BREAK SOLE

∽63∽ 反撃


いざ、戦ってみたら相手は案外弱かった。
それがイントラのパイロット、シュゲンの正直な感想だ。
かつての彼は、各国に金で雇われる戦闘機のパイロットだった。
それなりに戦闘も経験してきたし、幾度も仲間達の死を見てきた。
彼は戦闘が好きだった。だが、同時に彼は卑劣漢でもあった。
それ故に彼を雇う国も少なくなり、やがてシュゲンは宇宙へあがる。
Kにスカウトされたのだ。
ともに宇宙人の技術をないがしろにする馬鹿な地球人と戦おう、と。
シュゲンにとって宇宙人の技術など、どうでもよいことであった。
戦えれば、どちらの布陣でもよかった。
とはいえ自分が死ぬのは御免だし、負け戦に参加する趣味もない。
どうせなら勝つ方に味方したい。そういうわけでKの仲間になった。
Kの言う『敵』。それが、アストロ・ソールだった。
彼らは地球の最新技術でもって、ロボットを三体所有していると聞かされた。
こちらにもロボットはないのか?
そう尋ねると「いずれ入手してみせる」と自信たっぷりに言われた。
やがて約束は果たされ、彼はパイロットの一人に選ばれた。

――結局、機体の性能の違いがイコール強さの差ってことか。

黄色いやつは宇宙の反動に全く不慣れだし、青い方は猪みたいに突進ばかりだ。
AIに頼らなくても、なんとかなりそうであった。
だがジェイが時々異常な動きで回避しているところを見るに、ある程度は速いらしい。
シュゲンの目には、青いやつも黄色いやつの動きも止まって見えていたが。
黄色いやつは簡単にスクラップ化できそうであったが、目的はそれじゃない。
やつらの戦艦を誘き出すのが、本来の目的である。
しかし余裕の動きでやつらをいたぶっても、戦艦は姿を現わそうとしない。
どっちか一機を、墜落でもさせないと出てこないんじゃないか?
そんなふうに彼が考え始めた時であった。
残り一機、赤いやつが地上から飛び出してきたのは。


赤い機体の動きは、AIでも予測しづらいものがあった。
なのでシュゲンを向かわせ、ジェイと二人で相手にしてもらうことにした。
クーガーもジェイも、戦闘機の操縦に関しては素人だ。
戦闘だって満足に経験したことがない。
空襲されて逃げるか、暴徒に襲われ、死にものぐるいで戦うか――経験は、それぐらいだ。
クーガーがインフィニティ・ブラックへ志願した理由は、地球人への絶望であった。
空襲で焼け出されたところを、暴徒に襲われたのだ。
不幸な人を、さらに不幸のどんぞこに突き落とす。これが、同じ地球人のやることなのか。
彼の大事な両親も妹も、暴徒との抗争で命を失った。
それだけに新機体、ロボットのパイロットに選ばれたのは嬉しかった。
これで妹や父や母の敵が討てる。
殺したのはアストロ・ソールではないけれど、地球人に味方するやつは許せない。
逆恨みというなら、いえばいい。
大切なものを失った人の気持ちなど、失ったことのない人には判らぬものである。
赤いやつにはジェイも、あのシュゲンですらも手こずっているように見えた。
ジェイは、まぁ、素人だから仕方ないとしても、元傭兵のシュゲンを手こずらせるとは。
機体の性能は、どれも似たり寄ったりに見えるから、パイロットの腕の違いだろう。
赤いやつだけは要注意だ、とクーガーは思った。


一時間ほど撃ち合いをした頃だろうか、赤いやつの動きが鈍ってきた。
Kの話によると、奴らの機体――ソルは、念動力で動かす型らしい。
精神を恐ろしく消耗する代わり、思った通りに動かせるのだとか。
ロボット知識にも戦闘にも詳しくないジェイには、チンプンカンプンであった。
だが、一つだけ判ることがある。
それは、つまり、長期戦になればなるほど、こちらに分があるということだ。
赤いやつも戦闘不能ぎりぎりまで追い詰めれば、戦艦は姿を現わすだろうか。
彼女は自分の思いつきを、シュゲンとクーガーに伝えた。
彼らの意見も同じで、三人は改めて気持ちを切り替える。
挑発程度に攻撃するのではなく、相手を倒すという前提の元に攻撃を開始した。
ジェイは三人の中では一番平和主義であったけれど、やはり地球に絶望していた。
インフィニティ・ブラックには、同郷のメリットと一緒に参入した。
彼女もジェイも、生きるよりどころを無くしていた。
メリットは大切な友達を。ジェイは、大事に育ててきた一人息子を亡くした。
ジェイの息子もメリットの友達も、宇宙人との戦いで死んだ。
上官の命令に逆らえず、宇宙船に神風特攻して犬死にしてしまった。
何故、上官に逆らってでも私の元へ逃げてこなかったのだろうとジェイは思う。
命より大切なものなど、この世にあるのだろうか。
特攻した理由が名誉や誇り、意地であるとしたら、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
そんなつまらない理由で死んで、残る人達を悲しませないでほしい。
息子の上司を、母国の方針を、彼女は憎んだ。
この戦いを憎んだ。
戦いを始めた国を憎んだ。
戦いを始めた星――地球すらも、憎んだ。
戦いさえ起きなければ。
戦いさえ終結させることができれば、息子は死ぬことなどなかったのに。
だからインフィニティ・ブラックに入った。宇宙人に逆らう馬鹿を一掃してやる為に。
逆らう奴らさえいなくなれば、きっと平和になると。そう、信じて。


小型偵察機が一機、こちらへ突っ込んでくるのが見えた。
「なんなの!?また敵の増援ってんじゃないでしょうね!」
劣勢を強いられキリキリするヨーコの耳に入ってきたのは、通信機を通した声であった。
『ヨーコ、俺だ。撃たないでくれ。Aソルに通信が入らない。誰が乗っている?』
落ち着いて淡々とした声。誰かなんて名乗られなくても、すぐ判る。
「お兄ちゃん!」
満面に歓喜の色を讃え、ヨーコは早口に状況を説明する。
もちろん敵の攻撃をかわしながらの会話なので忙しないこと、この上ない。
「Aソルに乗ってるのはソールよ!あの馬鹿、虚弱児のくせに無理するからテンパッちゃったみたい」
『ソールが?……判った。今からハッチを強制解除する。ヨーコはミリシアと共に、敵の牽制を頼む』
「了解!ミリシア、まだイケる?お兄ちゃんがAソルのハッチを開けるまで、あいつらをAソルに近づけんじゃないわよッ!」
続けてCソルへつなぐと、向こうからはミリシアの慌てっぷりが確認できた。
『え?お、にいちゃん?って、クレイが戻ってきたんですか!?』
「あぁ、もう!いいから、あんたは敵の牽制だけしててッ」
会話にならない相手に舌打ちし、ヨーコはビシッと言い捨てる。
かと思えば騎士の肩越しに、Aソルを押さえつけた金色の機体向けて一発撃ち込んだ。
これには敵も予測できなかったか、金色は被弾してAソルから手を離した。
「よしっ!ソール、逃げて……って、通信は切れてるんだったわね。ま、向かっていったりしないでしょ。もう、動かすどころじゃないだろうし」
ソールの体力と精神力で一時間もったのが、奇跡のようなものだ。
もはやヨーコの見立てでもソールはソルの指一本、動かせないと思われた。

小型戦闘機が、こちらへ突っ込んでくるのを春名も窓から確認していた。
ただ、それが味方であるのか敵であるのかの判別はつかない。
通信はソールが切ってしまっていたし、春名では繋ぎ直す方法も判らなかった。
おろおろと見ているうちに、また金色の機体が追ってくる。
「そ……」
ソールくん、そう声をかけようとして、春名は躊躇してしまう。
ソールは中央で蹲ったまま、動こうとしなかった。
いや、動かないのではない。動けない。
彼の精神は、とっくの昔に燃え尽きていた。頭痛が激しく、思考がまとまらない。
春名にも、それが判っているから声をかけられないのだ。
声をかけることで無理をさせてしまったら、彼は廃人になってしまうかもしれない。
偵察機から宇宙服を着た人間らしきものが飛び降りて、ソルの真横に張り付いた。
運転席に残っていたほうも飛び降り、偵察機は、そのまま金色の機体へ突っ込んでいく。
金色が回避するのが見えた。
やっと追いついたのかミリシアの乗るCソルが更に攻撃をしかけ、難なく避けられる。
しかし、続く遠方からの射撃が被弾し、金色は大きく後退した。
撃ったのは、もちろんBソル。ヨーコの乗る機体だ。
二人は偵察機に乗っていた人物の援護に回っているようだ。
ガキン、ガキン、と大きく二回ほど金属音が響いて、春名は身を固くする。
先ほど張り付いた人物が、ハッチを外側から開けようとしているのだ!
「誰!?誰なのっ?」
声をかけるが外へ届くはずもなく、春名の声は気絶寸前のソールが立ち上がるきっかけとなった。
「て……き…………させるかぁッ!」
幽鬼のように立ち上がり、気合いと共に飛ばしたのを最後に、ソールは再びダウン。
Aソルはコントロールを失い、Cソルの元へと突っ込んでいった。

「きゃあ!」と叫んだのは、どっちのコクピットだったか。
もしかしたら両方だったかもしれない。
ともかく、春名もミリシアも派手な尻餅をついて唖然とした。
傍目にはAソルがCソルを攻撃したようにも見えたであろう。
ソールの投げっぱなし特攻を避けきれず、ミリシアは直撃を食らう。
思わず、彼女のくちからはチッと舌打ちが漏れた。
「……なんてことなの?」
ヨーコの通信に訳がわからないでもAソルの援護をしてやれば、攻撃を受けるなんて。
余計な真似はするなってことだろうか。でも、それなら、くちで言えば判るわよ!
やっぱり敵ごと消し去ってやろうかしら。
そんな邪悪な考えが脳裏に浮かんだが、ヨーコの叫びが邪を吹き飛ばした。
『ソールの馬鹿、制御不能に陥ったみたいね!気にせず、あんたは金ピカの牽制を頼むわよ。あとちょっとで乗り込めそうだし』
さっきから、彼女は誰のことを言っているのか。
ミリシアにも乗り捨てられた偵察機は見えたが、それがクレイとは、どうしても繋がらず。
首を傾げつつ、金色の機体を追いかけた。

「あいったたた……」
何度目かの尻餅に、春名は涙目になりつつ起き上がる。
ふと窓へ目をやると、誰かが張り付いていたので、ぎょっとなった。
慌ててソールを揺り起こそうとして、彼が気絶したのに気づいて呆然となる。
「ど、どうしよう……どうすればいいの?」
泣きそうな気分で、もう一度窓を見やると、張り付いた宇宙服の人間が指で窓に字を書いているのに気づいた。
「え……と……う、ちゅう、ふくを、きろ…………?宇宙服を、着ろ?あ、そうかぁ。ハッチを開けるから宇宙服を着て待機しろってことなのね!」
って。
「あ、開けちゃうっ?入ってきちゃうの!?」
悩んだり一人ボケ突っ込みをしている場合ではない。
相手は入ってくる気満々だし、春名一人では止める手だてもありゃしないのだ。
慌てて壁にかけてあった宇宙服を着込むと同時に、中央で倒れるソールが目に入る。
「あ、ソール君……どうしよう!?」
おたおたしつつ、それでも無理矢理、宇宙服に彼を詰め込んだ。
火事場の馬鹿力という言葉があるが、今の春名が、まさにそれだったかもしれない。
ともかく二人の準備が整ったところで、一瞬のうちに誰かが入ってきた。
それは本当に、一瞬で。
別に宇宙服を着なくてもよかったんじゃないか、と春名が思ってしまうほどの速さだった。
「おい、気絶してやがるぜ?あの野郎……ったく無茶しやがって。このスーツはお前専用じゃねぇ、クレイ専用だってのにな。おら、脱がせるぞ。クレイ、お前も手を貸せ!」
そのうちの一人が中央で寝転がるソールの元へ近づいて、乱暴に脱がし始める。
春名は床にぺたりと座り込む。
目の前に立つ人物が宇宙服を脱ぐのを、信じられない思いで見つめていた。
「って言ってる間に俺一人だけでも完了だ。ほれ、さっさとスーツを着ろ。生暖かいかもしれねぇが、そこは我慢だぞ?」
「すみません、兄さん」と答えてパイロットスーツを受け取る人物こそ、春名が、いや皆が散々探し回って見つけられなかったクレイ本人ではないか。
「あ……あ、うぅ……」
何か声をかけたい。
どこへ行っていたの?今まで何をしていたの?
疑問は、あとから沸いてくるけど、言葉にできない。
引きつった呻きをあげる春名を見て、クレイは、にっこりと微笑んだ。
「春名。遅くなってすまない。ソールを見てやってほしい」
「う、う…………う、わぁぁぁぁ……んっ」
床にぺたりと座り込んだまま、ビービー泣き出す春名。
クレイも床へ膝を突き、彼女の背中を優しく撫でてやった。
「おい、帰還サービスは後にしろ。あいつらを軽くぶっ飛ばすぞ!」
感動の再会はリュウの一言で打ち切られ、立ち上がったクレイが上着を脱ぎ始める。
おかげで、春名は慌てて視界を窓の外へ逃がさなくてはならなくなった。


『Aソルに誰かが乗り込んだわ。……どうする?』
ジェイからの通信に、クーガーも頷いて「様子見をしよう」と慎重な異見を唱える。
シュゲンは彼らの判断に不満を持った。
倒すと決めたのに、また様子見をしようだと?素人は、どうも臆病でいけない。
先ほど乗り込んだやつは、Aソルのパイロット交代を意味している。
でなければ戦闘中のフィールドに乗り込んで、ハッチを開けたりなどするわけがない。
恐らく彼らとしては、これからが本番なのだ。
最初に乗っていたやつは様子見のつもりで放たれたに違いない。
予想以上に、こちらが強敵なので急遽ピンチヒッターを送り込んできたのだ。
そしてシュゲンの予測が正しければ、やつらの戦艦は、この戦いには間に合わない。
何かトラブルが――クーガー曰く『リュウが何か仕掛けた』のだとか――あったのだ。
間に合わないからこそ、無理な交代劇を繰り広げた。
Aソルを帰還させる時間さえ惜しい、とばかりに。
『二人とも、そこで見ていな。俺がやつの相手をしてくる』
鼻息荒く告げると、イントラが前に出た。
「やめろ!」
クーガーは叫ぶが、金色の機体は止まるどころか加速を増した。
高速ジグザグでAソルへ突っ込んだイントラは、Aソルの手前で急停止。
そこから急上昇をかまし、Aソルの頭上を乗り越えるかたちで背後へ回る。
『ハァーッ、ハッハッハッ!』
シュゲンの高笑いと共に、イントラが拳を掲げた。
誰もがAソルを捉えたと思った、その刹那。
クーガーは自分の目が信じられなくなり、ごしごしと瞼をこする。
背後に回ったはずのイントラが横腹に大穴を開け、ゆっくりと流れてゆく。
対するAソルは、剣を正眼に構えたまま微動だにしない。
しっかりとイントラのほうに向き直っていた。
いつの間に攻撃したのだ――?
唖然とするクーガーは、イントラの爆発でハッと我に返る。
「シュゲン!」
慌てて呼びかけると、憎々しげな声が答えた。
『――大丈夫だ。土手っ腹に穴は開いたが、大爆発とまではいかねェよ』
『撤退して。せっかくの機体、ここで失うわけにはいかない』
ジェイの言葉に、シュゲンは一拍考え、すぐに答えを出した。
『……判った』

「うほっ!すげェな、クレイ。読みでも当たったか?」
「……わかりません。来ると思った方向に突いたら、当たりました」
まぐれ当たりのように本人から言われてしまったが、Aソル内部でも衝撃が走っていた。
手前直前でいきなり消えたように見えた敵が、いつの間にか背後でやられているのである。
リュウにも春名にも敵の動きはおろか、Aソルの動きですら捉えられていなかった。
「脳内が冴えています。ヨーコの勘が移ったのかもしれません」
「ハハ、お株を取られちゃヨーコ嬢ちゃんも形無しだな」
嬉しそうなクレイにつられてリュウも笑顔になるが、すぐに気を引き締めた。
敵は爆発したものの、まだ戦闘不能というわけではない。叩くのなら今がチャンスだ。
「逃げるか?マァ、逃がさないよな。クレイ、追え!」
クレイへ指示を出し、自分は回線を開こうとして、チッと舌打ちする。
「チッ。ソールの馬鹿タレめ、線をぶった切りやがったな?めんどくせぇことしやがる」
つられて春名もソールへ目をやり、真っ赤になって目を逸らした。
パイロットスーツを脱がされたソールは素っ裸。
おまけに仰向けで寝転がされているものだから、見たくないものまで見えてしまう。
春名は、ごそごそと機材の下へ潜り込むリュウの背中を恨みがましく睨みつけた。
どうせなら、うつぶせで転がしておいてくれればいいのに――
「いきます」
春名の意識はクレイの声に引き戻され、Aソルが超加速で飛び出した。

『Aソルの動きが変わった――?』
クーガーの驚きも何の其の、一番驚いたのは当のシュゲンであろう。
虚を突かれた行動ではあったが、ジェイも力一杯レバーを引っ張る。
「いかせないッ!」
だが加速をつけたというのに、前を行くAソルには追いつけない。
不意に赤い機体の輪郭がブレたかと思うと、見失った。
「馬鹿な!?」
焦る自分の呟きと同時に、シュゲンの『ぐわぁッ!』という悲鳴が通信に入る。
振り向いた彼女が見たものは金色の頭に開いた虚な大穴で、イントラが派手に爆発を起こすのをクーガーと二人で呆然と見つめた。
まただ。
また一瞬、敵機の動きが見えなかった。
AIは何も教えてくれない。やつの次の移動場所すら、予測してくれなかった。
機械に予想させない動きが出来る人間なんて、この世に存在するのか?
だが、現に相手はしてのけた。機械の予想を遥かに上回る行動を。
ともかく今のAソルは、さっきまでの動きとは全く違う。
先ほど乗り込んだやつと交代したということか。
アストロ・ソールは、とっておきの切り札を投下してきたということになる。
『シュゲン、シュゲーーーーンッッ!!
宇宙の塵となったイントラへ必死に呼びかけるクーガーへ、ジェイは横入りで話しかけた。
「やつら、戦艦を出さずにソルで私達を片付けるつもりだわ。一度撤退しましょう、これはKの求める展開とは違ってきている!」
Kの求める展開とは、ソルをボコボコにして戦艦を誘き出し、これを墜落させること。
しかしクーガー達は目的を果たすどころか、逆に全滅させられそうな勢いである。
たった一機の、パイロットが交代したというだけで。
『くッ……くそっ、判った。撤退しよう!』
デリンジャーが身を翻したのを見て取ってから、ジェイの機体も後退する。
無事に逃げ延びる。悔しいが今は、それだけを考えるしかない。


「エネルギー充填完了しました。ブレイク・ソール、発進しますか?」
ミグの淡々とした声にドリクは頷き、号令をかけた。
「よし!ブレイク・ソール、発進せよッ!!」
感情のない目が彼を捉え、コクリとミグも頷いた。
「了解。ブレイク・ソール、発進します」
「よっしゃあ!」とカリヤもいきり立ち、艦長が命じるよりも早く艦内放送を入れる。
「野郎ども!碇をあげろ、船が出るぜ〜ッ!!敵は全滅、ミナゴロシだ!」
どこの海賊だと言わんばかりの放送に艦長が頭を抱える暇もなく、艦が揺れ始めた。
『エンジン作動、開始しました!』
エンジンルームからシュミッドの報告が入り、そしてミグ、ミカ、ミクが三人立ち上がる。
「ブレイク・ソール、発進」
三人の声が綺麗にハモり、ゆっくりと、だが徐々にスピードをあげて船は発進した。
窓の外を灰色の壁が流れていき、急に真っ黒になる。宇宙へ出たのだ。
間髪入れず、ドリクが声を張り上げる。
「砲撃手は目標を補足!補足次第、照準併せェいッ!!」
「了解!」と、答えたのはオペレーターの隣に座るナクル。
真剣な目でモニターを見つめ、照準枠に騎士の機体を収めると、彼女は大声で叫ぶ。
「目標、騎士を捉えました!」
満足げに頷くと、ドリクは勝利を確信して号令をかけた。
「ブレイカー、発射せよ!」
「了解!」
ドリクの大声に負けじと、こちらも声を張り上げてナクルも叫ぶ。

「ブレイカー、発射あぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

エネルギー砲は真っ白な弾道を残しながら、一直線に星の海を駆け抜けた。
その破壊力たるや、設計した博士達やスタッフの予想を大きく上回るものであり。
騎士一機を狙ったつもりが余波で羽根付きも巻き込み、二体が一瞬にして光の線と共に消滅した。
戦艦の初陣としては、上出来の成果ではないだろうか。
「敵機、全消滅。私達の勝利です」
ミグの淡々とした報告を最後に、艦内は、どわっと歓声に包まれた。

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