DOUBLE DRAGON LEGEND

第二十七話 新たな仲間、新たな敵


砂煙舞う砂漠の戦場を、遙か遠くから眺める二つの目がある。
一人は、ふんわりと柔らかそうな薄桃色の毛を短めにまとめた少年。
瞳は薄い桃色に輝き、おまけに身長が低くて小柄な為か、遠目に眺めれば少女にも見えかねない。
もう一人は屈強な肉体美を誇る、褐色の青年。
背負っているのは大きな剣だ。少年は腰に短筒を下げている。
二人とも軽装で、青年に至っては上半身が剥き出しである。
少年も炎天下の砂漠だというのにフードを被るでもなく、半袖に短パンと動きやすい格好であった。
双眼鏡を覗き込み、少年が小さく呟く。
「ねぇ、そろそろ応援に行かないとマズくない?ドールが三体も出てきているよ」
話を振られ、青年も鷹揚に頷いた。
「新しい虎の印が、どこまで戦えるのか見定めておきたかったが……心配ならば、仕方ない。行こう」
二人は砂の上を滑るようにして、音もなく戦場へと走っていく。

槍を回転させながら突っ込んでくる敵を、かわしざま虎は身を屈める。
「力也、屈めッ!」
声につられて身を屈めた葵野の頭上を、風圧と共に槍が通り過ぎる。
だが何本かの髪は引きちぎられて、風に舞った。
まともに当たっていたらと思うと背筋が寒くなる。
急ターンでまた突っ込んでくる四本足に対し、坂井も弾丸の如く頭から突進する。
「力也、俺が合図したら同時に飛び降りろ!」
酷い乗り心地の中「え、え、わわわっ!?」と危うく舌をかみそうになりながらも、葵野は頷いた。
この戦いにおいて、葵野はお荷物以外の何物でもない。
坂井が背中に乗せてくれたのは、葵野がフォローをしてくれると見込んでの事だ。
相手が槍を持ち出してくるまでは、本人もやる気満々で構えていたのだが……
風圧が通り過ぎただけでも毛をちぎられる威力があると判って、彼はすっかり萎縮してしまった。
坂井には、それが判ったのだろう。
降りろと言われて、しかし葵野は複雑な心中になる。
戦えない奴は引っ込んでいろ。
先ほど鬼神に言われた通りになるのが、癪であった。
たとえ役に立てなくても、坂井と一緒に戦いたい。でも、それを言えば彼を困らせるだけだ。
あぁ、槍が迫ってくる。ぼうっとしていたら、飛び出した刃に首根っこをカッ切られる――!
「今だッ!!」「ひゃあああ!」
結局、葵野は悲鳴と共に坂井の背中を転げ落ち、坂井と四つ足は真っ向からぶつかり合う。
体当たりに勝ったのは坂井で、四つ足が体勢を崩してよろけるのへ追い打ちをかける。
鋭い爪が空を割き、四つ足の胴体から血を噴き出させる。
赤い噴水が飛び散って、虎の顔面をも朱に染めた。
しかし敵も然る者、ただではやられない。槍が坂井の頭上に振り下ろされた。
「危ない!」
間一髪、直撃だけは免れたものの、チィと舌打ちをして飛びずさった坂井の額を赤いものが流れ落ちる。
「さ、坂井……血が」
狼狽えて青くなる葵野を横目に虎は身を低く屈め、四つ足も槍を構え直す。
骨が剥き出しになるほど胴体を切り開いてやったというのに、Kドールに苦痛の色は伺えない。
傷など受けていないも同然に涼しい顔を見せている。
Kドールが走ってくる。
坂井も突進して、次に打ち負けたのは坂井のほう。
虎の体は大きく跳ねとばされた。
「坂井!!」
受け止めようと走る葵野、その足を誰かに掬われ激しく砂の上に転倒する。
邪魔したのは、横から突っ込んできた殺戮MSだ。
その間に坂井が墜落、しかし彼はすぐさま立ち上がってKドールとの間合いを外した。
坂井ばかりに構っている暇はない。
今、葵野の前に立ちふさがっているのは金色に輝く鬣をもつ、巨大な獅子。
太い足には鋭利な爪が生え揃い、見下ろす瞳は爛々と血走っている。獣は耳を劈く咆吼をあげた。
「う、わぁ……ぁ」
葵野はペタンと腰を抜かし、砂をかき分け逃げようとするのだが、逃げる方角へ先回りしては獅子が彼を追い立てる。
遊んでいるのだ。戦えぬほど、非力な獲物を見つけた喜びで。
「葵野!くそッ、どけよ!!」
坂井もフォローに回りたいのは山々なのだが、Kドールに足止めされて、ままならない。
そればかりか、油断を突かれて思わぬ直撃を受ける。
渾身の一刺しが左前足を貫通し、坂井の足をもつれさせた。
激痛に目がくらむ彼を救ったのは、上空から急降下してきた赤い塊――鬼神ミスティルだ。
「虎の印を殺らせはせんッ!」
視界を炎で覆われ、ほんの一瞬だが四つ足の動きが止まる。
その隙に、坂井は後ろへ飛び退いた。
足には槍が突き刺さったままだが、抜く余裕もない。
いや、下手に抜いたら大出血は免れない。
戦闘が終わるまで、刺したままにしておくしかなかろう。
ミスティルの翼が炎を扇ぐ。
熱風に、さしもの改造MSも押され気味に見えた。
Kドールの相手はミスティルに任せ葵野のフォローをしようと坂井が踵を返した瞬間、その一瞬を狙っていたかのように大きな影が彼の上に被さってくる。
避けきれず「ぐぁ!」と潰された蟇蛙宜しく悲鳴をあげて、坂井は砂の上に倒れ込む。
襲ってきたのは何だ?
砂にかすむ目を見上げてみれば、涎を滴らせる獅子と目があった。
こいつは先ほどまで葵野を襲っていた奴ではないか。
では、葵野は一体どうなった――!?
遠目に倒れる影を見つけた。
うつぶせに倒れているから、顔はよく見えない。
しかし髪の色を見た途端、坂井は顔面蒼白となった。
見間違えようもない、あの鮮やかな緑色の髪は!
「り……力也ぁぁッッ!」
爪で砂をかき、坂井は起き上がろうと試みるも、虚しく頭からつんのめる。
砂に埋まる体を、獅子の足で押さえつけられた。爪が背中に食い込む。
「虎の印ッ!」
ミスティルの叫びが、いやに遠くで聞こえた。
もう駄目だ。
ここで、死ぬのか。
あまりにも出血しすぎたのか、押さえつける足を跳ねのける気力も沸かない。
獅子の息づかいを首元に感じたが、どうすることもできない。
坂井は観念で目を閉じた。
牙が、がちりと皮膚に食いつき、鋭い痛みが伝わってくる。
首の皮が、食いちぎられる瞬間を坂井は待った。

だが――

「もう、やめて。MS同士で争うなんて不毛だと思わないの?」
柔らかな声が頭上から響いてきたかと思うと、首を襲っていた痛みも消える。
坂井は閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。
目線の先に桃色の小さな体を見た。
順に目線をあげてゆくと鋭利な前歯、そして長い耳が視界に入る。
兎だ。
桃色の毛に包まれた、小さな兎が上を見上げている。
野生の兎が砂漠に居るわけはないから、こいつはMSの兎だろう。
彼は穏やかに話しかけていた。もちろん坂井に、ではない。
兎の目線を辿っていくと、直線上にいたのは獅子であった。
葵野を襲い、坂井の息の根も止めようとしていた殺戮MSの一人だ。
「ねぇ、思い出して。ボクたちが真に戦わなくちゃいけない相手は十二真獣じゃない。ボクたちを皆殺しにしようとしている、悪い人間なんだ。君達は、騙されているんだよ」
周りは殺伐とした戦場だというのに、彼の声はいやに響く。
「ボクたちは手を取り合って戦うべきなんだ。憎むべき敵は、キングアームズ財団。君から人の心を奪ってしまった相手だよ。君も人間なら、人間らしく生きるべきだ」
兎の言葉で、血走った眼を向けていた獅子に変化が現われた。
唸るのをやめ、延々と垂れ続けていた涎も止まり、血走った眼にも正気の色が見え隠れする。
やがて彼は前足で顔を押さえたかと思うと、変化を解いて人の姿となった。
殺戮MSは改造手術や洗脳により人の心を失わせられた、MSの成れの果てだ。
彼らが人の心を取り戻すなど、万に一つもありえない。
だが、獅子は人の心を取り戻しつつあった。
二、三度となく首を振り、初めて現状を知ったかのように、周囲を不安げに見渡している。
獅子へ近づくと、兎のMSは小さな前足でポンポンと肩を叩いてやった。
「……もう大丈夫。さぁ、ここは危ないから、遠くへ逃げていて」
あぁ、と小さく呻き、獅子だった男が、さめざめと泣き出した。
正気に戻り、自分が今まで何をやってきたのかを考えたのだ。
手を散々血に染めた。幾人もの命を葬ってきた。
考えるだに恐ろしい真実に耐えきれず、彼は泣いた。
「早く逃げて。後悔するのは、生きていれば何時でも出来るから」
もう一度兎が声をかけると、男は泣きべそをかきながらも立ち上がり、よろよろと歩き出す。
坂井は、砂に埋もれたまま尋ねた。
「てめぇ……一体、何をやったんだ?」
兎が振り向き、応える。
「昔、教えてくれた人が、いたんだ。ボクの力は、こういう時の為にあるんだって」


砂漠を埋めるほどいたはずの殺戮MS、そしてMDも、次第に数が減ってゆく。
その大半が突如参入した謎の兎MSによる説得で心を動かされ、改心して去っていった。
ただし心を持たぬMDは例外で、それらは美羽、ミスティルの二人と覚醒したレクシィ、それから兎と共に加勢してきた大男によって全滅させられた。
全滅させたといっても、こちらも無傷ではない。
葵野が深手を負い、坂井も出血多量の意識不明だ。
「少々手こずってしまったな」
気絶した坂井、葵野の両名を引きずってミスティルがやってくる。
それには構わず、美羽はレクシィを問いただした。
「レクシィ、アナタは一体何者ですの?あの力、一撃必殺の毒は子の印だけがもつ力ですわぁ」
レクシィは美羽を見つめていたが、やがて力なく視線を外すと人の姿へ戻る。
「レクシィ、美羽の言う子の印じゃない。あの人の作った、新しい真獣だから」
意外な答えに美羽、そしてミスティルも驚愕で目を剥いた。
「新しい真獣だと?」
「どういう意味かしらぁ?十二真獣の改造MSだとでもおっしゃるつもり?」
細い両手を後ろに回し、少女はコクリと頷くと上目遣いに美羽を見る。
「ウン。あの人……マスターは、新しい時代を作るための人材として、レクシィ達を作ったの。Aドール、Sドール、Kドール、Zドール……みんな、レクシィの兄妹」
美羽は眉間に皺を寄せる。
いくつかの名前には、聞き覚えがあった。
B.O.Sが存在していた頃、トレイダーが常に配下として連れ回していた二人の少女がいた。
あの子達がAドール、或いはSドールと呼ばれていなかったか?
するとレクシィがマスターと崇める人物は、トレイダーだと思っていいだろう。
「成る程。皆、名前の最後にドールとつきますのね。ではアナタは、何ドールとおっしゃるのかしらぁ?」
消え入りそうな声で、レクシィは答えた。
「……Dドール」
「それでDレクシィと名乗っていたのか」
ミスティルが頷き、美羽もレクシィを見た。
「レクシィという名前は、アナタの思いつき?」
少女は小さく首を振り、ぼそぼそと呟く。
「本当の……子の印だったコの、名前」
レクシィの呟きに、またまた美羽は眉をひそめて尋ね返した。
「本当の?アナタは、子の印の改造MSではありませんの?」
それに対するレクシィの返事は、美羽が予想していたものとは、まったく異なる回答であった。
「ドール達、皆、元となるサンプルがいたの。Dドールの元になったの、十二真獣のコだった。レクシィ・パレンティア。それが、この時代に生まれていた、子の印の名前」
どこか遠くを眺めながら、マスターは、とレクシィが続ける。
「石版を、持っていて。石版に、過去の技術書いてあった。MSやMDの力を摘出して、別の体に移し替える技術。それを使って、ドールを量産したの」
「なんですって……?」
美羽の知らぬ知識だ。
それほどの技術があったなら何故彼が、ああもあっさり敗北したのかも疑問である。
B.O.Sを潰したのは、財団へ身を隠すための偽装だったのか?
だが襲撃されるまで、彼は中央国に何度もちょっかいをかけている。
十二真獣の一人、坂井の力を摘出する時間ぐらいはあっただろう。何故やらなかったのか。
トレイダーは美羽が十二真獣であることも知っていた。美羽にも手を出さなかったのは何故だ。
謎だ。全てが不可解に満ちている。
トレイダーは一体何を目的としてドールを作り出し、こちらを挑発し続けているのだろう……?
「そいつは恐ろしいな」と言う割には不敵な笑みを浮かべて、ミスティルが呟く。
「ドールってのは、あと何体残されている?」
彼の問いにレクシィは即答した。
「これで全部。全部で、レクシィも入れて五体だけ」
彼女の答えに、ミスティルは落胆したようだった。
「なんだ、つまらん」とぼやく彼を横目で睨み、美羽がたしなめる。
「冗談ではありませんわぁ。悪魔の生命体など、これ以上出てきては困りましてよ」
それよりも――と、ようやく美羽の意識が別のものへ向けられる。
戦いに途中から混ざってきた兎と大男。彼らも何者だ?
兎だったMSは、もう人の姿に戻っている。
桃色の髪の毛に、やや垂れ目の優しげな風貌。
対極に大男は険しい表情を浮かべ、寡黙に立っていた。
ミスティルに勝るとも劣らない二の腕。
太ももなんか、リラルルの腕四本分はありそうだ。
「貴様ら、何者だ?」
ミスティルの問いに、少年が笑顔で会釈する。
「挨拶が遅れちゃったね、ごめんなさい。ボクはシェイミー・ロスカー。それで、こっちの大きなのが」
ミスティルはニコリともせず、途中で遮った。
「名前など聞いておらん。貴様らは何者だと聞いている」
シェイミー少年は小首を傾げる。
「何って……MSだよ?」
「MSなのも判っておりますわぁ」と、美羽も口を挟んできた。
「ワタクシ達が何者か存じていて、それで参戦なさった有志の方でしょうかぁ?」
大男が口を開く。
「お初にお目にかかる。我ら、この時代に生まれた十二真獣」
改めて、シェイミーも自己紹介する。
「ボクはシェイミー・ロスカー、卯の印です。そして、こちらが」
「午の印、ゼノ・ラキサス」
大男が頭を下げた。
「二人とも十二真獣なの!?」
リラルルが素っ頓狂な声をあげるのにもお構いなく、シェイミーが坂井を指さす。
「それよりも、早く彼を医者に診せないと。出血が酷いみたいだし」
ちら、と葵野のほうも見て彼は付け足した。
「そっちの緑色した髪のお兄さんは、怪我が治っているみたいだけど」
えぇっ?とばかりに美羽が覗き込み、ミスティルも掴んでいた葵野を見下ろした。
なんと驚いた事にシェイミーの言うとおり、深かったはずの葵野の怪我は傷跡も見つけられないほど完璧に塞がっている。
「有希の……力?」
首を傾げる美羽へ、ミスティルが頷く。
「だろうな」
しかし葵野はそれで良くても、坂井は良くない。
有希の力も坂井にまでは及ばないのか、彼は最早虫の息と化していた。
「まったく、手間のかかる十二真獣ですこと」
美羽のぼやきを聞き流し、ミスティルは坂井の体を肩に担ぎ上げる。
「ここから一番近い街は、どこだ」
「砂漠都市なのね!」
即座に答えるリラルルのおでこを、間髪入れずピシャリと叩いたのは美羽だ。
「いたッ!」
涙目で口を尖らせる彼女をジト目で睨み上げ、美羽が代わりに答える。
「砂漠都市は今頃戦場でしてよ?オバカさんは黙っていらっしゃぁい」
「それで、一番近い街は何処だと聞いている」
「首都ですわねぇ。首都の外れに、ワタクシの知りあいが住んでおりますの。彼に診て頂きましょう」
こうして。シェイミー、ゼノの二人を加えた一行は、一路首都へ向かう。
坂井はミスティルが運び、未だ目を覚まさぬ葵野は新参のゼノが抱き上げた。


一方、砂漠を横断したキュノデアイス王率いるMS部隊は、途中何かの妨害に出くわすこともなく、無事に森の都カルラタータへと到着していた。
一歩入ってすぐ、王もアモスも都の様子がおかしいと気づく。
大通りにも街角のどこにも人影が見あたらない。
まるでゴーストタウンの如き光景だ。
「一体、これは……」
用心深く、馬のリオが辺りを見渡す。
アモスも周辺の気配を探りながら頷いた。
「わからん。用心を怠るなよ」
人の気配は全くしない。
町中の人間が、集団夜逃げしてしまったかのようだ。
カルラタータは広い。
広いが、同時に学者の集う場所として首都よりも栄えている街である。
それが全くの無人という光景なのだ。異常という他はない。
「僕達の接近を予測して、街の者達を避難させた……?」
少年王の問いに、しかしアモスは首を振る。
「そうだとしても、街の住民が素直に従うものでしょうか?財団の命令などに」
それはキュノデアイスとて疑問だったのだろう。
少年王は黙りこくり、無言の進軍が続く。
静寂を破ったのは、彼らではなかった。
何かが飛来する音に、いち早く気づいたリオが大声をあげた。
「危ない!」
いきなり突き飛ばされて、少年王を乗せたラクダが転倒する。
勢いでキュノデアイス王は落馬し、アモスもリオから振り落とされた。
が、彼は素早く立ち上がると王に駆け寄った。
落下してきた何かは激しい砂埃を巻き上げ、ラクダ部隊を分散させる。
「な、なんだ!?」「ギャア!!」
あちこちで動揺、絶叫があがり、砂で目をやられながらキュノデアイスも叫んだ。
「ど、どうした!皆、何があったんだ!?」
その王の腕を引っ張り後ろへ引きずり倒すと、アモスは両手を地面につく。
ぶるりと体を震わせて瞬く間に牛へと姿を変えた彼は、砂埃の中へ果敢にも突っ込んでいった。
「何奴!この無礼、相手が砂漠王と知っての事か!?」
砂埃の中、巨体と巨体がドーンとぶつかりあい、アモスは確かな手応えと鈍い痛みの両方を角に感じる。
慌てて身を離したが時遅く、片方の角は無惨にも根元から折られてしまった。
「アモス!!」
少年王の絶叫を背に受け、アモスは逃げずに、その場へ踏みとどまる。
砂が晴れてくるに従い、何が落下してきたのかが判明し、彼とリオは同時に叫んだ。
「なッ……!」「大猿……だと?」
降ってきたのは、巨大な猿だ。
猿の頭部には、目にも鮮やかな金髪のモヒカンが輝いている。
リオもアモスも、そしてキュノデアイスにも、そのモヒカンには見覚えがあった。
「ウィンキー!ウィンキー・ドードーではないか、どうして貴殿が此処に」
言いかけるアモスの背中へ、リオが叫ぶ。
「アモス!下がれ!!」
「何を言っている?リオ、彼はウィンキー……」
だがアモスは最後まで言い終わらせてもらえず、リオへ振り返った直後、後ろから大猿の尻尾を食らって吹っ飛び激しく壁に叩きつけられる。
体中の骨がバラバラになるほどの衝撃。
彼は叫ぶことすらできず、即座に意識を失った。
「アモス、アモーーーーーッス!!
再びあがる、少年王の悲鳴。
リオは王を守る位置に立ちふさがりながら、目の前のモヒカン猿を睨みつけた。
頭上から降ってきた猿は、確かにウィンキー・ドードーその人だ。
だが目の前の大猿から発せられる気配は、リオの覚えている彼とは全く異なった。
両眼は狂気で爛々と輝き口元をいびつに歪ませて、彼らの知るウィンキーとは、およそ遠くかけ離れた姿での再会であった――

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