シン&リュウ
誰もいないと判る場所まで歩いてくると、リュウはシンと向かい合う。「まず、最初に俺が君を、どう想っているかだが」
ドキドキ胸を高鳴らせながら、しかし目線はまっすぐ自分へ向けてくるシンを一瞥し、短く答える。
「俺も君が好きだ。大切にしたいと思っている」
たちまちシンの頬は興奮で赤く染まり、勢い込んで「ほっ……ホントですか!?」と尋ねてくるのは手で制し、「ただし、そこに君の望む性欲は含まれていない」と但し書きしておいた。
「えっ?」となるシンには、重ねて言う。
「地球で俺が君を助けたのは、半ば同情による感情だった。今はそうでもないが」
「そうでもないって何がです?」
まだよく判っていない様子のシンを眺め、リュウは淡々と答える。
「友好的だということだ。恐らく友情に近いものを、俺は君に抱いている」
「え……じゃあ、その、つまり……」
あからさまに打ち萎れて落胆する彼には悪いのだが、はっきりさせておく必要がある。
あの場で――地球での最後の戦いで、シンを連れていこうと決断したのは同情だ。
本来の運命へ戻したせいで彼を悲しませてしまった事への、懺悔でもある。
それからずっと、ジェイミーを含めた三人で暮らし、ジェイミーが死んだ後も二人で暮らしてきた。
今では同情が影を潜め、ささやかな友情を感じ始めている。
誰かに友情を感じるなど、生まれて初めての行為だ。
だが、まんざら悪いものでもない。
「シン、俺にはPE……いや、恋愛感情そのものが理解できない。ずっと一人だったからな」
「で、でも、それは覚えていけば」
「覚えるのではない。理解が出来ないと言っている」
再び首を傾げるシンへ、リュウは懇切丁寧に解説してやった。
「そういった感情が俺には元々ない。一人で生きていく分には必要なかったからな。たとえ知識の上で覚えたとしても理解できないのでは、性行為をしても人間のように感じる事など出来ないだろう」
「え、人間って……リュウさんだって人間でしょう?」
「……そうであれば、よかったのだがな。いや、俺も君と出会った頃までは、そう思っていた」
少し声のトーンが落ちた気がして、シンがオヤ?とリュウの顔を覗き込んでみると、彼はすぐに持ち直し、話を続けた。
「ともかく、君が俺にPEをしたいのであれば、するといい。しかし君の求める反応を俺は返すことができん。それでもいいかね?」
「えっと、それはつまり」
よく判らないまでも、シンは相づちを打っておくことにした。
「性行為をしても感じないって事ですか……?」
「そういうことだ」
「そんなの、やってみなきゃ判りませんよ」
「だから、やってもいいと言っている」
リュウは全くの鉄仮面。
初めて出会った時同様、感情の読めない表情を浮かべている。
なんとなく怒っているようにも見えて、これまでの勢いはどこへやら、シンはPEをする気が削がれてしまった。
「あ、あの……」
「どうした?シン」
「やっぱ、いいです」
尻すぼみになりながら、シンはポツポツと呟く。
「……リュウさんが、俺を好きになってくれた時に。その時に、しましょう」
突然の心変わりにはリュウも内心首を傾げたが、本人がいいというものを無下に覆すのも何であろう。
それ以上は深く突っ込まず、この話は、これでお終いとなった。
――それ以降、リュウとの性行為に関する話は、すっかり封印されてしまったが、戦闘をしても生産をしても、ゲームの中でゲームをしていても、シンの脳裏に浮かんでくるのは、そればかりで。
そればかりというのは、もちろんリュウとのムフフなお楽しみ妄想である。
もちろん、それをする機会は、いくらでもあった。
ハロウィンにバレンタイン。
どう考えても恋人達御用達としか思えないイベントの数々であったが、リュウはまるで無関心だった。
それとなくシンが話を振っても「興味あるなら君は参加するといい」と素っ気なく言われ、参加する気力も萎んでしまった。
恋愛感情がないというのは、嘘ではなかったのだ。
いつまで経っても友情止まりだ。
確かにシンはリュウと比べたら、物わかりが悪いしドンくさいし、好きになる要素なんて自分でも見ても見あたらない。
しかし、どうにかして、リュウの気持ちをシンに大きく傾ける事ができないものか?
告知でクリスマスイベントのお知らせを見た時、ふとシンの脳裏に閃くものがあった。
このイベントに二人で参加すれば、きっとリュウさんだって俺の良さを理解してくれるのでは?
クリスマスイベントの概要には、こう書かれていた。
『メリークリスマス!恋人達の甘い季節がやって参りました^^サンタからプレゼントを勝ち取るもヨシ、お店でプレゼントを大人買いするもヨシ。好きなあの子へ特別なクリスマスプレゼントを贈りましょう♪サンタさんもスキー場で君達の挑戦を待っています!スキー場で、レッツ対戦!』
これまた恋人御用達イベントである。
この世界には原則カップルしか存在しないのであろうか。
だがプレゼント云々は、ひとまず置いといて、場がスキー場である点にシンは心をひかれた。
今まではずっと戦闘方式のイベントばかりだったが、今回はスキーでサンタと戦うらしい。
スポーツはシンの得意とする分野だ。
一番得意なのはサーフィンだが、スキーも板に乗るスポーツだと聞いている。
この戦いで華麗な滑りを見せたら、リュウは自分を見直してくれるだろうか?
「……よし!」
気合い一転、シンはリュウを起こしに行く。
この世界ではシンのほうが早起きだ。
リュウはシンが起こしにいくまで寝ているか、或いは自室で何かしている日が多い。
「リュウさ〜ん、起きてますかぁ?」
こんこんと扉をノックすると、リュウはすぐに顔を出した。
「シン、次のイベントが始まるそうだ。君は、どうする?参加したいのであれば」
「リュウさん!一緒に参加しましょう!!」
最後まで言わせず意気込んで参加を促してくるシンに、リュウは少し驚いた顔を見せ、やがて笑顔になる。
「そう言ってくれるのを待っていた。行こう」
なんと、今回はイベント参加に乗り気のようだ。
リュウもスキーが得意なのか?
新たに沸いてきた不安で胸をざわつかせながら、シンも神妙な顔でリュウの後に続いて表へ出た。