合体戦隊ゼネトロイガー


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act3 クイズ対決

前半戦はクイズ大会と起動競争、後半戦は実技のみで障害物競走と射撃が行なわれる。
観客の注目は実技にあるが、クイズは一般民への説明を兼ねたロボット知識のお披露目会でもある。
従って双方の会場には報道カメラが入り、全国範囲で放送される。
クイズで間違ったりしたら、大恥必至だ。
だというのに木ノ下教官は皆を集めて、このような事を言う。
「いいか?お前ら。間違えるのは恥じゃない。間違えても、堂々としていろ。縮こまったら、それこそ負けだ。周りの歓声に押し流されるんじゃない。自分のペースを、しっかり保てよ!」
「で、ですけど大観衆の中で間違って、笑われたりしたら……死ぬほど恥ずかしい、死にたくなりますぅぅ」
早くも気力が挫けてしまったか、下がり眉の杏が、ぶちぶち愚痴る。
「なぁに、他人の無知を笑う奴は無知な奴よりも恥ずかしい人間だ。そんな奴の嘲笑なんて、気にする必要ないぞ!」
ばしばしと彼女の肩を叩いて、木ノ下は励ました。
杏と亜由美は、この日の為に急仕立てで知識を詰め込んだのだから、自信が持てなくて当然だ。
しかし杏が傍らの後輩を見やると、亜由美は杏が予想していたよりも緊張していないように見えた。
「く、釘原さん……」
ふるえ声の杏の手を、ぎゅっと握って逆に亜由美が励ましてくる。
「頑張りましょう、杏さん!」
「う、うん……うんっ」
これでは、どちらが先輩なんだか判ったものではない。
会場は既に席がセット完了しており、唐突に勇ましい行進曲が流れ出して、選手の入場時間となった。
「俺達は教官席で応援しているからな、全力を出し切れよ!」と木ノ下の声援を背に、座学組が歩き出した。
それぞれの学校名が書かれた席に着席する。
ラストワンの選手は四名だが、隣のファイヤーラット勢は全部で三名。
見渡してみればラストワン以外の学校は、どこも三名で定員だ。
四人いるのはラストワンしかない。
「へッ、クイズに四人も出してくるたぁ、余裕じゃねぇか。いや、余裕がねぇのか?逆に」
隣に座った髪の毛ツンツン男が煽ってくる。
赤とオレンジに染めた髪の毛を逆立てており、耳にはピアスと派手な格好だ。
真っ赤なパイロットスーツも相成って、少々目に眩しい男である。
これで顔もイケメンだったら格好いいと褒めてあげたのに、とユナは考えた。
ファイヤーラット勢はブサイク三人、反対側のウィーアーゴースト勢は全員シーツオバケで顔が見えない。
男の子が多いと言うからイケメンがいないかと密かに期待していたのに、これではガッカリだ。
「あんまりキョロキョロしないほうが……目立っちゃいますよ?」
ぼそぼそっと杏に怒られ、ユナは「ごめ〜ん、だって珍しくて」と首を竦める。
ついでに、ちらりとエリスの様子を伺ったが、彼女は周りの様子を眺めたりせず大人しく座っていた。
相変わらず心ここにあらずといった、夢見る視線のオマケつきで。
『第29回、ロボットクイズ選手権!いよいよ始まりますッ。選手の皆は、準備オーケーかぁ〜い?』
司会が騒ぎ始めたので、左右の選手に併せてユナと亜由美も「お〜っ!」と元気よく返事をする。
杏は恥ずかしげに小さく「おー」と呟き、エリスに至っては完全スルーだ。
こんなんで、上手くやっていけるのだろうか?ともユナは考えたのだが、クイズは早押し形式らしい。
『判った人は誰よりも早く手前のボタンを押してくれ!それじゃ、さっそく第一問』
ジャジャンジャーン♪とファンファーレが鳴って、前方の巨大モニターに文字が映し出される。


*第一問*
ベイクトピア軍の陸動機、戦車一台の燃料は年間で500万リットル消費されます。
では、二足歩行ロボット一台の年間燃料消費量は次のうち、どれでしょうか?
1.100万リットル
2.90万リットル
3.8万リットル


「えぇ〜、こんな問題、予習にも復習にも」
出てこなかったよぉ、とユナが愚痴るよりも早くに、右手からはピンポーンと超高速なベルが鳴る。
『はい、スパークランの選手が早かった!正治選手、正解は?』
ちらっと亜由美が真横を見ても、ファイヤーラットの選手が邪魔で、ここからは顔すら見えない。
ちょいちょいと袖を引っ張られ、何かと思えば杏が真正面を指さしていたので全員でそちらを見ると、前方の巨大モニターに、スパークランの正治選手とやらの顔がドアップで映し出されていた。
パッと見て、細面で洗練された都会の匂いを感じる顔立ちだ。
銀色フレームの眼鏡をかけていて、賢そうにも見えた。
「正解は、2番!」
彼が元気に答えると、たちまちキンコンカンコンとやかましいファンファーレが鳴り響く。
「フッ……さすが軍のお下がりを愛用しているだけはある」
会場も大賑わいの中、一ミリもボタンを押す気配の無かったファイヤーラットの選手がボソリと呟く。
「あんな問題ずるいよねぇ」とユナが雑談を振ってみると、名も知らぬ隣の選手は深々と頷いた。
「まったくだ。もっと一般的な問題を出してほしいぜ、その為のクイズ大会だろうがよ」
『さっそくの正解!さすが歴戦の学校は違いますねぇ〜、どうですか?解説のビギンさん!』
司会に振られて、傍らでマイクを握って無言だった女性も話し出す。
『そうですね、ベイクトピア軍をスポンサーに持つスパークランには有利な問題だったかもしれません』
「かもしれませんじゃねぇよ、そうなんだよ」
ブツブツ文句を言うファイヤーラット勢につられてか、「もっとマトモな問題が出て欲しいナー」とユナも文句を言ってみた。
だが彼らの都合に併せてクイズの問題が出てくるはずもなく、二問目も、またまたマニアックに狭い知識の問題であった。


*第二問*
二足歩行ロボットの操作方法は、製造国によって異なります。
ベイクトピア軍のロボットはレバー方式の操縦桿。
クロウズ軍のロボットはハンドル方式の操縦桿。
では、ニケア軍のロボットは、どのような方式の操縦桿でしょうか?
1.ペダル方式
2.ネジ方式
3.自動運転方式


「なんだよ、それ!判るかよ!」と、あちこちの席で悲鳴が上がる中、ピンポーンと手前で鳴り響くベルの音を聴き、亜由美とユナの目は丸くなる。
押したのはエリス、我がラストランの選手だ。
今のは猛特訓の際に一度も出てこなかった知識なのだが、彼女には判るんだろうか。
まさか当てずっぽうで答えるつもりなのか?
『はい、今度はラストワンの選手が早かった!エリス選手、答えは?』
「一番のペダル方式」
ぽつりとエリスが答えた途端、キンコンカンコンのファンファーレが祝福してくる。
『おぉっと、これはマニアックな問題を淀みもなく答えたァー!』
『女の子には難しい問題かと思いましたが、やりますね!』
司会と解説は唾を飛ばして大絶賛。
会場からは「いいぞー、女の子!」と声援まで飛んできたが、エリスは全くの能面だ。
「よ……よく判ったねぇ、今の」
ユナに言われても、エリスは一言返してきただけだった。
「問題は全部で十問……あと八問、頑張りましょう」
その後も次々とマニアックな問題が出てきては、出来るか!だの判らねぇよ!といった、隣の愚痴を聞きながら。
「あ、これ、辻教官のマニュアルにも出てきたッ!」
ピンポーンと亜由美が鳴らすも一歩遅く、よその選手に先手を取られたり、或いは全然判らないまでも、とにかく先にボタンを押して、当てずっぽうで答えた杏が正解を叩き出したりで、ついに残すは、あと一問となった。
ここまでの結果、ぶっちぎりでスパークランが四問正解を叩き出している。
スパークランの優勝は間違いなしとして、あとの学校は一問正解の横並びとなっていた。
ラストワンは二問正解。初出場にしては、上々の順位であろう。
最後の問題に正解すれば、二位にあがれるチャンスも残っている。
『では、ラストチャーンス!最後の問題ですっ』
ご丁寧にダラララ……とドラムロールを鳴らしてから、最後の問題が表示される。


*第十問*
我々の生活を脅かす、空からの来訪者――
彼らを何度となく撃退してきたのが、各国の軍隊です。
では、ここで問題です。
これまでに撃退ではなく完璧に撃破した、世界的に有名なパイロットは誰と誰?
フルネームで、お答え下さい。


ここへ来て、三択ではなく一つの答えを出せという。
それも、フルネームときた。
またしても軍隊関連問題で、スパークランに有利な問題だ。
ズルイ!とユナが叫ぶよりも前にファイヤーラット勢の文句は早かった。
席を蹴ったおして飛び出すと、司会に三人がかりで掴みかかる。
「てめぇ、スパークランに幾ら袖の下をもらいやがった!?」
唐突なハプニングに会場が大沸きする中、ピンポンが二つ同時に鳴り響く。
押したのは亜由美と、それからスパークランの選手だ。
『ぐ、ぐえぇっ、落ち着いて下さい』と司会が首をぐいぐい絞められる中、手の空いた解説が回答を促した。
『ラストワンが一瞬早かった!亜由美選手、答えをどうぞっ』
立ち上がり、亜由美が答える。
「は、はいっ!一人はデュラン=ラフラス……さん」
デュランの名なら、ベイクトピアに住む者であれば誰もが真っ先に思いつくであろう。
電撃ロボを乗りこなし、数々の来訪者を撃退ないし撃破した、伝説の名パイロットだ。
だが、あと一人は?
ユナが知る限りでは、デュラン以外のエースパイロットなど記憶にない。
次の答えには多少の間が空いた。
亜由美は何もない宙を見つめ、少々悩んでいたが、やがて一人の名をあげる。
「あと一人は……ニケア、ニケアのエースパイロットで、えぇっと……そう!名前は、志熊慶一郎!」
亜由美の大声に重なるようにして、ひときわ大音量のファンファーレが鳴り響く。
同時に紙吹雪が会場の両サイドからパパーン!と勢いよく噴きだして、観客をも驚かせた。
『すごいっ!これを知る若者がいたとは驚きです!!しかも、女の子とは!』
叫んだ司会の足下では、ファイヤーラットの選手達が警備員に取り押さえられ、床に這い蹲っている。
『記録によると志熊慶一郎氏は今から十五年前、五年間にわたり前線の指揮をしていたニケア軍の中尉だそうで、一度だけ自らロボットを操縦して、来訪者を撃破した事もあるそうです』
エースパイロットはベイクトピア軍だけに及ばず、他国のパイロットでも良かったのか。
それならそうと、問題できちんと言ってくれればいいのに。
ユナが愚痴垂れると、杏には「でも、各国の軍隊って前振りがありましたよね」と指摘された。
「けど亜由美ちゃんってクロウズ出身だよね?どこでニケア軍のエースの名前なんて知ったの?」と、それでもユナが脳裏に沸いた疑問を問えば、亜由美は間髪入れずに答えてよこした。
「あ、辻教官が教えてくれたんです。昔、志熊中尉の指揮する布陣を見たことがあって……忘れられないほど、有能な戦いぶりだったって」
「へぇ……辻教官が」と、ユナは驚くやら感心するやら。
クイズ大会はレベルが高いというか内容がマニアックすぎて、どれもこれも自分達の出る幕はなかった。
大衆の前で恥をかかずに済んだのも、早押しのレベルすら自分達の及ぶスピードではなかったおかげってだけだ。
『スパークラン、ぶっちぎりの優勝!さすが王者の貫禄を見せつけてくれますッ。そして、最後の最後で今大会初出場のラストワンが二位に躍り出た〜!こちらも素晴らしい!』
『皆様、盛大な拍手を選手達に贈ってあげてください!』
司会と解説の勢いに煽られて、ぐるっと一周、会場中から耳鳴りがするほどの拍手が贈られた。
「あぁ……そっか、三問正解だから」と今更ながら我に返るユナの元へ、さっと手が差し出される。
何かと顔をあげてみれば、スパークランの確か正治選手といったか、彼が笑顔で立っていた。
「やるな、ラストワン。初出場と聞いていたが、この超難問クイズで三問も正解するとは思わなかった」
「あ、えーと」
答えたのは、杏とエリスと亜由美だ。ユナは一問も解いていない。
差し出された手を誰が握るかで押し問答した結果、握り返したのは亜由美で、ぎこちなく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。答えられる問題が出て、助かりました」
「ははっ、謙遜するな。このクイズ大会で一問も間違えなかった君達は、もっと誇っていいんだぞ?来年は、どこかの軍隊で会えるといいな」
正治選手は今年で学校を卒業の予定か。
なかなかのイケメンっぷり故に、来年、彼の顔が見られないのは残念だとユナは考えた。
まぁ、クイズ大会は顔の善し悪しで勝敗が決まるものでもないのだが。
もう一度「ありがとうございます」と頭をさげて、スパークラン勢が去っていくのを見届けてから、ユナ達は、ちらりと会場の隅へも視線を巡らせる。
あぁ、いたいた。最後の問題で警備員に取り押さえられて、失格になったファイヤーラットの皆さんが。
「あーゆーのって答えられない選手よりも、みっともないよねぇ」
これみよがしに肩をすくめたユナに、杏と亜由美も苦笑する。
「なんか……教官も鬱陶しい人いませんでしたっけ、あそこ」
ついでとばかりに悪口を放ってくる杏へも苦笑して、亜由美は鬱陶しい教官の顔を思い浮かべる。
御劔学長や辻教官にヒロシだか鉄柳だかと呼ばれていた男であろう、杏が言っているのは。
学長の話をまとめると、いつぞやの教官面接で落とした相手らしい。
あの時の面接で辻教官ではなく、あの男が採用されていたら――
そこまで考えて、ぶるっと亜由美は身震いする。
よかった。
辻教官が採用されていて。
ヒロシが担当になっていたら、根性のない自覚がある亜由美のこと、途中で学ぶ気力が挫けていたかもしれない。
なにより担当が辻教官だったおかげで、最後の問題にも答えることが出来たのだから。


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