己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


龍輔&誉

この世界を歩き回るうちに、龍輔のフレンドリストは充実したものになっていった。
しかし誉はというと誰かのアイドルになることもなければ目立つ真似もせず、フレンドは、いつまで経っても龍輔一人の寂しいリストだった。
オフとは正反対だ。
オフじゃ怪盗団のアイドル的存在で、皆からチヤホヤされていたのに。
誉は誉で、龍輔さえ一緒なら寂しくないと言う。
ハウスの中では、いつもべったりくっついてくる。
本人曰く、龍輔の側が一番安心するらしい。
オフと言えば、もうずっと風花に会っていないような気がするが、龍輔は全然寂しくなかった。
元々、龍輔は人見知りしないタイプだ。
外向的な性格で、誰にでも気安く話しかける。
初心者には優しくする。
それで強いとなれば、当然友達も増えていく。
その中には女友達も大勢いる。
取っ替えひっかえイチャイチャしていれば、寂しがっている暇もない。
風花にバレたら速攻でフラれそうな状況だが、誉がチクるということもなかろう。
彼は龍輔に懐いているし、風花のことは苦手なようだ。
ただ、龍輔の八方美人っぷりは、誉にとって悩みでもあった。
いつか誉を捨てて、このユーザーハウスを出て行ってしまうのではないか。
少年は、それを何よりも恐れていた。

今日もパーティを一緒に組めなかった。
最近、龍輔は一人でぶらぶら出ていってしまう事が多い。
大抵は街にいるそうだが、毎日街で何をしているのか。
誉を誘ってくれてもよさそうなのに、誘ってくれる気配が微塵もない。
無愛想で無口な誉に、とうとう愛想がつきてしまったのだろうか。
そもそも、この世界に留まろうと一番最初に提案した時も、龍輔の返事はイマイチだった。
誉とは一緒にいたくない――そんなふうにも受け取れた。
元の世界にいた頃の、あの優しさは何だったのか。
考えれば考えるほど、気が滅入ってくる。
誉は龍輔が一番好きなのに、龍輔の一番好きは誉ではない。
風花だ。
でも、この世界には風花がいないから、だから龍輔は他に女友達を作ることを考えた。
毎日街へ出かけるのは、きっとその子達へ会いに行っているのだ。
そしていつか龍輔は、この世界でも好きな女の子を見つけてしまうだろう。
そうなったら、自分は真っ先に捨てられる。
好きでもない男と同居するぐらいなら、好きな女子と一緒に暮らしたほうがいいに決まっている。
どんよりと落ち込む誉の耳に、龍輔の「ただいま〜っと!」という軽快な挨拶が聞こえてきた。
「ん、なんだ誉、今日もハウスに引きこもってたのか?駄目だぞ、俺がいなくても一人で遊びに行くぐらいの行動力をだな」
「龍輔!」
たまらず誉は龍輔の胸に飛び込む。
そんな風に自立を促されるのは嫌だった。
いつか予想が現実になりそうで。
ぶるぶると胸の中で震える少年を見下ろし、龍輔はウームと内心唸る。
一緒にいるから、誉は龍輔に気を遣って他の者とは行動しないのかと思っていたが、そうでもなさそうだ。
いつハウスに戻ってきても、誉がいる。
別行動を取るようになってからは、一度も外出していないと見ていいだろう。
この世界で暮らしたいと言い出したのは誉なのに、彼自身が世界に馴染めていない。
龍輔のほうが、よっぽど馴染んでいるぐらいだ。
PCのみならず、NPCとも親睦を深めている。
「なぁ誉、やっぱ、この世界で暮らすより元の世界へ戻る方法を探したほうがいいんじゃ」
「龍輔は、もう、俺のことを嫌いになってしまったのか!?」
二人の言葉が重なり、龍輔はきょとんとする。
「龍輔がいなくなったら、俺、俺……っ」
ぎゅぅっと誉のしがみつく力が強まった。
見れば今にも泣きそうな顔をしているしで、なんで彼が、ここんとこ毎日家に引きこもっているのかが龍輔にも判ったような気がした。
「あー。つまり、俺と一緒じゃないと嫌ってわけか」
コクンと頷き、黒い瞳がじっと龍輔を見上げてくる。
そんな可愛い顔で見つめてくるのは反則だ。
風花や樽斗だったら一発で落ちている。
特別な感情で見なくても、誉は普通に美少年だと思う。
華奢な手足に、スリムな胴体。
背は小柄で、声も変声期前の少年みたいに高いソプラノだ。
大きな黒い瞳は謎めいていて、ミステリアス。
加えて無口で大人しいときたら、お人形さんないしニャンコちゃんと持て囃されて、女子から絶大な人気を誇りそうなのだが、しかし本人は龍輔が一緒じゃないと外にも出たくないようだ。
「ったく、なんで俺なんかがいいかねぇ〜」
苦笑する龍輔をじっと見つめて誉が言う。
「龍輔は判っていない。風花も樽斗も悠平も、皆、全然判っていない」
「何を?」
「本当は俺なんかより、ずっとずっと龍輔のほうが魅力的だって事を」
さらにぎゅうぅぅっと抱きつかれて、龍輔は複雑な気分になった。
そりゃあ、まぁ、顔は、それほど悪くないと思っているけど、自分で自分を魅力的だと言い出したら、ただの痛いナルシストではないか。
それに龍輔から見たら、やっぱり誉のほうが可愛いし謎めいているし華奢な美少年だし守ってあげたくなる存在に見えるしで、怪盗団の皆も、そう思っている。
思っているからこそ、誉がアイドルなのだ。
誉こそ、自分自身の魅力を自覚するべきである。
「よし、誉。明日は俺と一緒に街へ行こう」
誘いをかけると、たちまち誉は破顔して、コクコクと頷いた。
絶対だぞ、約束だぞ、と寝る寸前まで何度も確認を取ってきて、ようやく彼が眠りについた後、龍輔は大きな溜息を吐き出した。
まったく、なんてこった。
元の世界にいた頃よりも、依存症が強まっている。
「こりゃあ……なんとかしねーと、いけねぇなぁ」
龍輔としては誉ばかりを構っているわけにもいかず、他のフレとも遊びたいし女の子達とも遊びたい。
しかし誉を一人で放っておいたら、彼が鬱病になりかねない。
かくなる上は、多少強引でも構わない。
誉に龍輔以外の友達を作ってやるしかない。
明日は街へ出て、PCでもNPCでもいいから、よさげな人物を物色しよう。
そして片っ端から誉とマッチングさせてみるのだ。
彼の好みにあう人物と、うまく出会えると良いのだが。


Page Top