合体戦隊ゼネトロイガー


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act2 教官対面

選手出場のファンファーレが、音高く鳴り響く。
同時に会場は一斉の拍手に包まれて、門の前で整列していた選手達が一校ずつ行進を始める。
ラストワンの入場は最後であった。
最後に設立された学校だからか?と鉄男は思ったりもしたのだが、或いは初出場だから一番トリに回されたのかもしれない。
大会を盛り上げる意味も兼ねて。
吹奏楽の生演奏に併せて次々入場してくる選手達は、どの学校も殆ど男子で構成されている。
一般にロボットのパイロットに向いているのは男子だとされている。
鉄男だってラストワンに来たばかりの頃は、そう思っていた。
しかし、何故男子が女子より優れているなどと思いこんでいたのであろう。
言ってみれば何の検証もされていない、ただの人数統計である。
現在軍隊に所属しているパイロットの大半が男性である、というだけの。
荒事を好まない女性ばかりなのか。
はたまた、軍隊内に女性差別意識が存在しているのか。
ラストワンに入学する女子がいる時点で、前者の理屈は通らないような気もする。
女性差別にしろ、今は人類の危機だ。
性別で選り好みしている場合ではないと思うのだが。
入場行進のトップを務めるのはウェルスコープス。
クルウェルことクリーが勤めているはずの学校だ。
全員、黒い袖に白地のパイロットスーツを着ている。
お次はイェルヴスター。
背中に星のマークが入った青いパイロットスーツに身を固め、寸分の狂いもなく足並みを揃えて歩いてくる。
トップスカイハイは白地に空色のラインが一本入ったパイロットスーツ。
ホワイトドレスは学校名通り、真っ白なパイロットスーツだ。
ウィーアーゴーストは一風変わっていて、全員頭からすっぽり布を被っている。
一応目の部分に穴が空いてはいるのだが、パッと見、誰が誰だか分からない。
ヘルデモンズのパイロットスーツは肩に刺々しい鋲がついている。
あれでは動いた拍子に、自分の頬に突き刺さりそうで危ないではないか。
スパークランは、目にも眩しい真っ黄色。
ランナーズサインは緑と白のツートンカラー、ファイヤーラットは真っ赤。
どの学校もカラフルで個性的なパイロットスーツだ。
『さぁ、最後を飾るのは今大会初出場校、ラストワンだーっ!』
ひときわ大きな拍手の中、我が校の選手が入場する。
会場は、あちこちで「女の子グループだ」だのといった驚きに包まれた。
女子選手は、これまでにも何人かいたが、全員女子というのはラストワンだけだ。
ざわめく会場を、鉄男や木ノ下はぐるりと眺めた。
彼ら教官がいる席は一般席とは離れた最前列、報道陣との隣り合わせだ。
ここからだと会場の全貌が、よく見渡せる。
一般席の背後には、各々の学校が所有するロボットも並んでいる。
「お、電撃ロボじゃん」と木ノ下が小声で呟いたので、鉄男もそちらを見やる。
目にも眩しい真っ黄色の人型ロボットだ。
木ノ下曰く、あれはスパークランの所有であるらしい。
人型はスパークランとラストワンの他に、もう一校あった。
イェルヴスターだ、ここも人型を模している。
全身に星のマークを散りばめた青い機体だ。
然るに、パイロットスーツとロボットのカラーは同色でまとめるのが養成学校の基本か。
ラストワンも、ゼネトロイガーとパイロットスーツは同じ紫でまとめている。
「分かりやすくていいよな、あれとか」
木ノ下が指さしたのは、ファイヤーラット所有のロボットだ。
真っ赤な巨大鼠としか言いようのない機体が置かれている。
さしずめ、隣の真っ白でぬぼーっと突っ立った巨大な円柱はゴーストのつもりなのだろう。
ウィーアーゴースト所有のロボットだと、鉄男は当たりをつけた。
養成学校はパイロットスーツのみならず、所有ロボットも全てが個性的だ。
軍隊ではお見かけできない形の物が多く、それらはオリジナルのオンリーワン機体と思われた。
「戦ってみたい機体も幾つかあるな」と剛助が呟く側から、ツユも突っ込む。
「戦いはナシって言ってたでしょ。てか出来ることなら戦いたくないわよ、あんなのとか」
ツユが指さしたのは、全身トゲトゲに覆われた巨大なハリネズミロボットだ。
トゲトゲから予想して、ヘルデモンズの所有であろう。
全くだ、と頷く鉄男の横で突然大声を張り上げてきた奴がいる。
「ヒャッハァー!ラストワンって大層な名前の割には気弱だなァ〜?オォイ?」
苛つきながら鉄男が振り向いてみれば、トゲトゲ鋲を体中にまきつけたモヒカン刈りの男と目があった。
「だ、誰ですか?」
怯える木ノ下へ、べろーんと舌を伸ばし、男が挑発してくる。
ご丁寧にも中指まで押っ立てて。
「ハンハンハンハァァァ〜ン?このオレを知らないたぁモグリか?素潜りでも負けねぇゾ?オレこそは、その名も知られざるヘルデモンズの教官、デルモンド!」
「知られざるだったら、我々が知らなくても当然かな」
すかさず突っ込んだ御劔をジロリと睨みつけ、デルモンドと名乗った男は耳障りな甲高い声で話し続けた。
「アァンアンアンア〜ン?こんなとこに綺麗なデルモさんがいるたぁ場違いじゃねぇか?ここはミスターコンテストの会場じゃねぇゾ?養成学校のグランプリだぜぇ〜!プリンス貴公子率いる教官がサル顔オカマにマッチョでガマガエルってか?ラストワンは随分とナメた顔ぶれだな!」
「よくしゃべるチンピラだなぁ。少し黙らせてやろうか?」
挑発に乗っかって、乃木坂もこめかみに青筋を立てる。
サル顔とマッチョはともかく尊敬する御劔学長や親友を侮辱されたとあっちゃ、黙っておれない。
「の、乃木坂さん、まずいですよ喧嘩は」
止める後輩も何のその、デルモンドと真っ向から睨み合う。
緊迫する状況にて、「まったくですわ!」と、今度は見当違いの方向から高い声があがった。
「笑顔の素敵なプリンス貴公子でありながら、学校の校長も勤めるだなんて……あぁ、ラストワンの生徒様方が羨ましすぎます!」
両手を組んで頬を赤く染めて、うっとりしているのは誰であろう。
ベイクトピア軍で名を馳せた元軍医、今はスパークラン所属の教官ミソノ=ラフラスではないか。
「お褒めいただき、ありがとう」
「はぁうっ!こちらに向かって御劔様が微笑んでくれた……あぁっ、夢のようですわ!!」
社交辞令でお礼を言う御劔に、ミソノは早くも血圧があがって倒れそうだ。
「だが」と一応、御劔は注釈を加えておくのも忘れなかった。
「私はプリンス貴公子じゃない。元研究員の名にかけて、グランプリでは雄々しく戦ってみせるよ。まぁ、実際に戦うのは私ではなく、我が校の意志を受け継いだ生徒達だけれども」
「ほぉ。ラストワンの学長殿は、国の研究員でいらしたか。今大会は軍隊関係者が募っているな」
横入りしてきたのは、一見、爽やかな好中年。
「兄様!」とミソノが叫ぶからには、この男がデュラン=ラフラスか、ベイクトピア軍の元エースと謳われた。
年の頃は三十代から四十代前半ぐらいに見える。鮮やかに青い髪の毛を逆立てていた。
きりっと男らしく太い眉毛に精悍な顔つきで、Tシャツを押し上げる筋肉は逞しい。
今でも現役なのではないかと錯覚させるほど、老いを全然感じさせない。
「他にも、どなたか軍関係者が?」と尋ねる御劔をまたぎこし、デュランの視線は背後にいる鉄男へ釘付けだ。
ズカズカと鉄男の側まで歩いてくると、彼の手を取って両手で握りしめてくるもんだから、鉄男は慌てて、ぶんっと勢いよく振り払った。
「何をするッ!」
「お、おいこら、辻!失礼だろ」と、どっちが失礼なんだか乃木坂が諫めてくるのも手で制し。
「いやいや、はっはっはっ、失礼。いやなに、あまりにも、あの御方の面影を深く残しているものだから、つい、懐かしくなって無礼を働いてしまった。申し訳ない」
爽やかに謝ってきたかと思えば、デュランが鉄男に向かって尋ねてくる。
「健造殿は……お父上は、ご健在か?」
鉄男の驚きは先ほどの比ではなかった。
何故ベイクトピアの軍隊に所属していた男が自分の父親、それも最低な飲んだくれDV親父を知っているのだ!
息子の鉄男が生まれも育ちもニケアなように、あのクソ親父もニケアから出たことなど一度もないはずだ。
もし若き日のデュランがニケアの誰かを知る機会があるとすれば、ニュースでニケア軍が映された時ぐらいだろう。
だが、父が軍に所属していたという話を聞いた覚えが、鉄男にはない。
あのクソ親父が働いていたのか否かも、知らなかった。
いつも家で酒を飲んでいる。
そして、暴れる。
そんなイメージしかない相手だ。
驚きで声をなくした鉄男を見、デュランは苦笑する。
「その様子だと、健造殿にまつわる過去を知らされずに育ったようだな。いや、結構。ならば教えておこう、息子殿。辻健造殿こそが、我が元愛機ライジングサンS233を造り上げた設計者だということを!」
「え……えぇーっ!?」と驚いたのは木ノ下や鉄男ばかりではなく、国の元研究者だったはずの乃木坂やツユ達も驚いているではないか。
先ほどまでの話し相手だったデルモンドやミソノ、それからスパークランの教官諸氏も驚いている。
知らなかったのは、何も息子の鉄男だけではなかったようだ。
「へぇ、そうなのか」と御劔も驚き、鉄男を見る。
知ってたかい?と尋ねられ、鉄男は首をぶんぶんと真横に振った。
まわりの驚きをほったらかしに、デュランが話を締めにかかる。
「健造殿には若い頃、世話になった。まぁ、主にライジングサンの操縦面で。息子殿、貴殿は健造殿の面影を残しておられる。特に目元のあたりなんか、そっくりだ。しかも全体的なイケメン度は、貴殿のほうが上と見た。いやいや声もイケメンボイスだし、もしかしたら健造殿よりも人気者?」
「い、いや……そのっ」
イケメンボイスと称された声を絞り出し、ようやく鉄男は突っ込んだ。
「ど、どうして親父が、父がっ、ベイクトピアの軍隊に協力を……!?」
デュランの返事は、あっさりとしたもので。
「なに、人質だったからな」
「人質!?」と驚く周辺を見渡し、頷いた。
「うん。ニケア軍の中にいた彼を捕虜にして、ニケアの軍隊には撤退してもらったのだ。彼は人質ではあったが研究者でもあったので、ベイクトピア軍は丁重に扱った」
「ちょ……ちょっと、お待ち下さい!」と突っ込んだのは、スパークランの教官だ。
見覚えがあった。ケイ=コクトーではないか。
彼も教官になっていたのか。しかし、今は再会の喜びをやっている場合ではない。
「その話ですと、ベイクトピア軍とニケア軍が戦っていたと解釈できますが」
「うん。戦っていたよ」と、またまたあっさりデュランが認める。
「空からの来訪者に紛れてニケア軍が侵略してきたからベイクトピア軍が撃退を……っと、あれ?この話、もしかして世間一般にはオフレコだったか」
全ては一般人には知られざる情報、それも軍の極秘情報だ。
過去のニュースにおいて、地上の民同士での侵略戦争は一度も放送されていないのだから。
こんなにクチの軽い元軍隊関係者がいても、いいのだろうか。
そういえばクリーもスパークランの企業秘密をしゃべりまくっていたし、ミソノだって初対面の鉄男にマスコミの裏情報を洗いざらい話していた。
この学校自体が、そういう軽薄な輩の集まりと考えられる。
話したのは面接の時の一回きりだが、ケイは神経質で真面目な人物だったと鉄男は記憶している。
こんな軍団の中にいたんじゃ、さぞ気苦労も多かろう。
向こうも鉄男に気づき、険しい視線を向けてきた。
「辻鉄男、貴様も教官に受かっていたのか。それも、こんな低俗学校に」
「こらこら、低俗だなんて喧嘩を売ってはいけません」
ケイを窘めたのは、ミソノだ。
「低俗なのは、そこのトゲトゲに包まれた学校でしょう。服装センスもないですし」
さりげに二次災害的喧嘩を売られて、デルモンドがブチキレる。
「ハァ〜ン?ハンハンハァ〜ン?貴族のお嬢ちゃまが偉そうなクチ訊いてくれんじゃね〜の。軍ではチヤホヤされても、グランプリじゃ誰もオメーをお嬢ちゃま扱いしてくんねぇゾ?」
教官席で揉めている間に、開会式が終わっていた。
退場していく選手達を見送りながら、鉄男は先輩へ声をかける。
「第一試合の競技、なんだか判りますか?」
「あぁ、それなら」と答える乃木坂の声に被さるようにして、大きな声が邪魔してくる。
「第一試合はロボットクイズ選手権と短距離走が同時に行なわれる。毎年それでスタートを切るんだぜ、覚えておきな初参加のラストワンさんよぉ!」
赤い角刈りにマッチョな肉体とくれば、あいつだ、ヒロシだ。
声の方角を見ようともせず、鉄男は乃木坂へ頷いた。
「座学と実技が同時に行なわれるんですね。乃木坂さんと水島さんは実技を見守る予定ですか?」
「オイ、こらぁ!無視すんな、辻鉄男ォ」
赤毛のゴリラが何か騒いでいるが、無視だ、無視。
乃木坂もスルーを決め込んで、騒音に負けじと声を張り上げた。
「あぁ、俺達はグラウンドに残るから、お前らは総合ホールへ移動しろよ!」
判りましたと頷いて歩き去る鉄男の背中に、ヒロシの怒号が飛んでくる。
「辻!鉄男ッ!返事をしろよ、俺が怖いのか!?お前は大体、初対面の頃から俺とは目を併せて話そうとしない臆病者だったよなぁ!」
「単にうるさいから無視しているだけじゃないかねェ」とデュランは笑い、妹とケイに同意を求める。
「その点、我々は無視されずに話ができた。対等なライバルとして見てもらえている証だな!」
初出場の学校に対等なライバルとして見られたから、なんだと言うのだ。
相変わらず脳天気な先輩に、溜息しか出てこないケイであった。


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