物語の締めくくりは

城に入った第一歩で、ミルを除いた女性陣が「わぁ……」と一斉に感嘆をあげる。
見事な薔薇が咲き誇っている。
城の中に薔薇が沢山植えられており、軽く薔薇園と化していた。
「城の中に庭があるとは面妖な作りだな。セルーンの助っ人にしちゃあ意外性が甚だしい」
マジレスをかますキースへは、薔薇園に少しも心を動かされなかったミルが合いの手を入れる。
「管理者の思想は関係ないんじゃないか?だって、これは誰かの作った物語がモチーフだろ」
「こんなにたくさん薔薇を育てるのは大変だったでしょうね」
薔薇に顔を近づけて、ふんふん匂いを嗅ぐアルマの横では、カリンが瞳を輝かせた。
「そうね、それに、この馨しい香り!きっと高貴な方が、お育てになったに違いないわ」
ミラが意味もなく、己の髪の毛をバッサァとかき上げる。
「そりゃあそうだろうよ。城だし」
シズルがぼそっと突っ込み、傍らではカネジョーも白けた顔で呟いた。
「城に住んでいるのが民間人だったら、逆に驚きだぜ」
女性陣の興奮と比べると、男性陣はテンションが低い。
「ね、お花畑は奥にも続いているみたい。行ってみようよ、ユン兄!」
瞳を輝かせるナナに促されても、ユンは「薔薇には興味がない。それよりも残りの仲間を探そう」とバッサリな返事で一刀両断した。
「ナナたん、お花畑でデートがしたいなら俺が喜んでつきあおう!」
代わりに騒ぐ変態眼鏡を置き去りに、ナナは「じゃあレン、一緒に行こ」と親友を誘って奥へと歩いていった。
「お前、あれだけ露骨に無視されてんのに、よくあの女の追っかけが続けられるな……」
シズルから憐みの視線を投げかけられても、キースに落ち込んだ素振りは見られない。
眼鏡を無意味にキラーンと光らせて、顎に手をやりニヤリと笑った。
「フッ。ナナたんは人前で俺に甘えるのをヨシとしない、超ツンデレシャイガールなのさ」
「カレンさん、カレンさん!」
大声でアンナに呼ばれて可憐がノコノコ近づいてみると、「そこの薔薇の前でポーズをつけて立ってもらえませんか?」と斜め上なお願いが飛んできた。
「え、えぇと?」
意味が判らず棒立ちの可憐へ「あまりに素晴らしい薔薇ですので、絵を描きたくなったんです」とアンナが微笑む。
彼女のスキルを思い出し、可憐も二つ返事で「モデルかぁ、いいよ」と頷いた。
この世界には写真がないようだけど、アンナみたいな能力の持ち主がいればカメラ要らずだ。
「ほぅ、カレンの絵を描くのか」
ドラストたちも集まってきて、「でも、絵具は?」とセーラが首を傾げるのには、「ふっふーん、真の絵描きは道具がなくても絵を描けるのです!」とアンナは満面のドヤ顔で、その辺にあった石ころを手に取り、地面を削って絵を描き始める。
小さい頃は、可憐も道路にチョークや石で絵を描いたものだ。
アンナと違って絵心は全くなかったが、あの頃は描く行為そのものを楽しんでいたように思う。
いつからだろう。
将来に夢が持てなくなったのは。
小学校に入って、苛めを受けてから?
黒歴史まで思い出して鬱気味になりながら、しかし表面上は気取ったポーズをつける可憐をアンナがガリガリ地面に描いていると、奥へ向かったはずのナナとレンが駆け足で戻ってきた。
「どうした、ナナたん」とキースに尋ねられるのも、もどかしく、息せき切ったナナがユンの腕を掴んで「大変だよ!エリーヌ姫が、エリーヌ姫がっ」と騒ぎ立てるもんだから、まったりした雰囲気が一変した。
アンナも石を放り出して、二人を落ち着かせに回る。
「エリーヌ姫が、どうしたんです?奥にいたんですか」
「そうなんです!奥にいたけど、もう、わけわかんないことになっていて」
普段は冷静なはずのレンまでもが慌てまくる事態が、奥で起きたようだ。
一同が急いで奥に向かうと、確かにエリーヌがいた。
――大勢のサンドイッチマンに取り囲まれる形で。
「え、何これ」
不思議の国のアリスを知る可憐も驚きで硬直してしまうほど、奥の間はサンドイッチマン、もとい、巨大トランプに前後を挟まれたオッサンの集団で、みっちり押しくらまんじゅうだった。
その中央にいるのがエリーヌなのだが、周囲をトランプサンドイッチマンが取り囲み、刷毛でペタペタと彼女を塗りたくっているのだから、異様と呼ぶ他ない。
「乳房はピンクがいいだろう」
「ならば乳首は青に塗るべきだな」
「では、お尻は、どうする?黄色で塗ると綺麗だろうか」
などと口々に好き勝手なセンスでエリーヌを塗ったくっているのである。
これだけ大勢に刷毛でコショコショされて、もちろん彼女が無事なわけもなく。
「おやめください、そこは駄目ぇ、くすぐった〜〜い!!あひゃひゃひゃ、うひぃっ!」
……と、始終笑いが絶えない状態だ。
全員でポカンと見守っていると、集団の輪にいた一人が皆に気付いて、近寄ってくる。
誰かと思えば、セツナじゃないか。
巨大トランプに前後を挟まれた格好でありながら、彼女は至って真面目に助けを求めてきた。
「あぁ、よかった!アンナ、あなたの能力を貸してちょうだい。エリーヌを女王の望む色に染めないと、クラウンとミラーが殺されてしまうわ」
「ちょ、ちょっと待ってください?前後が判らないので、まずは説明を」
アンナに促され、改めてセツナが言うには。
「私たち、まとめてトランプの女王に捕らえられてしまったの。クラウンとミラーは女王に連れ去られ、私はエリーヌを女王好みの姿にしろと他のトランプ兵士と共に命じられたけれど、肝心な女王の好みが誰にも判らなくて、お手上げだった。ただでさえ方向性がまとまらない上、センスはおろか絵心を持つ人すらいなくて、もう滅茶苦茶よ」
滅茶苦茶に塗られたエリーヌを眺めるうちに、可憐はピカソの絵『泣く女』を思い出す。
トランプの女王が、よほど尖ったセンスでもない限り、あれを気に入るとは思えない。
「エリーヌ姫を塗るんですか。女王様が気に入るとなると、姫に似合う姿に染めないと駄目ですね……これはきっと、求められているカラー自体が違うんでしょう」
しばらく考え込んでいたアンナが、不意にスタスタとエリーヌへ近づく。
途中でペンキの入ったバケツを手に取り、勢いよく刷毛をふるった。
「え、もう始めちゃうの?大丈夫!?」
慌てる仲間へ振り向くと、アンナは自信たっぷり言い切った。
「大切なのは色じゃない。スタイルです。どうか皆さん、私にお任せ下さい。憧憬の泉、その神髄をお見せしましょう!」
アンナは、しゃっしゃと勢いよくエリーヌにペンキを塗りつけてゆく。
「ア、アンナさん」と何か言いかけたエリーヌは、片目を瞑って無言のメッセージを受け取り、口を噤んだ。
迷いが一切ない刷毛の動きに圧されたか、トランプ兵たちも一歩下がってアンナの作業を見守る中、鮮やかにエリーヌの姿が変わってゆく。
素朴な普段着だったのが純白のロングドレスに描き換えられ、髪には白銀の髪留めと赤い薔薇の飾りが添えられ、足元は白のヒール、指にも透き通って青く輝く石の指輪が嵌められる。
「――はいっ。クルズ王宮御用達、式典の姫君完成でございます!」
最後にぴしゃっと刷毛を一振りし、アンナが示した先には、姫と呼ぶに相応しい格好のエリーヌがモデル風味に起立していた。
これには見ていた全員が驚愕だ。
「す……すげぇ、服を書き換えた!しかも、ペンキで!?」
薔薇園には全くの無関心だったカネジョーが目をひん剥き、傍らではシズルがウーンと唸って「あいつだったらフォーリンの似顔絵も片手間で描けたんじゃねぇか……?」と呟く。
キースだけは「ロングドレスも捨てがたいが、どうせならヌードで描いてほしかったぜ」と、どうでもいい感想を漏らしたが、それを遮る勢いでセツナがアンナを褒め称える。
「すごいわ、まるで本物みたい!私やトランプ兵では、とても出来なかったわね」
「ほんとほんと、すっごーい!あたしの服も書き換えてほしいなぁ。そしたら、もう、服要らずじゃない?」
ナナにも手放しで褒められた本人は、「これが通じるのは、ここが不思議の国だからですよ」と苦笑した。
不思議の国だから、何ができても不思議ではない。
元ネタを知る自分こそが行動を起こすべきだったのにファンタジー住民のアンナに手柄を全部持っていかれたと可憐が気づく頃には次のシーンが幕を開けており、「見て!階段が現れた」とケイが前方を指さした。
「いきましょう。きっとクラウンと泥棒猫は、あの上にいます」
颯爽とエリーヌが仕切りだし、「泥棒猫?」と首を傾げるミルの袖をアンナが引っ張り、ひそひそと耳打ちする。
「ミラーの事ですよ。あの子もクラウンさんが好きだから……一緒にいる間に、姫の機嫌を損なうような真似をやらかしたに決まってます」
やらかすとしたら、エリーヌがクラウンに、だろう。
ますます想像できずミルはしきりに首を捻ったのだが、「さぁ、早く」とエリーヌに急かされて、皆に続いて階段を昇っていった。


どこまで続くのだろうと呆れるほど、階段は長く、高く聳えていた。
それでも最上段まで昇りつめた一行の前に現れたのは、茨に覆われた鉄の扉であった。
「……そういや、我々は塔を登っていたはずだったな。眠れる美女を探しに」
ぽつりとキースが呟き、可憐は、しげしげと扉を見やる。
茨が這っている以外は、おかしな面も見当たらない。
「迂闊に触るなよ?茨の棘に毒が仕込まれているやもしれん」とドラストに脅されて、可憐はヒッと怯えて一歩下がる。
入れ替わりに前へ出てきたのは、ジャッカーだ。
「はいな、はいな。扉を開けるんやったら、鷹の指に任しぃや」
「と、トゲに気をつけて、トゲに!」と騒ぐ可憐をバックにジャッカーが、ちょいっと茨の隙間から扉をつっつくと、鉄の扉は重たい音を立てて簡単に開く。
「カレンはん、アドバイスあんがと。けどウチかて、トゲがやばいのは見たら判りまっせ」
見れば全員がウンウンと頷いており、初見でヤバイと思わなかったのは、どうやら自分だけだったと判り、可憐は二倍恥ずかしくなってくる。
一応言い訳をさせてもらうならば、眠れる森の美女に毒のある茨は出てこない。
美女たる姫が眠りにつくのは、魔女の仕掛けた糸紡ぎの針に触れたせいだ。
下手に元ネタを知っていると、逆に気づけない危険があるのかもしれない。
羞恥に項垂れた可憐をしんがりに、一行は部屋へ入り込む。
中にいたミラーが振り返って驚いたのも一瞬で、すぐに彼女は顔を曇らせる。
「あぁ!皆、無事だったんですね……!よかった、ですがクラウンさんが……」
「クラウンが、どうしたのだ?」
ドラストが尋ねるまでもなく、全員が知れる場所にクラウンは居た。
何しろ戸口の真正面にベッドがでんと置かれており、上に彼が寝ていたのだから。
泣きじゃくるミラー曰く「クラウンさんが、私を庇って眠りについてしまったんです」とのことで、まさかの美女役がクラウンだ。
これは、困った。
なにが困るって、カネジョー×クラウンのBL最終回なのが。
目のやり場に困る。
可憐は、かつてインターネットとアニメに毎日囲まれた生活を送っていた元キモオタだが、BLは趣味の範囲外だ。
いやぁ〜、つくづく今回の試練の主役が自分ではなくて良かったわぁと内心胸をなでおろす可憐の耳に、よくないニュースが飛び込んでくる。
「クラウンさんが森の中で眠っている美女の役なのかな?だとしたら、清き者がキスして目覚めさせてあげないと駄目だよね」
言い出しっぺはナナで、魔導の目持ちのフォーリンとミルへ「この中で一番清い魂の持ち主は誰ですか?」とネタ振りしたのは、レンだ。
「うーんと……ダントツで清いのは可憐だけど」
ちらと可憐を伺い、ミルは難しい表情を浮かべる。
「けど可憐、クラウンとキス……できる?」
可憐は勢いよく首を振った。
首がもげるんじゃないかというほど、必死で真横に何度もブンブンと。
「ぶるるるるる!」
「……だよねぇ。なら可憐は外して、他に清い人というと」
「待て、主役はカネジョーだろう。カネジョーでは駄目なのか?」
割り込むキースには当のカネジョーが「ふざけんじゃねぇ!」と顔を真っ赤にガチギレし、セーラも声を揃えて「駄目よ、カネジョーくんのファーストキッスは私がもらう予定なんですからね」と己の欲望マックスに反対する。
ミルもジト目で言い返した。
「カネジョーの魂が清いと本気で思ってるの?」
「それもそうだな」
キースは、あっさり納得し、カネジョーには再びふざけんなとキレられた。
ひとまず対象から外してもらった可憐は、ひそひそとフォーリンに尋ねる。
「クラウンの魂は、何色なの?」
「隅々まで透き通った青、です。綺麗な色ですよ、まるで海のような」
フォーリンは微笑み、色には意味があるのだと付け足した。
「色は本質の性格を表しています。白に近ければ近いほど純粋……と言われています。魔導の目に関する書物は沢山出ていますので、旅が終わったら、お貸ししましょうか?」
あとでねと頷き、さらに可憐は尋ねてみる。
「あそこに寝ているのは、本物?」
「えぇ。透き通った青い魂、間違いなく本人です」
目の前では、ミルの鑑定による魂診断が行われている。
「ハーイハイ!私、清い魂の持ち主です!そうですよね、そうだとおっしゃいませ、ミル!!」
自ら清さアピールしているのは、エリーヌだ。
せっかくアンナの手で綺麗に着飾らせてもらったのに、口の端から泡を吹いて必死の形相だ。
まぁ、気持ちは判らなくもない。相手がクラウンとあっては。
しかしミルは「エリーヌ、君が清い魂なわけないだろ。これまでクラウンにした所業を思い出してみなよ」と無情にも唐竹一刀両断し、落ち込む彼女なんぞは視界の隅に追いやって、仲間を順繰りに眺めていく。
「う〜ん、次に清いといったら、ヤイバかなぁ……?」
「ヤイバは!!駄目だ!!!」
当然のように反対コールが沸き上がる。
コールを起こしたのは言うまでもない、ワ人のシズルとバトローダーたちだ。
刃×クラウンも無事に回避できそうで、次第に清い魂が絞られてきた。
「バトローダーやクラマラスじゃダメかな?」
可憐も提案してみたのだが、フォーリンには却下される。
「駄目ですねぇ。モンスターの魂は清くありませんし、人工生命体には魂がありませんから」
憂いの目で彼女たちを見るからには、フォーリンも一通りは魂を調べたようだ。
何かを伺うようにして、可憐の耳元でひそひそ囁いた。
「女性陣で一番清い魂はミラーさんです。ですが……言えば、きっと怒るでしょうね、エリーヌさんが」
先ほどからミルの歯切れが悪いのも、さてはエリーヌを気遣っての態度なのか?
その割には、本人の立候補を一刀両断していたようにも思うが。
訝しむ可憐に、こうも続けた。
「ミルも困っているようです。はっきり言って大丈夫なのか否か。可憐さん、ミルを助けるついでにミラーさんも庇ってもらえませんか……?」
なるほど。
ミルとフォーリンが気遣っていた相手はミラーだった。
可憐にフォローを頼むのは、ミラーが駄目なら可憐がキスする役になるからだろう。
可憐は己のためにも、ミラーを人身御供に立てなければいけない。
本人が嫌がろうと、最終的には刃か可憐かミラーの誰かがやらなければいけないのだ。
すっくと立ちあがり、可憐は大声で叫んだ。
「ミル!はっきり言ってやれ、清い魂の持ち主は、あと一人。それは……ダラララララ〜♪」
口でダララとドラムロールした後に、ビシッとミラーを指さす。
「ミラー!君だッ」
「ひぃ!」と叫んだ当人を見て、「い、言われてみれば!?」とつられて大声で驚くジャッカーは、きっと海賊幽霊を思い出したに違いない。
追い風を受けて、可憐は断言する。
「そうだ、ジャッカーも覚えていたようだな。きみは歴史に残る幽霊海賊を納得させた清き魂の持ち主だ、胸を張るといいぞミラー!」
キリリと精一杯の真面目顔で語る可憐は、いつもの五十倍はイケメンに見えて、語る言葉の説得力も増している。
「ぬがあぁぁぁ!カレン様、どうして泥棒猫の味方を!?」
分別をなくした姫には、ドラストの叱咤が飛んだ。
「今は嫉妬に狂う場面ではないぞ、エリーヌ。クラウンを一刻も早く目覚めさせるのだ。そして、それをやるには適任者をあてるのが一番効率的だ!」
本人がオロオロしているうちに、どんどこ話が決まっていく。
ミラーが我に返ったのは、アンナに背を押されてベッドの真正面へ突き出された時だった。
「いや!いややや、待って、待ってください!?私の意思はスルーの方向ですか、これっ!か、カレンさん、ヤイバさん、ずるいですよぉ、あなた達も清い魂なんですよね?なのに私一人に責任を押し付けてぇ〜」
なにやらピーピーわめいているが、刃も可憐も鋼鉄の神経で無視に努めた。
どうあっても男とのキスは御免こうむりたい。
申し訳ないが、彼女には自分たちの代わりに犠牲になってもらおう。
大体ピーピー騒いでいるけど、頬を赤らめたりして、まんざらでもなさそうじゃないか。
そうだ、あれは照れ隠しだ。だとすれば、こちらの心も痛まないで済む。
じっと罵倒に耐える刃と可憐を眺めるミルの目がジトっとしてきたところで、ようやく諦めたのか、或いは覚悟を決めたのか、頬をリンゴの如く真っ赤に染めて、ミラーは一歩踏み出した。
辞退したいだなんだと騒いでみたけれど、本音じゃ、やりたい。
クラウンとキスしてみたい。
ただ、エリーヌ姫の報復を考えると恐ろしい。
今だってクラマラスたちに羽交い絞めにされながら、「ぎゃああ!クラウンの清らかな唇が汚されるゥゥゥー!」と恥も外聞もなく半狂乱になっており、脇腹が痛くなってくる。
あと、相手が意識のない状態でするのにも躊躇いが生じた。
しかしドラストの言う通り、一刻も早く試練を終わらせないと戦争終結も、ままならない。
仕方ない。
ごめんなさい、クラウンさん。
たぶん、えぇと、これは試練なのでノーカウントです、ノーカン。
まぁ、私は初めてのキスになるんですけどね……これが。

そっと、口づける。
クラウンとミラーの唇が重なり、ややあって、クラウンがうっすらと瞼を開けた。

「やったー白雪姫が目覚めたぞ!お城で結婚式の準備だぁい」
素っ頓狂な発言に「え?」と振り返ってミルが見たのは可憐の顔ではなく、どこからか、さぁっと差し込んできた眩しい光であった。
目を開けていられないぐらいの眩しさまで達した時には全員の意識が一斉に弾け飛び、ミルは自分が何処か暗い落とし穴に落ちていくような感覚を受けた――
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