DOUBLE DRAGON LEGEND

第六十九話 引き裂かれた想い


部屋中に充満する濃い血の香り。
そしてベッドに横たわる遺体を目にした瞬間、葵野は腰を抜かした。
「なっ、なっ……何これぇっ!?」
「だから、入ってはならないと……!」
追いかけてきたリッシュが腕を抱え、無理矢理葵野を立ち上がらせる。
「これは何だ?いや……誰だ?」
ゼノの問いに小さく溜息を漏らした医師は、答えるべきか答えないべきか迷っているようであったが。
「ひっ、人ごろ……もがッ!」
葵野が真っ青になって叫びかけるのは両手で遮って、不承不承答えた。
「この死体は前の戦いで死んだ住民のもの。とある人の依頼で、そこの脳を移植する手術を行っていた」
手術?
手術だと?
脳を丸ごと移植する手術なんて、聞いたことがない。
しかも体は既に死んで久しい遺体じゃないか。死体に移植したって、生き返るわけがない。
「く、狂ってる……」
キチガイを見る目で葵野は後ずさり、ゼノは黙って首を振る。
これだけ、はっきり拒絶の意を示されたにもかかわらず、リッシュは無表情に坂井の元へ戻っていった。
「あなた達が信じる信じないは勝手。でも私には知識がある。魂の器を移植する技術も」
「たっ、魂の……器って?」
見まい見まいとすればするほど血の海が目に入り、葵野は再び腰を落とす。
その横で浮き沈みする脳味噌を凝視したまま、ゼノがポツリと呟いた。
「判らん。奴の自信は、どこから来る……?」
死体を蘇らせる技術と知識。
そんなものは、ありえない。仮にあるとしても、何故それをリッシュが知っているのか。
この男は一体何者なのだ。ただの医者ではないのか。
美羽の知人というだけで信頼してしまっていたが、もっと彼自身について調べておくべきであった。


部屋全体に響くのは、僅かな機械音だ。
ベッドの上に固定されたアリアは頬を上気させ、呼吸が荒い。
うっすらと全身に汗をかいており、時折、小刻みに体を震わせていた。
「アリア……」
ぎゅっと瞼を閉じて堪え続けるアリアを、該は見下ろした。
自分も酷い実験に遭わされてきたが、該は男であるだけ、そして拷問の経験があるだけ、まだマシだった。
裸に剥かれた時、ベッドに恥ずかしい格好で固定された時、アリアは何を思っただろう。
驚愕、羞恥、怒り、それとも――絶望?
この哀れな少女に、自分は更なる屈辱を与えねばならないかと思うと気が重かった。
だが、やらねば彼女が殺される。
捕虜になった時点で、いずれは解剖に回される運命なのは判っていた。
むざむざと解剖されてやるつもりは、該にもない。無論アリアにだってないはずだ。
「アリア、起きろ」
「んっ……ん……っ」
ピタピタと軽く頬を叩くと、堅く閉じていた瞼を開けてアリアが天井を見つめる。
焦点が完全に合わさるまで多少の時間を要したが、自分を覗き込んでいるのが該だと判るや否や「キャッ!」と叫んで胸元を隠そうとして、無駄な努力を繰り返した。
両手両足を固定されているのだ、胸はおろか股間だって隠せまい。
「いや……み、見ないで、該さん!」
しくしくと泣き始めた少女に再三、該は優しく声をかける。
「アリア」
「うっ、うっ……いや、いやぁ……」
「アリア、泣いていても構わないから、ひとまず俺の話を聞いてくれ」
該は告げた。アリアにとっては、地獄の宣告とも思える内容を。
「今から、お前を抱く。けして痛いようにはしない、だから俺を信用してくれないか?」
言われたことの意味が理解できなかったのか、少女はポカンと口を開け、涙に潤んだ瞳で見つめてくる。
構わず該は続けた。
「無論、お前が拒否すれば俺は何もしない。……どうする?俺に抱かれるか、拒否するか。選んでくれ」
「ど……どうして?」
じっと視線は該に向けたまま、アリアが呟く。
「だって該さんには、美羽さんが」
「その通りだ」
該も頷き、先を続ける。
「だが、お前を抱かなければ殺すと奴らが脅してきた」
「こ、殺すって……誰を?」
再びの問いへ、該は静かに答えた。
「お前をだ、アリア」
「私を……」
もはや該に裸を凝視されている事も忘れて、アリアはポツリと呟いた。
どうも実感が沸いてこないのか、何度も首を捻っている。
「それで……抱く、というのは?」
該は小さく落胆し、アリアの肩へ軽く手をかけた。
「言わずとも判るだろう、それぐらい。それとも、本気で判らないのか?」
「え……あ……っ!」
やっと頭の回転が良くなってきたのか、アリアはボッと顔を上気させ、再び羞恥心を漲らせる。
本能でか両足を閉じようとするが、拘束された両足は思うように動かせない。
「そ、そんな、私、私まだ、そんなの無理ですっ!」
「無理かどうかは聞いていない」
あくまでも該は淡々と遮り、アリアの答えを要求してくる。
「するのか、しないのか。お前が答えるのは、その二択だ」
「がっ、該さんは……私は良くても、いいんですか?そのっ、該さんは美羽さんとじゃないと」
はぐらかそうとしても、該は無表情に同じ質問を繰り返すのみ。
「するのか、しないのか」
やがて観念したのかアリアは小さく溜息をつくと、項垂れた。
「わ、私……該さんになら……」
彼女の反応に、僅かだが該の頭がズキリと痛む。
かつて、これと似た反応を何処かで見た覚えがある――だが、何処で誰が相手だったか?
思い出そうとすると頭の奥がチリチリと焦げ付くので、該は考えるのをやめた。
「本当に、いいのか?」
悩ましげな表情で該が尋ねると、少女はコクリと小さく頷く。
「は……はい」
「よし、では……力を抜け」
該に命じられるままに、アリアは全身のちからを抜く。
本当は怖くてたまらなかったのだけれど、該が相手なら、けして酷く扱ったりすまいと信じて……

ぼんやりとした灯りが、瞬いている。
水滴の落ちる音でデキシンズは目を覚ます。
ここが何処なのか、意識がハッキリしてくると同時に思い出した。
牢屋だと判ると同時に、ガバッと勢いよく身を起こす。
「英雄様ッ!?」
やがて薄暗がりに白い服を見つけ、彼は安堵の溜息を吐く。
「良かった……」
何故、ジ・アスタロトのメンバーでありK司教のMSでもあるデキシンズが牢屋に放り込まれているのか?
少し時間を戻してみるとしよう。

『R博士が白き翼を解剖したがっている』
U将軍に聞かされて仰天したデキシンズは、会議を飛び出してR博士の下へ駆けつける。
理由は勿論、解剖の中止だ。
伝説のMSは遥か千年の昔に創られたとされている。太古の技術を体に宿す貴重なサンプルでもある。
死ねば、いつかはアリアやアモスのように転生という形で生まれ変わるのかもしれない。
しかしデキシンズは、司に死んで欲しくなかった。
英雄である。
過去の戦争を率いたとされる、創造MSの生き残り。
幼い頃より絵本で総葦司の英雄譚を聞かされて育ったデキシンズは、ことのほか、彼の伝承が好きであった。
自分と同じ創られた命でありながら、人から生まれた他のMSを従わせ、MSを迫害する者を退けた。
いつかは自分も、英雄のように強くなる――総葦司はデキシンズにとっても英雄であり、憧れの的だった。
その英雄が解剖されるなど、断固あってはならないことだ。
そうしたわけで勢いよく飛び込んできたデキシンズは、R博士の姿を見つけるやいなや土下座した。
「なっ、何事じゃ!?」と慌てる博士の足下で、デキシンズが懇願する。
「R博士!白き翼を解剖しないでください!!」
しばし呆けていたR博士も、すぐに状況が飲み込めたのか、たちまち癇癪を爆発させた。
「貴様、騎士の分際で儂に命令か?司教のMSだからといってワガママが通じると思ったら大間違いじゃぞ!」
「ワガママなんかじゃありませんッ」
床に額を擦りつけ、デキシンズは続ける。
「白き翼は、俺にとってもマスターにとっても重要な存在なんだ。解剖したら何もかもが謎のまま消えてしまう」
「重要な存在?」
首を傾げるR博士へ頷くと、デキシンズが顔をあげる。
「そうです。総葦司は剣持博士が一番可愛がっていた十二真獣であり――」
だが、言葉は途中で途切れる。いや、無理矢理途切れさせられた。
鋭い剃刀のような「嘘だッ!」という、司の大声で。
「え、英雄様?何が嘘なんだ」
予想外の妨害にキョトンとするデキシンズをキッと睨みつけると、司は吼えた。
「剣持博士は、僕を愛してなどいなかった……!僕達は、十二真獣は戦争を起こす為に創られた殺人兵器だったのだから!!」
「な、何を言っているんだ?」
剣持博士の残したディスクに、そのような記録は残っていない。
研究所跡で見た記録にあったのは十二真獣を創るプロセスと、博士達がMSへ寄せる深い愛情。
逆に、司の言う残忍な計画を見た覚えは一つもない。
しかし英雄様を見てみれば、どうした事か彼は涙を流し、真っ赤に充血した瞳で睨んできているではないか。
咄嗟にデキシンズが閃いたのは、R博士が司に良からぬデマを吹き込んだのでは?という可能性だった。
何の為に、そんなことを?そりゃあ、決まっている。英雄様を、絶望の淵へ追い込む為だ。
精神的に追い込み、反撃意欲のなくなったところで解剖する……
だがR博士の思うようになど、させてたまるか。
K司教は十二真獣に希望を抱いている。
彼らの謎を解き明かすことで、新しい生命体――次の世代となる、新人類を誕生させようとしている。
その為にも英雄様には、ここで死んで貰うわけにいかない。
現在の医学では解明できないかもしれないが、K司教なら、マスターなら必ず解き明かしてくれるはずだ。
「英雄様!親を、そんなふうに言うもんじゃないぞ!」
デキシンズの叱咤を力一杯、司が拒絶する。
「僕は、英雄なんかじゃないッ!人殺しだ!ただの、殺戮兵器だッ!!」
デキシンズが駆けつけるまでに、どれだけの嘘をR博士に吹き込まれたというのか。
司は、すっかり自信を失っており、最後に会った時とは、まるで別人のようであった。
「しっかりしろ、英雄様!君は俺達を倒すつもりで、ここに来たんだろ!?」
ガクガクと肩を揺さぶってみるが、司は力なく視線を外して呟くばかり。
「僕なんて……あの時に、シーザーが死んだ時に、一緒に死んじゃえば良かったんだ……」
「シーザー?シーザーってのは、十二真獣か?」
どこか視線を遠くに定めた司は、デキシンズの問いに答えるでもなく独り言の続きをもらした。
「……僕が、彼を死に追いやったんだ。僕の無茶な命令を聞いたせいで、シーザーは死んでしまった。ミスティルは、僕を一生許さないだろう……」
自信喪失なんて可愛い状態じゃない。司は生きる気力すら無くしている。
うつろな視線の彼を激しく揺さぶって、デキシンズは精一杯励ました。
「何を馬鹿な事を!シーザーが死んだのは君のせいじゃない、彼を殺したのはストーンバイナワークじゃないか!」
シーザーの英雄譚は千年戦争の歴史を紐解けば、すぐに見つかる。
白き翼に命じられ、たった一人でストーンバイナワークに乗り込み、己の命と引き替えに半壊させた。
銃弾の飛び交う中で彼が死に至るまでの経過は、伝承を愛する者ならば誰でも知っている。
幼い頃のデキシンズも、その下りを聞かされるたびに何度も興奮したものだ。
不意にデキシンズは、両脇から研究員の手によって引きはがされる。
「何をするんだ!」と怒る彼の前に立ったのは、R博士だ。
「何をする!は、こちらの台詞だデキシンズ。貴様は、誰の命令を受けて儂の邪魔をしとるんだ?」
「お、俺は、ただ……英雄様を助けようと」
しどろもどろに答えるデキシンズの胸をどつき、怒りの形相でR博士が詰め寄ってくる。
「助ける?白き翼を?わかっとらんなァ〜、こいつは我々の敵だぞ?貴様、敵の手引きをしようというつもりか」
身長はデキシンズの半分ぐらいしかないのに、えらく迫力のある老人だ。
瞬く間に全身汗だくになり、デキシンズは今頃になって自分のしでかした愚かな行為を悔いてみたが、全ては遅すぎて。
裏切り者は牢に閉じこめておけというR博士の命令によって、総葦司と共に牢屋へ放り込まれた。
それが、今より三時間も前の話である。

二人揃って同じ牢屋に閉じこめられたのは幸運であった。
バラバラに閉じこめられてしまったら、もう二度と英雄様を救うチャンスがなくなってしまう。
R博士は怒りっぽいけど冷めやすくもある人だから、そのうち出してもらえるだろう。
或いは、K司教が手を回してくれるかもしれない。
不意に怒り心頭な兄の様子が脳裏を掠めたが、デキシンズは頭を振って怖い想像を追い出した。
デミールには、あとで必死に平謝りしておこう。
相当のお仕置きが予想されるが、兄はけして自分を殺したりすまい。
どれだけ虐められても、命にかかわるような重傷を負わされた事はない。
数々の嫌がらせはデキシンズの嫌がる顔が見たくて、やっているのだ。あれは兄の趣味なのだ、きっと。
ひたひた、という小さな足音が近づいてきたかと思うと、白い獣が檻の中へ鼻先を突っ込んできた。
「愚かな真似をしたものだな」
レイだ。デキシンズが心配になって、見に来てくれたのだろうか?
「せっかく功を立てたというのに、台無しにしてくれた。K司教が泣くぞ」
「ご、ごめん……でも」
ちらっとデキシンズが司の様子を伺うと、英雄様は薄暗がりの中、膝を抱えて座り込んだ格好で微動だにしない。
「英雄が心配、か。だが、たまには仲間の心配もしたほうがいい」
踵を返したフェレットの背に、デキシンズが反論する。
「し、しているよ……だけど、俺は」
「だけど、それでも英雄が気になる……か。その甘さ、いずれ、お前の命取りとなるぞ」
小さな足音は去っていき、静寂が牢屋に訪れた。
「……命取りでも構わないよ。だって、俺は」
もう一度、司を見た。先ほどと全く変わっていない。
膝を抱えて、叱られた子供のように項垂れている。
そっと近づくと、デキシンズは彼の隣へ座り直す。
「英雄様、ごめんな。君を助けたかったのに、こんなザマになっちまった」
肩を抱き寄せても、司の嫌がる様子はない。そればかりか抵抗の兆しすら見せない。
項垂れた顔を上げさせてみると、生気のない瞳と目があった。
「で、でも、俺は」
ごくり、とデキシンズの喉が音を立てる。
「お、俺は……解剖なんて、絶対にさせないから。俺は君に、生きていて欲しいんだ」
「……して」
小さく、司の唇が動いたような気がして、デキシンズは耳をそばだてた。
「えっ?」
注意して聞いていないと聞き取れないほどの小声で、司が呟いている。
「どう……して、君は……僕を助けようとするんだ?」
「ど、どうしてって」
再び喉が嫌な音を鳴らし、誰に怒られるわけでもないのにデキシンズはゴホンと咳払い。
「そりゃあ、俺は、君のファンだからね……き、君が好きなんだ。ずっと好きだったんだ、子供の頃から憧れていたんだよ」
「僕は、人殺しだぞ。あの戦いに正義など、なかった……」
すぐ俯きそうになる司の顎を取って無理矢理上を向かせると、デキシンズは彼の眼を見つめて微笑んだ。
「それでも好きだよ。俺にとっては、あんたは英雄なんだ。正義なんて関係ない」
「君は……」
抱きしめられた体を引きはがす事もなく、どこか投げやりな調子で司は言った。
「僕が好きなんじゃない。僕を語った、伝承が好きなだけだ……」
とても千年を戦い抜いた英雄とは思えないほど腕の中の少年はか弱く、か細い存在に思えてきて、デキシンズは司を抱きしめる腕に力を込めた。


「――力を抜くんだ」
何度目かの該の忠告に、またしても全身に力が入ってしまったのだと判り、アリアは赤面する。
だが、力を抜けと言われても無理だ。
誰かと性行為など、自分には早すぎると思っていた。しかも相手は憧れの該である。
緊張しない方が、おかしい。
乳房の上を這い回る該の手を目で追いながら、アリアは震える声で尋ねた。
「はっ、初めては痛いって聞きました……」
先ほどまで刺さっていた太い棒のおかげで、彼女の秘部は濡れている。
男が女の中へ突っ込むには膣内を濡らして滑りを良くすればいい――と、何かの本には書いてあった。
ならば今すぐにだって、突っ込めるはずである。理論上だけで言うなれば。
「い……痛いのって、嫌なんです」
本当に耐性がないという自覚でもあるのか、この時点で既にアリアは涙ぐんでいる。
「だ、だから、私が痛いって感じないぐらいのスピードで、サクッと入れてもらえませんか……?」
少女のお願いに、該が苦笑する。
「安心しろ。痛くは、しない。それに」
「それに?」
「お前の準備が出来ていたとしても、俺の準備が済んでいない」
「え……あ、じゅ、準備って、何の?」
下を向いた該の視線をアリアも追いかけて、彼が何を言わんとしているのか気づいた時には再び真っ赤になった。
「あ……う、そ、そうですよね……い、入れるって、そういうことですものね」
「そういうことだ」
己の股の間を覗き込むと、該の股間もよく見える。
ズボンの隙間から垂れ下がるものを見て、アリアは大きく息を呑んだ。
コーティやリオのとは全く違う。
リオのは、だぶだぶの皮を被っていたが、該のは、すっきりしている。
コーティのと比較しても、だいぶ長めだ。変に左へ曲がったりもしていない。
ふと、マジマジ観察してしまっている自分に気づき、アリアは慌てて視線を背ける。
該に低く笑われたような気がして、ごまかし気味に彼を急かした。
「で、でも、あまり長く待たされるのは嫌です!どうすれば、該さんも、その……準備完了になりますか?」
該は「少し待っていてくれ」とだけ言い残し、後はくるりと背を向けてしまった。
後ろを向いて何をしているのか。この体勢では見るにも見られず、アリアの不安は増してゆくばかり。
とうとう沈黙に堪えきれなくなったか、アリアは大声を張り上げた。
「あっ、あのっ、該さん!」
「……なんだ?」
後ろを向いたまま該が応える。
表情を見せない相手に戸惑いつつ、アリアは続けた。
「一つだけ!一つだけ、約束して欲しいんですッ」
「痛くしない、早くしろ……」
小さく呟き、該がクスリと笑みを漏らす。
「それの他に、もう一つか?謙虚に見えて意外と欲張りだな、お前は」
「あ……っ」とアリアがたじろいだ気配を背中で受け止めながら、その先を促してやる。
「それで?約束とは、なんだ」
「あ、あのっ……」
言うか言うまいか、アリアが悩んだのも一瞬で。彼女はすぐに願いをクチにした。
「わ、私を抱く時……脅されて仕方なく、だとか本当は美羽さん以外としたくない、なんて事は思わないで私のことだけを考えていて下さいっ!」
一息に言い終えると、大きく息を乱す。
よほど溜まりに溜まった鬱憤でもあったらしい。
まぁ、それもそうだろう。
アリアにしてみたら、自分の知らないところで勝手に決まった話だ。
いくら顔見知りが相手だろうと、強姦同然の行為である。
「……そうだな。ではアリア、お前の希望通り美羽ではなく、お前の体で起たせることにしよう」
くるっと振り向いた該の股間が、再び己の足の合間に姿を現わした。
「あっ!」と思わずアリアが驚いてしまったのも当然で、彼の股間は全く異なる変貌を遂げていた。
アレが直立している。
何やらビクビクと脈打っていて、まるでソコだけが別の生き物みたいではないか。
「い、いやっ!なんですかそれっ、気持ち悪い!!」
アリアは思いっきり拒絶感を示して、顔を背ける。
背けてから、すぐにハッと我に返った。
こんな態度を取ったのでは、該が傷ついてしまうのでは?
だが慌てて振り返ったアリアの目に映ったのは悄然とする該の姿ではなく、何故か微笑んでいる彼の顔であった。
アリアが嫌がる事など、該にしてみれば先刻承知。
思春期の少女や妙齢の女性が異常なほど性行為や男性器に拒否感情を示すのは、よくある話である。
それに精一杯拒絶する様子は、誰かに似ていた。
そうだ、この拒絶っぷりは司と全く同じではないか。
兄と呼ぶには華奢すぎるあの男も、目の前の可憐な少女同様、男性器を全身で否定していたっけ。
該の口元には自然と笑みが浮かび、少女を安心させようと、こんな言葉までもが口を出た。
「俺を気遣う必要はない。性器がグロいのは仕様だ。それより、俺の準備も整ってきた……そろそろ始めよう。いいか、けして力むんじゃないぞ。力めば力むほど痛みも倍増する」
ぐっと両足を握られて、その時が近いのだと、嫌でもアリアは意識する。
「はっ、はいっ!」
とても緊張しまくった返事をする少女に、またしても該は苦笑したのだった。

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