仲間100人できるかな(無理)

宿へ戻ってきた可憐は、さっそく部屋で作戦会議を始める。
「まず、騎士団は千人部隊って聞いているけど、ホントなの?」
可憐の素朴な質問に、こくりとクラウンが頷く。
「あぁ。騎士が八割、残り二割は魔術師で構成されている」
「やっぱり沢山いるんですね」とアメリアが呟き、ミルは腕を組む。
「中身は?中身は、どうなのさ。昔同様強いわけ?」
ミルの問いに、クラウンは無言で頷く。
「じゃあ、なんで民間人をスカウトして戦地に送ってるの?」
続けざまな可憐の質問にも、彼は素直に答えた。
「騎士団を消耗させない為だと聞いた……今の皇帝は国を守る兵士を守り、国民を犠牲にする。愚かな政策だ」
皇帝の身内がいるというのに、クラウンの批評は容赦ない。
却ってフォーリンやガーレットが気を遣ってしまう中、エリーヌも冷静に頷いた。
「その通りです。なんとしてでも、やめさせなくては」
「だが、実際には、どうやって止める?千人部隊を、この少人数で切り抜けるというのか」とはドラスト。
フンと鼻を鳴らして、ミルが彼女の疑問を切り捨てた。
「誰が少人数で突っ込むって言ったのさ。ボク達には、とっておきの切り札がいるだろ?」
顎で可憐を示し、自信満々に言いはなった。
「可憐にスカウトしてもらって、国民全員を仲間につけるんだ!そうすりゃ千人部隊なんてメじゃないさ」
シュプレヒコールをあげてくる作戦参謀に、アメリアも乗っかってくる。
「さしあたっては、この辺の村人全員を仲間にしましょうか!」
「いいね、それ。村って言っても三十人ぐらいは、いるはずだ。全部の村でかき集めたら、千人なんて軽く越えるよ」
喜ぶサーシャに、ぼそりとクラウンのツッコミが入る。
「……そして、国民の命を無駄に散らせるのか。ゴミのように」
「なんだよ。文句があるってんなら別案を出してみろよ」
ムッとなったミルが言い返せば、クラウンは首を真横に振って否定にかかる。
「騎士団は素人が束になっても戦える相手ではない。名目上は国を守る兵士達だ。外敵用に訓練されている。人数がいれば何とかなる相手ではない」
ドラストも頷き、フンとミルを鼻で笑い飛ばして見下した。
「そうだな、国を救う戦いなのに民を犠牲にしていたのでは何の為に戦っているのか目的まで見失いそうだ。有能な少数精鋭で突っ込んだほうが、まだ犠牲は少なかろう」
「誰も物理的に戦わせるとは言ってないだろ」と、ミルも反論する。
「村人には、いてもらうだけでいいんだ。物理が駄目なら、口論で戦えばいい。各地でデモを起こしてもらう。それだけでも政権には効果絶大だよ」
「それで、物理的に排除されるのを見守るのか?」と、ドラスト。
罪なき民間人や旅人を戦場に送り込む、非情な連中だ。
反政府運動で盛り上がる面々を排除にかかるぐらいは、やりそうである。
それに示威運動が効果をもたらすのは、長期に渡って運動を続けた結果だ。
今、この瞬間にも戦場へ送られる被害者を食い止める手段には、なりえないのではないか。
少し考え、エリーヌもドラスト達に同意する。
「……確かに、今の騎士団であれば暴力行使は充分考えられます。各地でデモを起こしてもらっても、私達には守る手数が足りません」
「じゃあ、どうしろってのさ!?物理的に戦えない、さりとてデモも禁止されたんじゃ打つ手が」
「だから」とミルの悲鳴を遮ったのは、ドラストだ。
「最初から言っているだろう。少数精鋭で攻め込んだ方がマシだと」
「この人数で突っ込むのですか!?」
ミル同様、ガーレットも悲鳴をあげる。
見れば彼女の足はガクガクと震え、今にも腰を抜かして座り込みそうだ。
「お前ら、元々その人数で反乱を起こす気じゃなかったのか?」と、ドラストが問うと。
ガーレットとアメリア、それからサーシャは一斉に声を揃えて叫んでよこした。
「とんでもない!」
「あたしは、ミルが仲間を増やすっていうから参加したんだ」
サーシャが断言し、じろりとミルを見る。
「この人数で戦うなんて聞いてないし、無理だよ」
「わ、私だって、使えるのは電撃呪文が少々と、あとはナイフだけです!せ、千人の騎士が一斉に襲いかかってきたら……なぶり殺しにされちゃいますぅ、ヒィッ」
実際に襲いかかってくる妄想でもしたのか、ガーレットが両手で目を覆う。
なんとも頼りない仲間だ。
いや、最初に出会った時から、彼女達が戦えるのかは可憐にも疑問だったのだが。
怯える仲間を横目に捉え、クラウンがポツリと呟く。
「……千人と真っ向から戦う必要はない。頭を潰せば、連中は烏合の衆だ」
「えっ?でも、さっき、民間人では勝てないほどの強さだと」
突っ込むフォーリンへ目をやり、クラウンは彼女の間違いを訂正した。
「個々の実力で言えば、民間人は騎士の敵ではない。しかし騎士団長を抑えてしまえば、部下は目的を見失い降伏するだろう」
「よっわ!もしかして、団長がいないと何もできない奴らなの?騎士って」
ミルの正直な感想にも僅かな苦笑を浮かべ、クラウンが頷く。
「今の騎士団は団長が皇帝の独断命令を受けて動かしている。下位騎士は、自分達が何をやらされているのかも理解していない。ただ、命令だからと従っているだけだ……騎士の誇りは遥か昔に失われた」
ちらりとエリーヌを一瞥し、小さく吐き捨てて話を終わりにした。
「尤も、俺もそうだった。王家の命令を疑うことなく実行してしまった……王家に楯突く者を、この手で何人も殺めた。人間のクズだ」
元暗殺者の懺悔に対しエリーヌの反応は、およそ、この場に相応しくないもので、両手を組み、熱に浮かされた表情で情熱的に彼を見つめた。
「クラウン、あなたは王家に愛想を尽かして出ていったのに元王家である私のために、力を貸して下さるというのですね。そんな貴方が人間のクズ?いいえ違います、むしろ天使、いえ神と呼んでも差し支えないかと!」
これにはクラウンも意表を突かされたのか、やや引き気味に否定する。
「……いや……別に、あんたの為、というわけでは……」
が、エリーヌは全然聞いておらず。
「少数精鋭、アリですね!幸い私達にはクラウンとドラスト様、それからミルという三人の心強い実力者が仲間におります。あと二、三人ほど実力者を仲間に入れたら、いざ王都へ!」
もう既に攻め込むモードへ思考が移行した元姫に、ミルが強く反発する。
「ちょ、ちょっと待ってってば!いくらボクと他二人が強くたって、騎士団にこっそり忍び込んで団長だけ倒すとか無理だから!」
「そ、それに千人の部下達が大人しく忍び入らせてくれるとも思えません〜」
フォーリンの弁に、ドラストが頷く。
「そうだな……誰かが千人部隊の足止めに回るとしても、騎士八割に魔術師二割の軍団を相手にするのは骨だ」
それに、と形の良い眉をひそめて唸った。
「騎士団には私の姉も捕らえられている……姉を貴様らの内乱に巻き込むのは、勘弁して欲しいぞ」
「簡単です。お姉様を助ける傍ら、騎士団を撲滅すれば宜しいのでしょう?」
やはり、まだキラキラした情熱視線のままで、エリーヌが受け応える。
「いやいや、撲滅はしない、しないから。騎士団を沈黙させて、その間、皇帝に会う。そうだろ?クラウン」
リーダーが間違った方向に暴走しないよう、可憐も歯止めをかけておいた。
「あぁ」と頷き、クラウンがエリーヌを見つめる。
いや、睨んだ。
「騎士団長は俺に任せてもらおう。奴の相手は俺にしか出来ん。……皇帝の説得が、あんたにしか出来ないようにな」
じっと見つめ合うこと、数十秒。
「いやん素敵抱いてクラウン大好き」
何やら熱病に浮かされた発言をするエリーヌをうっちゃりし、クラウンは可憐に視線を戻す。
「カレン。ドラストの姉のように、宮廷内には囚われの異国民が数名いる。彼らを俺達の戦いに巻き込まない為にも、練りに練った作戦は必要だ」
「う、うん」
作戦が必要なのは判る。
しかし具体的にと言われると、可憐には全く思いつかないのが現状だ。
リーダーのエリーヌは幼馴染みへの愛が再熱して使い物にならないし、どうしたものか。
ミルの案に任せる?
いやいや、国民総出のデモ行進は、余計な被害を生みかねない。
少数精鋭で突っ込むにしても、自分達には手数が足りないと可憐も考えた。
「具体的に……どんな人がいれば、この人数でも突っ込めそう?」
ドラストとクラウン両名に尋ねると、それぞれの答えが返ってくる。
「魔法だな。それも結界を広範囲で張れるような奴がいると助かる」
「前衛をはれる奴が、一人二人欲しい。できれば騎士とも渡り合える使い手が」
二人揃って答えた後、ドラストがクラウンの要求にツッコミを入れる。
「前衛は貴様とガーレットの二人で事足りるだろう!それよりも魔法だ、魔法のちからをナメるんじゃない」
クラウンも片眉を跳ね上げて、露骨にドラストを詰り返した。
「お前はガーレットに死ねと言いたいのか……?戦場未経験の彼女に前衛は無理だ。魔法組にカウントしてやれ。それと結界は戦いを長引かせるだけで実用的じゃない。魔法使いが必要だと抜かすなら、広範囲攻撃できる奴を入れるべきだ」
見事に意見がバラバラで、これには可憐も頭を抱えるしかない。
広範囲魔法なら、ミルが得意そうだ。
しかし彼女の実力なら盗賊団アジトで垣間見たが、あれは危険だ。
下手したら、捕まっている要人ごと宮廷を灰にしかねない。

なにより武に武で対抗して、本当に皇帝は心を入れ替えてくれるだろうか?

武ではない方法で攻め入る必要があるかもしれない。
漠然と可憐は、そんなふうに考えた。
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