BREAK SOLE

∽米国編∽ 帰還


「そういえば」と、戻ってきたクレイ達へ向けてハルバートは言った。
「この基地には、君達に会わせたかった人物がいる」
司令室にはハルバートの他にオペレーターを含む士官が何名かいる。
その中に異質な存在感のある者が二名ほどいた。この二人が、どうもそうらしい。
一人は背の高い軍服の男。
暑くもない部屋なのに腕まくりをしている。
二の腕は春名の三倍ぐらいありそうな太さだ。
しかもサングラスをかけていて、ちょっとばかり胡散臭い。
真っ黒な髪の毛はボサボサ。
少し頭油でテカッていて、最後に洗ったのは何日前だ?といった具合。
人に会うんだから洗うなり櫛で梳かすなりすればいいのに、と春名は呆れた。
男を示し、ハルバートが紹介する。
「彼はリュウ=シラタキ。そして、この小さなお嬢さんが」
隣の少女を示されて、春名とクレイは、あっと小さな声をあげた。
「ん?知りあいかね」
司令官に尋ね返され、春名は慌てて手を振る。
「い、いえ」
間違いない。先ほど廊下ですれ違ったばかりの、謎の少女ではないか。
ハルバート直々に紹介されるということは、この子も軍隊関係者だったのか。
人は見かけによらないものだ。
「アリアン=G=リッシュよ。宜しく」
少女が優雅に会釈してきたので、春名も微笑んで自己紹介した。
「大豪寺 春名です。こちらこそ、よろしくね」
ちら、と傍らのクレイを見やると、挨拶も忘れたか、彼は軍服の男リュウを見つめている。
「クレイ、挨拶しないと」
ひそひそと囁く春名の声に反応したのは、クレイだけではなかった。
「その青い髪、やっぱ地毛だったか!お前、ブルー=クレイだろ?」
リュウに驚かれ、クレイは頷いた。
『そういう貴方は、あのリュウ兄さんですか?』
「そうだよ!白滝竜だよ、懐かしいなぁオイ!随分でっかくなっちまってェ!!」
かと思えば、馴れ馴れしくクレイの肩を抱き寄せ、ひそひそと耳打ち。
「で、アレは何だ?お前の恋人か?真面目なツラしてマニアックだなぁ〜、ロリかよ?」
ちらりと流し目されて、春名は、きょとんとする。
クレイも春名を見て、『ロリ?』と無表情に尋ね返す。
そんな彼を見て、リュウはニヤニヤしている。一人、判ったように何度も頷いた。
「へっへ、恋人ってところは否定しないのか。公認の仲ってワケかい」
首を傾げたのは司令官も同じで、彼は幾分慌てた様子でリュウに尋ねていた。
「シラタキ君、君はブルーと知りあいだったのかね?私は何も聞いていないが」
するとリュウは臆面もなく、あっさりと答える。
「そうっすよ」
上官相手だというのに、気楽な返事だ。
「失礼します〜。避難民の隔離、じゃなかった、誘導終わりましたぜ」
ここにも気楽な男がいた。
ぞろぞろと入ってきたのは修理班の三人。今、報告したのは先頭のマルクである。
「あー」
ゴホンと咳を一つして、ハルバートが仕切り直す。
「整備班の諸君も戻ってきた事だし、改めて紹介しよう」

「こちら、リュウ=シラタキ君。こう見えてもロボット工学には詳しくてな。我々にダイゴウジ博士の研究情報を教えてくれた人物でもある」
へーとかホーといった声があがる中、リュウはニヤリと司令官を見て言った。
「こう見えてもってのは失礼じゃないか?司令官」
同じぐらい失礼な言葉で返す彼には軽く無視をくれて、ハルバートが続ける。
「そして、こちらはアリアン=ゴールド=リッシュさん。歳若いが、彼女も天才的な機械工学知識をお持ちだ。リュウ君とは遠い親戚にあたる」
薄く笑い、少女は会釈した。
「アリアンです。宜しく」
遠い親戚?
リュウとアリアンを見比べて、アストロ・ソールの面々は首を傾げる。
黒い髪の毛って処だけは似ているが……
アリアンの瞳は青い。だが、リュウの瞳は茶色。人種が違うような?
まぁ、遠い親戚だって言っているし、どこかで別の血が混ざっただけなんだろうけど。
「あんたらとは初顔合わせだな」
サングラスを外し、リュウは口元に笑みを浮かべる。
「あんたらとは?って事は、初顔合わせじゃない人もいるってことかい」
マルクが陽気に尋ね、リュウと、そしてクレイも頷いた。
「あぁ。ここにいるクレイとはな、昔の顔なじみってやつだ。それと、あんたらのリーダーのQ博士。あの爺さんには昔、世話になったことがある」
「へーぇ」
ヒュゥと口笛を吹いてマルクは感心する。
「ロボット好きはロボット好き同士、何か惹かれるものでもあるのかな?」
「それよりも」と、マルクを押しのけ司令官へ尋ねたのはメディーナ。
「ダイゴウジ博士とは何者ですか?」
それに答えたのはハルバートではなく、春名であった。
「あの……うちのお爺ちゃんです」
「ハ?おじーちゃん?」
意外な返答でメディーナがポカンとしている間に、司令官は士官へ命じた。
「君、スクリーンを」
急に部屋が暗くなり、大きなスクリーンが天井から降りてくる。
そのスクリーンに映し出されたのは、白髪の爺さん。
目元の部分が、どことなく春名と似ている――ような気がしないでもない。
「ゲンヤ=ダイゴウジ博士だ」
皆へ向けて、ハルバートが言う。
「彼は念動式ロボットを初めて世に生み出した、偉大なロボット工学博士なのだ」
「え!?あれって、Q博士が作ったものじゃないんだッ?」
なんて声もあがったが、初老の司令官は、どこか遠くを見つめる眼差しで話を進めた。
「彼は恐らく、この日の為に用意したのだ。宇宙人と戦う、来るべき日の為に。そして奴らは来た。恐るべき侵略者達と戦えるのは、彼の考案した念動式ロボット――ブルー君、君の乗るソルしかないのだよ」
ハルバートの物思いを断ち切らせたのは、メディーナであった。
「そのような事を言うために、わざわざスクリーンまで降ろしたのですか?」
そんなことは言われなくても判っている。彼女の刺々しい視線は、そう断言していた。
気分を害したようにゴホンと咳をして、ハルバートは話を締める。
「ともかく。諸君らは大破してしまったAソルを早急に直さなければなるまい。そこで、だ。シラタキ君とアリアン君を君達の元へ派遣したいと思うのだが、どうかね?」
ナクルは小さく悲鳴をあげ、「大破!?」と大声で叫んだのはマルク。
今までずっと避難民の相手をしていたのか、Aソルが壊れたことは初めて知った様子だ。
二人を手で制し、メディーナは余裕ありげに首を振った。
「それはQ博士へ直接お申し付け下さいませ。私どもの一存では決めかねますわ」
するとハルバートもニヤリと不敵な笑みを浮かべ、やりかえしてくる。
「そうしたいのは山々だがね。我々は直接彼と連絡を取る方法など、知らない」
「……わかりました。では、少しお時間を下さい。連絡を取ってみます」
メディーナは渋々頷いた。面倒なことは、彼女の趣味ではなかった。


修理班が出て行った後もクレイはリュウと話していたので、春名も何となく司令室へ残る。
二人はヒソヒソと内緒話をしながら、時折ちらっと春名のほうへ視線を送ってきた。
それが何とも気味悪くて、春名は少し離れたところに立っていたアリアンへ話しかける。
「ね。アリアンさん」
切れ長の目が春名を見上げる。
「アリアンでいいわ」
彼女はポツリと答え、後は興味を無くしたとばかりに、ソッポを向いた。
この子、幾つぐらいなんだろう?
春名は少し興味を持ったが、女性に歳を聞くのは失礼と思い直し、話題を変える。
「えと、じゃあ、アリアン。あなたは機械工学に詳しいってハルバートさんが言ってたけどやっぱり、私のお爺ちゃんのことも、知っているの?」
「いいえ」
短いが、はっきりとした否定。アリアンは首を真横に振った。
「ダイゴウジ博士を知っているのはリュウだけ。私は知らないわ」
「あ……その、白滝さんは、どこで知ったのかな。私のお爺ちゃんを」
「本人に聞けばいいじゃない」
アリアンは春名になど興味がないようで、答えも返事も素っ気ない。
ふぅ、と溜息を漏らし、春名も素直に頷いた。
「……そうだね、そうする」
ところがトコトコと歩き出した途端、アリアンが後をついてくるではないか。
用があるの?そう尋ねようとして、春名は思いとどまった。
アリアンは春名が気に入らなくてソッポを向いているのだとばかり思っていたが――
実は最初から一箇所に集中していたのが、春名にも判ったからだ。
アリアンは先ほどから、ずっとクレイばかりを見ていたのだ。
今もそうだ。彼女の視線を辿ってみれば、直線上にはクレイがいる。
クレイには興味があるんだ――
そう思った途端、春名の胸の内に、じわーっと悲しい気分が広がってきた。

いけない。
こんなところで一人暗くなってちゃ、クレイにも心配かけちゃう。

首を振って気分を落ち着けると、春名はわざとほがらかな調子でリュウへ話しかけた。
「あ、あの!」
話していた二人が一緒に振り返り、リュウはニヤリと口の端をつり上げる。
「言ってる側から来たぜ、最愛の恋人が」
「は!?」
またしても恋人扱いに、春名の口からは素っ頓狂な声が飛び出した。
恋人と呼ばれるのは正直嬉しいけど……でも、まだ早い。
だって、まだ恋人らしいことの一つや二つもしたことがないんだもの。
「見ろよ、恥じらっちゃって。可愛いねぇ〜」
リュウのニヤニヤ笑いは止まらず、春名の頬は早くもカッカしてくる。
怒っているわけじゃない。恥ずかしいのだ。本人の目の前で冷やかされるのは。
『だから、春名は恋人ではありません。戦闘パートナーだと何回言わせる気ですか』
無感情な電子声がリュウの冷やかしを遮った。
クレイはというと、これがまた見事なまでの鉄仮面。全くの無表情を貫いていた。
春名とは対照的な反応で、一人で恥ずかしがっているのが馬鹿みたいにも思えてくる。
「言ってねぇじゃん」
リュウが口を尖らせた。
そういう顔でいると、まるで子供みたいだ。ガタイはクレイよりも大きいが。
「打ってるだけじゃん。何だよ、聞かせてくれねーのかぁ?お前の生声」
『ここでは、少し』
憮然とするクレイの頬をチョンチョンと突っつき、なおもリュウは絡んでくる。
「可愛い声してたよなぁ、子供の頃は。どうだ?声変わりは済んだんだろうな?」
抱きつかれ、密着され、耳元で囁かれた辺りで、さすがの鉄仮面も崩れてきた。
『はい』と答えつつもクレイは困惑の表情を浮かべ、身を離そうとする。
だがリュウはホールドを強め、彼の逃亡を許さない。
「なんだ?ん?しばらく会わないうちに、お兄ちゃんが嫌いになったか?つれねぇなぁ〜、昔は一緒にお風呂で洗いっこした仲じゃないかよ」
窮地のクレイを救ったのは、春名の一言であった。
「あ、あの。お爺ちゃんのことで、少しお聞きしたいことがあるんですっ」
途端にリュウはクレイからパッと身を離し、真面目に戻って先を促す。
変わり身の速さに驚きながら、春名は気になっていたことを尋ねた。
「お爺ちゃんのこと……最初に知ったのは、どういうきっかけだったんですか?」
何度も言うようだが、日本に居た頃の大豪寺玄也は工学者ではなかった。
どこにでもいるような、少し元気すぎる普通の爺さんだったのだ。
どこで何があって、どうして祖父は、ロボット工学者になってしまったのか?
それが知りたかった。
答えは、目の前の男が知っている。何故か、春名にはそう思えたのだった。

「――ということなんです。博士は彼の身元をご存じでいらっしゃいますか?」
一方、こちらは戦闘機内。メディーナは広島支部へ連絡を入れた。
『うむ。覚えておるよ』
Q博士の返答は意外にも軽快で、あっさりと肯定される。
『シラタキリュウ君じゃろ?彼は昔、ドイツの研究所で働いとった研究員じゃ』
「本当にお知りあいだったんですか……」
研究員だったというのも、意外な過去であった。
どちらかといえば、スポーツ選手か肉体労働が似合いそうな面構えだ。
大豪寺博士を知っているか?というマルクの問いにも、Q博士は頷いた。
彗星のように現れて、数々の新発明を世に生み出し、最後は宇宙人に拉致された。
彼の生き様は今もなお、ロボットマニアの間で語り継がれる伝説らしい。
コンソール・コンセレーションの原案は、大豪寺玄也が考案した。
実戦で使えるように改良したのはQ博士の功績である。
さらに驚くべき事に、大豪寺玄也は未来の予言まで残していたという。
『宇宙人が地球を訪れ、アメリカが彼らと戦うことまで彼は予期しておった。誰もが彼の予言を、映画の見過ぎだ、妄言だと馬鹿にしておったがな』
「博士は、彼の予言を信じたのですね」
『信じた……というか、儂にも予感があったのじゃ。宇宙人ではないにしろ、近いうち似たような規模の戦争が起きるのではと』
だから彼の考案する念動式ロボットを採用し、ソルを造りあげた。
ロボットを動かすために、これまで研究していた人工人間のノウハウにも手をつけた。
自分の研究所に何日も籠もり、ついに一人の生命体を完成させる。
それがブルー=クレイであった。
だが待っていた未来は戦争ではなく、宇宙人との戦いだった。
大豪寺 玄也が予言したとおりの結果で始まり、瞬く間に地球は劣勢へと追い込まれた。
『クレイは初陣で予想以上の戦果を上げた。儂らは、これならイケる!と思ったのじゃ』
出来たばかりのAソルへクレイを乗せて、ドイツへ攻めてきた宇宙人と戦わせたという。
その時のクレイは、僅か五歳になったばかりだった。
「酷いことしますねぇ〜。幼児虐待ですよ?」
マルクが茶々を入れ、メディーナに窘められる。
「それで……博士。どうなさるんですか?彼らの協力は」
『シラタキ君に関してはノープログレムじゃ。大歓迎じゃよ。だが……』
「アリアンちゃんは、駄目?」
しばし空白を置いて、Q博士は答えた。
『そうじゃな。彼女の身元が完全に判明するまでは、アメリカ側へ置いていて貰おうかの』
彼女の身元。
はっきりしているじゃないか、白滝 竜の親類だと。
しかしQ博士の言い分では、その身元がまるで嘘だと言わんばかりだ。
騙されているのはアメリカか。それともQ博士なのか?
ともあれ彼女を仲間に引き入れないという決定に関しては、メディーナも賛成であった。
特徴が機械工学に詳しいというだけでは。
機械に詳しい奴なら山といるではないか。我がアストロ・ソールには。
白滝が仲間に入るのは仕方ない、Q博士ともクレイとも面識がある知人みたいだし。
だが、彼に監視を付けておく必要はあるだろう。
基地へ戻ったら、T博士かR博士へ進言しておこうと整備班の三人は考えた。

「君のじいちゃんねぇ……知ってるこたぁ知ってるが」
ポリポリ、と顎を掻き、難しい顔でリュウは答えた。
「でも、ほとんどQ博士の受け売りだからよ。聞くなら、あの爺さんに聞きな」
春名が期待していた答えとは、遠く掠りもしない内容だった。
歯切れの悪い回答。彼は何か隠している?
Q博士から聞いた部分だけでも教えてくれればいいのに、何故隠す必要があるのか。
身内である春名に聞かれてはマズイことまで、彼は知っているというのだろうか?
直感でそう思ったが、それ以上は突っ込まず、春名はお礼を述べる。
「ありがとうございます」
「いいよ、大したことは教えてねぇし」
心持ち消沈した春名の肩をポンと叩く奴がいる。
振り返ると、クレイが笑顔で立っていた。
『大豪寺 玄也博士の話なら、俺も聞かされている。春名の聞きたいことは何だ?』
途端にリュウの顔にニヤニヤ笑いが復活し、大声で囃し立ててくる。
「ヒューウ♪さすが恋人、可愛い人の質問には何でも大サービスってかぁ?」
これ以上冷やかされてなるものか、と春名も大声でそれを遮った。
「あ、あのね!Q博士は、どこでお爺ちゃんのことを知ったのかなって」
少し考える素振りで天井を振り仰いでから、クレイが応える。
『学会で彼の説明を聞いて感銘を受けたそうだ』
学会というのは、博士達が集まる発表会のようなものだ。
だとすると、祖父は海外へ渡った時点で既に工学者になっていたということだろうか?
でも工学者というのは、誰でも彼でも簡単になれるものなのかしら。
春名がそう尋ねると、クレイとリュウは、いとも簡単にあっさりと頷いた。
「なれるぜ?資格さえ取ってりゃ。つか、肩書きなんざオマケみてーなもんだし」
かくいう俺だって研究者っていう肩書きがあるんだぜ。
リュウに言われて、春名は目を白黒させた。
『大豪寺玄也は学会で彗星デビューした期待の新人博士だった。それまでは全くの無名で、誰も彼のことは知らなかった。彼の考案する設計案は、どれも斬新で着眼点が学者らしくなく、それでいて完成された物ばかりだったそうだ』
どこか誇らしげにクレイが言うのを聞いていると、こちらまで嬉しくなってしまう。
『Q博士は彼を尊敬していると言っていた。俺も尊敬に値する人物だと思っている』
身内をベタ褒めされ、春名は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
「調子いいなぁ、お前は。会ったこともない奴を尊敬するだなんて言っちゃってサ」
対してリュウは面白くも無さそうであったが、スケベ笑いで突っ込むのは忘れなかった。
「それとも何か?恋人の身内だから、あま〜い採点しちゃったってわけか?ん?」
途端に春名はポッポと赤くなり、クレイは――
なんと、クレイまでもがカァッと赤くなって視線を外したので、春名は驚いた。
「赤くなったな、コノコノ〜ォ。やっぱ好きだという自覚はあるんじゃねーか!どうなんだ?オラ、白状しろヨ。ただの戦闘パートナーじゃないんだろ?夜は夜で別のパートナーなんじゃねーのかぁ?アン?」
息もつかせぬマシンガントークにはエッチな会話も混ざっていて、クレイを困惑させる。
春名がそれに突っ込みを入れようとした時、整備班の連中が戻ってきた。

Q博士の返事はOK。ただし、アリアンは却下。
彼女はアメリカ軍の元で働いて欲しい。
Aソル及びクレイと春名は、潜水艦が迎えに来るのでドッグで待機。
白滝竜と整備班の三人は先に戦闘機で帰還。
――といった説明を受け、お約束の別れの挨拶も交わし、一行はドッグへ向かう。
「はぁ〜ぁ。やっと一息つけるわぁ」
ドッグまで来たところで、メディーナが大きくノビをする。
「やっぱり緊張しちゃいますよね。偉い人の前だと」
春名は同調し、マルクが茶々を入れた。
「これでも、昔の形式よりは堅苦しくなくなったんだぜ?」
「へぇ、そうなんですかぁ」
「昔はさぁ、歓迎式だなんだで大統領の挨拶まであったって話だからネ」
物知り顔で得意げに話すマルク、は軽く無視してメディーナが春名を労ってきた。
「そういや、あんた。怪我はなかった?あの様子だと骨でも折っていそうなんだけど」
「あ、内臓には異常がないって言われました。怪我も打ち身程度で済みましたし」
答える春名へ頷き、メディーナはニッコリと微笑んだ。
「内臓には異常がないぞ〜。……なぁんちゃって〜」






「え……っと」
気まずい沈黙が続いた後、恐る恐る春名が呟く。
「メディーナさんって、もっと真面目な方かと思っていました」
「……意外と、面白い方なんですよ」
ナクルも併せて、こっそり呟いた。
「真面目かと思ってたって、意外と面白いって、あんた達ねぇ!」
ガァッと怒るメディーナだが、不意に何かを思いついたかニヤニヤと笑い出す。
「そういうナクルだって、大人しい顔してやるこたやってたじゃない」
「あ!駄目です、言わないって約束したじゃないですか……!」
慌てるナクルを押しのけて、メディーナは春名に告げ口した。
「こいつさぁ、避難民の一人とイチャイチャしてたんだよ?任務中にっ。しかもそいつとまた会おうって約束まで取りつけてさ。なんだっけ?相手の名前」
ナクルは俯いてモジモジしている。代わりにマルクが答えた。
「日系人だったぜ。タニオカケイイチだったかな?多分、そう」
「もう、バカ……ッ」
ナクルはプイッと横を向いて拗ねてしまった。
彼女の可愛い仕草に和んでいると、背後から影が落ちる。
リュウだ。
「ヨォ。俺が座るスペース、ないみたいだぜ?」
戦闘機は後ろと前で四人乗りが定員となっている。
しかしガタイのいい彼は、後ろに乗っても前に乗っても窮屈しそうであった。
「なら」
メディーナが何か言うよりも早く、クレイが彼を誘う。
『俺達と一緒に、潜水艦へ乗りましょう』
笑顔まで見せているクレイを見て整備班の連中が驚愕でおののくサマを見ながら、春名は内心のモヤモヤが心の全体に広がっていくのを覚えていた……

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