2008年クリスマス企画・闇鍋if

ご主人様と私

??×ソロン編

「で。俺の相手は誰になるンだ?」
「それなんだけどねぇ〜。ヨセフがいいかなって思ったんだけど、あいつよく考えたらHOMOじゃん?お前が女の子になっちゃったって言ったら、アイツ断りやがったんだよね。ったく、使えねぇー( ゚д゚)、ペッ」
亜空間にて、笹川とソロンは向かい合って話していた。
メイド服を着せられ、下着まで女性ものに変えられても、ソロンは余裕の笑みを保っていた。
というのも笹川が言うように、彼には特定の相手が――男性の相手が、いないと自分でも判っていたからだ。
言うまでもないが、ヨセフは男好きの筋肉好きで変態だ。
女の子には興味がないから、ティルも彼を恋人対象にしていなかったのだろう。
今のソロンは女体化光線により、女の体に女の顔を持つ、まごうことなき一人の女性と化している。
これではヨセフの食指も動くまい。
あと主要人物で男性といえば、ロイス王やギルドの受付員。
それからシャウニィやウォーケンも考えられるが、彼らが出てくるとは思えない。
シャウニィなんて今のところは全くのチョイ役でしかないし、ウォーケンに至っては道案内役。
ギルドの受付員はあれで出番も終わりだし、王だってソロンのことが特別好きという描写もなかったはず。
「相手がいないンじゃ、企画倒れだよな?ッてわけで、そろそろ男に戻してくンねーか?」
だが、笹川の会話はまだ終わっていなかったようだ。
彼はニヤリと笑うと、何もない空間に扉を出現させ、こう言った。
「だから、女の子が好きだっていう人を特別に呼んでみました」
まさか。まさか、ちょい役でしかないはずのデブオヤジ、ギルドの窓口を呼び寄せたのか!?
思わず、背筋に悪寒を走らせるソロン。
だが――扉が開き、入ってきた人物を見て、彼はホッと溜息をつく。
「なンだ……ワルキューレじゃねェか」
「なんだとはなんだ、相変わらず失礼なヤツめ」
眉太騎士のワルキューレは凛とした男前だが、こう見えても実は女性である。
そのワルキューレが呼び出されるとは、一体どうしたことだろう。
首を傾げるソロンに対し、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま、笹川が告げた。
「ワルキューレたんは、女の子が好きなんだって。お前がオナゴになったって言ったらさぁ、喜んで相手になると引き受けてくれたんだよね(≧∀≦)」
そしてニヤニヤ笑いのまま、ドアを抜け、笹川は空間の向こうへ消えていった。

「な」

驚きのあまり硬直するソロン、その肩を優しく抱き寄せると、ワルキューレは耳元で囁いた。
「ほぅ……貴様の女体化というから、あまり期待はしていなかったのだが……なかなかどうして、凛々しい姿ではないか。美しい、そう言い換えても良いだろう。ティとは違った趣がある」
そう。やや目つきが鋭い事を除けばソロンは、なかなかの上玉。つまりは美人であった。
長い髪を下ろし、額には、いつもの額当てをつけている。
額あてをつけたメイドというのは変わっているが、それはそれでアリな気もする。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待てぇぇぇい!!!!」
「ん?なんだ、どうしたソロン。私が女だからといって、恥ずかしがることはないぞ」
じたばた暴れて騎士団長の魔手から逃れると、ソロンは泡くって怒鳴り散らした。
「おま、おまえ、女だろ!?しかも、お前はティのことが好きなンじゃなかッたのかよ!」
コホンと咳払いを一つして、騎士団長は凛とした瞳をソロンへ向けた。
「無論、ティのことは今でも好きだ。だが……ここは所詮、異次元。所詮はif世界なのだ、ここなら私が浮気をしようと彼女の耳に入ることもあるまい」
全然答えになっていない気がする。ソロンは重ねて尋ねた。
「そーじゃなくて!浮気以前に、お前は女だろうが!」
「そうだが?それが、どうかしたか」
「なンで女が好きなンだよ!」
「貴様とて、普段ならば女を好むではないか。私が女を好きになって、何が悪い」
……ダメだ。
根本的なところから、騎士団長様はズレている。
女好きの女に、男好きの男。つくづくティルの幼なじみは変態ばかりで、嫌になってくる。
「安心しろ。私は男ではないから、貴様の処女を奪うことはできぬ」
「怖いこと、さらりと言ってンじゃねェェェ!!」
「だが、気持ちよくさせることならば可能だ。ソロン、今宵は女同士の愛を教えてやろう」
「いらねェ!知りたくもねェ!!結構だ!!!」
ぐるぐると部屋の中を追い駆けまわされたあげく、ついには壁際でとっつかまり、ソロンは再び抱きしめられる。
「だぁぁぁッ、離せ!第一、テメェは俺の事が嫌いなンじゃなかッたのか!?」
「あぁ、普段の貴様ならばな。だが、今の貴様は……美しい。美しい女性は嫌いではない、むしろ好きだ」
「ぞああああああ!く、首筋に息を吹きかけンじゃねェッ!!」
もぞもぞ暴れているのだが、腕力が並以下になってしまったのか、全く騎士様のホールドを振り解けない。
「では、第一レッスンだ。まずは言葉遣いを改めてもらおう。俺にタメ語では、貴様のせっかくの美しさも損なわれてしまうからな」
「うるせェ!損なわれて結構だ、誰がテメェを喜ばせてなンかやるもんかよ!」
怒鳴るソロンだが、その唇を無理矢理奪われ、目を白黒させる。
あのワルキューレが。俺を世界一嫌っているはずの彼女が、キスだとぉぉ!?
残念ながら、本当に残念なことに顔だけはソロンの好みをいくワルキューレが相手では、さすがのソロンも平常心が保てない。
悲しき生理現象というやつで、頬は熱く火照り、心臓はバクバクと脈打った。
赤くなるソロンを見て、満足そうにワルキューレが薄く笑う。
「貴様が私の顔を見て照れるというのは、男の時の状態で知っていたからな。どうだ、恥ずかしくてたまらぬだろう!」
いじめにきたのか、それとも可愛がりに来たのか。
これはもう、絶対に前者だ。
「まぁ、貴様に言葉遣いを強制するのは、猿に言葉を教えるよりも困難であろう。よって言葉遣いは、そのままでも構わぬ。私としては、貴様のよがる顔が見たくて此処へ来たのだ」
「な、何言って、この変態女が!」
とんでもない告白に、しかしソロンの顔は言葉とは裏腹に赤みを増す。
なまじ顔が好みなだけに、この後が大変だ。理性で本能を押し止められれば、よいのだが……
必死なソロンを見て、ワルキューレが含み笑いを浮かべる。
「な、何笑ってンでェ!テメェ、本気で性格悪ィぞ!?」
「ふふふ。私に、そのような口を訊いて良いのか?第二レッスンは、たっぷりと悲劇を味わわせてやるからな」

第二レッスン?
あれ?
確か、二番目って……

ソロンはホワイトボードの記述を思い出し、不意にニヤリと微笑んだ。
「へェ……女のお前が、俺を悲劇にねェ?」
二番目は確か、このような内容であったはずだ。

おかえりなさいませの第一歩は、ニャンニャンから(´Д`*)

「やれるもンなら、やってもらおうじゃねーか」
不敵に笑うソロンへ、ワルキューレも不敵に微笑む。
「いいだろう。油断していると、泣きを見るぞ?ソロン」


不安だらけなのに、あえて虚勢を張るソロンを置き去りに、ワルキューレは戸棚を漁っている。
今のうちに逃げられないかと空間へ目を彷徨わせたが、入ってきたはずの扉は勿論のこと、窓すら、この部屋には存在しないようだ。
「……くそッ」と悪態をつくソロンの元へ、騎士団長様が戻ってくる。手には、怪しげな物体を携えて。
「ソロン、面白いものを色々と見つけたぞ」
ぽいっと手渡されたモノを一瞥し、ソロンはぷいっと視線を逸らす。
「何かと思えばクスリかよ。つまんねェ」
薬物の類なら、組織に居た頃は見慣れたものだし、今さら驚いたりビビッたりするような代物でもない。
次いでワルキューレが手の中で弄んでいる物体にも目をやり、彼はふてぶてしく罵った。
「マッサージ棒が、そンなに珍しいのかよ?騎士団長様も、案外童心だなァ」
だが彼女はフフンと鼻で笑い、「マッサージ?違うな」とピンク色をした、手の中のモノに電源を入れる。
途端に、ブゥゥン……と低い音をたてて振動し始めた物体に、ソロンのほうが肝を抜かされてしまった。
「ハハハ!本気でマッサージ棒だと思っていたのか。甘い、甘いぞソロンッ!これはだな、えぇと」
付属していたのであろう紙切れを取り出し、ワルキューレは棒読みで読み上げる。
「えぇと……先端部に振動源が内蔵されていて、振動パターンが10種類もあるそうだぞ!」
彼女の手の中で、ワームのような形をした怪しげなピンクの物体はブルブルと震えている。
が、これを使って具体的に何をどうすればいいのかは、ソロンにもワルキューレにも謎なのであった。
悲しいかな、所詮は機械のない国の住民である。
「……で、それが何だッてンだよ?」
呆れたソロンが尋ねると、彼女は手でパシパシと棒を叩いた挙げ句、こう述べた。
「そうだな……振動する部分を体に当てれば、いいのではないか?」
「体に?」
「そうだ。例えば、ここになッ!」
ビシッと股間に突きつけられ、「ひゃあう!」っと情けない悲鳴をあげたソロンは、慌てて飛びずさる。
振動部分が触った瞬間に来た振動は快感と言うよりも、ただひたすら気持ち悪くて二度と食らいたくない代物であった。
「なっ、何しやがンだ、いきなり!!」
「あははは!今のは本気で可愛い悲鳴だったぞ、ソロン!」
騎士団長殿は腹を抱えて笑っていて、ソロンの心を余計に逆撫でした。
「そンな気持ち悪ィもん、いきなり突きつけられたら誰だッて驚くに決まってンだろうが!」
プンスカ怒るソロンを横目に、ワルキューレはまるで意に介していない様子。
「まぁ、待て。そう怒るな。他にも、こんなものがあったぞ」
取り出したのは、一本の鞭。先にトゲトゲがついている。
「罪人をしばくための武器だな」
悦に入る彼女へ、ソロンも言ってやった。
「お前にお似合いだぜ」
途端に機嫌を悪くしたワルキューレは、ぽいっと鞭を遠くへ投げ捨てる。
「失敬な。私は騎士だ、故に剣しか所持せぬ」
「だッたらハナから、そンなモンを拾ってくるンじゃねェや」
憎まれ口を叩くソロンの側へ近寄ると、騎士団長様は無言で先ほどのブルブル棒(仮名)をソロンの尻へ押しつけた。
「ひィ!」
再び情けない悲鳴と共に転がる彼の上にのしかかり、今度は胸に押しつけてくる。
胸の、それも先端が、棒から来る振動でブルブルと震えるたびに、甘い衝撃がソロンの体を駆け抜ける。
股間や尻の時には感じなかった快感に、ソロンは身悶えした。
「あ、あ、あっ……や、やめろォ!」
だが、やめろと言われてやめてくれる相手ではない。
「ほぅ、胸だと感じるのか……意外だな」
ワルキューレは意地悪な笑みを浮かべると、メイド服をめくり上げた。
形の良いバストが晒され、「ほぅ」と感嘆を漏らしたワルキューレ。
さらに先端だけをブルブル棒(仮名)で攻め立てる。
服の上からではなく直接の振動がソロンを襲い、痺れるような感覚に彼は激しく髪を振り乱した。
「んっ、くぅ……」
「はは、可愛いぞソロン。もっと声を出してみろ」
自分の声が彼女を興奮させているのだと判り、ソロンは手で自分の口元を押さえたが、つい出てしまう声は止められない。
こみ上げる悔し涙を押し留め、ぶるぶると小刻みに震えるソロンを、ワルキューレは面白そうに眺めていたが……
不意に振動のパターンを変えて、彼に囁きかける。
「どうだ、やめてほしいか?」
新たな刺激が体に加えられ、ビクゥッと弓なりに仰け反ったソロン。
しかし、まだ強気な姿勢は彼から失われてはいないらしく。
「あ、はぁっ、や、やめろッつッてンだろ……がぁッ」
涙に濡れた目でジロっと睨み、息も絶え絶えに応えた。
その言葉を待っていた、とばかりに、ワルキューレの口元に嫌な笑みが浮かぶ。
「――よかろう。では、私に懇願してみせろ。『ご主人様、どうか哀れな奴隷の私めに御慈悲を下さいませ』とな!」
いつから奴隷に降格?最初は確か、メイドという設定だったように思うのだが。
「て、てめッ、誰が誰の、奴隷ッ……ひァン!」
振動が強くなり、途中からソロンの怒号は悲鳴に変わる。
「意地を張っていると、振動の虜となってしまうぞ?いいのか、私の前で無様な格好を晒しても」
振動が激しくなるたびに引きつった悲鳴がソロンの口から漏れ、泣く泣く彼はワルキューレの命じたとおりに答え始めた。
「……ッ、ご、ご主人様……あ、哀れな奴隷……のわ、わたくしめに……ご、御慈悲を……あァッ!!」
最後まで言い切れず、快感に押し流されたソロンは、ぎゅぅっとワルキューレにしがみつく。
「おっと、手が滑ってしまった」
恥じらいと屈辱、そして怒りに頬を染めたソロンを満足そうに見下ろしていたが、それでもやっと満足したのか。
すっかり尖りきったソロンの乳首に嫌というほど棒の先端を押し当ててから、彼女はスイッチを切った。
「て……テメ、絶対……Sだろ、チクショウ…………」
ぜぇぜぇと息を切らせて睨みつけてくるソロンの事など一向に気にした様子もなく、ワルキューレは次に何をするか思案した。
「ふふん、私をティと同じ女と侮るなよ?私はティほど優しくも甘くもないからな。さて、次だが……」
上から下まで舐めまわすようにソロンを眺め回すと、彼女は思いついたことを口にする。
「本来の第二ステップは、貴様が私の体を愛撫する……なのだが、貴様に体を舐められるなど、私は御免だ。よって、この回は私が貴様を舐め回してやる。覚悟しろ」
「何ィ」
勝手に改変とか。どこまで自己中なんだ、この騎士様は。
だが、ソロンが嫌がろうがヤメロと絶叫しようが、ワルキューレが言うことを聞いてくれる訳もないのである。
「程よい大きさの胸だ。ティよりも大きいのではないか?」
モミモミといやらしく胸を揉まれ、カッとなって「お前はドコのセクハラ親父だ!」と怒鳴るソロンだが。
不意に騎士は真顔になったかと思うと、きりりと眉尻をあげて怒鳴り返してきた。
「……お前とて、こうしてティを傷物にしたのであろうがッ!」
予期せぬ反撃にソロンが言葉を無くした瞬間を狙って、ワルキューレは彼の乳房に吸いつく。
舌で尖った先端を舐め回し、チュゥッと音をたてて吸ってきた。
「あッ、こ、こらァ!俺は、ここまでやッてねェゾ!」
やろうにも、ティルの胸はちっちゃいから……って、そうではなくて。
女なんかに体を弄ばれるなんて、男としてのプライドが許さない。
いや、だからといって相手が男ならOKというわけでもないのだが。
ぞくぞくする快感に身を委ねちゃならねぇ、とばかりに必死の形相でソロンは抵抗を試みる。
ワルキューレの頭を両手で押さえ、引きはがそうと悪戦苦闘した。
が、マウントポジションを取られているので、ままならない。
一旦口を離すと、騎士は言い放った。
「無理矢理傷物にされる女の恐怖を、貴様も味わうがいいッ」
片方の乳房を吸い、もう片方の手で、くりくりとソロンの乳首を弄ってくる。
悔しさと何もできない無力に、ソロンの両目には涙が浮かんできた。
チクショウ。
卑怯だと判っていてするなんて、それでも騎士のやることなのか?
それに、お前は楽しんでやっているんだろうが、俺はあの時、ティルを――
いや。
どんなに理由をつけても、駄目だ。
理由をつけたところで、ワルキューレの言うとおり、俺はティルを無理矢理傷つけたことに代わりはない。
「ティ……」
小さく呟き、次にソロンの口から漏れたのは嗚咽であった。
「ティ、すまねェ……俺は、俺は……ッ」
ゆっくりと身を起こし、ワルキューレは泣きじゃくる彼を見下ろした。
だが、泣きじゃくる相手をどうこうするというのは、さすがにドSの騎士様でも多少は気が咎めるようで。
「……ふん。少しは反省したようだな?」
とってつけたように吐き捨てると、ソロンを解放してやった。
「ワルキューレ……」
すん、と鼻をすすって身を起こす彼を睨みつけ、騎士は重ねて言う。
「だが!第三ステップは、このように甘くはしてやらんぞ!」
まだやるんですか、そうですか。


「いつまでも泣いているんじゃない、鬱陶しい」
ぐいっと髪の毛を引っ張られ、ソロンは、うぅ、とか、あぁとか言葉にならない呻き声をあげる。
ふと人の気配に気づき、正面の壁を見上げてみれば、見覚えのある女性が突如出現した扉から入ってこようとしている。
それを見つけた途端、ソロンはパァァッと輝いた笑顔を浮かべて、彼女の名を呼んだ。
「ティ!」
「え?あ、あぁ……ソロン、ソロン……よね?あいつの言ったとおり、ソロンってば女の子になっちゃったのね!」
驚くティルへ駆け寄ると、ソロンは泣きっつらのまま抱きついた。
「ティ……ティッ」
「ちょ、ちょっと?どうしたの、もうっ」
ぐすぐす泣きながらしがみつく彼に意表を突かされるも、すぐさま原因と思わしき人物を目に留めたティルは、思いっきり逆さ八の字に眉毛を吊り上げた。
「ワールーキューレッ。……あなた、ソロンと二人っきりで、なぁ〜にやってたの?」
ティルが現れてから詰め寄ってくるまでワルキューレは全く呆然としてしまい、先制を許してしまった。
何故だ、何故ティルが、ここへ現れるのだ!おのれ笹川め、ティルには内緒だぉ(≧∀≦)とか言っておったくせにッ!
このままでは怒られてしまう。その前に、彼女へ言い訳ぐらいはしておかねば。
しかし、ごほんと咳払いして何かを言いかけるワルキューレを邪魔したのは、他ならぬソロン。
「ティ〜、ワルキューレのやつが俺を、俺を無理矢理ー」などと甘えまくって、ティルに抱きついている。
目の前でイチャイチャされるだけでも許せないというのに、それをティルが鵜呑みしてしまうというのも頭の痛い話だ。
現に泣きながら甘えまくる計算高いソロンの三文芝居に、ティルは、まんまと騙されている。
きりきりと眉毛を吊り上げ、憤怒の表情でワルキューレに怒鳴りつけてきた。
「あなたって人は!どうしてソロンを虐めたりするの!?」
「い、いや、その……虐めたりというわけでは、なぁ?」
「ティ〜、こいつは、俺の体を弄んだんだ。おっぱいも、ベロベロなめられて……ウェーン」
「こ、こら!何を話し始めるんだっ」
慌てるワルキューレとは対照的に、ティルの怒りはどんどんMAXへ。
子供が見たら泣き出しそうな顔で騎士を睨みつけたティルは、ぼそっと低い声で吐き捨てる。
「舐めた、ですってぇ?この変態っ」

変態っ!

「大体、相手を気に入らないからって、いじめるなんて……最低よ!」

最低よっ!

ティルの罵倒は何重にもエコーとなって、ワルキューレの頭を駆けめぐる。
こらえきれず「はぐぅぅぅ」と変な声をあげて床をのたうち回る彼女に、親友様は容赦ない。
「あなたが私に言ってくる『愛してる』っていう言葉も、なんだか信じられなくなってきちゃうなぁ〜。もしかして、ソロンにした嫌がらせみたいなのを、私にもするつもりだったの?どうなのかしら、変態騎士様!」
「ぐはぁっ!」
またしても変態騎士様の部分にエコーがかかり、ワルキューレはバッタリと倒れてしまった。
間髪入れず天井に穴が空き、そこから笹川とシャウニィが飛び込んでくる。
「もうやめて!ワルキューレのライフはゼロよっww」
「おいおい、親友だってのに容赦ねぇなぁ、ロイスの戦士様は」
シャウニィの手に握られているのは、例の性別変換装置だ。
ソロンは、さくっと嘘泣きをやめて彼に尋ねた。
「そいつを持ってきたッて事ァ、余興はもう終わりッてことか?」
早く男に戻りたい。そんな気持ちで問いかければ、残念なことに二人はニヤニヤしながら首を真横に振る。
「いやぁ?第二R開始だぉ( ^ω^)」
「そうそう、やっぱパートナーとはお互いに愛し合ってねぇとツマンネェしな」
などと言いながら、手元の装置をティルへ向けて構えるシャウニィ。
ハッとなるソロンだが、ティルのほうはよく判っていないらしく、ダークエルフへ詰め寄った。
「あなた達が、ソロンを虐めさせた張本人だったの?どうして、そんな――」
「危ねェ、ティ!避けろッ!!」

――忠告するも、一足遅く。
真っ向から光線を浴びてしまったティルは、男の子になってしまったのであった……

「ちょっとぉ、何なのよ!ソロン、ここから出るには、どうしたらいいの!?」
まんまとダークエルフにしてやられ、男となったティルは女ソロンと二人っきりで幽閉される。
ちなみにワルキューレは、笹川達が連れ帰っていった。
ティルは何もなくなってしまった壁や床をバンバンと叩いていたが、やがて疲れたのか、ベッドに座り込む。
「コトが全部終わるまでは、帰してくンねェらしいぜ。コレ……」
諦め気味に呟くソロンへ振り返ると、「コトって何?」と全く知らないといった感じでティルが尋ねてくる。
彼女は明らかに途中参加みたいだし、ルールを知らなくても当然だろう。
それにしてもティルのイケメンっぷりに、ソロンはちょっとだけ嫉妬を覚えた。
イケメンというよりはショタか。
くりんくりんの巻き毛に、垂れ目の瞳。お人形さんみたいで愛らしさ全開だ。
きっと街に出れば、年上の女性からチヤホヤされそうではある。羨ましい。
「えッとだな。このあとは二人で風呂に入って、ベッドインで終了だ」
「まぁっ」と赤くなったティルは爪を噛み、また憎悪を燃やし出す。
「ワルキューレったら、ソロンとそんなことを……」
あれ以上騎士様がダメージを受けても、それはそれで可哀想なので、ソロンは一応歯止めをかけておいた。
「まァ、あいつとなら女同士だし、ティとなら男女だし、別に問題ねェよな?」
「問題あるわ!」
問題あるのは、ティルとソロンだ。男女で風呂に入るなんて、フシダラな!
裸なんて散々見られてるじゃん、一緒にベッドインだってした仲じゃんと言うなかれ。
それはそれ、これはこれなのである。ティルの道徳心は複雑なのだ。
「いいじゃねェか、風呂には入ンねェと汚ェし……あいつにベロベロ舐められまくッたしなァ、俺」
確かに風呂は大事だ。ソロンの言うとおり。
「じゃ、私が洗ってあげるわね」
「おっと待った。その顔で女言葉は気持ち悪ィから、ティは男言葉で話せよ。俺は女言葉で話すから」
「え?そ、それもルールなの?」
「あァ」
今さっき、とってつけたルールだが、ティルはまともに信じちゃったらしい。
「わ、わかった。俺、頑張ってみる」などと慣れない男言葉で、ソロンを吹き出させた。
「も、もうぅっ、笑うなんて、酷いんだぜ?」
「わ、悪ィ」
「あ〜〜、女言葉になってないぞォ!」
減点一とばかりに頭を叩かれ、ソロンは言い直す。
「ゴメンナサ〜イ」
バカップル全開にイチャイチャしながら、二人は脱衣所へと向かった。

服を脱ぎながら、ソロンはちらりと隣のティルを盗み見た。
胸の大きさはナニの大きさに比例しているようだ。
となると、胸の大きさ=ナニの大きさということにもなりはすまいか?
「ティ、脱がせてやりますよ〜♪」
慣れない敬語でティルに襲いかかると、彼女はジタバタ暴れた。
「い、いや、いいよっ、お、俺は一人で脱げるからぁっ」
だが、いくら少女となったソロンでも、少年となったティルよりはタッパがある。
あっさり抱え込み、ティルのズボンを無理矢理脱がした。
ズボンを脱がしたついでにパンツも一緒にずり落ち、可愛いサイズのものが、ぽろんとお目見えする。
「いやんっ」
恥ずかしがってナニを隠すティルに、ソロンはニヤニヤしながら言ってやった。
「あらあら、ティ。女なのにチンチンを出すのは恥ずかしいんですかぁ〜?」
「は、恥ずかしいに決まってるだろ!?ココって、要は股間なんだからっ」
その通りである。
前に手を回し、クニクニと弄ってやりながらソロンは呟いた。
「しかし、ちっちェなァ〜」
抱きかかえられた格好のティルは真っ赤になって怒鳴っている。
「ち、ちっちゃいっていうなぁ!」
が、ソロンは気にせず、彼女を抱きかかえたまま風呂桶に飛び込んだ。
派手な水音と共に、勢いよく湯が流れ出す。
「ぷぁ〜っ、気持ちイイ〜」
喜ぶ彼に抱きかかえられたまま、ティルは騒ぎ立てた。
「駄目だろソロン、体を洗ってから入らなくちゃ!」
よくプールに行ったら準備体操しなくちゃと騒ぐヤツがいるが、ティルはそのタイプらしい。
「ばッか。風呂で洗いっこッてのは、風呂の中で洗うコトを言うンだよ……です」
キュッキュと玉を握ってやっただけでも、ティルは体を震わせ甘えたような声を出す。
「あぁうッ。そ、ソロン、駄目……だよぅ、そんなトコ握っちゃぁぁっ」
イヤヨイヤヨも好きのうちというやつで、握っていた袋を揉んでやると彼女はウットリと目を閉じた。
恐らくは無意識でやっているか、何度もソロンの名を呼んでは尻を擦りつけてくる。
そんな彼女の可愛い動きも、男の体というだけで、何故こうも萎えるのであろう。
――それはきっと、俺が男だからだ。
少々がっかりした処で、不意に思い出した。
そういえば風呂の前にもう一つ、何か設定されてなかったっけ?
「あ!いけねェッ」
急に大声をあげたソロンに、ティルも我に返って彼を振り仰ぐ。
「どうしたの?」
「風呂の前に食事だ!ティ、飯にしようぜ」
ポンと手を打ち、ソロンはザバァーッと立ち上がる。
いきなり湯船に放り出されたほうは、たまらない。頭から思いっきり濡れ鼠になってしまった。
「ちょ、ちょっと、ぷぁッ!か、顔にお湯がかかっちゃったじゃないのっ」
「ティは先に風呂入ってから出てこいよ。その間に俺が飯を作ッとく」
全然謝る素振りも見せないまま、ソロンはさっさと裸のまま台所へ。
無論、怒鳴るティルの大声を背中に受けながら。
「コラー!服を着てから台所へ行きなさーっい!」


髪の毛を洗って乾かして体を拭いて服を着替えたティルが戻る頃には、台所からも美味しそうな匂いが立ちこめていた。
だが、彼の衣類を持って台所へ一歩入った途端。目に映った光景が、ティルの思考をストップさせた。
「ハァ〜イ、ご主人様。どうですか、この格好。萌えますか?」
ソロンときたら、裸の上にエプロンをつけている。
布一枚に隠された彼の体は、見事なプロポーションで。悔しいことに、ティルより胸が大きかった。
「なんて格好してんのよ、もぅ!ソロンってば、そういうのが好きなの?そういうのに萌えるの!?」
キーッと癇癪起こして詰め寄れば、ソロンは片手でスープをすくい取り、口に含む。
ティルが顔を真っ赤にして怒っているというのに、全く気にしていないようだ。このマイペースさんめ。
「ンー、いい味だ。我ながらカンペキだぜ」
「ソロン……もう、全然演技してないじゃない」
呆れるティルのおでこをピンと指で弾き、ソロンは微笑んだ。
「そういうティだッて、さっきからフツーに話してるぜ?さ、席に着けよ。飯の時間だ」
「うん。ワーイ、嬉しいなー。メイドさんの手料理だ〜」
とか棒読みで言ってみたものの、ソロンの手料理が食べられるのは本気で嬉しい。
そもそも、彼が自炊を得意としている事すら知らなかったのだ。
「ソロンって料理、上手なの?」
尋ねてみれば、彼は大きく頷き、得意げに語り出す。
「組織じゃ皆が皆、料理を教えこまれるンだよ。一人でも生きていけるようにな」
「お母さんは……作ってくれなかったの?ごはん」
「まァな。色々忙しくて……ッて、ンなこたどうでもいいから食べようぜ」
彼はいつも、話が自分の過去に触れると話題を止めるか変えてしまう。なんでだろう?
そのことに多少不満を持ちながらも、ティルは素直に頷いた。
「うん……」
「ティは、どうなンだ?母親の飯って食べたことあンのかよ」
こんがり焼かれた鳥足を切りながら、答えるティル。
「当然よ。うちは、お母さんが毎日作っていたもの」
「そッか。じゃあ、父親は?父親は家で何を担当してたンだ」
「お父さん?お父さんは、外で働くのがお仕事だもの。家では……そうねぇ、朝のゴミ出しぐらいかしら?」
なにげに冷遇されているお父さん。がんばれ、超がんばれ。
「へぇ……父親の飯は?食べたことねェのか」
「まぁ、ねぇ……お父さん、御飯作るの下手だったし」
鶏肉の焼け具合は上々だ。皮もパリッとしていて、おいしい。
「前に一度、お母さんが風邪引いた時にね、お父さんが夕飯作ってくれた事があって……それ以来、お母さんの命令で、お父さんは台所への立ち入りが禁止されちゃったの」
あの時のお父さんの顔ときたら、今思い出しても笑えてしまう。
いつもは厳格なティルのお父さんだが、あの時だけは叱られた子供みたいにショボショボしていたっけ。
「ソロンは?」と聞いてしまってから彼にお父さんがいないことを思い出すティルだが、ソロンは嬉しそうに頷いた。
「父親ッてンじゃねェが、ボスの手料理なら食べたことがある。小さい頃に一度だけな」
「ボスが!?」
ボスというのは、彼が所属していた奴隷売買組織のリーダーである。
いくら愛人の子とはいえ、数多くいるであろう一人に手料理をこしらえるなど。案外アットホームな組織だったのか?
「俺があいつと……ダチの一人と喧嘩してしょげてる時に、飯でも食えッて誘ッてくれたンだ。うまかッたぜ」
「そ、そう……」
組織でソロンは可愛がられていたのかもしれない。特にボスは、彼にとってはお父さんかもしれない人なのだし。
「で、どうだ?俺の飯は。ボスほどじゃねェが、なかなかのモンだろ?」
「え?えぇ、とっても!おいしいわ、ソロン。すごいなぁ〜、剣だけじゃなくて料理も得意だなんて」
喜びながら口元の油を拭うティルへ、何の前振りもなくソロンが口づけてくる。
「むむぅ!?」
驚くティルの頬へ両手を添えて、ソロンはたっぷりと彼女とのキスを楽しんだ。
かと思えば、不意に唇を離し、ぎゅーっと抱きつく。
「な……なんなのよぅ、ソロン。一体どうしたの?」
あわあわと腕の中で慌てる彼女の耳元で、ソロンは囁いた。
「好きだ。ティ、お前のこと、ずっと好きでいたい……だから、一緒にいてくれるよな?俺と」
「あ、当たり前じゃないのよぅ。どうしたの?急に」
「なンか、急に寂しくなッちまッた……いつもは、こンなこと考えねェようにしてたのにな」
色々と組織のことでも思い出して、おセンチになってしまったのだろう。
目元に浮かんだ涙をグイッと拭い取り、それでも彼は強がってみせた。
「次は……風呂は終わったから、ベッドだな。行こうぜ」
「う、うん」
「……の前にィ」
ちらっと料理を一瞥し。ソロンは、ガバッと一気に残りの鶏肉全部を口の中へ放り込む。
そして「えぇぇ!?」と驚くティルの前で、恐るべき食欲パワーを見せつけてくれたのである。


二人分の食事を一人で平らげたソロンは、ティルを伴いベッドに寝ころぶと大きくゲップをして、彼女を嫌な気分にさせる。
「もぅ、女の子は人前でゲップなんてしないもの……なんだぜ?」
「へェ。じゃ、人前じゃなきゃしたりするンですね?ご主人様も」
「しないわよっ!」
素で怒鳴ってから、ティルはコホンと一つ咳払い。
だらしなく寝ころんだソロンの、めくれ上がったエプロンを直してやりながら、彼に尋ねた。
「そ、それで……ベッドインするのはいいんだけど、どうするの?これから」
「どうするの?って、男と女がベッドに入りゃ〜やることは一つじゃねぇですか、ご主人サマ」
大あくびしながら、みっともなく大股を広げる彼の太股をピシャリと叩き、ティルがむくれる。
「わかってるわよ、それぐらい。私が聞きたいのは男女逆転してても、やるつもりなのかってこと」
「ティがやりたいなら、俺はつきあうぜ。もっとも……」
ちらりと流し目でティルを眺め、ソロンは小さく溜息をついた。
「……俺からお前に手を出せと言われても、やる気になンねぇけどよ」
いくら体が女になったからって、男を好きになるはずもなく、心は男のままのソロンである。
ティルが女の体のままなら、このまま朝までエッチなことをし放題なのだが、今の彼女は男の体。
これじゃ気持ちも萎えるというものだ。テノールな少年の喘ぎ声を聞く趣味など、ソロンにはない。
古今ホモレズが多いとされるファーストエンドにおいて、彼は異性にしか興味を持たない青年であった。
さっきティルの体を弄くってやった時、それが自分でも嫌というほど判った。
「それに……最終種目は『ベッドでメイドさんを弄ぶ』ッてンだ。つまり、お好きにドウゾ」
ピラピラとエプロンの裾を持ち上げニヤニヤするソロンに呆れ、ティルは大きく溜息をつく。
ドウゾと言われたって、ティルも女の体に興味ない。
こういう場合、ワルキューレなら喜んで引き受けるんだろうけど――
そう思った瞬間、何故彼女がココにいたのか全て理解できたような気がした。
「ソロンじゃなくても良かったんだわ。あの子……女の体を持つ相手なら誰でも良かったのね!」
「ンあ?」と身を起こすソロンへ向けても、ティルは憤る。
「ワルキューレよ!あの子は、あなたという人格を無視して体だけで楽しもうとしたんだ……フケツな考えだわっ」
急に怒り出した彼女をソロンはポカンと見つめていたが、やがて興味も失せたのか再びゴロリと横になる。
ワルキューレのことなど、今さらどうでもいい。あいつがリタイアして俺は平和になった、それでいいじゃないか。
何気なく彼は尋ねる。
「なァ」
「なに?」と振り返ったティルへ「男の体になッても、感じる場所は一緒なのか?」と尋ねる。
途端に真っ赤になって「なっ……!」と絶句する彼女に近寄ると、シャツを捲り上げて真っ平らな胸を眺めた。
「ちょ、ちょっと!何やってるのよ!」
ティルは慌ててシャツを元に戻し、胸を両手で隠す。
「ハハッ。隠す必要ねェだろ?男なンだから」
笑うソロンへピシャリと言い切った。
「心は女だもん!」
「上も下も恥ずかしいッてか。俺は別に、上を見られても恥ずかしかねェがな」
「それは、ソロンが男だから!女の子だったら恥ずかしくて、そんな格好できないわ!」
と、ティルは裸の上にエプロンを指摘する。
まぁ、確かに。好んで、こんな格好をするような女はソロンだって、お断りだ。
女の子は、やっぱり羞恥心がないと。
ベッドに寝ころんだまま、ソロンは天井へ話しかける。
「――ッてワケだ!俺達は同性にゃ興味ねェンで、そろそろ元に戻してくンねーか?」
あの人達、まだ天井に潜んでいるの?と訝しがるティルを手で制すると、なおも、いるであろう人物へ呼びかけた。
「俺とティが乳繰りあうのを待ってるンだろうが、ティは女の体にゃ興味がねェッてよ。どうすンだ?こういう時は」
話も進まないぞ、そう言う前に、天井から降りてきたのは小さな妖精であった。
「ライム!」
「お嬢様〜。先ほど黒いエルフに召喚されまして、このようなものを手渡されました」
ライムが手にしているのは、例の装置だ。スイッチを入れ、ソロンに照準を合わせる。
「なんでもォ、性別をあべこべにするとか……試しに使ってみますねぇ〜」


というわけで。無事、元の性別に戻れた二人。
「こッからが本番だぜ!」
張り切るソロンに押し倒されたティルも頬を染めて、その気満々だったのだが……
同じく天井から飛び降りてきたワルキューレに「そうはさせんッ!」と邪魔されて、ナニもできなかったのであった。

++End++

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