あと一人二人は欲しいところだね、チラッチラッ

「てなわけで仲間に入らせてもらいますぅ〜、ジャッカー言いますー!」
夕飯後。
ようやく新しい仲間が、皆に紹介された。
ジャッカーはミルと同じぐらいの背丈の少女で、聞けば15歳だと言う。
鷹の指を武器に、クルズ内を行商しているのだとか。
「可憐にしては、有能なのを見つけてきたじゃないか」
ふぅんと感心するミルへ、ふふんと可憐も得意げになる。
「だろ?」
「うん。鷹の指を持つ人は世界でも限られた数なんだ。こんなレアな人物を見つけたばかりか仲間にしちゃうなんてボクは、君を過小評価していたようだ」
過小評価されていたとは知らなかったが、見直してもらえたなら幸いだ。
「んで〜」とジャッカーが話し始めたので、全員の目がそちらを向く。
「仲間って言われましたけど、何の仲間なんです?旅仲間でっしゃろか」
ボケボケな発言には、先ほどの高評価も暴落だ。
「おい、可憐!何も説明しないで仲間に引き入れたのかい!?」
たちまちキレて詰め寄ってくるミルへタジタジする可憐を見て、クラウンが擁護した。
「なら、これから説明すればいい」
「その通りです、クラウン」
エリーヌが頷き、ジャッカーへ向き直る。
「私達の目的は、今の皇帝の暴挙を止める事にあります。具体的には王都へ潜り込み、皇帝を説得します」
きっぱり言い切る彼女には、ジャッカーも驚いて目を丸くした。
「王都へ!ひゃぁ〜っ!こらまた大きく出よったなぁ」
些か大袈裟なリアクションつきで驚くジャッカーへ、ミルが重ねて問いかける。
「大言壮語だと思ってバカにしてるだろ。けど、ボク達は本気だ。本気で今の皇帝を悔い改めさせようと思っている。遊び気分の奴の同行は、お断りだ。キミには革命に命をかける覚悟は、あるかい?」
キッと睨みつけられ、しかしジャッカーは臆することなく笑顔で頷く。
「ウチが、そんな脅しでスゴスゴ逃げ帰る奴だと思うとるん?そんなら、そっちこそウチを舐めすぎやで。打倒皇帝、面白いやないけ。オッケー、乗ったりまひょ。ウチの実力をクルズ全域に見せつけるチャンスや!」
「お前の実力?鷹の指以外にも何か隠しもっているというのか」
首を傾げるドラストへチッチッチと指をふると、ジャッカーは胸を張って言い返す。
「鷹の指が泥棒の真似しかでけへん思うとる連中に、この能力の真価を見せたる言うとんねん。まぁ、任せとき?あんさんのお姉はんも、きっちり救出するさかい」
可憐も興味を持って、ついつい口を滑らせる。
「真価って?クラウンの詛いを解いた以外にも何か出来るの」
「そいつは王都突貫した後での、お楽しみや」と答えるジャッカーを遮るように、エリーヌが可憐に詰め寄った。
「待って下さい、カレン様。今、聞き捨てならない発言がありましたね。クラウンに詛いがかけられていたと?一体何の?そして誰の仕業ですか」
「えっ、えぇと……」
可憐がチラリと本人を見ると、クラウンは、はぁっと深い溜息をつく。
「……俺が騎士団を辞めた原因だ」とだけエリーヌへ答えた。
だが当然ながら、その程度の説明で納得する相手ではない。
「詳しく話して下さい、クラウン。配下に詛いをかける者がいるとなると、宮廷の一大事です。皇帝を改心させた後に、膿も全て絞り出さなくては意味がありません」
しばし無言で視線を逸らしていたが、やがて逃れられないと悟ったのか、クラウンは渋々話し始めた。
「詛いは肉体の硬直であり、俺の名誉を著しく傷つけるものだった。かけたのは騎士団長、ドルクツェルだ。奴は詛いをかけた上で部下にも毎日俺を弄ばさせ、俺に二重苦を与えた。だから、俺は騎士団を辞めた。逃げ出したんだ、負け犬の如く」
吐き捨てるクラウンに、誰もが同情の応援を投げかける。
前後も詳しい事情も判らないが、一方的な虐めの被害者を笑う者は、ここには一人もいない。
「そんなの、逃げて当たり前です!」
アメリアが握り拳を固めて叫ぶ横では、サーシャもウンウンと頷いた。
「判るぅ〜。上司がパワハラとか、ありえないよね。あたしなら一日で辞めちゃうって。クラウン、あんたは、よく頑張った」
一日で辞めてしまうのも根性なさすぎであるが、それはともかく。
「許せませんね、騎士団長……城へ戻ったら即刻ギロチンで首を刎ねましょう」
据わった目でブツブツ言う姫には、可憐が冷汗タラリで食い止める。
「いや、そこまでしなくても」
「あぁ」と被害者たるクラウンも頷き、エリーヌへ提案した。
「減給ないし降格で充分だ。奴も所詮は皇帝の操り人形なのだからな」
「やだぁ〜、優しすぎますクラウンさん!」と声をあげたのはガーレット。
「私なら獄中で飲まず食わず一週間の刑に処した後は、日夜拷問を繰り返し、最後はギロチンで首を刎ねた後に、さらし首でキマリです☆だって二重苦ですよ、二重苦。屈辱二倍、絶対許しません!」
うら若き乙女が嬉々として、拷問を語らないで欲しい。
女の怖さを垣間見たような気がして、可憐はブルッと体を震わせる。
「ま、とにかく。個人の確執は終わった後でやってくれ」と、ミルが話を仕切り直す。
「あと、もう一人二人仲間に引き入れたら、ボク達は急いで王都へ戻らなきゃいけないわけだけど……大人数で移動するとなると、どうしても目立ってしまう」
足を確保するにしても、召喚獣を呼び出すにしても、目立つのには変わりない。
どうやって目立たぬよう王宮まで戻るか。
皆して首をひねっていると、ジャッカーが申し出てきた。
「あ、それなら解決方法あるかもしれんで?」
「ほぅ。聞かせてもらおうか」
何故か偉そうなドラストにも気を悪くせず、ジャッカーは答えた。
「空を飛んで戻れば一瞬やで?お山のクラマラスに力を借りてみちゃどや。こっから、さらに南下した山ん中におるんやけど」
南の方角を眺める彼女につられるようにして、ミルも南方へ目をこらす。
ここからでは、山脈は緑の重なりにしか見えない。
山の中へ入るとなると、この軽装備では不安だ。
ミルは平気だけど、他の皆が。
「クラマラス?それってもしかして、ワ国から流れ着いたテングのこと?けど、あいつらって要はモンスターだろ。モンスターが、ボク達に力を貸してくれるかなぁ」
半信半疑なミルへ、いかにも行商人っぽい雰囲気を漂わせてジャッカーが言う。
「あれ、知らんの?モンスター言うても、クルズ語が話せる奴もおるんよ」
「えっ!マジ!?初耳なんだけど」
「ホンマや。クラマラスとはウチも何度か遭遇しとるし、雑談も、ようけ交わしたもんや。あんさんらが行くっていうなら、案内してもよろしおま」
「もちろんタダじゃないんでしょ?」
混ぜっ返すサーシャへ「当然や」とジャッカーが頷く。
「出すもん出してくれたら案内しまっせ、おひぃはん」
ニヤニヤとエリーヌへ笑いかける。
対してエリーヌの反応は率直で。
「宜しいでしょう。私達の世直しは一刻を争うのです。それに騎士団長の首もギロチンで刎ねなければいけませんし」
「いや、それは、あとあと!」
すかさず止めに入ってから、可憐もジャッカーを促した。
「じゃあ、案内してもらえる?お代は皇帝を改心させた後ってことになりそうだけど」
「え〜?即決払いじゃなきゃ動かんよ」
ぶぅぶぅ文句を垂れるジャッカーの目の前に、紙幣が差し出される。
出したのは、もちろんエリーヌだ。
据わったままの目で、彼女は言った。
「ここに50クルズございます。これで足りますか?足りるのであれば、私達をクラマラスの住処まで案内願います」
あちこちで、ひぇっと声があがる。
可憐は、そっとフォーリンに尋ねた。
「50クルズって、大体どれくらいの金額なの?」
「そうですねぇ」
どう答えるか少し悩んだが、ややあってフォーリンが答える。
「豪華な晩餐会を三日間開催できるぐらいの金額……でしょうか?」
それを聞いて可憐もヒェッとなり、驚く一行を引き連れてジャッカーは歩き出す。
テリトリ山の何処かへ住むとされる、クラマラスの元へ――
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