再会

イルミとクルズの国境沿いでは、両国の駐屯所が建っている。
イルミの魔術兵と、クルズ騎士の実力は全くの互角。
両軍は長年、侵攻しては押し戻されるの戦いを繰り返していた。
だからこそイルミ領土内に現われたクルズ王国の姫君には、イルミ兵の誰もがド肝を抜かされた。

「どうやって国境を越えた!?いや、そんなことは、どうでもいい!おめおめと我らの前に姿を現わすとは、どういう了見か!」
エリーヌ達は、たちまち四方をイルミ兵に囲まれてしまう。
激高した兵士に剣を突きつけられても、エリーヌは冷静に話しかけた。
「武器を収めて下さい。私達は、あなたと戦う気などありません」
だが兵士は「理由を述べよ!」と繰り返すばかりで、話を聞いてくれない。
いつもは短気なミルも、この時ばかりは慎重に答えた。
「ボク達はイルミの最長老に会いたいだけなんだ。ここの兵士なら、最長老の居場所を知っていると聞いたんだけど?」
「最長老に会って、なんとする?まさかとは思うが貴様ら、最長老のお命を狙っているのでは」
突飛な疑いをかけられて、ミルは肩をすくめた。
「そんなわけないだろ。大体、そんなつもりだったら、わざわざ君達の元になんて姿を現わすもんか」
「いいや、わからんぞ?我々を油断させて――」
輪になって喧々囂々争っていると、後方から声をかけてくる者がある。
「どうしました。これは何事ですか?」
鈴を転がすが如きの涼やかな声には、聞き覚えがある。
エリーヌが、ぱっと顔を輝かせた。
「クリシュナ様!お久しぶりでございます」
輪の一部が退いて、後から来た者を通す。
声の主はエリーヌの予想通り、クリシュナ=フット=フォーゲルであった。
ドラストの姉にして、共にイルミ軍の兵士でもある。
彼女は、やはり陸軍に所属していたのだ。
クリシュナは白銀の鎧に身を包み、腰には細剣を差している。
取り囲んできた兵士も剣を携帯していた。
魔術兵だと聞いているが、イルミの魔術師は剣でも戦えるのだろうか。
「まぁ、エリーヌ姫、ごきげんよう。さっそくイルミを訪ねて下さったのですね。部下が非礼を働いたようで、申し訳ございません」
深々と敵に頭をさげるクリシュナを見て、驚いたのは周りの兵士だ。
「フォーゲル様!何故、この者達に頭などッ」
泡を食う彼らに、クリシュナが説明する。
彼らはフォーゲル家の恩人であり、客人でもある。
ここから後は私に対応を任せ、お前達は警備に戻れ――と。
さぁっと波が引くように、エリーヌ達を囲んでいた兵士が全員引き下がる。
それぞれの持ち場に戻っていく中、クリシュナは優雅に微笑んだ。
「改めて自己紹介させて下さい、エリーヌ姫とお供の方々。私はクリシュナ=フット=フォーゲル。この第一駐屯所を任されている、将軍でもあります」
「しょっ、将軍!?」と、ミルが叫ぶ。
叫びこそしなかったものの、エリーヌやクラウンにも初耳で驚きの情報だ。
前にドラストから話を聞いた時は、ただ、魔術兵としか言われなかった。
だからミルもエリーヌも、クリシュナは一介の雑魚兵士だと思いこんでいたのだ。
「はい。実は帰郷後、貴重な情報を提供したとの功績で将軍に昇格致しまして……私には大役ですと辞退したのですが」
遠慮と押しつけのせめぎ合いの末に、押しつけが勝って将軍に祭り上げられた。
と説明して、クリシュナは苦笑する。
「最長老の居場所をお知りになりたいとの事ですが、そう言われてみれば、妹はあなた方に教えておりませんでしたね。こちらの不手際でお手数をかけさせてしまい、申し訳ございません」
再び深々と頭を下げられて、エリーヌが謝り返す。
「いいえ、尋ねなかった私達にも落ち度はございます。それよりも……ここに長居をするのは皆に迷惑がかかります。迅速に最長老の居場所を、教えていただけますか?」
「はい」と頷き、クリシュナが後方を振り返る。
「ですが、最長老のいらっしゃる里までの道のりは複雑ですので妹に道案内させるとしましょう」
ドラストも同じ駐屯所にいたようだ。
彼女が道案内をしてくれるのであれば、心強い。
兵の一人が命じられて、ドラストを呼んでくる。
一目かわすや否や、ドラストは歓迎の意を示した。
「おぉ、ホントだ、エリーヌ姫じゃないか!それに小娘や元暗殺一族も一緒か」
「小娘じゃないよ!ボクはミルッ」
ぷんすかするミルの頭を無遠慮にぐりぐり撫でたかと思えば、エリーヌの後方に従えるクラウンを一瞥し、辺りを見渡した。
「ん?カレンは、どうした。一緒ではないのか?」
「カレンなら――」とクラウンが答えかけるのと、遥か後方の森付近で一騒ぎが起きたのは、ちょうど同じタイミングで。
ドォォン!と、ここまで大地を揺るがす爆音が轟いてくる。
「なんだ、何事だ!?」と兵士が騒ぐ中、ドラストが深く頷いた。
「あそこか」
「あぁ」と、クラウンも頷き返す。
今の爆音は何だ。隠れていた可憐が、何かに見つかったのか?
いてもたってもいられなくなり、クラウン、そしてドラストは走り出す。
少し遅れて、ミルとエリーヌも後を追いかけた。
BACK←◇→NEXT

Page Top