2021・クリスマスif闇鍋長編

カップル限定クリスマスパーティ

9.みょ、これがかみのさばきである

真っ暗なホールに叩き落とされて、状況判断つきかねる人々の耳に銅鑼の音が鳴り響く。
『最後の神判こそは、オッパイ地獄である!』
またデキシンズが世迷言を放ったのかと思ったが、違った。
叫んだのは鯰髭のオッサンで、傍らにはバニーガール姿に着替えたお邪魔虫二人の姿もある。
鯰髭のオッサンは『好きでもない相手におっぱいを揉まれても乱れずにいられたら、まことの愛と断じよう!』などと言っているが、己の欲望を満たす為に揉みたいことなど、会場にいる全てのカップルがお見通しだ。
「ひっこめー!」「いい加減にしてよ、変態!」
罵倒が飛び交う中、ビアノが叫んだ。
『制限時間は五分!五分、あたし達のモミモミ攻撃に耐えきったら、あんた達の愛を認めてやるわ!』
どれだけブーイングの嵐になろうとも、強行する気満々だ。
「本当に五分耐えきったら、帰れるんだな!?」
誰かの問いにタンタンが頷く。
『早く帰りたいんだったら、さっさと五分揉まれるといいんじゃない?たった五分我慢すれば帰れるんだし』
五分と聞いた時には長く感じたのに、冠に"たった"をつけるだけで短く感じるのは何故だろう。
ともあれ早く帰りたい気分になっていたカップルたちは、それぞれに揉まれる役を決めて三列に並んだ。
タンタンの処に並ぶ数が圧倒的に多い。
鯰髭親父は見るからにイヤラシそうだし、ビアノは顔こそ可愛いけれどモミモミを平然と言い放った辺りに、そこはかとない不安を覚える。
変な発言のないタンタンが一番マシ。皆が、そう考えるのは当然だ。
「馬鹿が。簡単に騙されやがって……葵野、俺は鯰髭を選ぶぜ」
タンタンをよく知る坂井は髭親父を選んだのだが、葵野は彼の代表自体を否定する。
「やっぱり駄目だよ、坂井。お前は誰に触られても敏感じゃないか……ここは俺がいくよ」
「駄目だ!お前を他の奴に触られる俺の気持ちも考えろよ!」
それを言ったら、葵野だって坂井を誰にも触られたくない。
だが、いつまでも言い争っていたら永久に帰れない。
一番前に並んだ三人を見渡して、ビアノが号令をかける。
『それじゃあ……モミモミ神判、開始よ!!』
ドワワ〜〜〜ン!と銅鑼も盛大に鳴って、三人が各々の列に並んだ一番目の相手へ掴みかかった。
最初は遠慮がちに撫でるだけだったのが、次第に図々しく乳首を摘まみあげたり、上に寄せて円を描くように揉みしだかれる。
胸を触られるぐらい何てことないと高を括っていた男性陣は皆、眉間に皺を寄せて、肌を這いずる動きの気持ち悪さに耐えた。
『――ハイ、五分経過!乱れることなく耐えきった君達は、真に相方を愛していると判明しました』
じっとり額に汗をかきながら見事耐えきった面々は、ほっと息をつく。
駆け寄ってきた相方に褒められたり慰められたりしながら、粗品を受け取って扉の向こうへと消えていった。
「本当に五分耐えるだけで終われるのか……」
ぽつりと刃が呟く。
実を言うと、最後まで疑っていた。
なにしろ、ここへ辿り着くまで何度となく騙されたもんだから。
「よし、では俺が」「駄目だ」
行くと言い終わらないうちにシズルには止められて、さっさと列に並ぶシズルを追いかけた。
「俺がやらなかったら、シズルが嫌な思いをしてしまうじゃないか」
「いいんだよ、それで。お前は七面鳥で嫌な目に遭っただろ?今度は俺の番だ」
サンタの間ではベッドで心ゆくまで抱き合って寝転がったりしたのだから、途中経過は嫌な思い出ばかりではなかった。
あの一時を思い返し、刃はチラと下がり眉でシズルを見上げる。
「……シズルの胸を触るのは俺だけにしてほしい」
ぽつんと呟かれて、シズルは否応なく鼓動が最大限まで高鳴った。
人前でデレてくるのは反則だ。心の準備が追いつかない。
「つってもよォ。どっちかは必ず犠牲にならなきゃいけないんだし……ここは、やっぱ俺がやるべきだと思うんだよ」
今のところ、男女ペアは男が進んで犠牲になっている。
却って男同士や女同士のほうが、どちらがいくかで揉めてしまうようだ。
二人が押し問答している間にも列は少しずつ移動していき、「つっ……九十九ォ!」と鯰髭の驚愕が響いて、刃とシズルも、そちらへ目がいった。
向かい合って鼻息を荒くする鯰髭に、黒衣の青年は少しも嫌がらず受け答える。
「照蔵も来ていたのか。相方は光来か?」
九十九はキョロキョロ見渡してみたが、光来らしき女性は何処にも見当たらない。
照蔵には激しく咳払いされて、すぐに視線を戻した。
「い、いや。儂は単身参加じゃ。ここでモミモミ係を担当していての」
「ふぅん。まぁ、おっぱい地獄とか言うから何事かと思ったけど、要は按摩だろ?いつもの調子でサクッとやってくれ」
「う、うむ。では……」
ごくりと喉を鳴らして両手を伸ばした時には鼻の下を伸ばしきっていた照蔵であるが、極至近距離、つまりは九十九の背後にて鬼の形相で此方を睨みつける南樹及び源太と目が合ってしまい、ヒッと喉の奥をひきつらせた。
まずい。
九十九のオッパイをじっくり揉めるといった期待で易々引き受けてしまったが、考えてみれば、このパーティはカップル限定。
九十九以外の知り合いとも出会う確率は非常に高く、九十九が出席するんだったら相方が南樹になるのは必然である。
ああ、ここが我が家の風呂であれば、源太や南樹に見つからず、じっくりモミモミできたのに。
心持ちシオシオになりつつ、それでも九十九に怪しまれない程度で指を動かすに留めておく照蔵であった。
「さぁて、次は俺じゃ。健康的な按摩を頼むぞ」
次の相手は源太だ。同じ筋肉質といえど、源太には鼻毛の先ほども興味がわかない。
吉敷とのペアで、当然のように源太が揉まれ役なのは、兄の権限で押し切ったのであろう。
ちらっと源太の後ろに並ぶ相手を見やり、さっさと五分経たないかと考えながら、照蔵は機械的に胸板を触り続けた。
義理程度に胸を触られている間、源太は横の列を眺める。
「んっ……ふぅっ」と小さく喘ぎ声が漏れそうになって、青年が必死で口元を押さえている。
幼女に触られて喘いでしまうというのは、青年に幼女趣味があるのか、それとも幼女の指技が凄いのか?
ビアノはニヤニヤと嫌な笑みを口元に張りつかせて、ねっとり囁く。
「あらぁ。手で押さえないと我慢できないほど、今のは気持ちよかったのかしら。ほらほら、あんたのカノジョが睨んでるわよぉ?ちゃんと我慢しなさいよね」
恋人らしき女性は、じわっと涙ぐんでいる。
あの涙は憎悪じゃない。
カレシを犠牲にしなきゃいけない心苦しさと、幼女に恥辱を与えられた彼への同情だ。
五分経って解放されるや否や青年はぺたんと床に手をついて荒い息を吐き、カノジョが駆け寄って助け起こす。
背中を撫でられながら、とぼとぼと去っていく姿が哀れめいて見えた。
ここまでカップルを悲しませる真似をしてくれる主催者は何様なのか。
最後まで姿を見せない相手に、源太は立腹する。
「ほれ、五分じゃ。とっとと去れ」
ぞんざいに解放されて、源太は照蔵に尋ねた。
「ホイホイ悪の手先になりよって。楽しいか?恋人のいる若者を苦しめる悪行は」
「言うな。儂は罠に嵌められたのじゃ」と吐き捨てて、照蔵は視線を外す。
九十九を餌にされたんだとしても、照蔵には他の強制参加カップルと異なり、拒否できるチャンスがあった。
なのに拒否しなかったんだから、ボロクソ貶されても仕方のない立場である。
項垂れる照蔵に声をかけようかどうしようか迷った挙句、かける言葉が見つからなかった吉敷は扉を出ていった。
「……そっか。あの三人と知り合いな人も、いるんだ。知らない人よりは知り合いで通過したいよね」
したり顔で呟いたティーガに、坂井は忠告しといてやる。
「だったら知り合いとして忠告しておくが、タンタンだけは、やめておけ。胸以外も弄られて変な声をあげるハメに――」
「やぁっ、やめろッ!」
大声での悲鳴に誰もがハッとなって、そちらを見た。
褐色肌の少年が、床に手をついて大きく喘ぐ。
その横ではタンタンが誰かに怒られている。
「触っていいのは胸だけだと申し上げたでしょう。それ以外はNG、従って今の喘ぎは無効とします」
「てへっ☆ごめんなさーい、だって意外とスベスベで綺麗な身体だったから、あそこもどうなのかな〜って!」
タンタンは舌など出してウィンクしており、全然反省していない。
少年は両目に涙を浮かべて、嫌悪で体を震わせた。
「こんな、こんな、とこっ……知らない奴にベタベタッ触られるなんて……」
「物言いでござる!拙者の相棒が精神的被害を受けたで候。この屈辱、粗品一つでは許されぬと知れィ!」
少年を庇う位置で騒いでいるのは巨大な鳥だ。
どう見ても鳥なのだが、人の言語をしゃべっている。
二人の前に膝をついたのは、先ほどタンタンに注意していた男だ。
「申し訳ございません。監視役の私が油断していたばかりに、そちらの方への無礼を許してしまいました」
「ヌヌヌ、無礼と言ったらスカイの胸に拙者の許可なく触れること自体が無礼でござる!」
プンスカ怒る鳥の前に差し出されたのは、真っ赤な断面を見せる肉の山だ。
「粗品の他に、こちらもお付けいたします。どうか、これでご容赦を」
ごきゅりと喉を鳴らして勘弁してやろうとした鳥にマッタをかけたのは、ビアノであった。
「物品で手を打つだなんて、随分と軽い愛ですこと。そんな安い男がダーリンじゃ〜、タンタンが触っただけで喘いじゃうわよね、あんたの恋人も!」
まんまと挑発に煽られて、鳥は泡を食う。
「せせせ、拙者とスカイは恋人ではござらんっ!親友でござる!!」
否定する割に目は動揺で泳ぎまくり、親友以上の感情があってもおかしくない反応だ。
「違う、さっきは突然触られたんで驚いただけだ!感じてなんかいないっ」と否定するスカイにも、ビアノの煽りが飛んでくる。
「へぇ〜。じゃあ、なんだったの?乳首コリコリされていた時のエロやらしぃ喘ぎ声は」
「あ、喘いでなんか……ッ。喘いでなんか、いない」
少しばかり勢いの落ちたスカイを見やり、ビアノはニヤニヤ笑いを浮かべて煽り倒した。
「へぇー。まっ、口先だけなら、なんとでも言えるわよねェ。あんたタンタンに乳首弄られている時、声だけじゃなくてビクビク身体も震わせていたじゃない。あれって、やっぱり感じてたんでしょ?」
「そ、それは……!」
言葉に詰まる相棒を庇って、鳥が横入りした。
「しつこく何度も触られたら、誰でも感覚がおかしくなるで候!生理現象でござる!」
「なら」と、ビアノは嫌な流し目で鳥を睨む。
「あんたがやったって喘ぐわけよね?あ、でも無理か〜。あんた、指ないし」
鳥であることの指摘に鳥自身がキレるよりも先に、スカイが行動を起こす。
ぱふっと鳥の羽根を己の胸に当てて、可愛らしくおねだりしたのだ。
「……リンタロー。お前には指がなくても、嘴と羽根がある。この二つで俺を気持ちよくさせるなど、お前だったら朝飯前だろ?」
およそ普段の真面目な彼からは考えられない言動で、リンタローは、これまで以上に慌てふためく。
「えっ。えっ、でも、いいんでござるか?スカイは、その、マナルナの事が」
「マナルナは今、関係ない。お前にやってほしいんだ、リンタロー」
本音じゃリンタローにイカされるなど冗談ではないのだが、知らない人にやられるのと比較したら、友達のほうがマシだ。
「で、では……失礼いたす」
さわさわと、最初は撫でるように羽根がスカイの上を幾度となく行き来する。
次第に乳首の根元、先端と優しく触れては離れてを繰り返されて、くすぐったさに「んっ……あっ」と小さく声をあげるスカイには、リンタローの興奮も高まった。
羽根のスピードがグングン速まり、何度も乳首を擦られて「あっ、やっ」と喘いだスカイが、ぎゅっと首筋に抱きついてくる。
「拙者、拙者、もう、我慢の限界でござるっ……!」
不意にカプッとリンタローがスカイの乳首に噛みついた。
勿論、甘噛みだ。
言葉にならない喘ぎ声をあげて、びくびくと身体を震わせながら、スカイはリンタローにしがみつく力を緩めない。
今や会場全体が二人の行為に見入っている。
モミモミ係の三人までもがスカイのあげるエロやらしい喘ぎ声と、リンタローの鬼気迫る愛撫に釘付けだ。
ちゅぅっとリンタローがスカイの乳首を吸った辺りで、ようやく終了の合図がかけられた。
「……失礼。つい、私も見入ってしまいました」
終了させたのは、監視役を名乗っていた男だ。
テレ隠しにゴホンと咳払いして、二人に粗品を三つ渡す。
「まことの愛、じっくり堪能させていただきました。ありがとうございます」
「……今日見たことは、あとで全部忘れろ。いいな!?」
頬を真っ赤に火照らせて早足で出ていくスカイを追いかけて、リンタローも「スカイ〜帰ったら、この続きを!」とウキウキした足取りで扉を抜けていった。


こうして。
途中途中にハプニングを含みつつもカップルたちは順調に扉を潜り抜けていき、スタッフに選ばれた面々が扉を潜り抜けたのを最後として、ようやく謎のクリスマスパーティは幕を閉じた。
今、会場に残るのは笹川が一人だけ。
繰り返しテレビに映る何かを見ては、フヒフヒ喜んでいる。
「ゲッヘっへ。いい絵が撮れましたなァ。こりゃ〜次のif闇鍋もエロが捗りますわい」
映されているのは、各会場でイチャコラしあうカップルの情事模様だ。
「裏で売っても、ひぃふぅみぃ……いいプレゼントになりますわ。センキュー!」
いなくなって久しい参加者へ礼を述べると、音もなく何処へと瞬間移動で去っていった。

End.

Page Top