己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


クレイ&春名

この世界はゲームの世界。
バーチャルRPGだとクレイと春名に教えてくれたのは、街の入り口にたむろしていた他プレイヤーであった。
「ゲームとは何だ?」
真顔で尋ねてくるクレイに、春名が答える。
「えっとね、架空の世界で生活したり戦ったり生産したりする遊びだよ」
春名も現実の世界じゃゲームをやったことがないのだが、友人がやっているのを見た記憶はある。
RPGはキャラクターになりきって生活するゲームなんだとか。
全部友人からの受け売りである。
「モンスターと戦うと経験値が増えて、レベルアップするの」
ざっくばらんな春名の説明に頷き、クレイが言った。
「判った。戦闘は俺に任せて欲しい。春名はフォローに回ってくれ」
「え?クレイ一人で戦うの!?危ないよ!」と一応気遣ってみたものの、よく考えると、いや考えなくても、春名が一緒に戦うほうが二倍も三倍も危ないのではなかろうか。
大人しく、戦闘はクレイに任せたほうが良さそうだ。
「遊びなら大丈夫だ。俺は死なない」
コクリと頷くクレイへ、他プレイヤーが助言する。
「や、バーチャルなめんなよ?攻撃くらうと、結構痛いぞ」
「痛いの!?」
春名は思わず叫んだ。
不安が、ぶり返してきた。
「痛い痛い、あと死ぬと初期ゲートに飛ばされっから、新しい街についたらゲート登録しといたほうがいいぞ」
「げ、げぇと登録?」と首を傾げる春名へ、彼らは上空を指さした。
「ヘルプ、見た?つーか、もしかして初心者さん?」
「は、はい……」と頷く春名を見て数人が目配せをかわしたのを、クレイは見逃さなかった。
「あ、じゃあ、もしかして対人モードつけっぱなし?」と尋ねた青年が、ゆっくりと立ち上がる。
「え、と。対人モードってなんです――きゃぁっ!?」
話もそこそこに、青年の一人が春名に飛びかかってくる。
間一髪、無粋なハグを退けたのは、男達の動きに気づいていたクレイであった。
「春名に触れるな」
「クレイ!」と春名が嬉しそうに叫び、青年達は人相も悪くクレイを睨みつける。
「てめぇ!初心者の分際で俺達に刃向かうつもりかよっ」
「構うこたねぇ、どうせレベル1だ!フルボッコにしたらぁっ」
襲いかかってきた青年に横から矢がブスッと突き刺さり、「ほげぇっ!」と叫んで彼は地面に倒れ込む。
「ほえっ!?」
驚く春名を尻目に、男達は口々に叫ぶ。
「ち、畜生出やがった!」
「どこだ、どこに隠れてやがんだっ」
「あ、あの〜、出たって何が」と尋ねる春名へは、律儀にも一人が答えた。
「決まってんだろ!プレイヤー狩り狩りだッ」
「ぷ、プレイヤー狩り狩り?」
頭の中がハテナで埋まる春名の目前で、答えた奴の脳天にプスッと矢が突き刺さり、「あがっ」と断末魔を一言残すと、男は何度かの点滅後に消えてしまう。
「あ、あ、あれっ?消えちゃった!?」
クレイと春名が驚いている間にも、一人、また一人と矢に射られて、やられていく。
最後に残った一人は「畜生、卑怯者めぇ!」と自分達の行為を棚に上げた発言を残して逃げようとするも、背中に矢を射られて消滅した。
瞬く間に無礼者はいなくなり、ぽかーんとする春名とクレイの目の前に、一人の男が姿を現す。
金髪の男性だ。
弓を持っているから、彼がやったのであろう。
「助けることができて良かった。あいつら、思ったよりもレベルが低くてラッキーだったよ」
そう言って微笑む男性に、春名は不覚にもキュウンっと胸が高鳴ってしまう。
際だってハンサムという訳でもないのだが、魅力に溢れた笑顔だ。
それに、なんといっても恩人だし。
「あ、あのっ、お名前を……!」
春名の問いに「ハリィ=ジョルズ=スカイヤードだ」と答え、ハリィが聞き返す。
「君達は?」
だが、すぐに言い直した。
「あぁ、いや、いい。それよりも俺とフレになろう。そのほうが手っ取り早い」
「フ、フレって?」
再び春名の質問攻撃が始まり、ハリィにヘルプの存在を教えてもらって、じっと二人の遣り取りを眺めていたクレイも無言で近寄ってくると、ハリィにカードを差し出した。
「ブルー=クレイか、良い名前だね。春名、君の名前もよく似合っている」
「え、えへへ……ありがとうございます〜」
クレイの前だというのに、春名は他の男にデレデレだ。
名前を褒められても、ちっとも嬉しくない。
春名が、こんな状態では。
ムッとした表情でクレイは無言を通し、ハリィとは春名が話した。
「あの、さっきの人達がハリィさんをプレイヤーガリガリって呼んでいたんですけど、それってなんですか?」
「あぁ……」
ハリィが苦笑する。
「プレイヤーを狩る行為をPKと呼ぶのは判っただろ?俺は、それを止めているうちにPKをやろうとする奴を狩る、つまりPK狩りと呼ばれるようになったのさ」
「はぁ」
よく分からないけれど、春名は頷いておいた。
要するに、ハリィは悪意を持ったプレイヤーを懲らしめる正義の味方なのだろう。
この人となら、パーティを組むのも楽しいかもしれない。
ハリィのレベルは現在17。
高すぎず、低すぎず。
そう考えていると、ハリィが話を振ってきた。
「春名、クレイ、当分は俺達とパーティを組むかい?初心者の街は危険だからね、さっきの連中みたいなのがワンサカといる」
「初心者の街なのに、危険なんですね……」
ぽつりと呟いてから「……俺達?」と聞き返す春名へ頷くと、ハリィは手招きした。
「友達がいるんだ。よくパーティを一緒に組む仲間がね。紹介しよう、俺についてきてくれ」
「は、はい!」
春名は勢いよく頷いてから、無言のクレイの腕を引っ張った。
「さ、行こ?クレイ」
無言でついてくるクレイに、そっと囁く。
「あのね、さっき守れなかったことは気にしなくていいから……二人とも無事だったんだし、クレイが私を守ろうとしてくれた、その気持ちが嬉しかったよ」
口をへの字に折り曲げて不機嫌なクレイに、気を遣っているつもりらしい。
そんなんじゃない。
そんな理由で不機嫌になっているんじゃないのに。
判ってくれない春名と、気安く春名の名を呼ぶハリィに、ますます機嫌を悪くしながら、クレイは表面上は能面で春名とハリィの後を大人しくついていった。


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