BREAK SOLE

∽71∽ 反撃と、混乱と


ブレイク・ソールの食堂にて、笹本はスタッフのテリーと雑談を交わしていた。
「で、一体いつになったらビアンカに行くんですか」
ソールの暴走に加えクレイの体調不良とトラブル続きで、ここ数日は進撃どころではなかった。
しかし、だからといって、このままダラダラ宇宙で停止していては、こちらの志気も下がるというもの。
飲んでいたコーヒーをサイドテーブルへ置くと、テリーは答えた。
「ん、まぁ、クレイもソールも調子よくなったしねぇ。巡回装置が完成したら出発するってハナシだけど?」
「巡回装置?」
聞き慣れぬ装置の名に、笹本は首を傾げる。
そんな装置、いつの間に誰が作っていたんだろう?整備班に所属する笹本だが、その話は初耳だ。
「R博士とアイザ女史とシラタキが共同開発したらしいよ。俺もよく知らないんだけど」
カップの底に残った珈琲を全部すすると、テリーは立ち上がる。
「エネルギー砲の充填をスピードアップさせる装置なんだってさ。まぁ、それがあれば充填に一時間かけるーなんて真似をしなくても済むんじゃないかな」
「へぇ〜すごい!日に一歩ずつ、技術って進歩していくんですねぇ」
笹本は顔を輝かせ、テリーに苦笑された。
「こいつめ、判ったような顔しちゃって。ホントに判ってんのか?」


生活ブースに乗り込んだ有樹と猿山は、乗り込んだ直後に「あっ!」となる。
「どうかしましたか?僕がここにいては、何かおかしいことでも?」
目の前にいたのはソールだ。彼はさらりと言いのけ、平然としていた。
Aソルで暴走するだけして失神し、精も根も尽き果てダウンしたと救護班からは聞かされている。
驚く二人を一瞥し、ソールは背を向けた。
「精神疲労如きで、人は死んだりしませんよ」
「そりゃあ、そうだけど……でも、本当にもう動いて大丈夫なのか?」と有樹が問えば、ソールは穏やかに微笑んだ。
「心配してくれるのですか?これは意外ですね」
かと思えば、いつもの皮肉な笑みに戻る。
「しかし同情は結構です。あなた方を満足させるために戻ってきたわけではありませんから」
「べ、別に同情なんて!」
「心配しちゃ悪いかよ!?」
同時に怒鳴る猿山と有樹を無視し、ソールはコンソール球のスイッチを入れた。
「遅いですね、何をやっているのでしょうか……ソラは。そろそろ出発の時間だというのに」
「コラ、無視すんな!」
猿山が騒ぎ「聞こえてるんだろ?こっち向けよッ」と有樹も喚くが、無視されっぱなしだ。
そうこうしているうちに春名や秋子も乗り込んできて、最後にソラも到着した。
「す、すみませんっ。遅くなりまして……その、ジョンさんに捕まってしまいました」
「言い訳は無用です」
わたわたとコンソールの元へ走ってくるソラにピシャリと言い切ると、ソールはソラの肩越しに春名を見たが、すぐに視線をコンソールへ戻してしまった。
通信機を通して司令ブースへ連絡を入れる。
「こちら生活ブース、全員揃いました」
『了解。生活ブース、オペレータースタンバイ完了』
ミグの機械的な返答に続けて、ミクが可愛らしく『司令ルームも完了ですわぁ〜』と言うのも聞こえた。
『エンジン、及び発着ブースもスタンバイ完了なのです。ブレイク・ソール、発進準備完了です』
ミカが博士と艦長へ報告し、各ブースのモニターに艦長ドリクソンの顔が映る。
『よし、ブレイク・ソール発進せよ。目標コースは、廃棄ステーション・ビアンカだ!』
『ブレイク・ソール、発進します。オペレーターは同調を開始して下さい』
ミグが言い、コンソール球へ手をかざした。
ミク、ミカ、そして生活ブースにいるソラやソール、そして後方のデトラも同じように、それぞれの球へ手をかざす。
やがてエンジン始動がかかり、ブレイク・ソールは静かに廃ステーションを飛び立った。

宇宙の海を、巨大戦艦は音もなく進んでゆく。
対センサーシールドもかけているから、そう簡単に接近を見破られたりはしまい。
満足そうにエンジンを眺め、リュウはニヤリと微笑んだ。
「即席で作ったにしちゃ、上手く動いてるじゃねぇか」
彼が博士達と協力して造りあげた巡回装置は、エネルギー砲以外の部分にも作用しているようだ。
傍らではジョンがまだ不安そうに眉根を寄せたまま、リュウへ尋ねる。
「確かに発進は以前よりもスムーズになったけど……問題はブレイカーだろ?本当に君が考案したように、アレが連発できるようになったかどうかが心配だよ」
「だァい丈夫だって、心配性だな?テメェは!」
リュウはゲシゲシと手荒にジョンの臑を蹴り、笑い飛ばす。
「この俺様の設計が信用ならねぇってか?いくらスパイ容疑をかけられていたって、わざと疑われるような真似をするほど俺だって馬鹿じゃねぇんだぜ」
そうなのである。
ちょっと前、戦艦が出発する一時間ほど前まで、リュウは個室に監禁されていた。
理由はスパイ容疑。彼に疑いがかけられていることは、ジョンも知っていた。
そのリュウが何故、今こうして自由の身になっているかというと――
「スゴイ発想ですわ!これを作って一気に反撃といきましょう」
リュウの書きかけた設計図にミクが大興奮。
さっそくリュウは呼び出され、アイザ達と共に装置の作成へ入った、というわけである。
けして彼の容疑が晴れたわけではない。
今だってカメラに監視されているし、両手には手錠がかけられている。
それでもリュウが部屋に閉じこめられていないというだけで、クレイは喜んだ。
表情は鉄仮面だったけれど、通話機で話す言葉は嬉しそうに聞こえたから、ジョンまで嬉しくなってしまった。
元々、クレイにはジョンも好意を抱いている。
彼はヨーコと違って素直だし、ミリシアのように泣き虫でもない。要するに扱いやすいのである。
クレイは艦内で、いやアストロ・ソール内で一番人気のある人物だと、ジョンは勝手に思っている。
彼のことを嫌っている奴なんて、デトラやソールぐらいじゃなかろうか?
――思考が脇道へ逸れすぎたと我に返り、ジョンは気を引き締めエンジンへ向き直る。
今はクレイのことよりも、この怪しげな装置。リュウの作った巡回装置の動作を心配しなくては。
わざと疑われるような真似などしない。彼はそう言ったけど、けして信用してはいけない。
ミクや博士にも見破られない罠を仕掛けていないとは、限らないのだ。

「速度の上昇は上々ですね。これならビアンカまで、あと一時間足らずで到着します」
ミグの報告を受け、司令ルームではドリクソンがQ博士に最終確認を行っていた。
出発前に決めた作戦では、まずビアンカに通信で呼びかけ、応答なしならソルで近づいて内部に潜入。
何らかの応答があれば交渉。
いきなり攻撃を受けたらブレイカーで反撃、となっていた。
エネルギー砲ブレイカーは、いつでも発砲できる。
リュウの発明した巡回装置のおかげだ。しかし――
できることならば、エネルギー砲は最終手段として取っておきたい。
もっと言うなれば、エネルギー砲など撃ち込みたくない。
ソルの攻撃だけで何とか降伏させられないものか。
相手は地球人が作った組織だ。それが艦長の良心に、ずっと引っかかっていた。
「作戦に変更は、ありませんね?」と尋ねるドリクに目をやり、Q博士は頷く。
「うむ」
R博士も厳粛な顔を向け、釘を刺してよこす。
「先に仕掛けてきたのは向こうじゃ。戦争に情けなど無用じゃぞ」
まるで自分の中の弱い心を見透かされたようでドリクは黙り込み、艦内は無言に包まれる。
最初に沈黙が耐えられなくなったのは、やはりというか当然というか南米男のカリヤであった。
これから張り切って反撃開始だってのに、これじゃ通夜か葬式だ。
彼は密かに溜息をつき、傍らのナクルへ目をやった。
先の一戦――ブレイカーを初披露した戦闘からずっと、彼女は元気がない。
何か悩み事を抱えているんだろうか?
ナクルの目の下にくっきり浮かぶ隈を眺めながらカリヤは考えたが、原因などサッパリ思いつかなかった。

何かが起きた時の為に、そして次の作戦にも備え、パイロットの三人は発着ブースで待機していた。
他に居るのは、二、三人の整備スタッフとデトラぐらいである。
三人のパイロットは、既にソルへ乗り込んでいる。だが、三機ともハッチは開いたままだ。
何をしているかというと、雑談しているのである。
「ねぇ、お兄ちゃんは信じてるの?インフィニティ・ブラックっていう連中が廃ステーションなんかにいるってコト」
クレイに尋ねるヨーコはリュウの情報など全く信用していないようで、露骨に眉をしかめている。
些かムッとしながら、それでもクレイは彼女を無視したりせず真面目に応えた。
『インフィニティ・ブラックに関する情報なら俺も聞いている。ヨーコは俺も信用できないのか』
「え!?そ、そんなことないけどォ〜。お兄ちゃんも、一緒に聞いたの?あの話」
コクリと頷くクレイを見て、それで納得したかヨーコは追求してこなかった。
クレイは内心ホッとする。
追求されても、これ以上詳しいことを知っているのはリュウだけだ。
「雑談は終わりにしな、博士から連絡だ」
デトラに促されモニターを見ると、U博士の顔が大アップで映る。
『情報提供者から聞き出した情報によると、ビアンカの内部は改造され、基地として機能しているようです。内部には戦闘機が五機ほど格納されているとのことなので、抵抗も充分予想されます。パイロットは全員戦闘態勢で待機。指示があるまで、ソルから降りたりしないよう』
『は〜い』
『了解です』
ハッチを閉め、ミリシアもヨーコも通信で応える。
クレイだけは、ただ黙って頷いた。
情報提供者はメリットだろう。
リュウを信用できなくても、メリットの言うことは信じるというのか。
何となく理不尽なものを感じるが、まぁ、仕方ない。二人が置かれた立場の違いもあろう。
『敵の総勢数は判りませんか?情報提供者は何と証言していましたか』
ミリシアの問いに、U博士が答える。
『インフィニティ・ブラックのメンバーは、全員が戦闘員と整備士を兼ねているそうで、全部で三十名の人間が廃ステーションに住んでいるようです。リーダーの名はK。本名は情報提供者も知りませんでした。……が、シラタキ君と同様、彼女もKは東洋人ではないかと予想しています』
『一応、データ検証してみました?』と尋ねたのはヨーコ。
『しました……が、データに照合する人物はいませんでした』
U博士は首を振り、クレイも会話に加わる。
『反地球組織を形成するような男です。個人のデータは抹消済みでしょう』
アストロ・ソールだって、個々の戸籍は抹消済みなのだ。
極秘裏に蠢く悪の組織が同じ事をしていないとは限らない。
『そうですね』
U博士は溜息をつき『まぁ、何人だと判ったところで意味はありませんし』と締めた。
『日本政府はボロボロですもんねぇ』
ヨーコも肩を竦め、尋ねる。
『指示は、以上ですか?』
『はい』
U博士が頷くのを最後に、通信は切れた。
『三十人弱のテロリスト……ですか』
ミリシアが呟く。
『この広い宇宙を足場に、今まで地上の皆を攻撃していたんですね。宇宙人と手を組んで』
『道理で見つからないワケよ。上から攻撃するなんて卑怯だわ!』
憤慨するヨーコを無視し、ミリシアは尚も呟いた。
『三十人だけで、勝てると思ったんでしょうか?』
クレイが答えるよりも早く、ヨーコが答える。
『思ったんでしょ。宇宙人と手を組めば、地上の軍隊なんかチョロイもんよ。そう思ったからこそ、組織を作ったんじゃないの?』
二人の雑談を聞き流しながら、クレイも考え込む。
インフィニティ・ブラックの目的は、なんだろう。
宇宙人と手を組んで、地球を滅ぼす――?だとしたら、彼らが地球に抱く恨みとは何であろうか。
地球人は地球でしか住めない。地球を滅ぼした後、彼らは何処へ住むというのか。
もう少し、メリットと話をしておけばよかった。リュウに拉致された時に。


ブレイク・ソールは順調な走行で、あと三十分もすれば目的のステーションに到着するという。
対レーダーシールドが張られている以上、敵に見つかる恐れもない。
整備スタッフの一人ランディは、そう判断すると、給湯室で煙草に火をつけた。
仲間にはトイレに行くと言って断ってある。要するに、サボリだ。
カメラの死角にいるから、博士にうるさく文句も言われまい。
ブレイク・ソールには、オペレーターとパイロットと博士だけが乗っていればいい。
艦長も他のスタッフもオマケみたいなもんだ。
ランディは日に日に、そう思うようになっていた。
子供好きが多いアストロ・ソールのスタッフ内で、彼とボルコフだけは子供が苦手であった。
それでも仕事には支障がなかったから、明るみに出ることもなかった。
なのに、今のブレイク・ソールの乗組員は半数以上が子供で占められている。
オペレーターはデトラを除いて全員だし、パイロットもクレイ以外は全員子供だ。
助スタッフについては、言うまでもない。
たちまち彼とボルコフの二人が子供嫌いである事も発覚し、最近では肩身の狭い思いをしている。

大人は誰でも子供に寛大だ、なんて思うなよ。
子供が嫌いな大人だって、ちゃんといるんだからな。

心の中で毒づくと、彼は二本目の煙草を咥える。
ふと、視界の端で動くものを捉え、ランディはハッとなった。
誰かにサボッているところを見られたら、艦内での立場がますます悪くなる。
じゃあサボるなよと突っ込まれそうだが、そこはそれ。ストレス発散の為にも休憩は必要だ。
動く何者かは、給湯室と皆の私室の間にある、壁と壁の細い隙間に入り込んだようだ。
そんな隙間に入り込めるとは、もしかして影の正体はヨーコの愛犬ラッピーなのか?
子供は嫌いだが、動物は嫌いじゃない。
ランディは口笛と猫なで声で影を誘い出そうとした。
「ラッピー?ラッピー!こーいこいこいこい、こっちだ。こわくないぞ〜」
もそもそと動いていた何かは、手招きに誘われるようにして姿を現わす。
その姿を見た瞬間、ランディは悲鳴をあげかけるも、目の前で目映く輝いた光のせいで悲鳴は喉の奥で凍りついた。


「――ねぇ、何か物音がしなかった?」
そう尋ねたのは生活ブースで巡回チェックを行っているスタッフの一人、テヌル。
一緒に各部屋の異常なしを確認していたジャンも耳を傾けたが、おかしな音など聞こえない。
「気のせいじゃないの?」
そう聞き返すも、テヌルは、びくびくと周囲を見渡し否定する。
「気のせいじゃないわ、確かに聞こえたって。あっちからだと思うんだけど」
彼女が指さす方向、あちらには給湯室がある。
また誰か、ランディかマルクあたりがサボりに来たか?
ジャン自身がサボリの現場を目撃したわけではないが、見回り途中で煙草の吸い殻を拾うことは多い。
煙草を吸う人間は、この艦では限られている。
加えて、灰皿のない場所で吸うノーマナーな輩も限られていた。
「なら、行ってみる?部屋には異常ないみたいだし、ここはもう充分でしょ」
もう一度覗き込み、異常がないことを確かめてからドアを閉める。
怯えるテヌルを背後に従え、ジャンは颯爽と歩き出した。
艦の走行中に、各部屋を見回るのはジャンとテヌルの仕事である。
普段ならテヌルも、もっとリラックスしているのだが……
今日は、おかしな物音を聞いてしまったせいで不安そうにしている。
僕より六歳も年上なのに、臆病な人だなぁ。
ジャンは少しからかいたくなったが、やめておくことにした。
泣かれても困るし……ね?
問題の給湯室についた。
やはり誰もいないし、物音も聞こえない。
「ほらね?やっぱり誰も――」
言いかけたジャンの言葉が途中で引っ込む。
背後でテヌルも息を呑む。
「……誰?誰なの、この人……?」
二人の視線は自ずと足下へ向かい、床に倒れる人間を見つめる。
見覚えのない女性だ。
深緑のジャンパーを着込んでいるが、スタッフにも助スタッフにもいない全くの新顔であった。
しかし、密航者などありえない。
この艦は対センサーシールドを張ったまま移動しているのだ。
ステーションにいた際に紛れ込んだのか?それも、答えはノーだ。
ステーションに滞在していた間も、見回りは定期的に行っていた。
厳重な警備の前に、猫の子一匹だって入り込めなかったはず。
――では、この女性は一体どうやって入り込んだというのだろうか?
監視カメラに映ることもなく、スタッフの誰一人にも見つかることなく。
弾かれたように振り向き、ジャンは相方に命令した。
「博士に連絡を!僕は、もう少し此処を調べてみるッ」
「だ……大丈夫なの?一人で残って」
震えながらも心配してくれるテヌルの気持ちは有り難かったが、事は緊急を要する。
「大丈夫!僕は素早いから、何か出たら即座に逃げてみせるよ。だから早く博士に連絡して!」


突然、警報が鳴り響き、誰もが緊張の面持ちで天井のスピーカーを見上げた。
生活ブースにいる春名も例外ではなく、続く艦内放送に耳をそばだてる。
『緊急警報、緊急事態が発生しました。艦内に、何者かが侵入した模様。敵の数、姿は未明。見たこともない姿の者を見つけたら、ただちに攻撃を開始して下さい』
ミグの放送は淡々としていたが、言っている内容は物騒である。
温厚なソラは眉を潜め、こっそり呟く。
「ただちに攻撃を開始――ですか?漂流者という可能性もあるのに?」
それを聞きとがめ、ソールは肩を竦めた。
「忘れたのですか?この船は今、シールドを張っているのですよ。漂流者の密航など、あり得ません」
「そ……そうだよな。じゃあ一体誰が?」と有樹が首を傾げるのにも呆れた溜息をついて、彼は言った。
「決まっているじゃないですか。宇宙人ですよ、奴らが奇襲をかけてきたのです」
途端に生活ブース内は大騒ぎに包まれ、猿山が唾を飛ばしてソールへ食いかかってくる。
「な、何だってぇぇ!?じゃ、じゃあ落ち着いてる場合じゃないんじゃないのか!?」
ぐいっと猿山を押しのけ、ソールは顔にかかった唾を袖で拭い取ると不快そうに答えた。
「だからといって、慌てればいいというものでもないでしょう?落ち着いて迅速に行動しましょう、一人ではなく何人かの組に分れてね」
悔しいが、全くもってソールの言うとおり。
冷静且つ的確な指示に、パニックになっていた春名達も落ち着きを取り戻す。
彼らは二人一組に分れると、さっそく私室へと散らばって、片っ端から部屋のドアを開けにかかった。

発着ブースにも、緊急の艦内放送は届いていた。
「くそ、宇宙人の奇襲だって!?厄介な真似してくれやがるぜッ」
宇宙人だとミグは一言も言わなかったのだが、スタッフ達はそう判断したのか、次々と通路へ飛び出していった。
『何者かの侵入が発見されたということは、誰かが、その何者かを発見したということですよね。大丈夫だったんでしょうか?その方は……』
ミリシアの心配には、クレイも同感だ。
アストロ・ソールのスタッフは、ほとんどが非戦闘員。戦えない人間ばかりである。
特に助スタッフの面々は、銃を手にしたこともないんじゃないだろうか。春名が心配だ。
Bソルのハッチが開き、ヨーコが縄ばしごで降りていく。
『あ、ちょっと!命令があるまで待機しないといけないのではありませんか?』
ミリシアの問いに、ヨーコは大声で怒鳴り返してきた。
「何言ってんの?内部に潜り込まれたってのにソルで待機してる馬鹿が何処にいるってぇのよ!あたし達も探すわよ、侵入してきた宇宙人ってやつを!!」
彼女のいうことは、もっともだ。
今は一人でも多く探索に回り、一刻も早く侵入者を捕まえなくては。
クレイも、そしてミリシアも渋々ハッチを開き、ソルから降りてくる。
「あたしは司令ブースと生活ブースの通路を重点的に探してみる。ミリシア、あんたは、この発着ブースを虱潰しに探して。クレイお兄ちゃんは」
『生活ブースを探す』
ヨーコに指示されるまでもなく、クレイは走り出す。
「え、そうじゃなくて!お兄ちゃんは司令ブースで博士からの指示を――」
背後でヨーコがまだ何か騒いでいたが、春名の身を案じるクレイの耳には届かなかった。

発着ブースから生活ブースへ移動してトイレの前を走り抜けようとした時、何者かの気配を女子トイレから感じ取り、クレイは急停止。
すぐさまトイレへ飛び込んだ。
気配のする扉へ何の躊躇もなく手を掛けドアノブを引っ張るが、鍵がかかっているのか全く開かない。
二度三度とガチャガチャ引っ張っているうちに、クレイの脳裏に閃く言葉があった。
こういう時は、まず「入ってますか?」と尋ねるべきだと、女性スタッフが言っていたような。
コンコンと改めて扉をノックし、クレイは中の人へ丁寧に尋ねた。
『入っていますか?』
……しかし返事はない。
怪しい。
スタッフならば、何かしら返事をしてくれるはずなのに。
もう一度引っ張って開かないことを確かめると、クレイは二、三歩後ずさってから勢いよく扉に体当たりする。
蝶番ごと扉は派手に吹っ飛んで、便座の上に座り込んだ光り輝く物体を発見した。
だがクレイが覚えていたのは、そこまでで。
叫ぼうとした瞬間、目の前での目映いフラッシュに目がくらみ、彼の意識は一気に闇へと沈んでしまった――

▲Top