2009年クリスマス企画・闇鍋if

ドキッ!子供だらけのクリスマス

バカ四人編

テーブルについて、顔や手をベッタベッタにクリームだらけにしながらケーキを貪っている子供がいる。
子供の真正面に陣取ったキーファは今、人生最大の春を胸の内に感じ取っていた。

――はぁぁっ、可愛い!ソロン可愛いよソロンッ

呪術師の詛いで子供と化したのは、キーファの仲間内ではソロンだけだった。
キーファが子供の姿となったソロンを見るのは、別に珍しくも何ともない。
幼い頃から、ずっと一緒に育ってきた仲だ。
だが今のソロンは、ただの子供ではない。
何故か胸はほんのりと膨らみ、顔にも微かな色気を感じる。
ソロンは年の頃、十七かそこらの少女と化していた。
少し目つきが鋭いところもあるが、それはそれでまた美しい。
このまま育てば、立派な美人になるであろう。
いや、まぁ、実際に育つことはないんだけど。
ソロンが子供になったのも女の子でいるのも、全ては今夜限りの詛いだから。
女の子になったというのに、いつもの薄手のシャツを着ている。
そんな無防備全開なところも、キーファの欲望をくすぐった。
「なっ、なぁ、ソロン。おいしいか?」
鼻息荒く尋ねてくるキーファに、ソロンが頷く。
「あァ」
そして、ペロリと手についたクリームを舐め取った。
「ソッ、ソロン」
さらに、ずずいと席を進めて身を乗り出すキーファ。
「ク、クリームが、あちこちについてマスヨ?」
何故か後半敬語だ。同い年の幼なじみなのに。
「ン、あァ、ちッと行儀悪かったかな?」
言われて初めて気づいたかのように、ソロンが自分の腕や服を見渡した。
「なにしろティのケーキが、うまいもンだからよ」
ソロンがベッチャベッチャに食い荒らしたケーキは、ティルの作ったシロモノであった。
クリスマスを祝うなら、なにはともあれケーキだぜ!
――というシャウニィの言葉に従って、山ほど作ってくれたのだ。
ティルは今も、台所で料理と格闘している。
今はきっと、チキンを焼いているのだろう。
香ばしい匂いが、台所の方面から漂ってくる。
その隙を狙って、キーファは無心にケーキを貪るソロンへ接近した。
ティルとシャウニィが台所から戻ってくるまでの間だけでも、ソロンを独り占めしたいが為に。
「むッ、胸元にもついてるぞ……クリィムがッ」
ソロンの胸の谷間にクリームを発見して、キーファの鼻息は、ますます荒くなる。
「ソ、ソロン、ふふふふ、拭き取って、アゲマスヨ?」
血走った眼で伸ばしてくるキーファの手をかいくぐり、ソロンはティルにおかわりの催促。
「ティ、ケーキがなくなッちまッた!次の飯は、まだか?」
だが催促の瞬間、後ろを向いたのは拙かった。
野獣の如き速さで飛びかかってきたキーファに椅子ごと押し倒され、ソロンは嫌というほど頭をぶつける。
「ンがッ!」
目の中に星が飛び散る。が、痛がってもいられない。
胸元に首を突っ込んできたキーファがレロレロと鼻息も荒く舐めてくるもんだから、可哀想にソロンは総毛立ってしまった。
「て、テメェ!何してやがるッ、はっなっれっろーッ!!」
ジタバタと藻掻くも、かたや十代の小娘と化してしまったソロン。
それに対するのが二十代男性のキーファでは、腕力に差がありすぎる。
「ハァハァ、ソロンおいしぃよぉぉ、あ、ここにもクリィムがツイテマスヨ?レロレロ」
などと言いながら、キーファはソロンの両手をがっちり押さえつけて、胸元に舌を這わせてくる。
くすぐったさよりも気持ち悪さ。
気持ちいいよりも、気持ち悪さ。
とにかく気持ち悪いという感覚が、ソロンの全身を駆けめぐる。
なにせ体は少女といっても、ソロンの中身はきっちり成人男子だ。
たとえ中身も少女だったとしても、血走った眼の男に押さえつけられて舐められたくなどない。
「てめッ、この変態!キーファてめぇは、少女趣味だッたのかよ!?」
「チガウヨー、ソロンだからだよぉ、レロロロロ」
「俺だからだと!?相手が俺だッたら、何だッていうンだ!」
ソロンの頬についたクリームを、べろべろと舐め落としたキーファが答える。
「お、俺さ、お前のこと……ずっと前から好きだったんだぜ……?」
ちらっと視線を外して、頬を赤らめてみせる。
これで落ちる女がいたら、見てみたいものだ。
ましてや相手は元々男のソロンである。つられて照れるどころか、ドン引きだ。
「ずっと前から?じゃあ、テメェは俺が男のカッコしてる時から好きだッたッて」
「そうだよソロン。ハァハァ、もうキスしちゃっていい?いいよね、俺達幼なじみダモン」
「何がイイヨネだ!いいわきゃねーだろうがッ!!」
「チュゥゥゥ〜〜ッ」
迫り来るタコクチを避けるすべもなく「ギャアアアアア!!」とソロンの絶叫が木霊する。

間一髪。

二人のキスを妨げたのは、ティルによるブーメラン攻撃。
……もとい、チキンの乗ったお皿が台所から飛来して、キーファのドタマに命中した。
「騒がしいと思ったら、一体何をやっているのよ二人とも!」
怒るティルは両手を組んで、仁王立ち。
彼女の背後には、シャウニィの姿もある。苦笑いを浮かべていた。
「大人しく待つこともできねーのか?こ〜のハイエナどもが」
ハイエナと罵られても仕方がないほど、テーブルの上には食い荒らされたケーキの欠片が残っている。
シャウニィとティルが食べる暇もなく、大量のケーキはソロンの胃に収まってしまったようだ。
よいしょっとキーファを押しのけて起き上がってくると、ソロンは床に落ちたチキンを拾い上げる。
「だからッて皿を投げるこたァねーだろが。見ろよ、チキンが台無しだ」
皿が命中して気絶したキーファのことも、たまには庇ってあげて下さい。
台無しと言いつつ、拾い上げたチキンを口元に持っていくもんだから、ティルが慌てて止めに入る。
「だ、駄目よソロン。床に落ちたものは、もう一回火を通して消毒しないと」
だが制止を振り切ったソロンはチキンの足を頬張ると、ティルに片目を閉じてみせた。
「なーに、平気だろ。こンだけ焼いてありゃあ」
何が平気なんだか、さっぱりだ。
ティルは呆れて、ソロンのそばに座り込む。
「もう。少女になってもソロンはソロンなのね」
「そりゃそうだろ。こいつみたいに襲いかかッてくるほうが、おかしいンだ」
ノビているキーファを足で突き、ソロンも溜息をついた。
「んーでもまぁ、お前、結構可愛いランクに入ると思うぜ?」とはシャウニィの弁。
ソロンを上から下まで眺め回した挙げ句、いきなり近づいてきたかと思うと、シャツをめくりあげた。
ぽろんっと可愛い胸がお目見えして、当の本人よりも慌てたのはティルで。
「ちょ、ちょっと!何いきなり脱がしてんのよ、変態!」
パッと両手で胸を掴まれて、掴んだ拍子に指が乳首に軽く当たる。
変な感じがした。キーファに舐められていた時は、気持ち悪いとしか思わなかったのに。
「オイオイ、隠すなよ〜。ソロンちゃんってば美乳じゃん、誰かさんと違って」
「誰かさんって、誰よ!?」
カッとなるティルの、両手に力がこもる。
恐らくは無意識なんだろうが、ぐにぐにと胸を揉まれて、ソロンは体が熱くなるような錯覚を覚えた。
「ティ、ティ、手を……」
離してくれないか、と頼む前に、またもやシャウニィが余計な一言を漏らす。
「なーティル、俺と立ち位置変わってくれねーか?」
「な、なんで?」
「俺も揉んでみたいんだよ、ソロンちゃんの胸は揉みでがありそうだからよォ〜」
途端に逆さ眉毛を釣り上げてティルが叫んだ。
「変態!」
同時に力一杯、両胸を握りしめられたソロンも、痛みで叫びをあげる。
ぎゅっと握られただけでも女の人の胸が、これほど痛みを感じる部分だとは知らなかった。
「ティ!手を離してくれッ」
叫びが尋常ではないと感じたか、「あ、ごめんなさい」とティルが慌てて手を離す。
掴まれていた処は赤くなっていたが、すぐに元の色へと戻った。
間髪入れずに今度は黒い手が伸びてきて、胸の先端だけを摘み上げる。
きゅっと摘まれた瞬間、ソロンの体に震えが走った。
思わず恥ずかしい声が出そうになり、自分のクチを両手で塞ぐ。
「へっへ、ソロンちゃんチクビ立っちゃってんじゃねぇか。そんなにティルに胸を揉まれたのが気持ちよかったってか?」
くりくりと乳首を弄くるダークエルフに、ティルの堪忍袋はまたも爆発。
「何やってんのよ、もぉー!ソロン、嫌がってるじゃないの、やめてあげてっ」
後ろから羽交い締めにするも、シャウニィの愛撫は止まらない。
ふぅっと耳元に生暖かい息を吹きかけられただけで、ソロンは身震いした。
下半身が熱いのは、シャウニィに抱きかかえられているせい?
それとも彼の指が、ズボンの中にまで忍び入ってきたせいか――
やられている行為はキーファと同じなはずなのに、抗うことができない。
胸の先端を弄られた瞬間から、頭の中が白い霧で包まれてしまったように感じた。
黒い指が顎を持ち上げ、ソロンの口内にシャウニィの舌が滑り込む。
「ンッ、うぅッ」
ぬめりとした感触。
キスされているのだとは判ったが、しっかり抱きかかえられていては身動きも取れない。
このままダークエルフの思うがままにされてしまうのか。
危うしッ!ソロンの貞操や如何に。
……しかし、運は彼に味方した。
いきなりのキスに仰天したのがソロンだけではなかったことが、不幸中の幸いであった。
自称彼の恋人であるティルは勿論、気絶から立ち直ったキーファも大逆上。
「てんめぇぇぇ!ソロンにチューするのは、俺の特権だぁぁぁっ!」
真横からはナイフが飛んできて。
「何言ってんのよ!ソロンにキスしていいのは、私だけなんだからぁ!」
さらに背後から首をギュイギュイ絞められては、さしものダークエルフでも対処できまい。
「ギャース!!」
情けない悲鳴をあげて床に転がると、脇腹に刺さったナイフを泣く泣く抜きにかかる。
その間にソロンを救出したキーファが、さっそくタコクチで迫り狂った。
「ソロン、口直しに俺とチューだ!」
レロレロと舌を怪しく動かしながら迫るキーファを、限界まで仰け反ってかわすソロン。
「いッやッだッ!だァれが、テメェなンかとキスするかァ!!」
「なんだよぉ、シャウニィとはキスしたくせに!そんなに俺が嫌いなのかぁソロンッッ」
それを言われると痛いが、言うなればシャウニィとだってキスしたくなかったのだ。
なのに無理矢理されちゃったというか、キーファと比べると傷は浅いような、そんな感じ。
キーファには全力をかけてされたくないと思う反面、シャウニィなら仕方がない。
そんな風に考えている自分が自分の中にいることに、ソロンは自分でも驚いていた。
だが、断じてシャウニィを好きなわけではない。
彼が欲情するのは異性だけであり、そこんところを勘違いされては困る。
床で血塗れになって転がっている、そこのダークエルフは自重するように。
キーファのことだって、嫌いなわけじゃない。
「ち、ちがうッ。俺は、お前と、ずッと友達で居たいンだ!」
友達として見るなら、ソロンにとって親友はキーファ以外に考えられない。
だからこそ、血走った眼で鼻息荒くチューされるなど御免なのである。
背中に回されたキーファの手が、先ほどからズボンの尻、正確には尻の割れ目をなぞってくる。
股間に押し当てられた熱くて堅いモノと相成って、気持ち悪さも倍増だ。
ちょっと女の子になったぐらいで、何この下半身直結っぷり。
キーファもシャウニィも美人だと言うが、自分では納得のいかないソロンであった。
だって、いくら美人になったと言ったって、俺の心は男なんだぞ?
「ソロンから離れなさいよぉぉぉ!!」
悪鬼羅刹の表情で、ティルがキーファに飛びかかる。
シャウニィの首を絞めた時よりも強い力で、キーファの首をギュイギュイと絞めた。
「ぐぼあぁぁ!」
キーファの顔面は瞬く間に赤から青へと変わってゆき、やがてバタリと倒れ込む。
ティルの完全勝利が決まった瞬間であった……


床に散らばった皿の破片や料理を拾い上げながら、ティルがぶつぶつと愚痴をこぼす。
「もう、皆ひどいわ。クリスマスが台無しよ」
かと思えばソロンへ向き直り、ぎゅっと抱きついてきた。
「ごめんねソロン。来年こそは、ちゃんとしたクリスマスを祝うから」
ちゃんとしたもなにもクリスマスの知識を持っているのは、四人の中ではシャウニィだけ。
今年だって、やったことといえば、ケーキを沢山食べたぐらいだ。
普通に食べ放題のパーティーと、なんら変わらない。
ちゃんとしたクリスマスって、どんなのなんだろう?
ソロンが首を傾げている間に零時を告げる鐘が、何処かから鳴り響いてきた。
自分の体を満足げに見下ろして、男に戻っていると確認したソロンはティルに話しかける。
「なぁ、ティ」
「なに?」
「風呂、行ってこようぜ?キーファに舐められたンで、気持ち悪くてたまらねェや」
まぁ、そんなわけで。
立ち上がったソロンはティルの肩へ手を回すと、颯爽と歩き出したのであった……

++End++

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