FES

ジパン内乱

一:徳河陣

ジパンの首都、オオエド――
徳河とくかわ 家康が治める、この町は、いつ来ても活気に溢れていた。
ジパンを故郷とする綾小路 菊麻呂あやのこうじ きくまろは、あちこち見渡しながら口元に扇子を当てる。
「ほほ、バラク島では何やらきな臭い噂を聞いたけれど、どこも焦げ臭くないでおじゃる。よきに計らえでおじゃる」
傍らを歩くのは、何の因果か彼のお供に選ばれてしまったアーク=キング=ジェイナルだ。
ロイス王国出身の彼にジパンの町並みは、店先から道行く人々まで何から何までもが珍しい光景だ。
ツレが菊麻呂じゃなければ隅々まで探索して回りたいが、どのみち、ここへは噂の真相を突き止めに来たのだ。
あまり寄り道してもいられない。
バラク島の酒場いねむり狼亭で小耳に挟んだのは、オオエドの姫様が行方不明になったという、のっぴきならない噂であった。
姫様の名前は徳河 詩織。
見目麗しい女性だと聞かされたら、日頃女好きを自称するアークとしても探さねばなるまい。
「バカなこと言ってないで、ひとまず今日の宿を決めておこうぜ。そういや、あんたはオオエドの出らしいが、実家に泊まるって手は使えるのか?」
「およよ、麻呂の実家に二人で泊まりたいとおじゃるのか。ふふ、良いでおじゃるよ。一つの布団にくるまって、じっくりねっとり愛し合おうではおじゃらんか」
ちらと菊麻呂には上目遣いに薄気味悪く見上げられて、早くもアークは前言撤回する。
「あっ、やっぱいいや。宿で部屋を取ろう、もちろん別々にな」
「ならば宿へ入る前に腹ごしらえをしてたもう。さ、そこの団子屋で――」
菊麻呂が示したのは甘味処だが、その店先に腰掛けている女性をひと目見た途端、アークは早足、いや駆け足で近寄っていった。
「いやぁ、お嬢さん。美味しそうな団子ですね!どのメニューでしょうか」
「あれぇ、アーク殿、お待ちになってたもれぇ〜」
続けて走り寄ってくる菊麻呂を遠目に見ながら、アークに話しかけられた女性が答える。
「え?あぁ、これですか。みたらし団子ですけど」
「それよりも、お主。もしやアーク殿ではござらぬか?」と尋ねてきたのは女性の対面に腰掛けた侍だ。
男に用はない。しかし、異国の旅先で自分を知っているとなると話は違ってくる。
「そうだけど、なんで俺を知っているんだ?」
訝しむアークへ頭を下げて、男が名乗った。
「やはり、そうであったか。それがしは犬神 司狼と申す」
「え、アークさんっていうとフォウさんご自慢の一番弟子ですか……?」
傍らで驚いていた女性も犬神にならって名乗りを上げた。
「あっ、すみません。私は峯崎 茜と申します。あの、あなたのお噂は、フォウさんから兼ね兼ねお聞きしております」
二人の名前を脳内で反芻したものの、アークに聞き覚えはない。
それより二人揃って仲良く団子を食していたとなると、この二人は恋人同士なのだろうか。
そちらのほうが断然気になる。見た目は親子ほどの年齢差がありそうなのだが……
「フォウ殿の?ほほぅ、そうするとお二人方は師範代でおじゃるか」
ジパン出身であるはずの菊麻呂も首を傾げているしで、マイナーな流派なのか。
と思っていたら、犬神が深い溜息を吐き出した。
「綾小路殿……我々は以前も出会っていましょう、ギルド議会で何度か」
単に菊麻呂の記憶力が悪いだけだった。
本人は「ほっほっほ、今のはお二人方を試したのでおじゃるよ」等と誤魔化して、犬神に二度目の溜息を吐き出させた。
茜はアークに興味津々なのか、菊麻呂の戯言など頭っから無視している。
「面白い組み合わせですね。アークさんは綾小路さんと、お知り合いだったのですか?」
「いや、こいつが帰郷するからってんでギルド窓口で無理やり」
「ほほほほ、そうでおじゃる。麻呂とアーク殿はラブラブでおじゃるよ」
「何言い出すんだ!?このお歯黒野郎ッ」と思わず大声で突っ込んだ後、アークは手をぶんぶん振って全否定。
「全然そんなんじゃないですから、偶然ギルド窓口で遭遇したってだけの関係ですんで」
「えぇ、判っています。今のは綾小路さんお得意の冗談ですよね」と茜も微笑み、ついでとばかりにジパン観光の感想を尋ねてくる。
「どうですか?オオエドの町並みは」
「いや〜、見るもの全てが珍しくて、こんな時じゃなかったら隅から隅まで見て回りたいぐらいですね」
ちゃっかり茜の隣に座って、みたらし団子を注文するアークへ「こんな時?」と茜が突っ込む。
「えぇ、バラクの酒場で聞いたんです。なんでもオオエドのお姫様が行方不明だとか」
途端に声を潜め、茜が真剣な表情で囁く。
「もう各地へ伝わっていたんですね。あなたが解決するつもりで此方へいらしたのでしたら、私どものほうでも、お話があります」
地元民だけあって、何か情報を掴んでいると見える。
団子をテイクアウトした後は彼女に誘われるがまま、アークと菊麻呂、それから犬神も一緒に宿の一室へと落ち着いた。
「……詩織様の安否ですが。行方不明との噂が出回っておりますが、真実は異なります。あの御方は武田の軍勢に拉致されました」
「あーっと、ちょっと待ってください」と手で制するアークに「あ、私相手に敬語は不要ですよ」と茜も断り、先を促してやる。
「武田だのと言われても、俺にはジパンの情勢自体がわからないんで、そこから説明してもらっていいか?」
「そう……ですよね」と、仕切り直して茜が言うには。

ジパンの中央に位置する首都オオエドの統治者は徳河 家康。
交易を一手に担う町でもあり、一番賑わっている。
拉致されたのは、ここの姫君で名を詩織。
城を守るのは侍と法術師と伊賀忍群。

ジパンの東部をキョウと呼び、統治者は真田 三角さなだ さんかく
古くより暗黒信仰であるが為、祭りの日は禍々しい雰囲気に包まれる。
城を守るのは侍と降魔忍群。

ジパン西部にあるナゴヤは、自由領とも呼ばれている。
独特の文化を守るチャイナロウスは観光地。
奥地インディゴには、柳一族の里があるとの噂も。

ジパン南部にあるシコクの統治者は剛利 元成ごうり もとなり
昔から土地が育たず万年貧困に喘いでいる。
城を守るのは侍と占術師、そして甲賀忍群。

ジパン北部にあるカイの統治者は武田 六仙たけだ ろくせん
住民全てが善神信教徒で構成される。
城を守るのは侍と魔術師と封魔忍群。


「ハイ、質問」と片手をあげたアークに「何か?」と犬神が応える。
「ナゴヤには統治者っていないのか?」
「はい。これまでに聞いたこともありません」と茜が即答し、ちらりと犬神にも確認を取った。
「ナゴヤは長く忍者の住む町として知られている。侍は居住を禁じられているのだ」
犬神も答え、腕を組む。
「それと、これは今の問題とは関係ないかもしれぬが……機械都市の住民が出入りしているとの噂もある。なにかと胡散臭い土地なのだ、ナゴヤというのは」
噂話ばかりが飛び交っているようだが、実際に確かめた者はいないのかとアークが問えば、二人とも頭を振った。
「なにしろ侍は立入禁止、草を放っても情報収集は芳しく……謎に包まれているんです」
しかも、と眉間に皺を寄せて茜が続ける。
「胡散臭いのはナゴヤばかりじゃないんです。カイの客人として長らく住み込みを決め込んだ男に最近、怪しい動きがあるとの情報をオオエドの忍びが掴みました」
「なんだ?その居候って」
武田領には茜が生まれるより七十年も昔から、二人の兄妹が住み着いている。
兄はカイム=マテリアル=フォーリア。
妹はフィル=マテリアル=フォーリア。
異国民丸出しな名前の二人は外見もジパン人のそれではなく、髪は金色、色白で瞳が青い。
何十年経っても歳を取らないと、地元じゃもっぱらの噂だが、実際に出会った民草は一人もいないという不思議。
怪しい動きを見せているのは兄のほうだ。
日夜怪しげな魔法陣の中央に立って、呪詛を唱える姿を目撃したという。
何かを召喚する気なのか、それとも新魔術を考案中なのか。
それ以上は詳しく調べようにも封魔忍に妨害されて、逃げ帰ってこられたのは、たった一人だけであった。
「封魔ってのは善神教徒なんだよな?だったら心配しなくてもいいんじゃ」
世間一般で知られる善神教は、平和と秩序を守る正義の信仰だ。
アークの認識も世間同様、正義の宗教というイメージで固定されている。
「えぇ、そのはずなんですけど……でも、特に敵対しているわけでもない伊賀忍を武力で撃退しているんです。おかしいですよね」
茜は首を傾げ、犬神が補足するには、本来、封魔と敵対しているのは降魔ぐらいなのだそうだ。宗教上の問題で。
「暗黒信仰の町が堂々と存在しているってのも驚きだよな。普段、悪さは働いてないのか?」
アークの次なる疑問にも、茜は笑って「邪神を崇めていても、あの地の人々は温厚ですよ」と断った。
「ご存知ですか?降魔忍群の頭目、神風さんを」と話を振られて、彼を基本とするなら真田領の住民が温厚だとするのにも納得したアークであった。
彼とは別件依頼で知り合ったのだが、暗黒信仰にしては穏やかな物腰で意外に思った記憶だ。
邪教と言われて世間で真っ先に思いつくのはファルゾファーム島の帝都であり、あそこの兵士は常に好戦的である。
ひとくちに邪教徒と言っても、色々いるのであろう。
それは善教にしても然りで、武田が徳河の姫を誘拐したのも善神教徒らしからぬ動きではないか。
「武田が姫様を誘拐したってのは、確実な情報なのか?」
「はい。武田は姫のお命と引き換えにオオエドとの同盟を申し出ています」と茜は答え、悩ましげに眉根を寄せた。
「ですが、同盟を結ぶだけでしたら姫をさらう必要などないはずです。どうして、このような真似をしたのか……」
しかも、だ。
怪しい動きは真田と剛利にも見られ、双方ともオオエドに攻撃を仕掛けるかの如く兵を集めている。
近く内戦が起きるのではないかと予想する者もオオエド城内に多く、対抗すべき布陣を組んだ。
「軍隊なんか作っちまったら、余計に刺激するんじゃないか?」
アークの懸念は尤もだが、部隊は今やオオエドの東西南北を守る形で配置されており、一介の侍風情、それも城仕えでない者が何を進言しようと殿の耳に届くものではない。
「アーク殿にお頼みしたいのは、これらの噂の真実を探る役目だ。我らは顔を知られすぎている為、軍勢に加われぬ。だが、外から来た冒険者のお主ならば、傭兵ということにしておけば難なく混ざれるであろう」
闇雲に武田領へ単身で忍び込むよりは、軍隊と同行したほうが安全である。
そう考えたアークは犬神の依頼を引き受け、菊麻呂と共にオオエドの軍隊へ入り込んだ。

アークと菊麻呂が編成された部隊は、武田の軍勢を待ち構える作戦であったのだが、このまま待ちぼうけをしていても何の進展もないと踏んだ菊麻呂へアークも賛同し、初日の夜、二人だけで軍勢を抜け出す。
カイへの道のりは菊麻呂が知っていた。さすがは地元民だ。
――だが、カイ領に一歩踏み入れた直後。
「危ねぇッ!」と叫んで、アークは菊麻呂を突き飛ばす。
「おじゃるゥッ!」
可哀想に菊麻呂は顔面で大地をゴリゴリと数M削った末にピクピク痙攣しているが、それにかまってあげられる余裕はない。
先程まで二人の立っていた場所を襲撃してきたのは、白い忍び装束に身を包んだ忍者だ。
「誰に断ってカイに入り込んできやがったァッ!テメェら殺す、殺すッ!!」
再び大地を蹴って斬りかかってくるのを、アークは紙一重で避けるのが精一杯だ。剣を抜く暇もありゃしない。
「ちょ、ま、だ、誰だよ、お前!?」
「名を名乗れだとォ!?カイに来て、俺を知らねぇと抜かすのか!ザッケんな!!
ざざっと後ろへ飛び退り吼えたける相手を指さして、やっとこ体勢を立て直した菊麻呂が喚いた。
「そち、封魔忍者でおじゃるな!?確か名を」
「そォうだッ、我が名は封魔忍群、輝竜!冥土のみやげに頭ン中刻んどけェッッ!!」
アークの脳裏に描かれた正義の使徒像が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくぐらい殺気立っている。
一歩踏み入っただけで、この大歓迎では、怪しい魔法開発をしているとオオエドに勘ぐられるのも無理はない。
剣を抜いたアークは低く構える。
「悪いが、お前一人に構ってもいられないんでね。手っ取り早く」
「死ねェェッッ!!」
会話は不要とばかりに何度も斬りつけてくる凶刃を、アークは「おったったぁっ!?」との叫びと共に、身を反らしてかわす。
技を出そうにも素早いフットワークで回り込まれて、体勢を崩されてしまう。
変幻自在の斬撃は気配察知で避けるしかなく、剣で受け止めるなんて真似もできず、アークは次第に追い詰められつつあった。
忍者と戦うのは、これが初めてだ。初めてだけに戦いのリズムが掴めない。
焦る耳に誰かの「手伝うよ!」といった声が響き、声の主を探す前に輝竜の正面で白煙が上がる。
「うぉッ!」「な、なんだぁ!?」と二人揃って驚くのにも、爆竹を投げた誰かが叫んでよこす。
「ついてきて!」との声だけを頼りにアークは菊麻呂の襟首を引っ掴み、声の方向へと走り去った。

カイを遠く離れ、何も無い草っぱらでアークは足を止める。
振り返っても、後ろをついてくる気配はない。
「はぁー……助かった」
今になって、どっと汗が出てきた。
忍者が、あそこまで近接での斬りあいに強いとは予想外だった。
剣の腕には自信があったアークだが、世界は広い。修行不足を実感する。
改めて、助けてくれた相手と向かい合う。
一人は猫目で長髪の女性、もう一人は長身で整った顔つきの青年だ。
どちらも黒髪、そして紺色の忍び装束を身に纏っている。
二人は赤眼せきがん青風せいふうだと名乗り、アークも名乗り返すついでに尋ねた。
「助けてくれてありがとう……と言いたいところだけど、どうして、あの場にいたんだ?君達もカイへ忍び込む途中だったのか?」
「ずっと潜伏していたのよね。ただ、輝竜の守備範囲が広くて、どうやっても城に近づけなくてさ。お手上げだったのよ」と、赤眼。
青風も「貴殿が入ってくるのは見えていた。襲われるだろうと予想していたら、案の定」と答え、じっとアークを見据える。
「貴殿こそ、何用でカイへ来た?ここは危険だ。輝竜がいる限り、余所者の安全は保証できぬ」
「実は、さ……」と、アークは全てを話す。
二人が何者にせよ、善意で助けてくれたのは間違いない。
カイでの潜伏調査が任務なら、余所者で見知らぬ他人のアークたちなど放っておいても良かったはずだ。
「そうだったの、武田を探りに……けど、素人でどうにかできる相手じゃないわよぉ?うちだって何十人も犠牲を出しているってのに、姫様が誘拐された程度の情報しか得られていないんだから」
「赤眼!」と青風に喋り過ぎを叱られても、彼女は「いいじゃない。この人達もオオエド軍だってんなら、あたしたちは味方でしょ」と肩を竦める。
「味方?ということは、そち達もしや」
菊麻呂の誰何に頷き、赤眼が正体を明かす。
「そうよ。伊賀忍群、双璧の赤眼と青楓とは、あたし達のこと……ってね」
それよりも、と青風が踵を返した。
「奴に見つかった以上、ここに留まるのは我らとて危険。オオエドへ引き返すぞ」
アークと菊麻呂も輝竜に顔を知られてしまった。ここに残っても、城には近づけまい。
四人は一路オオエドへ帰還する。

――しかし彼らを待っていたのは、賑やかな町並みではなく。
奇怪な生命体に襲われて必死に逃げ惑う民衆と、刀を振り回して追い払おうとする侍たちの姿であった。
「峯崎殿!」
犬神の掛け声に併せて、茜が二刀で斬りかかる。
「グキャアァァァッ!」と耳障りな鳴き声を発して空に舞い上がったのは、背中に羽根を生やしたモンスターだ。
パッとの姿見は天神族に似ていると言えなくもない。
だが真っ赤な瞳と漆黒の羽根、口の中に鋭い歯が並ぶ風貌は似ても似つかない。
「犬神さん!もう一匹きましたッ」
背後に迫る一匹は、犬神の一閃で斬り捨てられる。が、如何せん数が多い、多すぎる。
戦っているのは犬神と茜だけではないのに、モンスターの数が減ったようにも見えないのは、次から次へと舞い降りてくるせいだ。
赤眼と青風、アークも加勢するが、状況は芳しくない。
いや、そればかりか侍にも犠牲が出始め、いよいよ旗色は危なくなってきた。
「この町は法術の使い手も防衛に回っているって聞いたけど!?」
正体不明のモンスターを斬り捨てつつ、アークが赤眼に問うと「法術って、大地様のこと!?なんであんたが知ってんのよ」と言いかけて、すぐに舌打ちする。
「……あぁ、そう、聞いたのね!」
誰にとは言わず、礫をモンスターの羽根にお見舞いした。
そいつが墜落するのさえ眼下に留めず、次の一匹へ斬りかかる。
「大地様は城を離れられない!ここは、あたし達が何とかするしかないわ」
幸い、モンスターの一匹一匹は強くない。
だが斬っても斬っても援軍が来るのでは、こちらの体力が持たない。
モンスターの飛んでくるのは北、カイの方角だ。
武田の放った軍勢だと結びつけるのは些か安直か?とアークが考えていると、青風も同じ結論に至ったのか小声で悪態をつく。
「こいつが魔法陣の正体だとすると……カイムめ、外法に手を出したというのか!」
遠目では「くっ……」と呻いて、茜が足を縺れさせる。
間髪入れず彼女に襲いかかるモンスターを退けたのは、犬神ではない。
「お父さん、もとい父上!?どうして此処にッ」
前頭部がテラテラ光って眩いオッサンが茜を庇う位置へ滑り込んできたかと思うと、「茜、その説明は後じゃ!老兵の底力、見せてくれるわ!!」と叫んで二匹まとめて斬り払う。
「お父さん、ここはいいから町の人を!皆の退避をお願いっ!私は此処に残り、敵を一掃します!!」
娘のお願いにも「よくぞいったぁぁ!でわ儂は死にたくないので、ここを去る!ぢゃっ!」と叫び返すや否や、来た時と同じスピードで走り去っていった……
これには「え?」と茜、それから遠目に様子を見ていたアークも呆然となる。
しぶみ殿……一体、何をしに参ったのやら」
犬神は小さく悪態を漏らし、しかし手は休めずモンスターへ向かっていき、三体まとめて斬り落とす。
それでも、その間に何人かの町人がやられるのを見、アークは決心した。
少し危険だが――ついでに言うと、周囲の建物にも被害が出そうなのが最大の欠点だが、大技を繰り出すしかあるまい。
一旦後方へ下がると片手に持っていた剣を両手で持ち直し、水平に構える。
「アーリーテーアー……」
剣を持つ腕に力を込めると、一気に振り回す。
「スラーッシュ!!!!」
剣から放たれた真空刃はモンスターを数十匹真っ二つにしたばかりか、直線上にある建物まで豪快に真っ二つにした!
とんでもない破壊力には「はぁっ!?」と、その場にいた忍びや侍も全員、目が点になった。
「いやいやいや、待って待って!危ない、あんた町人まで真っ二つにする気かッ!?」
「自ら町を破壊していたのでは、武田の思うツボだぞ!」
住民からは一斉にブーイングの嵐、劣勢とみなした赤眼も「ここは引くよ!」と爆竹を放り投げる。
モンスターの大群をも包み込む白煙に紛れて、誘導できるだけの町人やオオエドの手勢達と一緒に逃げ出した。


オオエドを離れて真田領の近くまで逃げてきた一行は、森の中へと転がり込む。
「なんなのでおじゃる、あの奇怪な化け物は!」
泡食う菊麻呂の問いに答えたのは茜だ。
「天魔族だと……言っていました」
「誰が?」と重ねて尋ねた青風にも「カイムが、です!」と答えて、拳を握りしめた。
なんでもアークたちが留守にしている間、オオエドの上空に突如カイムが現れて、宣戦布告してきたらしい。
詩織と引き換えの同盟への返答に時間をかけすぎた為、同盟の話はなかったことにされた。
そればかりかオオエドを滅ぼすと宣言したのちに呼び出したのが先程のモンスター、天魔族の群れであった。
「空を飛べて、召喚も使えるのか……ホントに何者なんだ、カイムは」
ぽつりと呟いたアークに「判りません」としながらも、茜は怒りに燃えた瞳で断言する。
「ですが化物を使って町人を虫螻の如く虐殺した罪……許せません!」
「カイム、あれも化物よ」と赤眼が呟く。
「カイへ行くにしても、準備万端で行かないと返り討ちに遭うわ」
「いや、準備に時間をかければかけるほど大群が押し寄せてこよう。オオエドが滅亡する前に決着をつけねばならぬ」
異を唱えたのは犬神で、ぐるりと皆の顔を見渡した。
「参ろう。少数精鋭、一気に仕掛けてカイムの首を取る!」
「そうでおじゃるなぁ……向こうに大群がいたとしても、アーク殿の大技で倒せそうでおじゃるし」と、菊麻呂。
それに敵地なら、建物の被害を気にせず吹っ飛ばせる。
ここで連発してオオエドを自ら壊滅へ追い込むよりはマシだろう。
「少数精鋭、ねぇ。一部精鋭じゃないのも混ざっているけど?」
減らず口を叩きつつ赤眼が犬神へ頷く。
「まぁいいよ。精鋭に数えてくれた礼として、叩きに行ってあげようじゃないか」
青風は残留を希望する。
手だれが全員カイへ向かってしまってはオオエドが手薄になるとのこと。
半蔵様がいるじゃないのさと赤眼が反論するも青風の意思は曲げられず、彼に町人を託して一行はカイへ向かった。