BREAK SOLE

∽52∽ 第三勢力


アストロ・ソールの前に、突如現れた蜘蛛型戦闘機。
内部コクピットに陣取るのは一人の男だ。
歳の頃は七十、いや、八十を越えているだろうか。
男の頭髪は真っ白に染まっていた。
何よりも特筆すべきことに、この老人は地球人であるらしい。
今までの奴らよりは地球人と似ている容姿であった。
二本の腕、二足歩行、顔には目鼻口が、はっきりとついている。そして頭には髪の毛も。
「……クッククク、念動式ロボットか」
Aソルの斬撃を寸前でかわし、老人が呟く。
素早く身をかがめてBソルの弾丸をも避けると、前方へ目をやった。
「儂を認めなかった奴らにしては、見事な完成度じゃのぅ」
ニヤリと口元にニヒルな笑みを浮かべると、老人は華麗な動きでステップを踏む。
黒い機体もソルと同様に、念動式の操縦方法であるようだ。
老人の着込んだパイロットスーツはクレイ達の物と、とてもよく似ていた。
「どれ……いっちょ宣戦布告といこうかの。せっかくの対面だ、無言じゃ失礼ってもんじゃろ」


廃棄された衛星ステーション――
インフィニティ・ブラックの基地では、格納庫へ次々と戦闘機が転送されてくるのを皆で恍惚と眺めていた。
贈り主はツイン、すなわちミスターKと盟約を結んでいる宇宙人である。
一番右、白い機体は『ウィンサー』という型だそうだ。
Kの為に、わざわざ地球の共通語で型名を入れてくれたものらしい。
人型を模した形で手には槍を、背中には出し入れ自在のウィングがついている。
中央にそびえたつ大きなシルエットは『デリンジャー』と記されていた。
鎧を着た騎士の形をしており、手には巨大な盾と矛を構えている。
最後、一番左に転送されてきたのは『イントラ』型。
三つの中では一番派手で、機体が黄金に輝いている。
頭部らしき部分には三つの窓が開いていた。これも人型で、二足歩行である。
ツイン星人の作る戦闘機は、デザインセンスが秀逸であった。
他惑星のと違って、不気味な生物っぽいものは一つもない。
どれもが二足歩行の、例えるなら地球人に似ている容姿といえよう。
少なくとも、彼らが自らの容姿を模して作ったのだとは到底思えない。
彼らは、ぶよぶよしており、どこが足だか手だか判らないような体型なのだ。
このデザインセンスは、どこでヒントを得たものなのか。
それについてKが尋ねた処、彼らは即座に理由を述べた。とても嬉しそうに。
地球で見かけた生き物、つまり君達を参考にしたのだ――と。

ツイン星人は、地球への移住を切に希望していた。
何でも彼らの母星ツインは、惑星寿命が迫ってきているのだと言う。
だからKと盟約を結ぶことで、機体を提供する代わりに地球の大地を欲した。
Kは承諾し、三つの機体を手に入れたというわけである。
「動力は永久機関、操縦は自動AIによる音声方式みたいですね」
内部を調べていたスタッフが降りてきて、Kへ報告する。
「念動式よりは若干操作性が落ちますが、彼らのAIは期待できますよ」
「そうだな。地球人が作ったものよりは賢いか」と、Kも頷く。
それに、と機体を見上げてスタッフは続ける。
「念動式は大きな欠陥もありますしね。我々はパイロットを消耗するわけにはいきません、少数精鋭ですから」
「誰が乗る?」
尋ねるKへ、彼は敬礼する。
「それは、あなたの人選にお任せします……が、我々はいつでも行けますよ」
声には出さず、Kが低い笑いを漏らす。スタッフも同じ笑みで返した、その時。
オペレーターの叫びが、基地全体に響き渡った。
『K、司令室へお戻り下さい!戦闘反応が出ています!座標はE19、地球近辺!!』

反応は、突然現れた――といってよい。
それまでレーダーには、何一つ映っていなかったのだ。
不意に地球近辺に巨大な船が現れたかと思うと、黒い機体も同時出現した。
遅れるように三つの戦闘機がレーダー上に現れ、黒い機体を追いかける。
見間違えようもない、赤・青・黄色の戦闘機。アストロ・ソールの護衛機ソルだ。
となると巨大な船は奴らの母艦だろうか。そして、奴らと戦っている黒い機体は一体誰!?
「見たことのない型だな。だが奴らと敵対するという事は、他惑星の物であるわけだが」
呟くKの耳元で、なおもオペレーターが騒いでいる。
「戦艦も黒い機体も突然現れたんです!レーダーに反応しない機体は、エプシージ星製だけではなかったのでしょうか!?」
エプシージ星人とは、アストロ・ソールがタイプεと呼んでいる宇宙人である。
地球との戦いにはフェルダ星人の次ぐらいに消極的で、あまり参加していない。
フェルダ星人が撤退した今、彼らも戦闘から外れる可能性は高い。
何しろ、先月から彼らとはコンタクトが取れていない状態にあった。
そのエプシージが、今、攻撃を仕掛けているとは考えにくい。
黒い機体のパイロットは、別の星の住民と考えたほうが良さそうだ。だが、どこの?
グーダ星人もベクトル星人もデルタ星人も、まだ動いていないはずだ。
宇宙で見張りを担当しているインフィニティ・ブラックが見つけられなかったのだ。
地球に降下している彼らが、アストロ・ソールの足取りを見つけたとは思えない。
もし見つけたのであれば、真っ先にこちらへ連絡してくるのが筋というものだろう。
それが何も言わず、いきなり奴らへ攻撃を仕掛けるとは――
「K、グーダーラより通信が入っています!宇宙で戦闘してるのは君達か、と」
「違うと返答しておけ。こちらで調査中だ、ともな」
即座にオペレーターへ答えると、Kはモニターを睨みつける。
誰だ、一体誰なんだ。あの機体を操っているパイロットの背後に控える、黒幕は。

――だが、誰にしろ好都合だ。

レーダーにも引っかからなかった、アストロ・ソールの居場所を割り出してくれたのだ。
向こうも混乱している今こそが、撃墜のチャンスかもしれない。
「デリンジャーを出せ!こちらも戦闘に協力するッ。パイロットはクーガー、お前が行ってくれるな?」
クーガーと呼ばれたのは、先ほどのスタッフであった。彼は即座に頷き、微笑んでみせる。
「了解。インフィニティ・ブラックの一員として、恥ずかしくない戦闘をお見せします」


「くそッ、チョコマカ動いてイヤラシイ敵ね!」
額から流れ落ちる汗を拭き、ヨーコは悪態をつく。
元より念動式戦闘機は、長期戦には不向きな機体である。
パイロットの念を通じて思い通りに動けるのが大きな特徴なのだが、反面、精神力の消耗が物凄い負担となって跳ね返ってくる。
メンタルの弱い者は、一戦闘終えただけで寝込んでしまう。
ヨーコもクレイも、その点ではクリアしているはずであった。
しかし、なんと言っても今回は初の宇宙戦闘。地上とは勝手が違う。
おまけに不意討ちとあっては、ヨーコが焦りを感じてしまうのも無理はなかった。
不安要素は、もう一つある。
ピートの代役として入ってきたミリシアだ。
訓練では上々の結果をあげていたが、彼女は今日が初の実戦だ。大丈夫だろうか?
Cソルは戦艦に張り付いて様子を見ている。
願わくば彼女の手を借りずに相手を撃沈、或いは撤退させられれば良いのだが。
混戦になり、味方の攻撃で戦闘不能になるのだけは避けたいヨーコであった。
『焦るな、ヨーコ。戦いでは焦った方が負ける』
通信機から届くクレイの声は落ち着いている。
「わ、わかってるけど、でもコイツが、むかつくのよぉッ!」
叫び返してから、ヨーコは正面を睨みつけた。
気持ち悪い蜘蛛みたいな格好の奴は、ひらりひらりとAソルの攻撃をかわしている。
奴の動きには余裕さえも感じられて、ますますヨーコの反感を煽ってきた。
クレイも、あの手この手とフェイントを交えたりして、けして単調な動きではない。
にも関わらず蜘蛛野郎は、あっさりとAソルの斬撃を避けている。
勿論ヨーコだって、ぼやーっと見物していたわけじゃない。援護射撃は行っている。
だが奴がアチコチ激しく動き回るもんだから、なかなか照準が合わせられない。
当てられない、かわされるばかりでは、イライラが募るばかりだ。
「あーもー!なんで宇宙なのに、あんなに動けるってのよ!!ムカツクムカツクムカツクッ」
『宇宙だからこそ、だ。重力に左右されないフィールドでこそ、念動式は生きてくる』
ヨーコが愚痴れば、即座にクレイがツッコミを入れる。
それもまた、クレイには悪いが、ヨーコにとってムカツキを煽る結果となっていた。
「じゃあ何?お兄ちゃんは、あいつの操縦方法が念動式だって言うの!?」
『あぁ』
クレイは短く答え、黒い機体から距離を置く。
斬道が見切られていると知って、戦いの手段を変えるつもりだろう。
Aソルの武器は、何も剣だけではない。一応、実弾銃も装填されている。
威力は大きいが距離は飛ばない為、不意討ちぐらいにしか使えないのが玉に瑕だが。
『そうとでも考えなければ、あそこまでスムーズな動きは出来ない』
「そう考えたとしたって!中に乗ってる奴は何なのよ、何者なわけ!?」
それが判るならば、苦戦はしない。
いや、判ったところで苦戦には変わりない。
不幸中の幸いなのは、向こうがまだ数発しか攻撃してこない点であった。
奴は戦艦を狙って撃ってきた。見事に被弾したが、ダメージは大したことがない。
単なる脅しのつもりで撃っただけなのかもしれない。
Aソルが後退すると同時に、狙ってか偶然か、黒い機体も後退する。
そのまま睨み合う形となり、膠着状態が続くかと思われたのだが――
通信機を伝って朗々と響いてきた宣戦布告に、誰もがド肝を抜かされた。

『諸君!アストロ・ソールの諸君、聞こえておるかね?儂らは遥か彼方の銀河系より飛来した、サイバラ星の者である!聞けば、諸君らは外惑星の相手と交戦中であるとか。友好を以て接してきた相手へ、攻撃をお見舞いする!何と卑怯な振る舞いだ!このような地球人の暴挙、けして許してはならないと儂らは判断した!よって、これよりサイバラ星人は地球へ総攻撃をかける!他の惑星の諸君!これを傍受しているであろう諸君!儂らは地球の味方ではない、諸君らの味方である! 以上ッ!!』

声高らかに言うだけ言うと、通信は一方的に切れた。
「ミグッ、通信先は判るか!?」
T博士の問いに、ミグは頷く。
「……特定できました。前方の黒い機体より発信されたようです」
「今の声、共通語でしたわねぇ」と、ミクがポツリ。
「なのにサイバラ星人?今の方は、地球人ではございませんのでしょうか」
そう尋ねられても、誰も答えられるはずもない。博士達も首を傾げている。
今の宣戦布告は、確かに思いっきり地球の共通語だった。
だが、宇宙人が地球の言葉を話せないとも限らないのである。
続いてミカが、オペレーションモニターと睨めっこしたまま報告した。
「黒い機体の操縦は恐らく、念動式だと思われます。行動パターンがソルの操縦パターンと一致します」
「むぅ、やはり念動式か。あの動き、操縦桿ではないと思っておったが」
口々に博士が言うのを遮ったのは、通信機から聞こえるソラの声。
生活ブースにいるソラが、伝言を寄越してきたのだ。
『博士!ハルナさんが、あの声の主を知っているそうです。どうしますか?』
「どうもこうも」
次から次へと入ってくる新情報に目眩を感じながら、Q博士は答えた。
「ハルナちゃんには、こっちへ来るよう伝えてくれ。詳しい話を聞きたいしの」


通信機を通して、黒い機体が声高らかに宣戦布告を放った時。
春名は誰よりも早く、相手の正体に気づいた。

――この声は、お爺ちゃん!?

身内の声だ。聞き間違えるはずもない。
子供の頃、よく遊んでもらった思い出だってあるのだ。
玄也爺ちゃんの声は、お婆ちゃんの次ぐらいに覚えている自信があった。
ショックで青ざめ、よろける春名を、ソールが抱きかかえる。
「大丈夫ですか?春名さん」
「おいこらッ!何、さりげなく抱きかかえてんだよッ」
後ろで猿山がキーキー怒鳴っているが、ソールは平然と無視し、春名の顔を覗き込む。
しかし彼女は、ぶつぶつと譫言のように呟くばかり。
「う、うそ……こんなのって、こんなのってないよ……」
「こんなの?」
怪訝な表情を浮かべるソールを押しのけ、猿山も尋ねてきた。
「大豪寺、しっかりしろ!どうしたんだよ、いきなり!?」
「――もしかして!」
コンソールに手をかざしたまま、ソラが振り返る。
「ハルナさん、今の声の主に思い当たる人物がいるのでは?」
「なんだってェ!?」
驚く猿山に、秋子も声を被せて問い返す。
「なんで春名が思い当たるってのさ、相手は敵でしょ!?」
二人がかりに怒鳴られて、ソラは困惑しながら春名へ目をやった。
「でも、もしかしたらと思って……ハルナさん。ボクの考えは、違っていたでしょうか?」
その場にいた全員の視線を一身に受け、春名は、おずおずと頷いた。
「今の声……お爺ちゃんだったかもしれない」
皆の声が綺麗にハモる。
「お爺ちゃん!?」
「あんたの爺ちゃんって、確か行方不明になってて」
秋子が言うのへ、春名も頷いた。
「うん。宇宙人にさらわれたって……」
アメリカで聞いた話では、何かの実験中、宇宙人に誘拐されたという。
その祖父がまだ生きていて、しかも地球の敵に回るなど、いくらなんでも信じられない、春名にだって。
「お爺ちゃんというのは、ゲンヤ=ダイゴウジ博士ですか?」
「は、はい」
ここにも、博士となってからの玄也爺ちゃんを知る者がいた。
ソールに問われ、春名は勢いで頷いてから改めて驚く。
Q博士やリュウが知っているのは、彼らが研究者だからということで納得がいく。
しかしソールまでもが知っているというのは、玄也は一般的にも知名度が高かったのか?
春名の驚きが伝わったのか、彼は軽く肩を竦めた。
「ロボットに興味がある者ならば、大抵は知っていますよ。彼の名を」
二人の会話を妨げたのは、誰かのあげた「あ!」という叫びであった。
「黒いやつが逃げてくぞ!」
見れば、ソル三体へ背を向けて、黒い機体が宇宙の闇へ消えてゆくところであった。
今日は宣戦布告だけ、だったのだろうか――?


「全ソル、着艦完了」
デトラの知らせを受けてから数十分後には、司令室へ全メンバーが集まっていた。
誰もが消沈、或いは驚愕を隠せないでいた。
こちらのシールドを物ともせず奇襲をかけてきた敵がいたのと、いきなりの宣戦布告。
それが地球の共通語で行われたという事実も、皆へ衝撃を与えた。
「黒い機体は完全にフィールドアウトしたようですね」
レーダーから目を離し、ミグは溜息をつく。
「今回は予告だけ、という事でしょうか?」
「判らん。奴が何者なのかもサイバラ星が何処にある星なのかも、な。一つだけ判っとるのは、奴が地球の敵だということだけだ」
『こちらのシールドを見破って、奇襲をかけてくるほどの強敵です。何故、いきなり撤退してしまったんでしょう』
首を傾げるクレイへは、博士の代わりにリュウが応えた。
「だからよ、奴が言ってたじゃねぇの」
彼は立ち上がると急に声を野太くして、演説風味に語り始める。
「友好的な相手へ、攻撃する!何と卑怯な振る舞いであろうか!」
そして肩を竦めた。
「つまり、あちらさんは卑怯な真似を許せねェ主義なんだよ」
クレイの顔を指さし、リュウはウィンクしてみせる。
「次に会う時が本番だと言いたかったんじゃねぇかと、俺は思うわけだ」
ミクが、ふくれて反論する。
「先に奇襲をかけといて、そんなこと言われても説得力ありませんわ」
「でも、攻撃は加減されてただろ?ソルへの反撃も無かったし」
リュウに言われて、クレイもヨーコも頷いた。
奴の攻撃は戦艦へ放った二発だけ。後は、こちらが攻撃しても避けていただけだ。
奇襲作戦で倒す気だったのならば、姿を隠したまま何発でも当てられたはずだ。
それを、わざわざ姿まで見せて、宣戦布告。倒す気があったとは思えない。
『敵を知るには敵の心理を読めという事ですね。さすがです、リュウ兄さん』
クレイにキラキラした瞳で見つめられ、リュウは慌てて視線を外した。
「ンな大層なもんじゃネェって。俺ァ、ただの憶測で言っただけだぜ」
大体、黒い機体が何者なのかは、リュウにも、さっぱり予想がつかないでいるのだ。
初めはインフィニティ・ブラックか?とも考えたが、どうも違うような気がする。
あんな悪趣味なデザインの機体は、Kと同盟を結ぶ宇宙人の誰もが持っていない。
デルタの機体は小型が主体だし、グーダーラの機体は、もっとヒラヒラしていたはず。
フェルダ星人は撤退して久しいから、除外してもいいだろう。
ベクトルはゲリラ戦を得意とする宇宙人だ。逆に言えば、戦闘機で戦うセンスがない。
あと残っているのはエプシージぐらいだが、彼らはフェルダ星人に輪をかけた温厚派だ。
いきなり奇襲してくるほどの度胸があるとは、リュウにも思えなかった。
――そうだ、もう一種類いたな。
不意に思い出し、リュウは脳裏に相手の姿を思い浮かべようとした。
Kが最近コンタクトを取り始め、熱心に通信を行っていた星があったのだ。
確か……ツインだとか、なんとか言った気がする。
そいつらか?
それにしても、宣戦布告だけで撤退するとは随分と弱気な作戦である。
せめてソルの一機ぐらいは壊さないと、Kへの言い訳も立たないんじゃなかろうか。
「ではハルナちゃん、君の思いついた事とやらを皆へ話してもらえるかね」
Q博士の声でリュウは現実へ引き戻され、周囲を素早く見渡した。
どの顔も真剣な表情で、輪の中央にいる少女――大豪寺春名へ集中している。
大豪寺春名。
大豪寺玄也の孫娘か。
先ほどの宣戦布告と何やら関係があるのだろうが、一体何を思いついたのやら?
リュウも興味津々な面持ちで、彼女の話が始まるのを見守った。

彼女の証言は、Q博士以下多くのスタッフを衝撃のドン底に突き落とした。
とりわけ大豪寺玄也を尊敬する者にとっては、侮辱とさえ思える内容であった。
だが、他ならぬ肉親の春名が証言しているのである。
先ほどの黒い機体のパイロットは大豪寺玄也の声を持つ者であったと。
聞き間違い、勘違いではないのか?
Q博士を始め、皆々に尋ね返されたが、春名は断固として違うと言い張った。
あれは絶対お爺ちゃんの声ですと言い切った。
言い切るからには、春名の記憶は正しいということになる。
しかし、それならば何故――何故、大豪寺玄也は地球の敵についた?
大豪寺玄也は遥か昔の時点で、既に地球の危機を予測していた。
予測して、防衛の為に念動式ロボットを考案したのも彼ではないか。
その彼が何故。わけが判らない。
いや、彼は宇宙人に誘拐された。それが唯一のヒントと言える。
彼は宇宙人に誘拐され、洗脳されてしまったのではないだろうか。
地球を攻め滅ぼすためにロボットを作らされて、先兵として放たれたのかもしれない。
「なんとかして、博士を助けましょう」
ソールの言葉にミリシアも同意を込めて力強く頷いた。
「えぇ。方法は判らないけど……博士は私達の味方になってくれそうな気がします」
「本当に洗脳されていれば、の話ですね」と、ミグ。
デトラに荒々しく「そうじゃないって言いたいのかい?」と聞き返され、彼女は淡々と続ける。
「そうではない可能性もある、と考えておくのが無難です」
「ともかく――ミク、ミカ。シールドを再展開後、進路を月へ向けてくれ」
言い争いが始まる前に、T博士が二人へ指示を出す。
「月へ?月には何があるんですかィ」
尋ねてよこすリュウへは、横目で答えた。
「本部とアメリカの共同で作った補給基地がある。まずはそこへ落ち着こう」
対レーダーシールドが再び全てを覆い隠すと、ブレイク・ソールは一路、月へと向かう。

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