ワ国第38小隊空撃部隊

鎮守神社をおいとまし、次に可憐一行が向かう先は庄之助の金物屋。
ここの居候を決め込んでいる、行商人の六輔に用があった。
だが下山する頃には日もとっぷり暮れ、金物屋へ行くのは明日になった。
「明日は、ついにワのバトローダーと対面か。興奮が抑えられんな」
小鳥の屋敷にて男女別の寝室へ通された後、ギラギラした目つきで興奮するキースに可憐が尋ねる。
「なんか興奮する要素、あったっけ?」
バトローダーとは、ワ国が開発した人工生命体だ。
主に戦争へ投下される量産型兵士だと聞かされている。
「バトローダーは女性型が多いそうだ。となれば、むちむちボイーンからロリっ子まで多彩なパターンが期待できるじゃないか!」
年中ピンク脳なのはキース固有の特徴であり、その気楽さは羨ましくもある。
しかし国の一番偉い奴との面会を差し置いて、個人的欲求を期待するのは如何なものか。
ドン引きする可憐を、どう捉えたのか、クラウンが力強く励ましてきた。
「大丈夫だ、カレン。次の旅に不安要素はない。白羽次期帝とは交渉相手として面会する予定だからな」
仁礼尼に書いてもらった紹介状は、陸軍の管轄をフリーパスで通れるだけではない。
白羽 刃との面会にも有効だ。
紹介状には何を書いたのかとミルが尋ねたところ、世界平和を目指す一行だと書いたらしい。
小鳥の家で世話になった件も書かれている。
司令の実母と関わりがあると判れば、向こうも突然襲いかかってはこまい。
この国の住民、六輔も同行する。陸軍に襲われる心配も無用だ。

翌朝、六輔に紹介状を見せると、彼はフンと鼻息一つ、しかし特に文句をつけるでもなく歩き出す。
「いいだろう。紹介状は通行許可証と同等だ、それなら陸軍の検問も問題ない。ゆくぞ。案内するのであれば午前到着が望ましい」
六輔を追いかけ、サナトリウムを後にする。
「え、えぇと行くには山三つを越えるんでしたっけ……?」
慌てるフォーリンには、ミルの突っ込みが飛んだ。
「それは首都への道筋だろ。駐屯地は別さ、そうだろ?」
「そのとおりだ」と振り向きもせず六輔が答え、続けて言った。
「何か適当な嘘を考えねばと思っていたが、仁礼尼が直々に紹介状を書いたのであれば、その必要もなさそうだ。俺は道案内、お前らは重要な客人か」
その言葉には全員えっ?となり、アンナが聞き返す。
「嘘を考えるって、じゃあ道案内してくれる予定だったんですか?最初から」
やはり振り返らぬまま、六輔は答えた。
「お前らは都の連中とは違う。案内する価値があると思った、それだけよ」
きっと振り向かないのはテレているんだな、と可憐は一人合点し、改めて道中を見渡した。
今歩いているのは、道の左右に何もない草っぱらが広がる平地だ。
名前がワだし黒髪だしで、てっきり田んぼが広がる和風ワールドだと予想していたのだが、ここへ至るまでに一度も田んぼらしきスペースを見た覚えがない。周辺は草原ばかりだ。
ミルの話だとワはクルズから分裂した国らしいので、文明もクルズ寄りなのかもしれない。
ではワ国のワは、どこから発生した文字なのだろう?
どうでもいい事に頭を悩ませていた可憐は、前を歩くカネジョーの背中へぶつかりそうになり、「おっと」と寸前で足を止める。
なんで立ち止まったのかと前方を見てみれば、一目瞭然。
向かう先には大きな木戸が建っていて、両脇には武装した男が二人ついている。
あれが検問か。
六輔が男たちへ近づき、二言三言かわした後に戻ってくる。
「いくぞ」と促されたので、可憐は思わず尋ね返してしまった。
「え、紹介状を見せなくていいの?」
「もう見せた。筆体で判る有名人は、これだから楽でいい」
まさか仁礼尼の書いた紹介状、その表面を見せるだけで突破できるとは。
てっきり荷物検査や人相改めをされるかと身構えていたのに、些か拍子抜けだ。
紹介状をエリーヌに返し、六輔が再び歩き出す。
「俺は駐屯地の前で、お別れだ。この先に用があるのでな。お前らの身分は、その紙っきれが証明してくれる。けして無くすんじゃないぞ」
「えぇ、もちろんです」
エリーヌは頷き、大切そうに紹介状を懐にしまい込んだ。
太陽が頭上へ登る頃には、ようやく駐屯地らしき建物が見えてくる。
飛行機らしきものは見当たらないが、手前の大きな建物に格納されているのかもしれない。
奥の建物の前にはグラウンドが広がっており、どことなく閑散とした印象だ。
もっと自衛隊の基地みたいな場所を想定していた可憐は本当にここなの?と首を傾げるが、六輔が迷わず突き進んでいくので、ここで間違っていないらしい。
「……さて」
敷地手前で、ぴたりと足を止めて、その六輔が振り返る。
「俺は、ここまでだ。あとはお前らで上手く交渉しろ」
「道案内ありがとうございました。六輔様もこの先の旅、お気をつけくださいますよう」
会釈するエリーヌには目もくれず、案内役は、さっさと立ち去ってゆく。
「うーん……駐屯所っていう割に、人の姿が全くないねぇ」
ミルも可憐と同じ印象を受けたのか辺りを見渡し、ぽつりと呟く。
グラウンドは見事なまでに無人であった。
戦地へ赴く小隊がいるなら、人の出入りは激しくなるのではなかろうか。
「誰に尋ねたらいいんでしょうね?白羽 刃さんのいる場所を」
困惑の体でミラーがクラウンへ囁いた時、人影をクラウンの目が捉える。
偶然、手前の大きな建物から出てきた人影は、こちらに気づくや否や走り寄ってきた。
「あぁーっと、すいません!今、ほとんど出払っておりましてェ」
若い青年だ。油で汚れた帽子をかぶり、作業着に身を包んでいる。
「出払っているって、どうして?」とミルが尋ね返せば、青年は身振り手振りで答える。
「それなんですけど、聞いてくださいよ!酷いんですよ、俺が寝込んでいる間に技師も司令も、お花見に行っちゃったんです。あぁ、もちろんバトローダーや副司令も引き連れてね。俺は風邪ひいて寝込んでいたせいで留守番を任されましたが、もう退屈で、退屈で」
六輔の案内によれば、ここはワ空軍38小隊駐屯地のはずである。
それが総出でお花見とは、どういうことだ。
困惑する一行を見渡し、青年が改めて格好を正す。
「あ、こんなこと突然言われても困りますよね。失礼しました。えぇと、見学のかたですか?失礼ですが、事前予約なさっておりましたでしょうか」
「いえ、私達は見学ではありません」と切り返したのは、エリーヌだ。
懐から紹介状を取り出し可憐に手渡すと、キョトンとする彼の耳元で小さく囁く。
「ここからは、あなたが交渉してください。あなたはサイサンダラで、どこの国にも与していない完全中立な立場です。あなたであれば空軍の皆様も、余計な偏見を持たずに済むでしょう」
丸投げとも取れる発言に動揺したのは本人ぐらいで、仲間は皆、期待に満ちた目で可憐を見つめているではないか。
この流れには覚えがある。
風邪をひいて学校を休んでいる間に面倒な委員を押しつけられるのと、そっくりだ。
「え、えぇぇと、その」
大役を任されたと判った途端、一気に汗が噴き出てくる。
可憐はぎこちない動きで青年と向き合うと、ギクシャク話し始めた。
「えー、わ、我々は戦争を終わらせるためにきたんですけど、戦争を終わらせるには国の一番偉い人と話して、えー、それで四つの国全部の国が停止、あ、いや停戦すれば、えー、世界が平和になるんじゃないかと、思った次第です。そ、それで、クルズ、イルミ、セルーンは……後回しで、えー、ワの一番偉い人は白羽 刃さんだと聞いたので、ここに来ました」
青年は、しばらくポカーンと佇んでいたが、やがてペコリと頭を下げる。
「あ、すいません。難しい話は、よく判らなくて……とりあえず、白羽司令にご面会希望の方々ですね?現在司令は出かけておりますんで、待合室までご案内します!」
可憐の話を、まるっきり聞いていなかったとしか思えない態度だ。
だが、そこを突っ込む前に一同は待合室へ通される。
青年は佐倉井 惇と名乗り、さわやかな笑顔を浮かべて言った。
「やー、もう、お茶も出せず、すいません。普段なら、お茶くみ係がいるんですけど今日は全員いなくて。あ、もう昼餉は食べちゃいました?まだでしたら出前取りますけど」
司令が帰ってくるまで、可憐達と雑談する気満々だ。
よほど一人での留守番は、退屈に耐えかねていたと見える。
「一個小隊が花見とは、ワ軍は随分と余裕だな」
キースの嫌味には頭をかき、「最近は担当空域が平和なもんで」と軽く笑った。
「基本的に暇なんですよね、敵が攻めてこない時の空軍って。だもんだから、いつもはコワ〜イ宗像教官まで花見に行っちゃう始末で」
自国の戦況を思い浮かべ、ユンは密かに首を傾げる。
セルーンは、どの軍隊にも行楽できるほどの暇な時間は存在しなかった。
どの部隊も忙しなく出兵し、特に空軍は近年ワ空軍と激戦だったはずだ。
それとも激戦なのは最前線だけで、他の区域は、そうでもなかったのだろうか。
――いや、そんな話は届いていない。
どこの空域も激戦だと、海軍でも、もっぱらの噂になっていた。
「ワ空軍は現在セルーンと戦っているって聞いたけど?」
ミルの問いに、マコトは待ってましたと言わんばかりに自慢を展開する。
「や、うちの空軍って38も小隊あるじゃないですか。最前線以外の空域を担当している小隊は結構あって、どっちかってーと今は戦力が余っている状態なんです。あっちこっち配備したおかげか、向こうさんも戦力分散されてるって感じスかねー。やーホント、今の総司令は采配力抜群ですよ」
戦力が余っていたとは初耳だ。
ワ国は人口の少なさからの不利で、防戦一方ではなかったのか。
世間の持つ情報の古さを考えると同時に、ミルの脳裏に浮かんだのはバトローダーだ。
バトローダーを大量生産しすぎて飽和状態になった可能性は、ある。
「ところで」
ちらっちらと物珍し気な視線を向けて、マコトが逆に尋ねてくる。
「お客さん達って、もしかして異国の方でいらっしゃる?」
エリーヌの金髪から始まり、ミルやジャッカーのカラフルな髪の毛。
可憐とクラウン以外は、ワ国民から見れば異国の民にしか見えない。
些か遅すぎる質問にフォーリンが頷いた。
「はい、そうですが」
「あ〜、やっぱりぃ。すごい、初めて見ちゃったよ、異国の人!」
なんと、マコトは喜んでいる。
演技ではなく、素で。
本来ならば軍隊に所属しているのだし、警戒するのが普通の対応だが……
「怖くないのか?」と呆れて尋ねるドラストにも、マコトは笑顔を向けた。
「え?どうして怖がるんです?」
「お前らと戦っているセルーン人が混ざっているかもしれないんだぞ。敵対相手が、ここまで入り込んでいる恐怖に気づかんのか?」
キースに言われても、やはりまだ判っていないのか、マコトはキョトンとしている。
「だって、内地にいるってことは陸軍の許可をもらってるんですよね?だったら、お客様じゃないですか。どうして怖がる必要が?」
違う。
判った上での歓迎か。
内地にいる外人は全て陸軍の許可を得た者、というのが彼らワ国民の認識なのだ。
紹介状を書いてもらう意味がなかったのではと一瞬思うも、可憐はすぐに考えを改める。
これがなければ検問を抜けられなかった。紹介状は必要だった。
「や、もーずっとずっと気になってまして!お姉さんの綺麗な髪の毛、うん、すごく素敵です。サラッサラですよね!」
ずずいっと鼻息荒くフォーリンに詰め寄って、許可なく勝手に髪の毛を掬いあげる。
突然の行為で「え?えっ?」と驚く彼女に、マコトは真顔で言い放つ。
「いや〜〜触ってみたかったんです。予想通りイイ手触りで、しかもイイ匂いが」
「オイ、距離が近すぎるしセクハラ行為だろ、それ!」
直後ミルにお尻を蹴っ飛ばされ、マコトは「あいた!」と悲鳴を上げる羽目に。
「司令は何時頃お戻りに?」
突然の暴力にマコトは涙目でへたりこんでいたが、レンの質問には振り返って答えた。
「えぇと、十二時までには戻ると工場長が言っていたような」
時計を見ると、十一時五十九分だ。
あと一分しかない。
時計はデジタルではなくアナログで、文字盤が漢字で書かれている。
クルズの時計は数字だった。
ところどころ和風なのに、しかしワ国は日本とは違う。
こうした文化は、どこで生まれたのだろう。
世界が平和になったら、調べてみるのも面白そうだ。
時計を眺めて黙する可憐の脇腹を、ミルが肘でグリグリしてくる。
「スカウトマン、黙っていないで、あいつに紹介状を渡したら?」
肘を、そっと押し戻しながら、可憐も小声で答えてやる。
「紹介状は刃さんに直接渡したほうが」
壁にかかった時計が、大きな音でボーンボーンと鳴り出した。
正午だ。
「帰ってきぃへんやん」
ジャッカーが呟いたが、誰も時間ぴったりに帰るとは言わなかったような。
いや、そうじゃない。十二時までに、だから時間をオーバーしているのか。
「あぁ、工場長の時間は、いつも目安なんで」
「工場長?なんでそいつが仕切っているんだ」
キースに「あぁ、それはですね」とマコトが説明する間。
にわかにグラウンドが騒がしくなってきたかと思うと、戸口が勢いよく開かれた。
「たっだいまぁ〜♪マコト、ちゃんと留守番できた?ハイこれ、お土産!」
入ってきたのは鮮やかなオレンジ髪の女の子で、餃子の箱を吊り下げてご機嫌だ。
「途中の道で売ってたんだけどー、匂いが良かったから、きっとおいしいよ」
「サンキュ。今、出前取ろうかと思ってたんだ」と答え、マコトも、この場で箱を開けた。
途端に鼻にツンとくる刺激臭が待合室いっぱいに広がり、ドラストの眉間には皺が寄る。
「く、臭い!なんだ、その臭い物体は!!」
「何って餃子だけど」と答えて、ようやく少女も来客に気がついた。
「えっ、何この人たち!いっぱいいる!!なになに、お客さん?わ〜っ、お客さんが来るのってミスコン以来じゃない!?すっごーい!」
けたたましく騒ぐ彼女には、自己紹介できる隙もない。
「おうアルマ、何騒いでんだ、待合室で」
新たに入ってきたのは、茶髪の青年だ。
「あ、見てみて工場長!お客さん!いっぱい来たの。すごくない?すごいよね!」
「工場長?」と驚いて、キースやレンが彼を見やる。
褐色の筋肉質。上背もあり、工場長というよりは現役軍人といったほうが近い。
マコトやアルマと呼ばれた少女が小柄だった分、余計に大きく見える威圧感だ。
工場長に続き、白い軍服を身にまとった青年も戸口を跨ぐ。
おばちゃん軍団や作業着軍団も、どやどや入ってきて、それぞれ持ち場へ散っていく。
最後に色とりどりの毛髪軍団、バトローダーが五人ばかり待合室で立ち止まる。
バトローダーを背に、白服の青年がアルマを窘めた。
「声が外まで聞こえたぞ、アルマ」
涼しげでいながら優しさも帯びた、端的に言えばイケボだ。
生真面目そうであるが、凛とした中に一種の嫋やかさをも感じる。
イケメンイケボが辺境の駐屯地に、しかも軍人として君臨していようとは――
こいつは強敵だ。
可憐は何の意味もなく、そう確信した。
「えへへ、だってお客様って珍しくって☆」
格好を崩し、お茶目に微笑んだ後、改めてアルマが白服の彼に可憐一行を紹介した。
「司令、こちらがお客様でーす!名前は、えっと……」
いや、紹介しようとして言葉に詰まるのを、マコトがフォローする。
「名前は判りませんけど異国の民な皆さんです。すげーっすよね、異国の民ですよ、バトローダーではなく!」
駄目だ、この二人の紹介では話が進まない。
可憐は慌てて紹介状を司令に見えるように掲げると、目的を話し出す。
「えぇと、その、すみません、我々は世界を平和にしようと思ってワ国にきたんです。お話、聞いてもらえますか?ほら、仁礼尼さんの紹介状もありますしっ!」
「おいカレン、話す前に要点をまとめておくと要らん恥をかかんで済むぞ」
背後にてキースが助言を囁くも、テンパっている可憐の耳には届かない。
「あのあの、五分でいいから、俺に時間をくださいっ」
「……その前に」と言動を封じられ、ピタッと動きを止める可憐を見据え、刃が背筋を伸ばす。
「まずは名乗らせていただけますでしょうか、お客人。自分はワ国第38小隊空撃部隊司令、白羽 刃。はるばる異国の地よりの訪問、歓迎致します」
めちゃめちゃ丁寧な挨拶を受けて、可憐は恐縮する。
相手は小隊長の司令だし、本来敬語で遜らなければいけないのは、こちらなのに。
「……可憐です」
どこかのピン芸人みたいな一言挨拶をかました後、即座に言い直した。
「じゃなくて、いっ市倉可憐と申します!!」
「イッイチクラさん?面白い苗字ね!」
間髪入れずボケるアルマには「可憐って呼んであげて」とミルの突っ込みが入る。
汗だくで固まる可憐は、もう、ここから逃げ出したい気分でいっぱいだ。
何故、エリーヌは自分に紹介状を渡す役目を任せたのか。
真正面で向かい合うと、ますます緊張度が高まってゆく。
知らない人だから、というだけではない。
綺麗すぎるのだ。顔が。
白羽 刃は、イケメンというよりも美麗。そちらの言葉のほうが、しっくりくる。
じっくり間近で眺めれば眺めるほど、彼には軍人要素が一つもない。
肌は白く、細くて華奢な手足。背は先の工場長より低く、スレンダーな体格だ。
どこか儚さを感じさせるのは、小鳥の息子だからなのか。
前帝がどんな外見なのかは可憐の知る処ではないが、きっと刃は全面的に母親似だ。
自分以外にも天使なイメージをまとう者が出現するとは、恐るべしワ国。
軍服まで白いせいか、さらに天使度が加速している。
負けない。
知らずギリィッと歯噛みしながら、可憐は自分を奮い立たせる。
一体何と戦っているのか?と聞かれたら、恐らくは己の内にある虚栄心とだろう。
もっとも可憐自身は無自覚なのだが、その虚栄心。
可憐と刃は、しばし無言で見つめあう。
見つめあっているうちに、気がついた。
向こうも可憐を凝視しているではないか。
こころなしか、頬が上気しているようにも見受けられた。
「おいヤイバ、どうした?ぼーっと固まっちまって」
ポンと工場長に肩を叩かれ、ハッと我に返ったかして、刃が謝罪してくる。
「す、すみません。異国にも、あなたのように美しい方がいるのか、と……」
言葉途中に視線を外されたけれど、彼がテレているのは可憐にも充分伝わった。
そうと判った工場長やバトローダーはムッと機嫌を損ね、待合室には妙な空気が漂う。
――勝った。
可憐は、そっと心の中で勝利宣言する。
何に勝ったのかは自分でもよく判らないまま、恥ずかしがる刃へ手を差し出した。
「白羽さん、いや、ヤイバさんとお呼びしていいですか?ここで話し続けるのもなんですし、続きは奥でやりませんか」
いきなり超絶滑舌のよくなった可憐には、仲間も驚いて目を見張るしかない。
謎の優越感に背を押されて余裕を取り戻した可憐は、にっこり微笑むオマケつき。
「あ……はい……」
ぽぉっと頬を赤らめたまま夢心地に頷く刃の手を取り、優雅に奥の部屋へと向かった。
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