act5.部隊完成
一人完成してしまえば後は楽勝、とは、よく言ったもので。
アルマの完成をきっかけに、次々新しいバトローダーが誕生していった。
そして――ついに六人全員が勢揃いし、刃にとって初の空部隊が完成した。

「よーし、左から紹介するぞ。こいつはサイファ、ちょっと男勝りな奴だが女も度胸!っていうしな」
銀髪の女の子が、ひょいっと頭を下げて会釈する。
太い眉毛が印象的な、いかにも正直そうな顔をしている。
「サイファだよ。よろしく、司令官。力仕事なら、あたしに任せておくれな」
と言われても、飛行機部隊で力仕事を必要とする日が来るのかどうか。
曖昧に頷く刃の傍らで、シズルの紹介は続く。
「お次はミラだ。上品な貴婦人がテーマだったんだが、ちょっとタカビーお嬢様みたいになっちまったけど、まぁ、ヤイバなら相手するのは楽勝だよな?」
他人事だと思って、適当に言ってくれる。
一体どんな奴だと刃が視線を向けた先では、金髪の少女が優雅にスカートの端をつまみあげて腰を屈める。
動いた拍子に縦巻きロールが、わさわさと揺れた。
「ミラと申します。ごきげんよう、司令官様」
「様は、いらない」
思わず素で突っ込んでから、刃はミラを改めて見下ろした。
横長の眦は釣り目気味で、いかにも強気そうな顔をしている。
高飛車なお嬢様というシズルの触れ込みが本当ならば、扱いにくい相手ではあるのだが。
「そのように、穴が開くほどお見つめにならないで下さいまし。わたくし、恥ずかしくて溶けてしまいそうですわ」
ポッと頬を赤らめ、もじもじ照れている。
無遠慮にもジロジロ眺めた結果が、この反応ならば、刃の命令に逆らったりしないであろう。安心した。
「その隣がカリン。一般庶民的な女子を目指した結果だ」
「一般庶民的?」
首を傾げる刃に、シズルが笑って答える。
「炊事洗濯家事全般。一通りの知識は叩き込んであるぜ」
シズルは一体何をバトローダーにやらせたいのであろうか。
頭痛のしてきた頭を押さえながら、刃がカリンに目をやると。
生真面目そうで、それでいて温厚そうな瞳が彼を捉え、紫髪の少女は、ぺこんっと頭を下げる。
「は、はじめまして、白羽司令官。カリンと申します。これから色々お世話になりますが、宜しくお願いします!」
如何にも真面目な挨拶だ。好感が持てる。
「その次、ケイ。こいつはすごいぞ、思っていた以上の数値がたたき出せた俺達の最高傑作だ!……ま、今んとこは、だけどな」
ケイは赤い髪の毛を、男の子みたいに短く揃えた髪型だ。
猫目で、それに併せてか短パンにランニングシャツと活発さを絵に描いたような格好をしている。
これもシズルの趣味だろうか。
「初回がすごくたって、成長が悪かったら何の意味もないと思いま〜す」
アルマが小声でぶちぶち愚痴る横で、人懐っこくケイが笑う。
「ケイだよ。よろしくね、司令官。機械計器に関しては自信があるから飛行機の運転は、あたしに任せてよね」
戦闘機は基本二人乗りで、前が操縦、後ろが攻撃機銃を担当する。
自ら運転に自信があると言い切るぐらいだから、初陣から期待できそうだ。
「んで、最後がぁ〜……クロン、こっちこい」
手招きで呼ばれて、皆とは離れた場所に所在なく立っていた青い髪の子が近づいてくる。
大きな瞳が怖々と刃を見つめてきたので、安心させようと刃は微笑んだ。
「白羽刃だ。戦場には初めて立つが、お前達を無駄に散らせるような真似は絶対にしないと誓う」
クロンは、ぽぉっと朱の差した頬で刃をじっと見つめていたが、やがて、こくんと小さく頷いた。
「そいつ、他と比べて恥ずかしがり屋なんだ……でも刃、お前ならクロンの長所を引き出してくれるよな?」
それには頷かず、刃は尋ね返す。
「クロンは、どういったコンセプトだったんだ?」
「え?あぁ、こいつは俺が作ったんじゃなくてだな」
途端に歯切れの悪くなったシズルを不審に思い、さらに刃が問い質してみると、クロンは、なんと工場長のシズルではなく新米工員のアイディアで作り出された存在だと言う。
故にどういう働きを見せるのかは俺にも判らないと言われ、大丈夫なのか?と心配する刃へ、シズルは何度も太鼓判を押した。
ただし目は忙しなく左右に泳いでいたし、額には大量の汗を浮かべていたが。
都合の悪い言い訳をする時、彼がよく見せる表情である。
「……暴走だけは勘弁してくれ」
「しないしない、お前が手綱を引いている限り!」
安請け合いだ。しかも本人じゃないのに。
ますます不安が増してきた刃だが、当のクロンがジィィッと、それこそ穴の開くほど刃の顔を見つめてくるので、一旦シズルとの討論を打ち切ることにした。
「ともあれ、六人が揃ったわけだ。あとは機体と教官と副官が揃えば完璧だ」
「そういや、その副官と教官は?」
ここへ来たばかりの頃は二日三日で到着するという話だったのに、一週間経っても来る兆しが見えない。
そのことをシズルが突っ込むと、刃はゆるく首を振る。
「伝達に手違いがあって遅れているそうだ」
「なんだ、意外といい加減っていうか」
「だが、来ないからと言って、だらけている訳にもいくまい。彼らが来るまでの間は、シズルが教官を代わりに勤めてくれ」
この命令はシズルにとっては意外だったのか、彼は小声で「ひぇっ!?」と叫んだものの、すぐに笑顔で取り繕ってきた。
「あぁ、いや、わかった。ヤイバがやれってんなら、なんだってやってやるぜ?でも、その代わり俺だけだと、まとめきれないかもだから、SOSしたらヤイバも手伝ってくれよな」
「もちろんだ」と、頷いた翌日。
さっそくシズルにSOSコールされ、一緒に教官代わりを勤める事になった刃であった……
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