合体戦隊ゼネトロイガー


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act5 他校コミュニケーション

教官がいては自由に話せないだろうという気遣いの元に、案内役はデュランから正治にバトンタッチされる。
突然の任命にも嫌な顔一つせず食堂へ案内してくれる先輩候補生には、亜由美らのほうが気遅れ気味だ。
「あ、あの、すみません……自主練の邪魔をしてしまって」
気遣う亜由美へ振り向き、正治は笑顔で断った。
「気にしなくていい。俺も君達と話してみたいと思ったんだ」
最初に出会った時と違い、今の正治は黄色い詰襟の服を着ている。
スパークランの制服であろう。
「ロボットも黄色、スーツも黄色、制服も黄色で、黄色がスパークランのカラーなんでっしゃろか?」
モトミの質問にも、正治は笑って答える。
「校名のスパークは、まばゆい光をイメージしているんだそうだ」
心なしか、正治の笑顔まで眩しい。
イケメンだから、余計にそう感じるのであろうか。
考えてみればラストワンに入ってからは、同世代の男子との交流が、ほぼ皆無になった。
休日は街へ遊びに行くこともあるが、大抵は友達や教官が一緒なので、知らない人と話したりはしない。
目の前にいる実物大の男子に俄然興味がわいてきて、ランチメニューを注文する傍ら、少女たちは正治を質問攻めにした。
「ね、ね、正治ってカノジョいるの?」
しょっぱなからプライベート直撃な質問をして、皆を驚かせたのはマリアだ。
「うーん、何か質問されるとは予想していたが、そうきたか」
これには本人も苦笑いだが、しかし彼は邪険にしたりせず素直に答えてくれた。
「特定の恋人は、いない。正式に軍人となれるまで、色恋沙汰で浮かれるわけにはいかないからね」
「へ〜正治って真面目ぇ!」
茶化すマリアは、すっかり正治を呼び捨てで、二年上の他校先輩であろうとも物おじしない。
そういう君こそ、いるのかい?と聞き返されるのではとモトミは予想したが、それはなく、正治は別の質問をマリアに返す。
「君たちの学校は女子校なのかい?大会でも、選手は女子だけだったし」
「あ、いえ、明確に女子校と決まっているわけではないらしいんですが……」と、答えたのは亜由美だ。
ラストワンは女子専用校ではない。
入学して女子しかいないと判った時、亜由美は大層驚いた。
入学希望者募集のパンフレットにも、女子校だとは書かれていなかった。
たまたま新設校に興味を持ったのが女子しかいなかったのか、或いは学長が選別しているのか。
その辺りを、これまで誰にも質問しなかった自分にも今更驚く。
何故、聞こうとしなかったのだろう。
これは、こういうものだと自然に納得してしまっていた?
「あ、ウチが木ノ下教官に聞いた話だと、ゼネトロイガーの仕様で女子だけ許可しとるらしいで?」
「なら、実質女子校と捉えて間違いない」と、モトミの横やりに正治も頷く。
「傭兵育成学校に入ってくる女子は少ないからな……君達の学長は、女子が気軽に入れる学校の窓口を作りたかったのかもしれないね」
なら女子校だと宣伝すればいいのに、明確に女子校と書かないのは何故なのか。
まぁ、学長には学長なりの考えがあるのかもしれないし、生徒が頭を悩ませることではないのかもしれない。
「スパークランの校長は、どんな人なんですかぁ?キャピィ☆」と、これはレティの質問だ。
漠然とした問いにも、正治は愛想よく答える。
「スパークランは何事にも負けない強靭な精神力と、滅多なことでは倒れない体力、それから、まっすぐな志を育てる教育がモットーの学校だ。ロバート=ハルミトン校長は、気品あふれる落ち着いた初老の男性だよ。ただ椅子に踏ん反り返っているだけの校長じゃない。実技には校長も参加してくれるんだ」
「え、実技に!?キャピィ〜ン、メイラ先輩の領域ですの〜」
レティの素っ頓狂な発言には、正治よりもマリア達のほうがド肝を抜かされる。
慌てて「ちゃうちゃう、ウチらんとこの実技とココのはベツモンや!」とモトミがレティの妄想を止めに入り、立て続けに亜由美が正治へ質問する。
「す、スパークランの実技と言いますと、やはりロボット訓練ですか?」
何故皆が泡を食っているのかが判らず、正治は怪訝に眉をひそめていたが、亜由美の問いには頷いた。
「あぁ、養成学校は、どこもそうだと思うが……うちはスパークランを使っての実運転がメインだ。あれは元軍用機ということもあって、一番現場に近い動きを学べるのは当学校の強みと言ってもいい」
話しているうちに、ランチが運ばれてくる。
今日は休講日だというのに食堂には人がいて、ここの定番はサラダ付きのスパゲッティだとお勧めされた。
他にもドリンク付きだのライス付きだのとラストワンにはないメニューがいっぱいで、散々悩んだ挙句、マリアはオススメのスパゲッティを選んだのであった。
「ん、このソース美味しい!」
「ホンマ?あ、ウチのバーガーサンドと半分とっかえっこや。カリカリベーコン、んまぃでぇ!」
「半分って、どーやって?そこは一口ずつ、でしょ」
キャアキャア遣り取りするモトミとマリアの二人を微笑ましそうに眺める正治へ、亜由美が話しかける。
「そういえば大会で二人ほど出ていましたけど……ここは女子って何人ぐらいいるんですか?」
「女子かい?女子は一クラスだけだ」
つまり全校範囲でいうと、一割しかいないことになる。
驚きの少なさに亜由美は勿論のこと、杏も目を丸くした。
「え、そんなに少ないんですか!?」
「あぁ。だからこそ、ラストワンが女子だらけで話題になっているんじゃないか」
ほら、これ。と、正治が自分の携帯電話を取り出して、二人に見せてくる。
画面には、どこかの情報サイトが表示されており、でかでかと赤い文字の見出しが躍っていた。
『新設校ラストワンは、まさかの女子率100パーセント!?』
「えー、なんですか?これ」
驚く杏に、正治が微笑む。
「養成学校の候補生が集う情報コミュニケーションサイトさ。ここじゃ連日、君達ラストワンの話題で持ちっきりだ。現役パイロットでも女子率は低いからね。余計に目立つんだ」
「あ、やっぱり低いんだ……女子の就職率」
ぽつりと呟く杏を横目に、なおも亜由美が尋ねる。
「えぇと皆さん、こういう情報って、どうやって見つけてくるんですか?」
「そうだな……自力で検索したり、クチコミで教えてもらったり」
携帯を弄って正治が開いてみせたのは検索サイトのようだが、普段見慣れたサイトとは異なる。
「これは傭兵育成学校の情報を探すための検索サイトなんだ。こういうのもクチコミで噂が回ってくる。最初の誰が、どうやって調べたのかは俺にも判らない。もしかしたら情報屋や軍部の人が、あえて流しているのかもしれないね」
「あ、あ、アドレス教えてください」と慌てて自分の携帯を取り出す杏を見て、何を勘違いしたのかマリアとモトミが囃し立ててくる。
「えっ、も〜メアド交換しちゃうの?杏ってば、手が早いんだぁ〜」
「あんたがイケメンに弱いたぁ知らんかったわ。けど、ほならウチも交換しとこっか」
「え!?ち、違、アドレスって、そっちじゃなくて……」
仰天する杏をフォローするでもなく、正治はニッコリ微笑んだ。
「メールアドレスの交換か、いいかもしれない。俺も君達の学校の授業には興味があるしね」
きゃあきゃあワイワイ騒ぐ皆を横目に、亜由美は一人ひっそりしているカチュアの様子を伺う。
カチュアは全く会話に加わらず、もそもそと白米を食べながら、ある一点を凝視していた。
視線が向かう先は、ランチの前、辻教官らが出ていった出入り口だ。
この子は、もしかしたら教官と一緒に食事を取りたかったのかもしれない。
辻教官と一緒にランチしたかったのは亜由美もなのだが、デュランに連れていかれたのでは仕方ない。
なので残念だったね、と声をかけようとした時、カチュアの唇が小さく動く。
微かな声であったが聞き逃す亜由美ではなく、その言葉の意味に驚いた。
声は確かに、こう言っていた。
「デュラン、許さない」と――


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