Dagoo2 -Fenrir's Daughter-

ダ・グー2 -フェンリルの娘-

18.いざ、総本山へ

ランカの送られた場所が、ようやく判明した。
彼女は間違いなくいるのかとミンディに問われたクローカー曰く、支部から高魔力の者が送り込まれる先は総本山のみ。
総本山にある大神殿では日夜フェンリル降臨の儀式準備が取りなされており、銃器を携帯した物々しい警備体制が敷かれている――
これらの情報をクローカーとキエラに提供したのは、フィンランド支部にいた人ならざるガードだ。
二人がかりで締めあげたからにはフェイクじゃないはずだとキエラは胸を張り、ダグーの心は密かに痛んだ。
中継所から始まり今に至るまで、多くの人畜無害な信者に迷惑をかけてしまった。
彼らの仲間がランカなんかを誘拐しなければ、こちらと関わる事も、なかっただろうに。
あまり良い組織とは言い難いが、ランカ以外の信者は自分の意思で入信している。
何を信仰するかは個人の自由であろう。
ランカさえ巻き込まなければ、こちらだって首を突っ込まずに済んだのだ。
全部ランカを誘拐した信者のせいにして、ダグーは気持ちを改める。
目の前では人狼たちが相談を続けている。
誰が乗り込むのか、全員でいくのか。
乗り込んだ後は、どうやって生贄を救出するのか。
生贄は全員助けるのか、それとも目的の少女だけに留めておくのか。
フェンリル降臨の儀式についても、放置するのか妨害するのかで意見は割れた。
「ランカさんを助けるのは当然として、儀式は放っておいても構わないように思います……」とはミンディ談。
フェンリルの存在自体が曖昧である点と、人々の希望を潰すことへの罪悪感だ。
「共通の何かにすがることで生きる活力を得る人もいます。それを無関係な私達が潰してしまっていいものか」
生贄の件では悪しき軍団だと憤ったけれど、悪しきなのは全体の一部分かもしれない。
現に北海道支部は和気藹々なシェア生活だったというし、それを考えると、組織を叩き潰すのにも躊躇が生じてしまう。
「けどよ」と異議を唱えたのはスパンキーで、「生贄を捧げるってなぁ、要するに殺すんだろ?殺人を容認しちまうのは拙かねぇか」とのことだ。
「……生贄は本当に殺されるのかねぇ?」
アイリーンは腕を組んで考え込む。
「その辺、人ならざる者は何も言っていなかったのかい」と、これはクローカーヘの問いだ。
クローカーは首を真横に「そういえば、何も言っておりませんでしたね」と呟く。
「送られた奴がどうなってんのかは、あいつも知らないんじゃねーか?」とはキエラの予想だ。
フェンリルが架空であれ巨大なものだと想定した場合、生贄の数は膨大になる。
それだけ大量に死体が発生したら、処理するのも一苦労だ。
死体を燃やせば煙が上がる。山火事だと地元の新聞でニュースに取り上げられても、おかしくない。
だが、そうしたニュースはインターネットで検索しても見つからず。
「ただの儀式ゴッコな可能性もある、と。どのみち、そのへんは潜り込んで生贄の無事を確かめない限り判らんな」とヴォルフが話を締め、全員の顔を見渡した。
「大言壮語な目標を掲げている割には、全くネットで話題にならないような団体だ。実際の危険性は低いと俺も思う。まずは誘拐された身内の救助を最優先しようや」
「それは勿論」と頷いて、しかしとキヅナは懸念を示す。
「もしランカさんが生贄の儀式に使われる最中に出くわしたら、どうするんです」
「そん時ァ、儀式をぶっ壊してでも救出するに決まってんだろ」
キエラは笑い、ダグーにも同意を求めた。
「乗り込んだ全員で暴れりゃあ、たとえ警備が銃を持っていようと関係ねーぜ。銃をブッパする前に、ぶちのめせばいいんだからよ。ってなわけで、向こうにゃ荒事の得意なメンツで乗り込もうぜ。ダグーちゃんは留守番、それでいいよな?」
ぼーっと流し聞きしていたら、留守番に回されそうだ。
確かにダグーは荒事が、全然得意じゃない。
しかし、ランカが誘拐されたのは自分にも原因があるのだ。
自分が、あの時、チラシ配りを引き受けたりしなければ――
「俺も行くよ」とダグーはキエラの案を振り切り、ヴォルフとミンディへ提案する。
「それに暴れたりしたら、こちらが悪者扱いされてしまうかもしれない。暴力手段は奥の手にして、穏便にランカを返してもらえるよう話し合いに持ち込むってのは、どうかな?」
「穏便に話しあう場を設けるには、無断潜入ではなく正式入場じゃないと無理ですね」と、ミンディ。
「生贄ないし信者のフリをしようって腹か」とヴォルフも請け合い、再びクローカーへ尋ねる。
「生贄の送り込みは、どうやっているんだ?人ならざる者が連れていくのか、それともヘリか登山隊か?」
「登山隊の線は、ありませんね」
クローカーは薄く笑い、人狼を見つめ返す。
「生贄も向こうでの人員も、全ては支部に属する人ならざる者が送り届けるそうです。ダグーさんの案でいくのでしたら、私かキエラのどちらかを伴い、生贄のフリをするのが宜しいでしょう」
だが、それだと乗り込めるのは極わずかに限られてしまう。
暴れるにしても話し合うにしても、少人数では不安が増すばかりだ。
「俺達は一人しか乗り込めないぜ。魔族が二人以上揃って本部行きってのは、ありえないんだとよ」と言ってキエラが肩をすくめる。
「人ならざる者は原則、支部の警備員兼生贄の配達員ですからね」とクローカーも頷き、付け足した。
「ですが、ご安心を。大神殿の警備に人ならざる者は混ざっていないそうですよ。高魔力者は全て生贄扱いです」
警備で潜り込めるなら、フィンランド支部のあの人だって直々に総本山へ乗り込んでいっただろう。
バイト募集じゃ支部に乗り込むのが精一杯、監視をつけられた以上は人づてにSOSするしかなかったのだ。
「それを知っているってこたぁ、そいつも本拠地には何度か足を踏み入れたのか」
納得しあう人狼たちに、ミンディが号令をかける。
「乗り込むのは少数精鋭でいきましょう。ダグーさんとシヅさんは当然として、あとはヴォルフさん、それからアイリーンさんも同行していただけますか?」
「なんでダグーちゃんが当然だよ?」と即座に反論があがる。
あげたのはキエラで、ミンディが答えた。
「アーティウルフの能力を如何なく発揮すれば、穏便に事を運べましょう」
「アーティウルフは良いとして、その二人は何でだ?」とのクォードの疑問にも、彼女は淀みなく答える。
ただの民間人狼では、足手まといになりかねない。
だが、ヴォルフとアイリーンは潜り込むのに適したエキスパートだ。
アイリーンは人狼研究所に勤める諜報員だし、ヴォルフは長年培ったトレジャーハンターの実績がある。
変装や演技もお手の物だと説明され、アイリーンはさておきヴォルフはそうだったかなぁとダグーは首を傾げたりしたものの、先輩が一緒に来てくれるなら、これほど心強い同行者もいまい。
ミンディやキヅナは他の人狼と共に、隠れ里で朗報を待つ。
「残念ですが我々が協力できるのは、ここまでです。我々は誘拐された少女に詳しくない。救出は身内がするべきでしょう」と断るキヅナへ「そうだな。お前らじゃ探そうにも顔が判んねーだろうし」とキエラも頷いた。
魔族三人のうち誰が同行するかについては、クォードが名乗りをあげた。
「いいのか?君はランカと直接の身内じゃないのに」と驚くダグーを見上げて、クォードは意味ありげな笑みを浮かべる。
「ここまで来たんだ、ついでに邪教の親玉を見物に行くのも悪くねぇさ。それに、もしかすれば連中の集めた魔力を横取りできるかもしんねぇだろ」
打算あっての協力だ。ちゃっかりしている。
「んじゃあ、クォードちゃんにも場所を教えとかなきゃ」
「オイ、誰がクォードちゃんだ」と苛つくクォードを掴まえて、キエラが姿を消したのは一瞬で。
すぐにパッと現れたキエラは、クォードの肩など抱きつつ笑顔で宣言した。
「おっしゃ、ナビの記憶完了!これで、いつでも出発できるぜ。まぁ、出発するのは明日にしたほうがいいと思うけど。今すぐってんじゃ慌ただしいし、準備は万全にしとかないと」
「言われなくても判っているよ」とアイリーンが軽口を遮り、集会をも終わらせた。
皆が、それぞれ割り当てられた部屋へ戻っていくのを横目に、ヴォルフがダグーを呼び止める。
「ダグー、寝る前に俺の部屋へ寄っていかんか?お前に話しておきたいことがあるんだ」
「判った」
ダグーは素直に頷いて、先輩の後を追いかけた。


ヴォルフの部屋にて、ここまでの道のりを思い返して、ダグーは嘆息する。
ミンディの元に辿り着いてもゴールインとならず、ランカ救出劇に乗り出さなきゃいけない。
隣に座ってくると、ヴォルフはダグーを労わった。
「長旅ご苦労だったな。いや、お前の探し人が、ここまで遠方に住んでいるとは俺も思わなんだ。結果としてアイリーンも見つかったようだし、揉め事が全部片付いたら……また、俺と一緒に暮らそうか」
「うん」
一も二もなく頷いて、ダグーは微笑む。
「良かった。先輩が誘ってくれなかったら、自分で言おうと思ってたんだ」
「ばか、俺が言わないわけがなかろう。お前が出ていって、どんだけ寂しかったと思っているんだ」
ぎゅむっと抱き寄せられる。昔と変わらず力強く、そして温かい腕の中へ。
「俺だって先輩と別れた後は、ずっと寂しかったんですからね……?でも、ここで再会できて良かった」
「あぁ」
抱き合ったまま、二人揃ってベッドに潜り込む。
「先輩は、どうして隠れ里へ来たんですか?アイリーンのツテだと聞きましたけど」
すぐには眠らず、積もる話、お互いに今まで何処で何をしていたのかを話し合いながら。

22/01/19 Up


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