act4.アルマ
シズルに揺り起こされても、しばらくの間、バトローダーは、ぼんやりと定まらぬ視線を向けていたが。
やがて意識が目覚めたのか、瞳には強い光が宿り、第一声を発した。
「視覚クリア。感度クリア。マスター確認」
「よしっ!」
ここまでは基本動作で、ここからが本番だ。
「おい、俺はシズルってんだが、そうだなぁ、お前の名前は……アルマ!アルマっての、どうだ?」
ポンポンと決めてしまったシズルに驚いたのは、他の技師達。
「えっ、お前が名前を決めちまうのか?」
「つぅか、お前がマスターなのか!?」
部隊の責任者は司令官である。
従って、各部隊に所属するバトローダーのマスターも司令官が引き受けるのが一般的だ。
刃を呼んでおくのを忘れていたのは全員の責任だが、誰も、シズルが勝手に話を進めるとも予想していなかった。
「ん?ヤイバは工場を全部俺に一任するって言ってたぞ。だから、バトローダーの名前も俺が決めてやったんだ」
シズルと来たら、気楽な調子で言い返してくる。
後で文句を言われることになったら、シズルがそう言っていたと言い訳しよう――ベテラン技師は全員、目配せし合う。
「アルマ……」
ぽつりとバトローダーが呟く。
シズルは彼女の瞳を覗き込み、繰り返した。
「そうだ、アルマだ。よろしく、アルマ。さぁ〜ヤイバにも会いに行こうぜ、アルマ!」
またまた技師達は仰天し、引き留める。
「司令官を、ここにお呼びするんじゃないのか!?」
全く、この新人と来たら、悉く軍の常識を覆してくれる。
しかし、やはりというかシズルは平気な顔で、ずばっと言いのけた。
「バッカ、ヤイバは今、資料と格闘中で大忙しなんだぜ?ご足労いただくぐらいなら、こっちが行ってやんなきゃ」
先輩を敬わない割に、司令官への心遣いはバッチリだ。
ぽかんとする技師達を置き去りに、シズルは再度アルマを促した。
「さ、行こうぜアルマ」
アルマは黙って頷くと、シズルの後をついていく。
去っていく背中を見送りながら、技師の一人がポツリと呟く。
「いきなり暴走は、しなかったみてぇだが……一体、どんな設定になっちまったんだろうな」
「さぁなぁ……」
それを試す前に、お披露目に行かれてしまった。
止めたほうが良かったのかもしれない。
だがベテラン技師達が、その過ちに気づいたのは、だいぶ後になってからであった。

「よぉ〜ヤイバ、元気でやってっか?」
ノックも前触れもなく突然、司令室の扉が勢いよく開いたかと思うと、シズルが入ってくる。
彼は一人ではなかった。少女を連れている。
髪の毛は鮮やかなオレンジで、明らかにワ国の住民ではない。
となれば、これがバトローダーというやつか。
ローダーシリーズの中でも、バトローダーを間近で見るのは初めてだ。
注目の生命体は刃を一目見るなり、よろよろっと、わざとらしくよろめいて片手を額にかざした。
「あぁ……っ、尊いッ……!司令官がイケメンすぎて、眩しいッ……!」
しょっぱなから訳の判らない態度に刃が軽く固まっていると、傍らでシズルが囁いてくる。
「どうだ?なかなか、お前に好意的だろ」
「えっ?」
「はぁんっ、お声もイケメンボイス……!」
ガタガタっと椅子にもたれかかるようにして、バトローダーが崩れ落ちる。
これの何が好意的なのか、さっぱりだが、とにかく刃は話を先に進めることにした。
「白羽刃だ。右も左も判らない、軍人としても素人だが、精一杯役目を果たしたいと考えている。聞けば、お前も生まれたばかりだという……新人同士、手を取り合って、やっていこう」
片手を差し出すと、両手でぎゅっと熱く握りしめられる。
アルマはキラキラした瞳で刃を見つめ返して言った。
「えぇ、勿論!ふつつかものですが、こちらこそ末永く宜しくお願いいたしますゥゥ〜〜」
生まれたばかりのはずなのに、アルマは"不束者"などという言葉を、一体どこで覚えたのだろう?
内心首を傾げる刃へ、シズルが話しかけてくる。
「これでやっと一体目の誕生ってわけだ。だが、アルマのおかげで創造方法も掴めたから、お前は何も心配するこたァねぇ。空部隊は全部で六人必要なんだよな?待ってろ、すぐに全員お届けしてやっから」
振り返って見てみれば、シズルもキラキラと輝いた情熱の瞳を、こちらへ向けている。
「そうか。だが、張り切りすぎて倒れるなよ?」
念のため釘を刺しておくと、彼はニッと笑って親指を立てた。
「ヘッ、無理すんなって言われても止めらんねぇぜ。創造にゃ勢いも必要とする。いや、むしろ流れが必要だ。成功の流れに乗っかった今こそ、量産のチャンスだぜ!」
言うが早いか、シズルは司令室を飛び出していく。
「お、おいっ、待て!こいつはどうするんだ、アルマは!!」
少し遅れて、刃も慌ててシズルの後を追いかける。
「あぁんっ、待って下さい未来のダァ〜〜リィ〜〜ンッ!」
一人置いていかれたアルマもすぐに、刃の後を追いかけた。
ただし、こちらは何故かキラキラと背景に点描や花でも飛ばしかねないほど、無駄に可愛い子ぶった走り方のオマケつきで。
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