合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 閉会式

決勝はスパークランとホワイトドレスの戦いであった。
上位と下位で戦って勝負になるのか?と疑問に思った鉄男だが、意外や白熱の射撃戦が繰り広げられ、最後の的をホワイトドレスの選手が撃ち漏らして12対11で決着がついた。
ホワイトドレスの機体は真っ白な四輪駆動で、背中に長い大砲を積んでいた。
スパークランの片手銃と比べたら、狙いもつけやすかったはずだ。
ひとくちにロボット大会と言っても、さまざまな特徴を持たせて各ロボットは区別化されている。
改めて感心する鉄男の隣で、伊能がダグーへ話しかける。
「どの学校も得手不得手がありますからね。射撃の得意な機体もあれば、長距離ランが得意な機体もある……そちらの機体も走行を得意としていたようですね」
ダグーは素直に頷いた。
「その通り、うちの機体は最大速度を重視している。軍の戦いを見た限りだと、装甲車や戦車は来訪者相手に速度負けするようだしね」
「戦車に機敏さを求めるのは間違いでしょう。あれは堅さで粘り通す為の機体です」
「しかし、耐えているだけじゃ撃退できないじゃないか」
「えぇ、ですから現在は急ピッチで人型を大量生産しているって噂ですよ」
それとなく二人の話を小耳に挟みながら、それでいて会話には混ざらず鉄男は隣で耳をすます。
「人型をね……運転できるパイロットは、いるのかい?」
「それも、いずれは急募するつもりでしょう。そこで僕達の出番というわけです」
伊能は燃える瞳をグラウンドに向ける。
つられて鉄男やダグーもグラウンドを見た。
もうすぐ閉会式が始まるようで、グラウンドは機具の片付けに大わらわだ。
その片隅では、選手が一列に整列して閉会式を待っている。
どやどやと楽器を持った吹奏楽団が客席へ入ってきて、楽譜立てを並べているのが見える。
また順番に行進して、トロフィーだか表彰状だかの授与をして、長い話を聞かされたら解散だ。
そう考えると、少し寂しくもある。
一人ぽつんと立つ鉄男の横に誰かが近寄ってきて、勢いよく振り向いた鉄男に相手は「わっ!」と驚いて、一歩退いた。
「て、鉄男、どうした?こんなトコに一人で突っ立ってないで、ほら、乃木坂さん達の処に行くぞ」
近づいてきたのは木ノ下だった。
てっきりデュランだとばかり思っていた鉄男は、ほんのり羞恥に頬を染めると大人しく従う。
去り際ちらりとスパークラン勢を見たが、彼らは彼らで何か話しており、こちらに気づいてもいないようだ。
よかった。またデュランに何か話しかけられたら、どうすればいいのか判らなくなってしまう。
どうも苦手だ、ああいう距離感の判らない手合いは。
「おう辻、一人で離れてんじゃねーぞ?競技が終わったら、とっとと集合しろ」
「すみません」と乃木坂にも素直に謝った鉄男は、木ノ下の隣へ腰掛けた。
やがて、ざわめきが小さくなってゆき、会場が静まりかえる。
閉会式が始まるのだ。
一瞬の静寂を置き、ラッパの音が高らかに鳴った。
開会式同様、賑やかな吹奏楽にあわせて候補生が入場を始める。
『長かった今年の養成グランプリも、とうとう終焉となりました。候補生は互いに励まし合い、戦い抜き、頑張りました。会場の皆様は拍手でお迎え下さい!』
アナウンスに促されるまでもなく、客席、報道席、そして教官席からも一斉に拍手がわき起こる。
吹奏楽の曲が聞こえなくなるほどの拍手の嵐に包まれて、次々各校の候補生が行進してくる。
しょぼくれている者は一人もいない。皆、顔を上げて勇ましく歩いている。
泣くのは終わった直後か、或いは帰ってからにするのだろう。
『今年は初出場のラストワンを迎え、ベイクトピアの全養成学校が出揃い、記念すべき年となりました。また初出場にも関わらずラストワンは健闘を見せて、大会を大いに沸かせてくれました。今年は残念だった学校も、初心を取り戻して来年の活躍を期待しています。そして今年を最後に学校を去る候補生は、新たな出発点へ向けて更なる邁進を祈っております』
「なんつーか卒業式の台本みたいだな」と、隣で木ノ下がポツリ呟く。
今年で学校を卒業する候補生もいるだろうから、あながち間違ったアナウンスではないと鉄男は考えた。
全校の候補生がずらりと並んだところで演奏がピタリと止み、前方の壇上に初老の男が登ってくる。
開会式の時は見逃してしまったが、あれが大会組織のトーマス=グリンフォン会長だそうだ。
『選手の諸君、今年も大儀であった。今年も白熱の大会が繰り広げられたことを、誇りに思う』
整列した候補生達は、長話が始まっても直立不動を乱さない。
――かと思いきや、後列になればなるほど態度が崩れており、足を組んだり曲げている者も多い。
「あー毎年聞かされるのダッリィ」
隣の列に並んだ赤いパイロットスーツの誰かが愚痴るのにつられてか、相模原もボソッと受け応える。
「ビデオなら早送りできるんだけどねぇ」
そいつを「シッ」と短く制して、相模原の前に並ぶ飛鳥が眉をひそめた。
「初回ぐらいは聴いてあげなよ。一応、何を言うか考えてきたんだろうしさ」
飛鳥は相模原に言ったのだが、「毎年言ってんだぜ?似たような文句を」と答えたのはファイヤーラットの候補生だった。
隣の列では、なんと座り込んでいる奴までいるではないか。
常連になればなるほど閉会式と開会式はダレてくるのだとしたり顔で言われて、飛鳥は内心幻滅する。
誰にって、もちろん隣のファイヤーラットの候補生陣にだ。
反対側に並ぶスパークランだって常連なのに、こちらは列を一切乱していない。
「当たり前だけど……学校が違うと生徒の趣も全く異なるんだな」
飛鳥の前に並ぶ昴が呟き、飛鳥も「常連って言ってもピンキリみたいだね」と文句を溜息と共に吐き出した。
あとは「おっ、なんだ喧嘩売ってんのか?」と、しつこく話しかけてくる赤いスーツ勢を、ひたすら無視にかかる。
「ぴちぴちのパイロットスーツで煽ってきてる奴らに不真面目だなんだって、言われたくねーぞ?」
「煽ってきてる?」
スルーしきれず尋ね返すメイラには、いやらしい目線を向けて男子が言い返す。
「そうだ、お前らの柔らかそうなオッパイとオシリで俺達が何度抜いたと思ってるんでぇ」
ここまで言われれば喧嘩を売られているのだと、メイラでも気づくというもので。
「やだぁ、何言ってるの?」
露骨に眉をひそめてメイラはドン引きする。
「げっひんねぇ〜。だから未成年の男子って幼稚でつきあってらんないのよ」
見下し視線で相模原が肩をすくめ、反対隣の女子選手も小声で混ざってきた。
「……そこの下品な人達。今のは女性軽視とも取れる発言ですね。セクハラとして大会役員にチクッてあげましょうか?」
だがファイヤーラット勢は全く反省しておらず、なおも小声で冷やかしてくる。
「おーコワ、ピチピチオッパイスーツがお怒りだっ」
「おいデブ、そこのデブはズリネタ対象外だからチョーシ乗んじゃねーぞ?」
「ハァ?誰がデブですって」と眉間に縦皺を寄せる相模原へ、男子の容赦ない嘲りが返される。
「お前以外に誰がいるんだよ、クソデブッ。お前はスーツより縄のほうがお似合いだよな、このハム女!」
もはや後列は会長の長話などそっちのけで、一触即発の雰囲気に満たされた。
一部のざわめきは客席や報道陣にも気づかれたようで、誰かが指をさして囁くのをきっかけに、「ん、列の後ろで揉めてるみたいだけど、どうしたのかな」と木ノ下も手を掲げて遠くを見る真似をした。
「隣の男子と、やりあっているみてーだな。まぁ、あの年頃の男ってなぁガキだからなぁ」とは、乃木坂の弁。
「大方、女子のスーツ姿にイチャモンでもつけてんじゃねーの?」
「女子の?珍しいからですか」
木ノ下の質問には首を振り、乃木坂は肩をすくめてみせる。
「そうじゃねぇ、全員女のぴっちりスーツでムラムラした〜とか言って、冷やかしてるんだろうさ」
「何それ、小学生?」
ツユも呆れ目で溜息をつき、後方の騒ぎに目をこらす。
騒ぎの波は列を伝って一番前まで届き、壇上の演説が一旦止まる。
話の腰を折られては会長もお怒りだろうと鉄男がグリンフォンを見てみれば、そうではない。
一人の男が壇上へ走っていき、会長からマイクを手渡されて元気よく叫んだ。
『はい、後ろー!雑談は帰ってから存分にやろうな。今は会長の話を聞いて、大会の想い出に浸るターンだぞ』
なんと、マイク片手に呼びかけているのはデュランではないか。
一気に会場がドワッと沸き、ヒューヒューと歓声が飛び交う中、後方までよく通る声で注意を促した。
『今年は女の子が多くて、浮かれてしまう気持ちも判らないではない。だが、戦場での余所見は命取りだ。諸君らは戦場パイロットの卵である自覚を、努々忘れちゃ駄目だぞ?それじゃ、残りの閉会式は気を引き締めて挨拶に集中しよう!』
言うだけ言ってマイクを会長へ返すと、壇上を降りていった。
「い、今のは大会の、お約束パフォーマンスですかね……」
ポカンとする木ノ下の呟きに、「いや、完全アドリブみたいだよ?」と御劔が突っ込む。
彼の示す方向を見てみれば、大会役員が呆然とデュランの背中を見送っていたし、スパークランの候補生も唖然としている。
会場はワーワー大騒ぎが鳴りやまず、伝説の元英雄が飛び入りしてきたとあっては無理もない。
この騒がしさでは会長も続きをする気が削がれたのか適当に話を締めて終わりにした後は、優勝校へのトロフィー授与を滞りなく済ませて式自体も終了となった。
結果的に後方の喧嘩のみならず、閉会式もデュランが短縮させたようなものだ。
ざわめきが収まらぬ中で報道や客は帰り支度を始め、教員も候補生の元へ駆け寄って荷物運びを手伝った。
「よーし、忘れ物はないな?全員揃っているな?」
点呼を取るまでもない。
会場にいるのは、選手として出場した子だけだ。
タオルや空になった弁当箱をザックに詰めて、駅までの送迎バスの到着を待つ鉄男へ話しかけてくる声がある。
「鉄男くん。今度の休日、ラストワンへ遊びにいってもいいだろうか?」
挨拶抜きに単刀直入な用件を切り出されてビビる鉄男を背に庇い、やんわりと元英雄の申し出を拒絶したのは誰であろう、御劔学長であった。
「いやぁ、残念ですがラフラス氏。うちの教官は休日も何かと忙しく、あなたと語らう暇はないかと思います」
ばっさり拒否されたにも関わらず、デュランは笑みを絶やさず言い返してきた。
「ほぅ、ラストワンでは休日にも仕事があると?予想以上にブラックな職場ですな、改善したほうが宜しいのでは」
毒のある発言に、御劔も涼しい顔でやり返す。
「仕事ではありません。候補生とのコミュニケーションです。辻くんは新任教官ですからね、まだ受け持ちの候補生と打ち解けていないのですよ」
しかしながら、デュランも不敵な笑みを浮かべて間髪入れずに言い放った。
「生徒とのコミュニケーションならば、平日の授業で充分取れるでしょう。失礼を承知で申し上げるが、学長殿は鉄男くんの生活を束縛しすぎなのではありませんか?それとも何ですか?そちらの平日の授業はコミュニケーションも取れないほど一方的なのですかな」
真っ向から睨み合う学長と元英雄。
両者の間には見えぬ火花が飛び散っているような気がして、乃木坂やツユは、うっかり口を挟めない。
せめて学長の邪魔にならぬようにと、バスへ乗るよう候補生を小声で促した。
「お、おい、お前ら。今のうちにバスに乗り込んどけ」
昴達も、そそくさと送迎バスへ乗り込んでいき、最後に御劔と鉄男だけが残された。
「どうやら、はっきり言わないと判ってもらえないようですので、はっきり言いましょう。ラフラス氏、あなたに休日来訪されるのは我が校にとって迷惑です」
「ほぅ?他校の教官が見学に来ると困り事が生じるとは不思議な養成学校ですね、おたくは。一体何の隠し事をしているのでしょうなぁ?」
御劔とデュランの会話は、永遠の平行線を辿っている。
このままでは埒があかない。
ミソノが止めに入ってくれないかと鉄男は期待していたのだが、彼女が走ってくる気配もない。
「あ、あの」と小さく申し出た鉄男に、二人が目を向ける。
「辻くん、ここは私に任せておきなさい」と御劔が助言する横で、デュランが瞳を輝かせる。
「鉄男くん、鉄男くんなら判ってくれるだろう?他校の教官同士が語り合うのは、メリットの多い行為だと!」
教官として語り合うのが彼の目的とは到底思えないのだが、それは、ひとまず置いといて、鉄男は一応ささやかなれど妥協案を出してみた。
ともあれ自分が何か言わなければ、デュランは絶対に引き下がらないと感じたのだ。
「……毎週会うのは無理ですが、月に一度ぐらいなら……」
「辻くん!君は、この人と会うことに身の危険を感じないのか!?」
悲鳴をあげる御劔の横では、満面の笑顔でデュランが力強く頷いた。
「いいとも、君が会ってくれるのであれば月一で全く構わないとも!よし、来月さっそく遊びに行くからね、待っていろよっ。それじゃ、さらばだ!」
嬉々として走り去っていくのを見送ってから、鉄男もバスに乗り込んだ。
「辻くん、あの男と会う時には事前に教えてくれないか?言っておくが二人だけで会うのは許可しないぞ、君を引き抜かれても困るからな」
背中に御劔の小言を受けながら。


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