説明台詞はスキップしたい

可憐が目覚めたのは、やはり見知らぬ場所であった。
当然だ。
何度も言うが、ここは異世界。全てが知らない場所である。
「あのね、君、物わかり悪そうな魂だから一気に説明するよ?」
起きるや否や見知らぬ少女に超無礼な一言を投げかけられて、可憐はムッとした表情を浮かべて彼女を見た。
だが可憐の不満など、どこ吹く風で少女は話し出す。それによると……


可憐が今いるのは、サイサンダラという世界。
この世界は、四つの国が覇権を争って長き戦争状態にあるという。
現在地はクルズ国。
この世界で一番大きな軍事国家でもある。
可憐が先ほどいた集落はクルズ騎士団が派遣したスカウト部隊の駐屯所で、迷い込んできた旅人や迷子を戦地へ送り込む為の場所である。


少女はミルと名乗り、ビシッと人差し指を可憐に突きつける。
「つまり、あのまま、ぼんやり滞在していたら、君も戦地へ送り込まれるところだったんだよ」
それは知らなかった。
あの男女も気の良い夫婦ではなく、騎士団のメンバーだったのか。
ミルの話を全面的に信じるならば、だが。
「この世界へ君を召喚したのは、ボクだ。けど、それは君を戦地で無駄に散らせる為じゃない。君には力を貸して欲しい。この戦争を終わらせる力を」
対して可憐の口から漏れたのは「えー?」という、反抗的な態度であった。
「何が、えーなんだ」
訝しむ少女へ、可憐は口を尖らせて抗議する。
「どのみち戦地へ送り込む気満々じゃんか。俺、やだよ。戦ったことなんてないし。無理。無理無理」
「そんなことない!」と、ミルも言い返してくる。
「君は、世界一強い肉体と誰からも愛される顔面の持ち主だ!そういうのを選んで召喚したんだからな、このボクが。だから全ての人々を味方につけて、皇帝を倒せるはずなんだ」
「え、でもぉ〜……」
異議を唱えてきたのは、ミルの背後に控える女性。
薄紫色の髪の毛が綺麗だ。いや、綺麗なのは髪の色だけじゃない。
切れ長の瞳が、こちらを見つめている。
その瞳が情熱で潤んでいるように見えたのは、可憐の気のせいだろうか。
「魂は、温厚な方のようですけどぉ?」
「そうだね……魂が軟弱なのは、ボクも引っかかるんだけど……でも、見た目は完璧だよ!?ボクの召喚が狂いを生じさせるなんてこと」
腕を組んで考え込んでいたのも一瞬で、ミルは、すぐに持ち直し、可憐の肩に掴みかかった。
「君が嫌がろうとどうしようと、これは君の定められた運命なんだ。君は一度、君の生まれた世界で死んだ。そして、ボクの召喚で別世界に転生した。ゆえに、ボク達と一緒に戦うのを受け入れて欲しい。もちろん、ただで戦えなんて鬼みたいな事を言う気はない。君が勝利するにあたり、君の望む最高の環境を用意すると約束しよう!」
生き返らせてやったんだから恩返ししろ……
そう言われているようにも感じる。
些か恩着せがましいような気もするが、可愛いので許してやろうと可憐は思った。
そう。
口汚いし偉そうだけど、ミルは可愛い。
「じゃあ、もし俺が君と恋人になりたいって言ったら君は俺の恋人になるの?」
そう尋ねると、ミルは明らかにウグッと言葉に詰まる。
ややあって、苦渋の声を絞り出した。
「……そ、それは、君が本当に望んでいるのであれば?」
「うん。じゃあ、君を恋人にしたい」
間髪入れず頷いた可憐に、ミルは引きつりまくった顔を浮かべていたが。
「ぐぅっ……わ、わかった。召喚師に、二言はないっ!」
ズバッと言い切り、ただし、と後付け注釈を加えるのも忘れなかった。
「こ、恋人といっても、いきなりのエッチはNGだからな?ボク達は、つきあい始めたばかりなんだ。まずは、お友達からスタートだぞ」
よく見れば頬は真っ赤だし、目が泳いでいる。
こういうことを男性に言われるのは、初めてなのかもしれない。
まだ年若く――可憐の推測では小学生ぐらい?――に見えるし。
「もちろん」
「あの、それでぇ〜」
可憐の返事と、先ほどの切れ長瞳の女性の声とが重なる。
どうぞと先を譲ってあげると、彼女は会釈して続けた。
「そろそろ、我々の立場を説明しても宜しいでしょうかぁ」
「そ、そうだった。まだ何も説明してなかったんだ!」
今更ながら我に返るミルを横目に、フォーリンと名乗った彼女が言うには。


ミル達はクルズ国民でありながら、皇帝に反旗を翻した。
俗に言うゲリラだ。
どこの国にも所属しないかわり、どこの軍隊もアテにできない。
本拠地は、ここから近くの山の中にある。
現在の戦力は乏しく、クルズ騎士団にすら勝つのは到底不可能。
よって、可憐には戦力集めも平行して手伝って欲しい――


二つ返事で可憐は頷いた。
「うん、いいよ」
どうせミル達の元を離れても、行く宛などないのである。
ならば、彼女達と一緒にいるのが一番安全だろう。
戦争が起きている状態とあっては。
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