやって下さいよ先輩」
後輩に煽られても、ヴェネッサは優雅な態度を崩さずに微笑む。
「ふふ、そちらこそ油断なさらないようにね?」
秀麗、秀麗か、なるほど。
カチュアもエリスも綺麗な顔立ちの少女だ。
頭の回転の速さも、辻教官と木ノ下教官誘拐事件の時に垣間見せられた。
だが、グループダンスは頭や顔の良さで勝負が決まるわけじゃない。
大事なのは団結力、つまりは絆だ。
そういう意味でも魔女っ子をテーマにしたのは悪くない。
改めて、木ノ下教官の発想に感心する杏であった。
雑談するうちに個々のチーム分けもはっきりしてきたところで、次の授業のチャイムが鳴る。
チーム名は放課後考えよう。
ミィオと自分、そして魔女っ子元祖総帥たるレティが納得できるような最高の名前を。


大会参加は全員強制。
チーム名とチームメンバーを一覧表にするのは、鉄男の仕事となった。
休み時間に鉄男は綺麗な文字で書き並べながら、眉間に皺を濃くさせる。
なにしろ候補生の文字は、どれも汚くて読みづらい。
これが女子の書いた文字かと、悪態をつきたくなるほどに。
無駄に丸っこく、本人的には可愛く書いたつもりなのであろうが、却って読みづらくなってしまった申込書も多々あった。
それでも何とか読み取って、書き記したのが以下のチーム分けだ。

チーム名『カチドキMIX』
メンバー:モトミ・マリア・ユナ

チーム名『チーム・パトラクリオン』
メンバー:ヴェネッサ・カチュア・エリス

チーム名『笑って許して☆ザッツ&ナッツ』
メンバー:メイラ・相模原・香護芽

チーム名『絶対頂点!赤点奪回』
メンバー:拳美・ニカラ・飛鳥

チーム名『スーパーリミックス』
メンバー:亜由美・まどか・昴

チーム名『 』(未定)
メンバー:杏・レティシア・ミィオ

なんのこっちゃなチーム名が多く、決まっていないチームまである。
パトラクリオンには聞き覚えがあったが、それよりも刮目すべきはメンバーだ。
カチュアに、エリスである。およそ踊る姿が想像できない。
二人まとめてチームに引き入れたヴェネッサの懐の深さには、恐れ入る。
絶望的なメンバー構成といえばメイラのチームも、なかなかの絶望っぷりだ。
メイラがメガトン級二人と組もうと考えたのは、何故であろう。運動音痴仲間のよしみか?
殆どがクラスメイトとはバラバラのチーム編成だ。
クラスが同じだからといって、全員が仲良しとは限らない。
そして仲良し同士でチームを組むとも限らないのだと、鉄男は今日、初めて知った。


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