まだ見ぬ仲間を求めて

総勢七名では騎士団相手に喧嘩をふっかけることも、ままならない。
可憐は数人の仲間達とスカウト巡業へ出ることになった。
この世界に疎い異世界人だというのは、ミルから仲間へ告げてある。
複数の同行者は、サイサンダラに不慣れな可憐をサポートする役目にあった。

「フォーリン、君はボクと本拠地でお留守番だ。エリーヌは勿論、表に出るの自体が御法度だし……となると、一緒にいけるのは消去法でガーレットとアメリアの二人になるよね」
ミルの決定に口を挟んだのは、サーシャだ。
「待って、この二人だと遠距離奇襲されたら、お終いだよ?」
一体どこの物好きが、無名の旅人を奇襲してくるというのか。
しかしサーシャの目は思いの外、真剣だ。
「あたしも行くよ、当然ね」
今度はミルが反論する。
「待ってよ、それじゃ今度は此処が手薄だ」
「ココは、あんた一人で充分じゃない。あんたが二人を守れば」
二人の口論は平行線で、このままでは埒があかない。
可憐も口を挟んだ。
「物理攻撃の出来る人は一人必ず残っていないと」
「そうだよ。カレンの言う通りだ」
ミルも頷き、じっとフォーリンを見つめていたかと思うと。
「サーシャを行かせるぐらいなら、フォーリンを行かせるって。サーシャが旅先で命を落としたら大惨事だけど、フォーリンなら死んでもボクらの活動には全く影響が出ないし」
無情な一言を吐き、彼女を慌てさせた。
「そ、そんなぁ。ミル、酷いですぅ〜」
「フォーリンが死んでも大惨事でしょう」
彼女を気遣ってか、すかさずエリーヌも突っ込んでくる。
「ミル。本拠地は放っておいても大丈夫だと私は予想します」
「えっ、どうして言い切れるのさ?」
首を傾げるミルへ、エリーヌは、きっぱり断言した。
「だって、あなたとフォーリンがカレン様を迎えに行っている間も、此処を攻めてくる者はおりませんでしたから。あなたが一番の攻撃要なのは、戦場に立つ者なら誰でも判ります。にも関わらず、誰も襲ってこなかった……まだ、ここは誰にも知られていないと考えるのが妥当でしょう」
もし可憐がクルズ国の騎士だったとしても、襲わないだろうと考えた。
たった六名の反逆者なんて、放っておいても害無しである。
むしろ、襲撃にかかる手間賃のほうが勿体ない。
「そういえば――」
ふと思いつき、可憐は尋ねた。
「スカウトマンに異世界人の俺を選んだのは、どうして?この国を救いたいなら、この国の人を引っ張ってくれば良かったんじゃ」
「だから」と、少しイライラした調子でミルが答える。
「その、国民を引っ張ってくる為にカリスマの高そうな奴が必要だったんだ。んで、そんな奴には誰も心当たりがないから、それっぽいのを別世界で召喚しようって話になったんだよ」
なるほど。道理は通っている。
可憐に白羽の矢が立ったのは、偶然だろう。
たまたま生まれ変わろうとしていた時、ミルの魔法に見つかっただけだ。
「で……結局旅に出るのは私とアメリアと、あとは誰?」
ガーレットが話を戻し、エリーヌが全員の顔を見渡して締める。
「此処は放っておいても大丈夫だと言いました。えぇ、全員でカレン様に同行しましょう。私達が全員一緒なら、どんな困難でも乗り越えられるはずです」
一拍の間を置いて。
「えっ……えぇーっ!?」と叫んだのは、ミル一人だけだった。


翌日。
外に出てみれば、日差しがポカポカしていて気持ちいい。
この世界へ来たばかりの頃は、まわりの気温を考える余裕すらもなかったが。
「よかったですぅ〜、私一人でお留守番なんてことにならなくて」
可憐の傍らを歩くフォーリンは、どことなく浮かれた様子だ。
全員で長旅に出るのが楽しくて仕方ないといった風にも見える。
反対に不機嫌なのはミルだ。
「な〜に浮かれてんだよ。……たく、ボクの負担も考えてくれよな」
リーダーが太鼓判を押す強さであるらしいから、戦闘になれば一番活躍の場が回ってくるのもミルだと予想される。
可憐は一応ミルを慰めてやった。
「戦闘にならないよう俺も全力を尽くすから、そう怒らないでくれよ」
ぽむぽむと頭を撫でると、すぐさま彼女には怒られた。
「だから、頭さわるなって言っているだろ!?このセクハラ野郎!」
頭を撫でるのは、ミルにとってセクハラに当たるのか。
そういや初めて出会った時もセクハラ野郎と怒られた気が。
「ごめん、ごめん」
すぐに謝ると、可憐は全員の顔を素早く見渡す。
浮かれているのはフォーリンだけではない。
ガーレットとアメリアは楽しくおしゃべりしているし、サーシャも笑顔だ。
リーダーのエリーヌですらも、景色を眺めて嬉しそうである。
どこをどう見ても、旅行中の女子グループだ。誰もゲリラとは思うまい。
この分なら、あまり緊張しなくても済みそうだ。
可憐も笑顔を浮かべながら、一人仏頂面のミルの後に続いて歩き出す。


誰もが外の陽気につられて油断していた。
だから外に出た途端、予想外の出来事に巻き込まれるなど、誰もが想定していなかったのだ……
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