BREAK SOLE

∽76∽ 強敵!ヴィルヴァラ


地球から遠く離れた惑星、ツイン。
爆発までカウントダウンに入った彼らは、一刻も早く移住できる惑星を探さなくてはならなかった。
「もし、あの機体でも彼らが負けてしまったとしたら、どうなさるのですか?」
司令官らしき者と部下が話しているのは、彼らの宇宙船内にある一部屋だ。
窓の外を眺めていた司令官が振り返り、ぽつりと答える。
「ヴィルヴァラは我等が母星の技術を駆使した最高傑作だ。あれが破れるとなれば、もはや我々には地球人を打ち破る手だてもない」
地球、青い星。
ツイン星人が、その惑星を知ったのは、居住区として使える惑星を探すようになってから百五十年後だった。
全体の半分以上が海に覆われていたものの、けして住めない星ではなかった。
いや、それどころか生命力に溢れた星であった。
一番初めに地球へ到着した調査隊の報告によれば、地球の海には多くの生命体が住んでいるという。
海ばかりではない、陸地にも様々な形態の生物が住んでいた。
大気成分も悪くなく、ツイン星よりも快適だという。
さっそく、彼らは地球へ移住する計画を立てた。
ツイン星は地球よりもチッポケな星だから、地球人は文句を言ったりしないだろう。
とはいえ無断で移住するのは、やはり問題も出るだろうから、まずは交渉をしなくては。
そう思い、二番目の調査隊を飛ばした。
だが――
こちらの想いは地球人には伝わらず、二番目の調査隊は地球の軍隊に撃墜された。
話し合いも何もない。
一方的に攻撃を受け、混乱している間に墜落したのだ。
地球人が、これほど野蛮な種族だったとは。地球の美しさから、彼らは何も学ばなかったんだろうか?
今、ツイン星人に協力する唯一の地球人は、K率いるインフィニティ・ブラックぐらいなものだ。
彼らに預けたヴィルヴァラは、ツイン星人が持てる技術を全て注ぎ込んだ機体である。
以前送った三機は、敵対する地球人組織『アストロ・ソール』に破壊されてしまったと聞いた。
野蛮な地球人が乗っていても敗北した。
恐らくはツイン星人が動かしていたとしても、同じ結末を辿ったであろう。
「ヴィルヴァラが負けたら、地球への移住は諦めるしかないな」
「また星を探すのですね。百年かけても全く見つからなかった移住先を」
「そうだ。移住先が見つかるまで、同胞には放浪の宇宙生活を強いるしかない」
暗い目で部下も窓を眺め、共に重い溜息を吐き出した。


廃棄ステーション・ビアンカ。
地球と敵対する組織『インフィニティ・ブラック』が基地として再利用している、その中にて。
クレイ達はピートと再会する。
だが――彼はもう、アストロ・ソールの仲間ではなくなっていた。
『かかってこいよ。それともオレから仕掛けないと手も出せないってのか?護衛機の皆さんっ』
ソルの回線に割り込んで挑発してくるピートを無視し、クレイはBソル専用の特殊回線へ切り替える。
次に話す内容は、ピートには聞かれたくなかった。
「ヨーコ、聞こえるか」
『感度は良好よ、お兄ちゃん!それで何?急に特殊回線に切り替えるなんて』
「機体を大破させるな」
『え!?』
「動力だけを潰す。ミリシアにも伝えてくれ」
簡潔に要点だけまとめると、すぐに通信を切り替えた。ピートがまた何か発信してきたからだ。
『お前ら、ヴィルヴァラがどんなにスゴイか理解してないみたいだから、先に言っておくぜ?こいつはな、お前らの乗るソルと同じで念動式のロボットなんだ!つまりオレ専用ってワケさ』
ピートの鼻高々な自慢には、ヨーコが毒舌で応答する。
『それで?専用機を自慢しに来たってワケ?相変わらずバカ真っ盛りよね、あんたって』
それはいいが、先ほどの伝言をミリシアにも伝えてくれたんだろうか。
案じているとCソルから特殊回線で通信が入り、クレイはヴィルヴァラに視線を止めたまま通信を切り替える。
『話は聞きました。クレイさんは、ピートさんを助けたいんですよね?私も協力します』
ミリシアは基本的には平和主義なのか、話が早くて助かる。
そう、たとえ今は敵対しているとしても、ピートを殺したくなかった。
同じ地球人、同じ星の人間を殺すのは、クレイとしても本意ではない。
ピートは倒す。しかし、殺すのではない。
要はヴィルヴァラさえ動かなくしてしまえば、よい。
どんなに優れた機体でも動かなくしてしまえば、ガラクタも同然である。
それをやるには全員の協力が必要だ。
通信を切り替えると、まだヨーコとピートが軽口でやりあっている。
だが不意にピートからの通信が切れ、ヨーコとクレイは肌で殺気を感じ取った。
「危ないッ!」
攻撃が来たのは、ピートの機体からではない。
全く予期していなかった方向、真横から光線が放たれ、寸でのところでCソル、そしてAソルとBソルもかわす。
即座にBソルが体勢を立て直し、壁に取りつけられていた防衛装置を破壊する。
それを合図に、戦闘が始まった。


ブレイク・ソールでもクレイ達の戦闘はレーダーに反応を示し、オペレーターのミグが報告を入れる。
「戦闘反応を確認しました。ビアンカ内部にて、敵機と応戦中です」
「やはりな」と呟く博士達にも動揺の色はない。待ち伏せは戦争のセオリーだからだ。
「敵機のタイプは何じゃ?AIか、それとも操縦桿式か。クレイかミリシアへ命じてデータの転送を」
言いかけるR博士を遮り、ミグは淡々と返した。
「先ほどから、三機とも応答しません。こちらと通信している暇がないのではないでしょうか?」
「ふむ?まさか、基地内部にいたのは宇宙人ではないだろうな」
「宇宙人の船とは反応が違います。この熱反応、地球の戦闘機とよく似たパターンを示しています」
レーダーに目を落として報告するミグ。R博士は顎に手をやった。
「……いや、そうではない。機体が地球製だとしても乗っているのが地球人とは限らんじゃろう」
ソル三機を窮地に追い込める機体が存在するのも意外ならば、敵機が一体しか出てこないというのも意外だ。
たった一機で三機を叩き潰すつもりなのか。よほど機体の性能に自信があるのだろう。
「データさえ取れればな、クレイ達へ的確な指示も与えてやれるのじゃが」
悔しそうに呟くT博士の後ろで、こっそり司令室を出ていく影があった。
しかし艦長ドリクを始めとして、誰一人、そのことに気づいた様子はなかった。


『いきます!』
Cソルの槍発射援護を受けて、AソルとBソルが飛び出す。
途中で散開し、両側から挟み込むようにしてBソルが射撃、Aソルはそのまま突っ込んで剣を薙ぎ払う。
しかし三位一体の連携は当りも掠りもせず、目の前で寸前にしてヴィルヴァラの姿が消える。
「何ッ!?」
驚くクレイの後方で『きゃあ!』と悲鳴が聞こえ、Cソルが吹っ飛ばされた。
続いて感じ取った殺気を身に受け、Aソルは間一髪で相手の銃撃から逃れる。
身を逸らした直後、光線が窓の外を横切っていった。
『チェッ、さすがバケモノは勘が鋭いや』
ピートの憎まれ口が聞こえ、クレイは左右へ素早く目をやるが、そこにもヴィルヴァラの姿はない。
姿を消すシールド?
まさか、そんなものが開発されているとは。あるとすれば、それは宇宙人の技術に他ならない。
『見つけたァ!』
Bソルが銃を撃った方向には何もなかった。
だが突如空間が揺らいだかと思うと、あの機体が姿を現わし、すれすれで銃弾をかわす。
相手の機体は高性能だが、ヨーコの勘は、それの上を行くようだ。
「ヨーコ、通信を切れ!動きが読まれるぞッ」
通信へ叫ぶと、クレイも通信を切った。
先ほどの銃撃が当たらなかったのも、ヨーコが思わず叫んでしまったからだ。
Bソルが後方へ下がってゆく。
同時攻撃は効かないと判ったので、後方支援に回るつもりか。
ピートは元々こちら側の人間だ。こちらの通信コードは全て知られている。
特殊回線も、戦闘中ではジャックされる可能性があった。だから、通信を使っての連携は使えない。
各々の勘とセンスに任せるしかない。
Cソルが上手く援護射撃してくれる事を願いながら、クレイは再び突撃を開始した。
剣を薙ぎ払う、と見せかけて一旦後方へ退く。
その隙間から、すかさずBソルがヴィルヴァラを狙い撃ちする。
不規則な動きにピートがついていけず、機体を銃弾がかすめた。
さらに、そこへCソルの槍が襲いかかる。
間髪入れず、壁を蹴ってAソルも仕掛ける。
息をつかせぬ波状攻撃に、ピートはどうしたかというと。
なんと避けるどころか逆に立ち止まり、真っ向から全ての攻撃を受け止めた。

いや――

当たるかという瞬間、槍も銃弾も、そして剣すらも、見えない何かに弾き飛ばされた!
見えない壁はクレイの腕にまで衝撃を与える。堅い物を切ったような衝撃に、彼は顔をしかめた。
今のは何だ。バリアなんて、実際に作れるものなのか?
続く光線を何とか躱し、再び壁を蹴ってジグザグに高速接近する。
が、ヴィルヴァラにはスレスレで避けられてしまう。
ここまで思い通りに機体を動かせるセンスが、ピートにあったとは驚きだ。
Cソルに乗っていた頃とは大違いである。
インフィニティ・ブラックへつくようになってから、パイロットとしての才能が開花したのだろうか。
ともかく、こちらの攻撃は読まれている。読まれないためには、普段と違う動きをしなければ。
だがAソルが猛攻をやめた途端、今度はヴィルヴァラが反撃を開始する。
作戦を考える暇など与えない、とばかりに。
再び発射された光線にAソルは身をかがめる。
避けたはずの光線は途中で軌道を変え、Bソルへ被弾した。
深刻なダメージとまではいかなかったようだが、Bソルよりもヨーコ自身の受けたショックの方が大きかろう。
曲がる光線など、ミリシアやクレイだって初めて見た。
ヴィルヴァラが優れているのは機体のデザインセンスだけではない。
機体性能も、こちらの常識を遥かに凌駕しているようだ。


一方のインフィニティ・ブラック側でも、戦闘の様子はモニターしている。
ヴィルヴァラが圧倒的な力の差でソル三機を翻弄する様も、メインルームのモニターに映し出されていた。
「奴らの戦闘機は相手にならないようですね」
メンバーは、どの顔も堅い。リーダーであるKですら、仏頂面で戦闘の様子を眺めていた。
ピート優勢に狂喜乱舞できないのは、アストロ・ソールの武器が護衛機だけではないと知っているからだ。
アストロ・ソールの要はソルではない。ソルなど所詮、護衛機でしかない。
戦艦ブレイク・ソールこそが彼らの切り札であり、地球にとっても切り札であった。
地球技術の神髄を集めた最強の戦艦。
あれさえ潰してしまえば、地球には、もう戦力が残されていない。
「当然だ。ソルとすら互角に戦えないのでは、戦艦を落とすなど夢また夢の話だ」
仏頂面で答えるKを見やり、続いてモニターへ視線を移したトールは心の中で弟を案じた。
ピートはソル三機だけではなく、戦艦も一人で倒さなければいけないのだ。
念動式ロボットは精神に負担をかけると聞いている。
強靱な体力と精神力、そして念動力と戦闘センスを持つ者だけが操縦できる機体。
ヴィルヴァラは宇宙科学を結集させた機体だが、土台となるのは地球発案の念動式だ。
アストロ・ソールへ潜り込んだスパイが、設計図を持ち出したらしい。
それをツイン星人へ渡して造ってもらったのが、この機体なのだ。
ピートが途中でダウンしないことを祈るしかない。
弟は、パイロットに選ばれた三人の中では一番能力値が低かった。大丈夫だろうか?
アストロ・ソールのエースは、間違いなくブルー=クレイである。
それは元スタッフだったトールも、重々承知の事実だ。
ソルへ乗るために造られ、生み出された人工の人間。
体力持続と精神力、それから集中力の長さも、並の人間が叩き出せる数値を遥かに超えていた。
それも当然だろう。クレイの体は、ソルに併せて造られているのだから。
そんな怪物を含めた三機を、弟はたった一人で相手にしなければいけない。
いくらヴィルヴァラが最強の機体だからといっても、乗っている人間までが最強とは限らないのに。
この戦いが終われば、Kはクロニクル兄弟に安全な居場所を用意すると約束してくれた。
安住の地では誰もが二人を差別せず、受け入れてくれると言ってくれた。
そこへ辿り着くまで、ピートの体は保ってくれるだろうか。
「……心配?」
突然背後で囁かれ、トールはビクリと体を震わせて後ろを振り返る。
くすりと微笑むアリアンと目があった。
「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら」
気まずさにゴホンと咳払いしつつ、トールは答えた。
「ん、あぁ。心配だよ、とても……ね。ピートは無事に帰ってこれるんだろうかって」
「大丈夫よ。戻ってくるわ」
答えるアリアンには、一分の淀みもない。
却ってトールの方が落ち着かなくなり、彼は尋ね返す。
「どうして、戻ってくると言い切れるんだ?」
三機の中には怪物パイロットがいるのに。それを倒しても今度は戦艦のエネルギー砲が相手だ。
彼らは地球人が相手でも、遠慮無く砲撃をぶっ放すだろう。
宇宙の塵と化したクーガー達を見れば、彼らが遠慮するとは到底思えなかった。
考えてみれば、ひどく分の悪い賭だ。生きて帰れるという保証など、どこにもない。
だが念動式は念動力を持つパイロットにしか動かせないから、仕方なくピートは乗り込んだ。
ピートしか、動かせる者がいなかったのだ。インフィニティ・ブラックには。
「だって」
アリアンはトールをじっと見つめると、また微笑んだ。
「あなたを残して死ぬなんて、あの子にはできないでしょ?」
「……僕を?」
思いがけぬ言葉にトールはキョトンとする。そんなの、考えたこともなかった。
トールはピートを心配していたけれど、ピートがトールを心配してくれたことは一度もなかったから。
「どんなに普段は愛想が悪くても、やっぱり家族だもの。血を分けた兄弟なら、何よりもそれを優先するのが当然ではなくて?」
アリアンの言葉が、トールの心に染み渡る。
「そう思ってくれていると、いいんだけど」
彼はポツリと呟いた。
「思っているわ。だから離反する時も、ピートは兄である貴方を一緒に連れ出したのよ」
ピートのことなら何でも判ると言いたげに彼女は断言し、トールの肩を優しく叩く。
「大丈夫。ピートは必ず勝つわ。これに勝てば、彼の待ち望んでいた居場所が出来るんだもの。必死になるわよね」


ピートが乗り込むヴィルヴァラの戦闘力は侮れないものになっていた。
元々機体性能がいいというのもあるが、原因はそれだけではない。
生き残って安住の地を得たい目的を持つピートが、機体の性能を引きあげているのである。
人間は必死になれば、能力以上の力を見せる。それが今、まさに発揮されている最中なのだ。
物理攻撃を跳ね返すバリア。
高速移動時にレーダーの追撃を外すシールドを兼ね備えたヴィルヴァラは、並の機体では追い切れまい。
同じ念動式であるはずのBソルやCソルも翻弄されていた。
ただ一機、動きについていけている機体がある。
クレイの駆るAソル、それだけが何とかヴィルヴァラの動きについていっている。
それでも感知できるかできないかのギリギリラインというだけであり、完全に捕捉しているわけではない。
攻撃は全てシールドで弾かれ、変則的な動きで近づいても、すぐに間合いを外される。
頼みの後方援護は、すでに目標を見失っており、援護どころの騒ぎじゃない。
敵機の放つ光線を避けるので精一杯だ。
通信コードを敵に抑えられているというのも、頭の痛い話であった。
通信を切る、そういった自分の言葉を撤回してクレイはBソルへ特殊回線を回す。
ここぞの連携で頼りにできるのはサブ候補のミリシアではなく、ずっと一緒にやってきたヨーコだろう。
ミリシアには悪いが、彼女は勘が悪すぎる。あまりにも攻撃が一直線で、敵に読まれてしまうのだ。
「ヨーコ、Cソルを囮にする!Bソルは俺に続け、波状攻撃を仕掛けるッ」
『え?でも波状攻撃は読まれてるじゃない、このままじゃ消耗戦になっちゃうわよ!?』
即座に切り返してきたヨーコへ、さらに怒鳴った。
「すでになっている、だからコンビネーションで行く!」
『えぇっ!?あ、アレをやるのォ?』
クレイの言うコンビネーション、とは。
まだピートがアストロ・ソールの仲間だった頃、ヨーコと二人で考案した二人アタックだ。
遅刻ばかりしてくるピートに早くも愛想をつかし、ヨーコがやってみようと言い出した。
近接用のAソルと中間距離用のBソルなら上手くいくだろう、と。
だからピートがちゃんと時間内に揃うまで、二人はアイザにも内緒で時々それを特訓していた。
遅刻魔が訓練時間へ揃うようになってからは特訓する暇もなくなって、とんとご無沙汰だったのだが。
「やる。ピートの奇をてらうには、最早あれしか方法がない」
きっぱりと言い切るクレイに並々ならぬ信念を感じたか、ヨーコも渋々妥協した。
『まぁ……普通にやっても避けられるだけだしね。一か八か、やってみますか!』
一か八かの捨て身攻撃は彼女も得意とする策だ。
BソルはAソルの真横に並び、光線の途切れる合間を狙ってクレイが号を出す。
「――いくぞッ」
赤と青、二つの機体はヴィルヴァラ目掛け、再び高速で接近していく。
Aソルが剣を薙ぎ払い、寸前でヴィルヴァラにかわされる。
Bソルも銃撃する、と見せかけて後方へ退く。いや、退いた格好のまま発射した。
だが銃の軌道は、あきらかにヴィルヴァラを逸れている。この方向では、Aソルに被弾してしまう――!?
『ヨーコさん、ダメッ、クレイさん逃げて!』
たまらずミリシアが回線を繋いできた。

だが、しかし。

Bソルの銃撃がAソルに当たるかという直前、クレイはそれを剣で弾き返す。
跳弾は狙いを違わずヴィルヴァラに被弾し、初めて機体の体勢を崩させた。
間髪入れずBソルが突っ込んでいき、動揺するピートを機体ごと吹っ飛ばす。
『まだよ、まだァッ!』
それだけじゃない。それで全ての攻撃が終わったわけではない。
Bソルに視界を塞がれたヴィルヴァラの足部分が、ガクンッと妙な引っかかりを覚える。
見るとAソルの剣が、ヴィルヴァラの右足の関節部分に深々と突き立てられている。
馬鹿な。あの剣は斬るんじゃなくて、振り回して敵に叩きつける武器ではなかったのか?
焦るピートの前で剣は熱を発し、赤く染まった。
『……うぉぉぉッッ!!』
クレイ渾身の叫びと共に、剣が一薙ぎされようとしている。
――切り落とされる!
直感でヴィルヴァラは身を起こし、闇雲に光線を撃った。
光線はBソルへ被弾し、よろけたBソルがAソルへぶつかったことで、なんとか右足切断は免れる。
だが右足駆動に奇妙な引っかかりを覚え、ピートはメインルームへ通信を切り替えて叫んだ。
「ヴィルヴァラに異常発生だ、重力を切ってくれ!」
足で動こうとしては、どうしてもハンデが生じる。ならば、無重力の中で戦えばいい。
無重力なら足が壊れていようと関係ない。
そう判断した彼にKも応じてくれたのか、四機のいるフィールドからは重力が失われる。
『な……なによ、これ!』
動じるヨーコへ、クレイは即座に指示を与えた。
「宇宙空間の戦いと同じだ。次は駆動部分ではなく武器の破壊を狙う。攻撃を敵機の銃に集中してくれ」
その先は続けなかったが、誰よりも好戦的なヨーコならばクレイの言いたいことも伝わったはずだ。
相手の奇をてらうには、方法は一つしかない。
元仲間であったピートですら知らない奇襲策で、戦うしかないのだ――

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