オイロケシーン、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!?

ここですよ、とミカンザにつれられて到着したのは森の奥。
温水湖とでも言うべきサイズの小さな天然湯であった。
「じゃあ、さっそく入ろうか」とミルが言い出すもんだから、可憐は慌てて踵を返す。
「お、女の子が先?なら、俺とクラウンは向こうで待ってるね」
だが。
フォーリンに「一緒に入らないのですか?」と尋ね返され、二度泡を食う。
どういうことだと可憐がクラウンを振り返ってみれば、クラウンもまた、可憐の取った行動をポカンとした顔で見つめている。
さらには貴族のドラストにまで、怪訝な表情で尋ねられる。
「なんだ、混浴は苦手なのか?カレン」
「や、混浴っていうか……」
宿での部屋が男女別々だったのだ。
なら、普通は温泉も男女別々に入ると考えるはずだ。
しばし互いに見つめあった後に、ミルがポンと手を打った。
「あぁ、そうか。可憐の住んでいた世界では、天然湯がなかったんだね」
荷物から水着を取り出すと、可憐にも手渡した。
「こんなこともあろうかと、可憐の分も買っておいてよかったよ」
別に天然湯や混浴がなかったわけでもないのだが、こことの違いを説明するのは面倒だ。
可憐は有り難く、ミルの好意を受け取っておくことにした。
「住んでいた世界?」と首を傾げるミカンザにはドラストが説明する。
ついでとばかりに可憐もドラストへ尋ねた。
「さっきからクルズ語が堪能だけど、イルミ兵ってのは国民全員が海外の言語を話せるもんなの?」
するとドラストは怪訝に眉をひそめて言い返してくる。
「何を言っている?ミカンザがクルズ語を話せるわけがないだろう」
彼女曰く、海外の言語を学ぶ権利があるのは上流家庭に限られているのだそうだ。
では、何故下級兵士のミカンザと言葉が通じているのか?
不思議がる可憐を見、ミルが肩をすくめる。
「ボクの魔法を忘れちゃったのかい?」
いや、しかしミルの言語魔法は、相手に魔法をかけないと無効なのでは――
と可憐が突っ込む前に、ミル本人が訂正してきた。
「あれから魔法をパワーアップさせたからね。全国対応だよ。ボク達の話す言葉は相手に通じるし、相手の言葉も翻訳可能だ」
魔法も研究や開発により、日々パワーアップしていくのだ。
ほぉ〜っと感心する可憐の腕を、アンナが引っ張った。
「魔法談義も結構ですけど、そろそろお風呂に入りませんか?お、お、お背中をお流ししてあげては如何でしょう、クラウンさん!」
「え?」となるクラウンは、湯加減を見ていたらしく。
湯に手を突っ込んで、ちゃぽちゃぽかき混ぜていた。
「背中を流すって、クラウンが可憐の背中を?」
「とーぜんですっ!」
ミルの質問に鼻息荒く答えるアンナを横目に見ながら、ドラストが可憐の脇に座り込む。
「せ、背中を流す程度だったら私がやってやってもよいのだぞ」
水着の美少女に背中を流してもらえるだなんて、思いがけぬ大サービス。
「もちろん、してもらえるなら喜んで!」
可憐は一も二もなく頷いた。
「じゃあ、まずは着替えよう。その辺の藪にでも入って」
ミルの指示に従い、それぞれが藪に入ってゴソゴソ着替える。
着替えは個別に行なうらしい。
サイサンダラにも一応最低限の倫理はあるのだと、この日、可憐は学んだのであった。


湯加減は、ちょうどいい案配であった。
ミカンザが得意げに説明した処によれば、常に三十八度で保たれているそうな。
天然湯なのに温度が一定というのも、可憐には不思議に感じた。
「ふぅ〜……湯加減最高ですなぁ。気持ちえぇですわぁ」
クラマラスも一緒に浸かっている。
彼女達は最初、素っ裸で入ろうとしたのだが、さすがにミルが止めた。
大きな葉っぱを一枚巻いただけの刺激的な格好ゆえに、男性諸君からは遠ざけられた。
男性諸君といっても、男性はクラウンと可憐の二人しかいない。
可憐はドラストに背中を洗ってもらって、至福の表情を浮かべていた。
「はぁ〜気持ちいいよ、ドラスト。ありがとう」
「ふふん、当然だ。イルミ特製手ぬぐいの気持ちよさは伊達ではないぞ」
「あぁ〜、そこそこっ、もっと強くこすって?」
ふかふかしていながら、痒い処を擦る時には堅さも感じる手ぬぐいだ。
ドラストの手際が良いおかげなのかもしれない。
欲を言えば、もっと彼女には密着してほしいのだが、触る感触は手ぬぐいだけで、これでは相手が美少女であろうとなかろうと関係ない。少々ガッカリだ。
「恐れ多くも将軍様の妹君に、背中を流させるだなんて……あの男、一体何者なのですか?」
ぶぅっとふくれっつらの下級兵士には、フォーリンが解説する。
「可憐さんは異世界から現われたスーパー勇者様であり、私達の大切なスカウトマンでもありますっ」
めちゃめちゃ持ち上げられているが、今の時点で可憐が役に立った事案はない。
せいぜい鷹の指使いとクラマラスをスカウトしてきた程度であろう。
だが、彼のおかげでクラウンの人生は助かり、エリーヌも城へ戻れたのだ。
となるとフォーリンが可憐をスーパー勇者と持ち上げるのも、判らなくはない。
全国を回って舌先三寸で戦争を終結させれば、それらは間違いなく可憐の功績となろう。
戦争が終わる日を想像して、ミルの胸は高鳴った。
その為にも――今よりもう少し、可憐を鍛えてやる必要がある。
戦闘力をつけるのではない。
サイサンダラで暮らすにあたり、必要な知識を与えてやるのだ。
スカウトマンとして役に立つ為にも。
ミルは可憐が好きだ。
いや、好きといってもフォーリンが期待するような"好き"ではない。
人として、そして何よりも自分が召喚した相手として自信を持っている。
可憐のやることなすことが、ミルの召喚の証にもなる。
だからこそ、可憐を完璧に育成する義務が自分にあるとミルは考えた。
「ミ〜ル〜ゥ〜。お背中、お流ししましょうか?」
すすっと近寄ってくるフォーリンを、ミルは両手で押し戻して素っ気なく返す。
「いい。フォーリンはボクの背中を洗いたかったら、まずは余分な肉を落としてよ。ぶにょぶにょ当たって気持ち悪いし」
ガガーンッ!とショックを受ける彼女など視界の隅にも入れず、遠目に、ドラストに背中を洗ってもらってスッキリした可憐を見た。
まったく可憐のやつ、混浴には渋っていたくせに背中を流してもらうのはアリなのか。
背中を流すなんてのは本来なら下男下女、或いは嫁の役目である。
自ら名乗りでるなんて、ドラストも本気の姿勢じゃないか。
幸か不幸か、可憐は全然その意味に気づいていない。
意味を教えてやるべきか否かミルは少々迷ったのだが、今は何よりも革命が大事だし、恋愛でゴタゴタされるのは御法度だ。
そうだ、恋愛で思い出したけどエリーヌは大人しく湯に浸かっているだろうか。
ちらりと彼女の様子も伺って、途端にミルは大声をあげた。
「ちょ、ちょっと何やっているんだい、そこの四人!」
クラウンの水着が脱がされている。
誰がやったのかは薄々予想もつくが、これは酷い大惨事。
さらには、その上にミラーが乗っかって、彼の股間を隠していた。
エリーヌは青筋を立てて何か怒鳴り散らしており、それをアンナが必死に止めている。
ミルが自身の考えに没頭している間に、大変なことになっていた――

まず、事を起こしたのは当然のようにエリーヌであった。
「クラウン、身体を洗ってさしあげます。さぁ、地面に寝そべりなさい?」
「な、何故地面に……?」
ドン引きするアンナ&ミラーの視線に晒されながら、クラウンはバッサリ拒絶する。
「いい。身体ぐらい自分で洗える」
だがエリーヌときたら、クラウンの返事など最初から期待していなかったようで、強引に地面へ引っ張り倒そうと攻防を繰り広げた挙句、彼の水着へ手をかけた。
抵抗虚しく水着を脱がされてしまったクラウンを庇ったのは、ミラーであった。
「いくら姫君でも、元部下に狼藉を働くのは失礼ではありませんか!?」
クラウンの全裸を見損ねた上、相手は恋敵になりそうな娘っ子。
色々重なった状況でエリーヌが激怒するのも、当然の成り行きだろう。

「も〜〜、目を離すと、すぐコレだ!エリーヌ、君には徹底的な恋愛禁止令を出さないと駄目みたいだね」
プンプン怒るミルには、エリーヌも頭が上がらない。
何しろ彼女は一行の主力であり、作戦参謀でもある。
ここでミルに抜けられるのは、エリーヌにとっても大打撃なのだ。
「ご、ごめんなさい……私は、ただ」
「クラウンの裸が見たかっただけ、って?駄目だよ、クラウンが過去に王宮でどんな目にあったのか、君は、もう忘れちゃったのかい?彼へのセクハラは全面禁止だぞ」
そんなんだから彼に嫌われるんだよと、トドメのコンボを食らってエリーヌは撃沈する。
一国の姫君に、ここまで言えるのはミルぐらいなものだ。
ひゅるるる〜と黄昏れるエリーヌには、先ほどまで争っていたミラーも心配になった。
「だ、大丈夫なんでしょうか。これからの士気に支障が出たりなんてことは」
狼狽える仲間にも、ミルは冷静に切り返した。
「大丈夫だよ。クラウンが途中で抜けたりしない限りは」
抜けないよね?と念を押されて、水着を履き直したクラウンも頷く。
「俺はカレンの役に立ちたいと願った……だから、ここにいる」
ちらっと上目遣いで見つめられて即座に頷いてあげたものの、可憐は内心、羨ましさと妬ましさで脳味噌が爆発しそうになっていた。
誰への嫉妬って、もちろんクラウンへの、だ。
こちらが背中を洗ってもらっている間に女子三人と、くんずほぐれつの展開とは。
正確には水着を脱がされただけなのだが、それでもミラーのお尻が素肌の股間を直撃である。
羨ましい。俺もドラストと密着したかった。
量産型の手ぬぐいではなく、ドラストの形の良いオッパイで背中をゴシゴシされるのだ。
想像したら、股間が熱く煮えたぎる。
――ハッと我に返ると、皆が可憐に注目していた。
「どうしたの?可憐。手をワキワキさせちゃって」
「変な妄想しとったんかいな」
少女二人に疑惑の視線を投げかけられて、可憐は慌てて言い繕う。
「ち、違うよ?混浴するのも命がけだなって……クラウンは今度から、俺の側にいたほうがいいよ。そのほうが安全だし!」
口の端に泡を吹くほど焦ってしまったが、どうやら上手く誤魔化せた。
クラウンは嬉しそうに頷き、ミルも「それがいいね」と相づちを打つ。
騒ぎが収まった後は、皆でゆっくり湯に浸かる。
これまでの旅の疲れが、一気に取れたような気がした。
BACK←◇→NEXT

Page Top